51話 3章 ~日常編~ -09
翌朝。
いつものように朝を過ごし、昼食を終えた僕はそのまま食堂に残った。
理由は、ユウリくんの誕生日パーティーの準備をするためだ。
準備はサスケくんも手伝ってくれた。
飾り付けについては結局何も考えていなかったらしく、サスケくんが事前にそれっぽいセットを倉庫で見つけてくれなかったら、絵的に寂しいものになっていただろう。
「くっ・・・・・・まさか紙とはさみとのりが存在しなかったとはー・・・・・・」
「全部あるっすよ。はい」
「・・・・・・」
先読みされたサスケくんに手渡されたそれらを持って、ユウリくんは黙々と輪っかの飾り付けを作り始めた。
(・・・・・・今思えば、こういうのも知能が高いから出来るんだろうな・・・・・・)
昨日、彼から聞いたことを意識すると分かるものだ。
思わずサスケくんをじっと見てしまっていると、彼はニカッと笑顔を返してきた。
「ほらほらコータっち、手が止まっているっすよ!」
「あ、ごめん」
「まあ作業しているだけ偉いんすけどね。・・・・・・あの犬っころ、来るって話だったのに手伝いに来ないとか、駅前でメデューサに石にされた忠犬を見習うべきっす」
「色々混ざっていない・・・・・・? それに、ヒナタくんが来ること、知ってたんだ」
「朝食が一緒だったっすよ。その時にこう言っていたっす。
『昨日勢いで行くって言っちゃったんですけど、どうしましょう・・・・・・』って」
「それって行くのやっぱやめるってことじゃ・・・・・・」
「だから俺っち言ってやったっす」
「なんて?」
「『男に二言はないっすよね。あー、犬だからオスだったっすね』って」
「何で煽るのさ」
「そしたら『やってやろうじゃないですか!』って返してきたんすけどね」
「それも勢いじゃないのかな、ヒナタくん・・・・・・」
どちらにしろ、来るかどうかは五分って所かな。
「心配ないよー」
紙をチョキチョキ切りながらユウリくんは声を上げる。
「多分、ヒナタは来てくれると思うー。だから4人だねー」
「どうしてそう思うの?」
「んー? 勘ー。あと願望ー」
手元に視線を向けたまま、事もなげにそう言うユウリくん。
『能力』で、と言わなかったあたり、ほぼ確信に近いんだろうな、と思って僕は笑みが零れるのを止められなかった。
そうして和やかな空気の中で準備を進めて、ちょうど完了したのが、開始10分前くらいだった。
「ギリギリだったねー」
「時間帯を15時にしたのはある意味正解だったかもね」
「最後の方は焦ったっすけど、それ込みでベストタイムだったっすね」
満足げに僕達は食堂を見回す
色取り取りの飾り付けが行われ、食堂の壁には『ユウリ君 お誕生日 おめでとう』の文字が貼り付けられている。
貼っていたのが本人だったのは、少し面白かったけれど。
それはそうと、
「結局・・・・・・誰も来なかったね」
食堂には僕とユウリくん、サスケくんの3人のみがいた。
開始の15時近くになっても、唯一時計のあるここに途中で様子を覗きに来た人もいなかったので、参加者はこれでほぼ確定だろう。
――そう思っていた、その時。
食堂の扉が開いた。
姿を見せたのは、ヒナタくんだった。
「・・・・・・」
彼は扉に手を掛けたまま、こちらをじっと見つめてきた。
そんなヒナタくんに最初に声を掛けたのは、サスケくんだった。
「準備が終わってから顔を出すとか、図々しいことこの上ないっすねこの犬っころは」
「何ですって! ・・・・・・いや、その通りですね」
ヒナタくんはしゅんとする。
「行こうかどうしようか直前まで迷っていて、お手伝いも何もしていないんですから・・・・・・」
確かにそうなんだけど、でもそれについてはそんなに気にしていない――
そう言おうとしたのだけれど、それを僕が言うのは違うな、と思ってしまったので言葉が出てこなかった。
だが、そうじゃない人もいた。
「よく来てくれたねーヒナタ。来ないかと思ったよー」
「ユウリさん・・・・・・」
「準備してくれたらもっと嬉しいってだけで、来てくれただけでも全然嬉しいよー。だって今日はユウリの誕生日パーティーなんだからねー。明るく行こー」
変わらない明るさを見せるユウリくんに凄さと安堵感を覚えながら、僕も賛同の言葉を掛ける。
「そうだよ、ヒナタくん。準備が出来なかったことを悔やむんなら、後片付けの方を手伝ってくれればいいんだよ」
「あー、それがあったねー。バリバリ働いてもらえればいいよー」
「えっと・・・・・・」
戸惑うヒナタくんに、サスケくんが近づく。
「仕方ないっすね。もうここまで来たんすから目一杯楽しんで、後片付けを一番多くやるっすよ。キリキリ働くっす」
「・・・・・・分かりました」
「あー、もう、そんな調子じゃ駄目っすよ」
サスケくんはヒナタくんの両頬を引っ張る。
「な、なにひゅるんですか!」
「このパーティーに笑顔以外は不要っす! そんな辛気くさい顔をしてたらユウリくんの誕生日がどっか行っちゃうっすよ」
「行かないよー」
おお、ユウリくんがツッコミをした。珍しい。
「ということでスマイルスマイルで始めるっすよ」
「・・・・・・うん」
両頬に置かれたサスケくんの手の上に自分の手を重ねて、それごと持ち上げて口角を上げる。
と、そこで食堂の時計が15時を示した。
同時に、クウギョがケーキを持って現れる。
「お待たせいたしました、猪瀬様。要望のケーキでございます」
「わー、ありがとうー」
「わっ、危ないよ!」
ケーキを受け取って頭上に掲げるユウリくん。
落としそうで思わず走り寄ってしまう。
「美味しそうっすね」
「まずはそれを食べましょうよ」
サスケくんに続き、ヒナタくんも浮ついた声でこちらに寄ってくる。
どうやら完全に振り切ってくれたようだ。
「あ、そういえば」
こちらに来たヒナタくんに、僕は気になって質問をする。
「15時ギリギリにここに来たじゃん。どうやってギリギリに来たの? 偶然?」
「ああ、数えたんですよ」
・・・・・・え?
「数えた?」
「はい。お昼ご飯を食べた後から時間を数えていたんですよ」
なんでそんなことを――と訊ねる前に、ヒナタくんは笑顔で答えてくる。
「流石にツバメさんみたいに正確には出来ませんでしたけどね。
これからもっと精進して、よりツバメくんに近づけるように頑張ります」
思わず表情が強張ってしまった。
ヒナタくんはツバメくんのことをかなり引きずっている。
その『能力』を模倣――いや、彼の存在をその内に秘めるために。
あまりにも狂気的な事実に、目を逸らしそうになる。
「まあ、そんなことは置いておいてさ」
と。
そこでサスケくんが僕達の間に両手を滑り込ませてきた。
「今はケーキ食べるっすよ。じゃないと全部俺っちが食べるっすよ」
「ユウリも食べるよー」
「あ、ずるいですよ。自分、ケーキ好きなんですから」
何事もなく会話を始める3人。
・・・・・・そうだ。
今は楽しもう。
むしろ――ヒナタくんにもっと楽しんでもらおう。
心の奥底でそう思いながら、
「じゃあケーキ切り分けるね。クウギョ、ナイフちょうだい」
僕も3人に混ざるように、歩を進めた。
こうして、
ユウリくんの誕生日パーティーは始まった。




