56話 3章 ~日常編~ -14
血まみれで倒れている彼を見て、思わず立ちすくんでしまう。
倒れている彼の肩からは血がにじんでいる。
チハヤくんがまさか犠牲者になるとは・・・・・・
「一体誰が・・・・・・」
「勝手に・・・・・・殺すんじゃねえよ・・・・・・」
のそり、と体が動いた。
「チハヤくん!?」
僕は彼に駆け寄る。
「ああ、コータか・・・・・・」
「大丈夫!?」
「ああ? 大丈夫に決まって――ってのは流石に無理だな・・・・・・」
彼の声はいつもと違って弱々しい。
僕は自分の上着を脱いで背中の傷に押さえつける。
ドラマなどでの知識だが、出血を抑えた方がよいと思ったからだ。
「一体何があったの?」
「分からねえ・・・・・・急に暗くなって、背後から刺されて・・・・・・っ!」
チハヤくんが顔をしかめる。
「ごめんね、今聞くべきじゃなかったね。保健室に行こう」
僕は彼の体の下に手を入れて持ち上げようとする。
「おいおい、お前が俺様を持ち上げられると思うか?」
「やるしかないでしょ! ぐっ・・・・・・」
やはり筋肉質だからか、かなり重かった。
「無理すんなよ。ってか持ち上げなくてもいいって。俺様は別に今すぐ死にそうなんじゃねえからよ」
「え? そうなの?」
「ああ、めちゃくちゃいてえし動けないけど、死にそうな感じはしてねえからな。
だがあくまでそれは感覚だ。だからジンを呼んできてくれねえか」
「でも・・・・・・」
先に背負おうとして手を離した自分の上着が、出血でじんわりとにじんできている。
彼が言っているのか正しいのか分からず、心配で離れる気がしなかった。
誰か来てくれれば――
そう思ったその時、体育館の扉が開いた。
「チハヤクン! 大丈夫!?」
ナギサくんだった。
彼はこちらに気がつくと、顔面蒼白になった。
「その血・・・・・・一体何があったの!?」
「あー、ナギサも来たし、コータ、頼むわ」
「分かった。ナギサくん、ちょっとお願い。僕はジンくん呼んでくる!」
「え? あ、うん」
いきなりで状況がつかめないのであろう、混乱した様子の彼に任せて、僕は体育館を出て保健室へと向かった。
その道中、1階に上がった直後。
僕は視界の端にある人を見つけた。
ヒナタくんだった。
彼は茫然自失といった感じで廊下に座り込んでいた。
何かあったのかと思わず駆け寄る。
「ヒナタくん、何があったの!?」
「・・・・・・」
彼は口をパクパクとさせた後、青ざめた表情のまま背後に視線を向ける。
その先には娯楽室や2階に上がる階段がある。
そんな様子に、僕は思い当たったことを問いかける。
「もしかして・・・・・・誰かそっちに行ったの!?」
ヒナタくんは目を大きく見開いた後、コクコクと頷いた。
その様相で理解した。
チハヤくんを刺した人物だ。
「誰なの!?」
しかし彼は顔面蒼白のまま首を横に振った。
(分からなかった、ということか・・・・・・一体どういうことだろう・・・・・・)
とにかく、このまま彼をこのままにするのは危ないかもしれない。
僕は咄嗟に彼の手を取った。
「体育館でチハヤくんが刺されたんだ。多分ヒナタくんが見たのはその犯人だと思う」
「・・・・・・っ!」
「だからここにいたら危ないから一緒に行こう。今、ジンくんを呼んでチハヤくんの治療をしてもらおうとしている所だから」
コクコクコクと頷くヒナタくん。
僕は勢いをつけて彼を起こすと、彼が視線を向けた方向とは反対方向の階段を目指して走った。
そのまま3階まで駆け上がり保健室に直行する。
「なんだ、扉は丁寧に開閉するべきだぞ、猫泉コータ、犬飼ヒナタ・・・・・・と、ただならぬ様子だな」
