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60話 3章 ~円卓会議~ -02

 サスケくんが、チハヤくんを襲撃した犯人。


 円卓会議の中で導き出された事実だ。

 そしてその事実は、もう1つの事実も導き出す。


「・・・・・・サスケさんを刺した犯人は、チハヤさんなんですか?」


 静かに、ヒナタくんが問いを投げる。


「どうなんですか、チハヤさん?」

「・・・・・・ここまでの流れから言うと、そうっぽいな」


 バツが悪そうにチハヤくんが答える。


「だがそれはあいつが俺様を襲ったからだ。それで反撃をしただけで・・・・・・」

「本当にそうでしょうか?」


 ヒナタくんが感情がない声を放つ。


「サスケくんが襲ったみたいな言い方ですが、逆という考えはないでしょうか?」

「逆? どういうこと?」

「つまり体育館でサスケくんに刺されたのではなく、娯楽室で刺してから、偽装のために傷をつけた後に体育館に行った。これならば廊下の血痕も説明が付くでしょう?」

「ふむ。地下から娯楽室へ、ではなく、娯楽室から地下へ、か。そういうことだろう、犬飼ヒナタ?」


 ジンくんの問いにヒナタくんは首を縦に動かす。

 一見成り立つように見える。


 だが、それはほとんどあり得ないことだ。


「それは違うと思うよ、ヒナタくん」


 僕は彼に反論する。


「チハヤくんが刺された場所は背(・)中(・)だよ。そんな場所、自分で刺すことは出来ないよ」


「ああ、確か背中を刺されていたって言っていましたよ。忘れていました」


 あっさりと認めるヒナタくん。

 もしかすると、サスケくんがチハヤくんを刺したことを否定したかったのかもしれない。


 だけど、状況を考えれば考えるほど、サスケくんがチハヤくんを刺したのは間違いない。


「となると、停電を起こしたのもサスケってことなのかなー」

「そういうことになると思うよ、ユウリクン」


 ナギサくんが頷く。


「電気室の床にも血痕があったからね。チハヤくんの話から、2回目の停電のタイミングにサスケクンが来たら時間的にも一致していると思うよ」

「でも、なんでサスケさんは停電を起こしたんだろうね?」


「龍崎チハヤから逃げるためじゃないのか」

「チハヤから逃げるためー? どういうこと、ジン?」


「猿島サスケは龍崎チハヤを襲撃したが返り討ちにあった。龍崎チハヤの性格から追ってくるものだと思った猿島サスケは、近くにある電気室のブレーカーを落とし、娯楽室に逃げ込んだ。――これが彼が行った行動だと思われる」


「・・・・・・そういうことなら、納得できることもあるね」

「ナギサ、何がだ?」


「ほら、おれ達、朝に娯楽室でサスケクンの死体を見つけたじゃないか。だけど、その扉はビリヤード台とサスケクンの身体で封鎖されてたよね」

「ああ、確かにそうだな。バールで扉をこじ開けたが・・・・・・」

「あれも、彼の行動原理を考えれば、どうしてそうなったか分かるんだ」


「それって・・・・・・」


 僕は思いついたことを口にする。


「サスケくんはチハヤくんからの襲撃を防ぐためにビリヤード台を移動させて、簡単に入ってこれないようにした。

 つまり扉を封鎖したのはサスケくん自身、ということだね」


「そういうことだと思う」

「なんだー。ツバメの時みたいにトリックとかじゃなかったんだねー」


 少し残念そうな声音でそう言ったユウリくんは、直後に首を横にひねる。


「あれー? ということは、この事件って、すごい単純なんじゃないのー?

