52話 3章 ~日常編~ -10
「「「誕生日おめでとう」」」
パン、とクラッカーが鳴る。
その中心にいるユウリくんは、満面の笑みを見せる。
「ありがとう! コータ! サスケ! ヒナタ! そしてクウギョ!」
「え? 何故ワタクシも・・・・・・?」
お菓子を机に並べていたクウギョが驚きの声を上げる。
「えー、祝ってくれないのー? ケチー」
「ケーキやお菓子などを用意しているのにケチですか。そうですか・・・・・・」
悲しそうな声音でふよふよと消えていくクウギョ。
流石にちょっと可哀想だと思ってしまった。
「じゃあお酒飲もうかー」
「え? あるんですか?」
「俺っち、ちょっと飲んでみたいと思ってたんすよやほーい!」
「いや、ないからね」
オレンジジュースを注いで配りながら、僕は苦笑する。
「ここには未成年の人しかいないんだから、アルコール類なんて置いているわけがないよ」
「一番年齢が上なのはユウリさんですよね。しかも今日誕生日だというのならば・・・・・・」
「18歳!? ユウリっち、マジっすか?」
「マジもマジだよー。多分18だよー」
「マジなのか多分なのかどっちなのさ・・・・・・」
このメンツだと僕がツッコミ役になるようだ。
「しっかし、このケーキ、めちゃくちゃ美味しいっすね」
「本当ですね。といっても、他のケーキをそんなに食べたことがあるわけではないので比較は出来ませんが」
「うん。グルメなユウリもこれには大満足だよ。シェフを呼んでー」
「シェフはさっきユウリくんが言葉で追い払ったよ」
なんて会話を楽しみながら、イチゴの乗ったケーキとクッキーなどのお菓子を口にする。
その様子は文字通り、誕生日パーティーそのものだ。
ユウリくんもサスケくんも、そしてヒナタくんも笑顔で楽しんでいる様子を見せている。
「よーしじゃあイベントごとをしようかー」
そう言ってユウリくんは何やら食堂の奥へ行くと、何やら大きな箱を4つ持ってきた。
「ユウリさん、何ですかそれは?」
「ん? プレゼントだよー」
「プレゼント? 俺っち何も用意していないっすよ」
「うん。持ってこなくていいってコータには伝えて置いたからね。だからユウリが全部用意したんだよー」
いつの間にこんなものを準備していたのか。もしかして昨日の内から用意していたのかもしれない。
「んじゃ、早速だけどやろうかー」
「え? 何を?」
ふっふっふと含み笑いをして、ユウリくんは両手を大きく広げる。
「プレゼント交換会さ!」
「プレゼント・・・・・・?」
「交換会・・・・・・?」
「・・・・・・いや、それクリスマスと混ざっていない?」
「いーや。きっと誕生日パーティーであるかもしれないよー。シュレディンガーの誕生日パーティーだよー」
「確かにそうっすね。蓋を開けてみないと誕生日パーティーでやっているか分からないっすもんね」
「え? そういうもんなんですか?」
「いや、主役が一人しかいないんだから交換はしないでしょ」
「ということで、シャッフルターイム!」
半ば押し切られる形で箱を持たされる。
「はい、回して回して。ミュージックスタート! たらたらたららんー」
ユウリくんの口ずさむ曲に合わせて、言われるがままに箱を隣にいるユウリくんに渡して、サスケくんから受け取る。
「たらたらららららららすとっぷ!」
プレゼントを回す手が止まる。
「じゃあみんなー手元のプレゼントを開けてみてー」
言われるがまま開いてみる。
中に入ってのは――
「・・・・・・ビニールプール?」
箱の中に入っていたのは、折り畳まれた水色のビニール製のプールだった。
「あー、それ? 倉庫にあったから入れてみたー」
「入れてみたー、って・・・・・・これ、ユウリくんに当たったかもしれないんだよ。貰って嬉しいの、ユウリくん?」
「んー・・・・・・」
人差し指を顎に手を当てて数秒考え込んだ後、彼はにっこりと笑った。
「コータに似合っていると思うよ」
「ビニールプールが似合う人って一体何?」
なんか面白そう、ってだけでプレゼントにしたな、多分・・・・・・
となると他の人のも同じようなものだろう。
――と思っていたのに。
「普通に嬉しいっすね!」
歓喜の声に僕は耳を疑った。
「え? サスケくん、何が入っていたの?」
「これっすよ、これ」
彼が提示したのは――花火セットだった。
「花火好きなんすよね、きれいで。ライターも入っていたので、ここでドカンとやるっすよー」
「燃えちゃうから止めて!」
「あー、一応耐火性なので室内で延焼はしないですが、出来れば止めてほしいですね」
唐突にクウギョが現れ、困ったような声音でそう言う。
「そうなんだー。だからライターも倉庫にあったんだねー。建物を全焼させて、全員一気に同時に殺害することが出来ないようになっているからー」
「はい。その通りです」