予想通りそこにいたジンくんは、僕達の様子を見て察してくれたようだ。
「チハヤくんが体育館で背中を刺されたんだ。まだ意識はあるけど、連れて来れなかったから治療してほしい」
「・・・・・・なんだと?」
ジンくんの目が見開かれる。
直後、彼は包帯やら薬やらを近くにあったバッグに詰め込むと
「状況は向かいながら聞く。行くぞ」
早歩きで保健室を出た彼の後を追って、僕達も体育館へと向かった。
◆
体育館についてチハヤくんを見るなり、ジンくんはテキパキと処置を開始した。
数分後。
「これでよし、だ。とりあえず応急処置は完了したぞ、龍崎チハヤ」
「すげえな、大分楽になった。サンキューな、ジン」
肩をぐるぐると回すチハヤくん。
「ってか大した怪我じゃなかったみてえだな。もう痛みもねえよ」
「そんなわけあるか。痛み止めを処方しているからだ。確かに内臓を傷つけるところまでではなかったので出血を止めるだけで対処は出来ていたが、それでもあれだけ血を流していたんだ。安静しなくてはいけないのは間違いないからな。今日は大人しく自分の部屋に」
「ってことで、お礼参りすっか」
早口で症状を説明するジンくんを遮って、チハヤくんは立ち上がる。
「話を聞いていたのか、龍崎チハヤ」
「ああ、聞いてたよ。だけどここで捕まえねえといけねえだろうが。俺様を刺したやつをよ。凶器も持っているんだし、言い逃れは出来ねえだろ」
「刺した人、誰なの?」
ナギサくんが問いかけると、チハヤくんは眉間にしわを寄せた。
「いや、真っ暗になった直後に背中を刺されたから分かんねえんだよな。
けどよ、俺様反撃はしたんだよ」
「反撃?」
「ああ。咄嗟に刺されたヤツを抜いて、そいつに返してやったんだ。
ここにいねえってことは、大したダメージは与えられなかったみたいだけどな」
「真っ暗な中だから感触しかなかったんだね」
「流石の俺様でも人を刺したことねえからな。だが血は出ているんじゃねえかな。
・・・・・・ってことで」
チハヤくんはとある人物の肩を叩く。
「ヒナタ、よろしくな」
「ええ!? じ、自分ですか!?」
あ、ヒナタくん、ようやくショックから立ち直ったようだ。普通に声も出ている。
「血の匂いを辿れば俺様を刺したやつにたどり着くだろ。だからよろしくな」
「確かに、自分の『能力』を使えばそれも出来るかもしれませんが・・・・・・」
「だろ? じゃあ、探りに行こうぜ」
「龍崎チハヤ、その提案は却下だ」
ジンくんが止める。
「んだよ。何が駄目なんだよ」
「2つある。1つは君は安静にすべきということ。まあ、これは言っても無駄だな」
「じゃあもう1つは何なんだよ?」
「止血しているとはいえ君は血まみれだ。そっちの血の匂いのせいで探ることは出来ないだろう」
「ああ、確かにそうだな」
パッとヒナタくんから手を離す。
「んじゃ、俺様は離れて行動するか。先陣はヒナタな」
「あ、うん。みんなが付いてきてくれるならいいですよ」
ヒナタくんは頷きを返す。
「よっしゃ。じゃあ犯人捜しに行くか」
チハヤくんのその声と共に、僕達は体育館を出た。
まずは地下にある場所を回る。
「あ、円卓の部屋とかプールみたいな大きな所以外ならば、多分開かなくても部屋の外からでも血の匂いくらいなら分かると思いますよ」
ヒナタくんはそう自信満々に言い放つ。
みんなはそういうものなんだな、という認識でそれ以上突っ込まなかったが、僕はこっそりヒナタくんに小さな声で問う。
「・・・・・・といいつつ、本音は?」
「・・・・・・事実ではありますよ。だけど、中に犯人がいたら怖いのでなるべく開けたくないだけです」
