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5話 捜索 ~3階 美術室~

 かなりまったりとした時間を過ごした後、「ぼくはもうちょっとカフェテリアにあるものを調べたいので」というマシロくんと別れて、僕達は建物の捜索を再開した。


 そして次に入った部屋は、美術室だった。


 絵画がそこら中に飾られたり、キャンバス上に置かれたり、胸像もあった。


 そこそこの広さを持っていたその場所にいた……というか床に寝そべっていたのは、虎賀(こが)ケンタロウだった。


「何しているの……?」

「んん……ああ、お前らか」


 くあー、とあくびをした後、ケンタロウくんは立ち上がった。


「お前ら何しに来たん?」

「何って……この建物の中を捜索しているんだよ」

「捜索、捜索ねえ……あ、オレはどっちかって言うと字が違う方の『創作』をしていたぞ。創る方のやつ」


 ケンタロウくんが空中で手に持った絵筆で描く仕草を見せると、サスケくんが身を乗り出した。


「ってことは絵を描いているっすか?」

「そうだよ。オレ、ちょいと知識はあるんだよな」

「へえ、それを描いたんですか?」

「うんにゃ。まだ創ってないよ。ここに置いてあっただけ。これから描こうかなとは思っていたけど」


 サスケくん、ヒナタくんに向かって手に持った絵筆をくるくる回す。


「にしても、ケンタロウが美術ってのもなんか雰囲気と違う感じだね~」

「お? 確かユウリだっけ? 言うねえ」


 気を悪くした様子ではなく、むしろ面白そうににやにやと彼は笑う。


「だって虎と美術ってなんも結びつかないじゃん」

「それが結びつくんだよなあ~。あ、そうだ、こっち来てみ」


 彼は近くにあった、草原が描かれえているかなり大きな絵の傍まで寄ると、こちらに手招きしてきた。


「ちょっと見てみ。ほいっ」


 次の瞬間だった。

 彼はその絵の中に飛び込んだ。


「……え?」


 あまりにも突然の光景に僕達は言葉を失った。

 目の前からケンタロウくんが消えたように見えた。


「ねえ、なんか絵がさっきと違う気がする~」

「え? ……あ、本当だ」


 ツバメくんが右端を指差す。

 そこにあったのは、人だった。

 確かに言われてみれば、草原の絵だったのに追加されている。


 じっくり見ようと近づいたところで


「危ないからちょっと離れててくれ」

「わっ!」


 絵からケンタロウくんの声がした。

 僕達は慌てて離れる。


 するとその絵から、今度はケンタロウくんが出て来た。


「こういうことなんだよ」


 今見たのは勿論、現実ではありえない。

 だとしたら間違いないだろう。


「もしかして、絵画に出入りできる、っていうのがケンタロウくんの能力?」

「そうだよ。これがオレの能力」

「すごいすごーい!」

「やばいっすね!」


 ユウリくんとサスケくんが興奮で目を輝かせる。

 その横で顎に手を当てていたヒナタくんが「あ」と手を打つ。


「そうか。一休さん、ですか」

「正解」


 ケンタロウくんが両手の人差し指をヒナタくんに向ける。


「一休さんの有名な話でさ、『屏風に描かれた虎を出せ』ってやつがあるじゃん。あれが多分、オレの能力の元ネタだと思う」


 成程。そういう繋がりか。

 それにしても、能力は解釈が広いものなんだな。

 ユウリくんにしても、探し物が得意、というものだし。それはイノシシのトリュフを探す、っていうところから来ているのかもしれない。


「ケンタロウ君、絵画の中ってどうなっているんだ?」


 ツバメくんのその問いに、ケンタロウくんは「そうだなー」と腕を組んだ後、


「なんかいけそうな気がする。ちょっと来てみ」

「え、はい」

「えい」

「あっ」


 片手に絵を持ったケンタロウくんが、もう片方の手でツバメくんを絵の方に押し込むと、ツバメくんの姿が絵の中に消えていった。


「他の人もいけるの!? すごーい!」

「すごいっす! 俺っちも!」


 そう言ってユウリくんとサスケくんが絵の中へと飛び込んだ。

 が。


「わっ」

「ぐえっ」


 絵の中に入ることは出来ずに顔面を絵にぶつける。


「いたたたた」

「なんで弾くんすか、ケンタロウっち」

「いやーすまんすまん。こうなるのは知らなかったからな。おー、この中には一人しか入れないのか。……だとすると、他の絵には入れるのかな?」


 ケンタロウくんは別のキャンバスに手を突っ込む。

 その手が絵の中に吸い込まれた。


「いけるのかー。じゃあ次は……コータ。ちょっと手を入れてみて」

「え、あ、うん」


 急に呼ばれた僕はケンタロウくんの言うとおりに絵画に手を伸ばす。

 しかし、絵から先には行けなかった。


「駄目かー。成程。大体わかった。うんうん」