 サスケがチハヤを襲った。チハヤが反撃でサスケを刺した。サスケは逃げた後、娯楽室で力尽きた。つまり――」


 彼は、その指先をチハヤくんに向ける。


「この事件の犯人は、チハヤ、君だったんだ」


「っ!」


 チハヤくんの顔が青ざめる。


「ち、ちげえよ! 俺様はそんなつもりなんか・・・・・・」

「でも事実、サスケは死んでるんだよー」

「ってか、今回のは正当防衛だろ!」

「関係ないと思うよー。チハヤが刺されていようが最初に襲われていようが、今回の事件は『サスケを殺した犯人』を探すことだからねー」

「となると、チハヤさんが犯人、ってことに・・・・・・」

「ふざけるんじゃねえよ! 俺様がサスケを刺したのは事実・・・・・・なんだと思うけど、でもそれが致命傷になったわけじゃねえよ!」

「サスケさんは腹部に包丁が刺されていました。しかもかなり深く。どうしてそれが致命傷にならないと言い切れるのでしょうか?」

「うっ・・・・・・それは・・・・・・」


「サスケさんを殺したのは、チハヤさん、あなたなんですよ」


 空虚な目のヒナタくんにまっすぐに見つめられ、チハヤくんは後ずさりをする。


「コータ。今回の事件はこれで本当に終わりなのかなー」


 ユウリくんはどこかに引っかかっている様子だ。

 その予感は正しい。


 僕はその理由を皆に話す。


「ヒナタくん。もしかするとチハヤくんがサスケくんを殺した犯人じゃないのかもしれないよ」


「・・・・・・コータさん、どういうことですか?」


「サスケくんのお腹に刺さった包丁。確かにこれを刺したのはチハヤくんかもしれない。

 だけど、こ(・)の(・)傷(・)が(・)致(・)命(・)傷(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)わ(・)け(・)じ(・)ゃ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)んだ」


「え・・・・・・?」

「おいコータ! それはマジなのか!?」


 チハヤくんが身体を乗り出す。


「うん。だよね、ジンくん?」

「ああ。あの腹部の包丁は深く刺さってはいるが、その部分から出血はほぼ見られなかった。あの包丁がちょうど栓になっていたようでな」

「それがどうして致命傷ではなかったと言い切れるのでしょうか?」


「言っていなかったが、猿島サスケの死因は『失血死』だ。

 つまりショック死でも臓器不全でもなく、血が流れ出すぎてて死んだのだ」


「ということは・・・・・・」

「つまり、仮にあの包丁を刺したのがチハヤくんであったとしても、サスケくんを死に至らしめたてはいなかったんだ」


「そうだったんだ・・・・・・」


 少しほっとしたようにそう言ったのはナギサくんだった。

 だが彼はすぐに表情を引き締める。


「いや、ごめん、なんでもない。――それより聞きたいんだけど、じゃあサスケくんはどうやって失血死したの? 血まみれだったじゃない」


「腹部以外に傷があったんだよ」

「ああ、胸に傷があった。血液もそこから流れ出たのだろう」

「胸の傷なんてあったんだね・・・・・・直視できなかったから分からなかったよ・・・・・・」

「外見からは血だらけでどこを刺されたかすら、私以外には分からなかっただろうな」


「でもよ、あの部屋に他に刃物とかあったか?」


 チハヤくんはすっかりと調子を取り戻したようで、いつもと同じような態度でそう言う。


「まさかあの包丁を抜いて俺様が胸を刺していた、とか言わないよな?」

「それはないんじゃないかな。だってそれって、わざわざサスケクンが胸に刺さった包丁を自分の腹部に刺し直した、ってことになるし」

「そんな酔狂なことをする人はいないと思うが、胸の傷口から包丁で刺されたものではないというのは断言できる。強いて言えば、包丁よりも太くて鋭利な何かだ」

「太くて鋭利な何か・・・・・・そんなものがあの現場にあったっけー?」

「うーん・・・・・・記憶にないよ、そんなの。ジンさんは現場に長くいたと思うけど見かけた?」

「いや、記憶にないな」

「だったらビリヤード台の足とかどうだ? あれの先端を鋭くしてやつの胸に刺したんだ」

「そこまでの太さではないし、それにどうやって持ち上げて刺すのだ、あんなものを」

「それが出来るのはチハヤだからやっぱりチハヤかもねー」

「ああ? 可能性を上げただけだろ。お前はなんかねえのかよ」

「娯楽室にあるモノだからね。トランプとかビリヤードのキューとか・・・・・・あ、もしかしたらマジックショーの道具とかあるかもね。そしたら隠しナイフとかあるんじゃないのかなー」