怖いことを言うユウリくん。
だが、自分一人だけ生き残る手法としてはありなのだろう。
・・・・・・流石にそこは主催者も織り込み済みか。
「花火は屋上でやっていただけると助かります。あー、その際も中庭に向けて発射しないでほしいですね。建物には燃え移らないようにはなっておりますが、木は流石に燃えますので」
クウギョはそう注意すると、再びどこかへ飛び去ってしまった。
「晩ご飯の後にでも行ってみようかー、サスケー」
「そうっすね。みんなでやろうっす」
締めに花火はよいかもしれない。
となると、なかなかよいプレゼントであったのではないか――なんて一瞬勘違いしそうになる。
残るプレゼントは何だろう、とヒナタくんの方を見てみると
「・・・・・・こんなもんがあったんですね・・・・・・」
彼は手元にあったそのモノを広げて、呆然とする。
それはパジャマの着ぐるみだった。
しかも、イルカの着ぐるみだ。
「なんか着ぐるみ魚類だけあったんだよねー。着てみてよー、ヒナター」
「嫌ですよ! なんかクウギョの仲間になったみたいで・・・・・・」
「あー、じゃあなんかゲームして負けた人が着るってのはどうっすか?」
サスケくんはそう言うと、ポケットからトランプを取り出した。
「こういうこともあろうかと、娯楽室から持ってきたっす。あ、娯楽室にあるモノを持ち出していいかどうかはきちんとクウギョに確認してオッケーを貰っているっすよ」
「お、いいね。何しようか」
「ユウリさんの『能力』が影響しないゲームがしたいですね」
「それ前に話したけどブラックジャックのディーラーしかなかったじゃーん。他のがいいー」
「うーん・・・・・あ、そうだ」
僕は思いついたことを提案する。
「『スピード』はどうかな?」
「スピードですか。いいかもですね」
ヒナタくんが手を合わせて賛同してくれる。
「ユウリさんの『能力』を使っても追いつかないくらい早いゲームですもんね」
「それならユウリもいけそうだねー。やろうやろう」
ということで。
急遽トランプのスピードバトルが始まった。
負け上がり形式のトーナメントで、戦う相手はじゃんけんで決まった。
まずはサスケくんVSユウリくんだ。
「サスケには負けない自信があるんだー」
「ふっふっふ。俺っちをなめて貰っちゃ困るっすよ。俺っちには秘策があるんす」
「秘策? それってなあに?」
「教えるわけがないっすよ」
言葉の応酬をしている間に、戦いの準備は整った。
「それじゃあ2人とも、準備はオッケー?」
「うん」
「いつでもいいっすよ」
やる気満々の様子だ。
「じゃあ行くよ。――よーい、スタート」
スタートした直後。
サスケくんが左手を挙げる。
「秘技発動っす!」
「な、なにー!」
するとサスケくんは挙げた左手を顔の前に持って行く。
「秘技! 見ざる!」
「ぐああああああ! 前が見えないいいい!」
ユウリくんがきょろきょろ首を振る。
「ば、馬鹿な、サスケくんは目を塞ぐ時に両手を使っているからカードを動かせないはずじゃ・・・・・・っ!」
「!? コータさん! あれを見てください!」
ヒナタくんが指さしたのは、サスケくんの顔だった。
「ふっふっふ。気付いたようっすね、ヒナタっち」
サスケくんがにやりと笑う。
「俺っち、片手で両目を隠したらもう片方の手が使えることに気がついたっす!」
「な、なんだって!」
確かにサスケくんは片手で両目を覆っている。
両手でやらなくてもよかったようだ。
「これで視界塞いでもう片方の手でカードを置けば俺っちの勝ちぎゃあああああああああ前が見えねえっす!」
「馬鹿じゃないんですか!」
自分の目を塞いでいるんだから至極当たり前の話だった。
結局、この後、普通にやって、普通にサスケくんが勝った。
秘技なんて最初からやらなきゃよかったのに。
次は僕とヒナタくんだ。
「負けませんよ」
「僕だって! というかあれはヒナタくんのプレゼントなんだからヒナタくんが着るべきだよ」
「う・・・・・・それは確かに・・・・・・」
「だからね、分かるよね?」
僕はにやりと口角を上げる。
結果は――
「何で普通に強いんだよ・・・・・・」
「やりましたー!」
ヒナタくんが勝った。
「あれは僕に勝ちを譲る流れだったでしょ・・・・・・」
「そこを逆手にとったんですよ」
満面の笑みで言われちゃしょうがない。
こうして決勝は僕とユウリくんになった。
「負けないよ、ユウリくん」
「あの着ぐるみ、コータに似合うと思うよー」
「ネコが魚似合っちゃ駄目でしょ」
「イルカは魚じゃないよねー」
「あ、そういえば・・・・・・いや、それはどうでもいいや」
僕は真剣な表情で目の前のトランプに向き合う。
「じゃあ行くっすよ。決勝戦! ユウリっちとコータっちの一騎打ち! レディー・・・・・・ファイト!」