 ケンタロウくんは一人で納得したように頷いていた。

 自分の能力を試していたのだろう。


「いやー、独りじゃ絶対分かんなかったし助かったわ。みんなありがとうな」


 ケンタロウくんがわっはっはと豪快に笑う。

 その横で、ヒナタくんが眉を下げた。


「あの……ちょっとさっきからツバメさんがあの絵から出てきていないんですが……大丈夫でしょうか?」


 言われてみれば。

 ずっとあの絵の中にはツバメくんがいる。絵の端っこにもそれらしき人物がいて、困っているようにも見える。


「あー、絵から出るのって、ちょっとコツがいるんだよね。具体的にどうやってやるのか、ってのも表現するのが難しいんだけどね」

「な、なら助けてあげないといけないんじゃないですか!?」

「確かにそうかもしれないね。じゃあ行くかー、……お?」


 ケンタロウくんが絵に向けて手を伸ばす。

 だが、物理的に弾かれる。


「ふーむ。同じ絵にはオレも入れないのか……これは予想外だぜ」

「ま、まずくない!? 能力を解除することはできないの!?」


 僕が焦りの声をあげるが、ケンタロウくんはのんびりとした様子で「無理だな」とバツ印を作った。


「さっきから、絵から出ろ~、って念じていたんだけど駄目っぽい。そもそも入れたのもオレが持っていたからっぽいし、そこから手を離しても出てこないってのは、独立しているってことだろうよ」

「だったらツバメくんはずっとこのままってこと!?」


 ずっとこのまま絵の中に閉じ込められるのか。

 ご飯も食べることも出来ずに。

 そんなことをしたら彼が死んでしまう――


「あー、多分それは大丈夫だと思う」


 ケンタロウくんはひらひらと手を振る。


「さっき絵の中で寝ちゃってね。でも気が付いたら絵の外に出てたから、ある程度時間が経ったら勝手に出るんだと思う。どれくらいかは分からないけど、そんなに時間は掛からないと思うよ」

「あ、だからここに来てた時に床に寝ていたんだね~」


 あれは出た直後なのか。


「ならば待つしかありませんね」

「そうっすね」


 サスケくんとヒナタくんが大人しくそこら辺にある椅子に座った。

 てっきり仲裁役のツバメくんがいないからケンカが始まったらどうしようかと思ったが。


 ……もしかすると、ツバメくんがいるからこそ安心してケンカしていたのか?


 ふとそんなことを思いつつ、僕達は雑談をしながらツバメくんが出てくるのを待った。



 どれくらい経ったのだろう。

 しばらくした待っていた時だった。


「うわっ!」


 絵の中からツバメくんが飛び出てきた。


「お、出て来たな。おかえり」

「……おかえりじゃないんだが」


 ツバメくんはひどく不服そうだった。


「どうやって出るのか分からないし、ひたすら広い草原があるだけだったし、あっちで叫んでも誰も反応しないし……30分ちょうどで出られるってこと、きちんと教えておいてくれよ」

「ごめんごめん……って、30分ちょうどだったん?」

「ああ。30分も独りで心細かったよ」

「あの中って時計も何もないはずなのに……ずっと数えていたってことか?」

「まあ……」


「それがツバメっちの『能力』っすからね」


「あ、おい!」


 サスケくんに対してツバメくんが怒声を放つ。

 ビクッとサスケくんは怯えた顔になる。


「あ、これ言っちゃ駄目だったっすか? すまんっす」

「……はあ、もういいよ。知られたところで何にもならないしね」


 やれやれと首を振る、ツバメくん。


「ボクの『能力』は『時を正確に測ることが出来る』ってことだよ」

「え?」


 僕が思わず声をあげてしまうと、ツバメくんは、ふっ、と笑う。


「コータ君もそういう反応になるよね。それだけ? って」

「あ、いや、その……」

「いいんだ。ボクもそう思っているから」


 ツバメくんが深く息を吐く。


「今何時なのかとか何分経ったとか、そういうのが分かるってだけで何の役にも立たない能力なんだよ。それが役に立つかのように思わせるために、電子機器には時計機能もストップウォッチ機能もないからね」

「そうなんだ」


 でも確かに言われてみれば、時計機能もなかったし、今まで訪れた場所にも時計が見当たらなかった。


「というわけで、さっきのは本当にジャスト30分。間違いないって言えるよ」

「おお! 貴重な情報ありがとうな!」


 ケンタロウくんが感動で目を輝かせてツバメくんの手を握る。

 ツバメくんは睨むように彼を見る。


「どういたしまして。おかげで、貴重な体験をさせてもらったよ」

「うむ。よきにはからえ」

「嫌味に決まってるだろ。……はあ、もう……」

 


 ……本当にツバメくんは不憫なキャラだなあ。

 そう思った。

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