「んなもん、どこにあるってんだよ」

「隠しナイフだから存在も隠されているんじゃないのー」

「てめえ、真面目に考えろよ」


「怒られちゃったー。で、コータは何か思いつくことあるー?」


 唐突にユウリくんが振ってくる。

 僕は凶器と思われるモノに当たりをつけていた。


「ビ(・)リ(・)ヤ(・)ー(・)ド(・)の(・)キ(・)ュ(・)ー(・)だよ」


「ビリヤードのキュー?」

「もしかすると血まみれの中に転がっていたから気が付かなかったかもしれないけれど、娯楽室にあったビリヤードのキューって、先端のゴムを外すと鋭い刃物みたいに加工されているんだ」

「あー、確かにそうだったねー」


 ここに来た初日に調べた時に、サイくんが発見した事実だ。


「あれだったら、胸の傷になり得るんじゃないのかな」

「ふむ。あれくらいの形状で先端が加工されていると考えれば、確かに胸の刺し傷に合致した凶器となり得るな」


 ジンくんのお墨付きを貰うことで、より確信的になった。


「ってことは、サスケはビリヤードのキューの先端で刺されて殺された、ってことだよな」

「多分そうなるね」

「じゃあ、犯人って誰なんだよ?」


 チハヤくんが疑問を呈する。


「娯楽室に逃げ込んできたサスケを刺した、ってことだろ。体育館で倒れていた俺様じゃねえのは間違いないけど、他の奴らはどうなんだよ?」

「そうだね。ここから犯人について絞り込んで――」



「その議論、巻(・)い(・)て(・)い(・)く(・)必要があるね」



 そこで割り込んできたのは、ナギサくんだった。


「コータクン。おれ、分かっちゃったよ。この事件の真相が」

「え?」

「最初からちょっと引っかかりを感じていたことがあったんだよ。

 あいつの言葉にね」

「あいつの言葉?」

「うん。まだ2回しか聞いていなくて今回3回目だけど、あいつは、いつもと違う言い方をしていたことに気が付いたんだ」


 今回3回目。

 それは事件の回数と同じだけど・・・・・・


 もしかしてそのあいつって――


「クウギョのこと?」


「そう。クウギョのやつ、今までは最初にこう言っていたんだよ。

 『皆様には○○様を殺害した人物が誰なのか、議論してもらいます』ってね。

 だけど、今回は違ったんだ」


「え?」


「今回あいつが言ったのはこうだ。

 『皆様には猿島サスケ様を死(・)に(・)至(・)ら(・)し(・)め(・)た(・)人(・)物(・)が(・)誰(・)な(・)の(・)か(・)、議論してもらいます』って」



 確かに、言われてみればそうだったかもしれない。


 殺害した人物が誰なのか、ではなく、死に至らしめた人物が誰なのか、に変化してる。


「・・・・・・まさか・・・・・・」


「コータクンも気が付いたみたいだね」


 そうだ。

 この言葉の違いに含まれているのは――



「サ(・)ス(・)ケ(・)く(・)ん(・)が(・)殺(・)害(・)さ(・)れ(・)た(・)な(・)ん(・)て(・)・・・・・・ク(・)ウ(・)ギ(・)ョ(・)は(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)・・・・・・」



「そう。その通りだよ」


 ナギサくんは力強く頷くと、それが意味することを口にする。



「今回の事件の犯人は、猿(・)島(・)サ(・)ス(・)ケ(・)く(・)ん(・)自(・)身(・)なんだ」

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