「なるほど・・・・・・」
そういえば、と僕はもう一つ問いかける。
「チハヤくんが暴走しかけたから聞きそびれてたけど、ヒナタくんも犯人を見たんだよね」
「・・・・・・」
こくり、と首を縦に動かすヒナタくん。
「それって誰だったの?」
「・・・・・・分からなかったんだ」
「分からなかった? 停電の最中にぶつかったりしたの?」
「ぶつかったのは停電の時だったけど・・・・・・えっと・・・・・・その・・・・・・見たのはその後ろ姿だけだったんだ・・・・・・だから分からなかったんだ」
「そうなんだ。でもすっごい怯えていたよね? それはなんで?」
「後ろ姿を見た時に、その手に刃物が握られていたのが見えたからなんだ・・・・・・」
「ああ、成程ね」
もしかしたら殺されていたのかもしれない。
そう思ったら腰が抜けて驚きのあまり言葉を失っていたとしても仕方がない。
この話を他の人に伝えても追加情報はないと判断し、僕の中だけでとどめておくことにした。
そして僕達は電気室、スタッフルーム、倉庫の部屋の前まで行ったが、ヒナタくんは全て首を振った。
次に1階に上がり、娯楽室、食堂の順に部屋の前をゆっくりと通るが、ヒナタくんは首を横に振る。
そしてプールの中に入ろうとした、その時だった。
「皆様、あと少しで22時になります。なので自室にお戻りください」
突如、僕達の目の前にクウギョが現れた。
驚いている僕達の中で、ただ1人だけ、鬱陶しそうに言葉を発したのは、チハヤくんだった。
「あー、最初の事件以降、22時前になるとクウギョがいっつもこう言ってくるんだよ」
「そうなの?」
「ええ。当初は夜時間に意図的に部屋にいないようにしている人には、何も言わないようにしていましたが、意図的かどうか不明なケースが出たのと、食堂にしか時計がない以上、きちんと伝えておくべきだという方針に転換しまして」
クウギョはヒレを広げる。
「ということなので、自室にお戻りください。あと5分もしないうちに鍵が閉まってしまうので」
「タイムリミットだな」
ジンくんが首を横に振る。
「龍崎チハヤ、今日は君も自室に戻れ」
「嫌だ。俺様は夜通し探してやんぞ」
チハヤくんはいつものように体育館に行くつもりだろう。
だが、その手を掴んでナギサくんが止める。
「チハヤクン、その怪我だと返り討ちにあうかもしれないよ。だから今日は自室で休んで」
「あんだと? 俺様が返り討ちにあうってのは聞き捨てならねえな、ナギサ」
「聞き捨てなくていいよ。君には生きていてほしいから」
きっぱりとそう言い放つナギサくん。
チハヤくんは目を丸くする。
そんな彼を見て、ナギサくんはフードを深く被る。
「あ、いや、明日朝、鍵が解錠された直後、また探索に付き合うからさ。今日の所は、ね」
にへら、と笑うナギサくん。
そんな彼をじっと見た後。
「・・・・・・分かったよ」
チハヤくんは片手を上げる。
「今日は大人しく寝てやる。明日6時に起きた直後に探索続けるぞ。いいな」
「うん。あ、でも起きれる人だけでいいと思うよ」
「だな。ここにいるやつはシロだからな」
チハヤくんは鼻を鳴らして、地下へと降りる方ではない階段の方へと向かっていった。
「・・・・・・話を聞いてくれてよかった」
ナギサくんが胸をなで下ろして、僕達におどおどとした視線を向ける。
「じゃ、じゃあ、みんなも部屋に戻ろうよ。お、おやすみ」
「解散の挨拶には早いな。だが、蛇見ナギサの言う通りだ。モタモタしていると閉め出されるぞ。――もしかしたら刃物を持った傷害犯が放たれたこの建物の中に」
ジンくんの忠告に耳を傾け頷き、僕達は自室へと戻った。




