49話 3章 ~日常編~ -07
ヒナタくんを誘った所で、声を掛けていないのは残り1人だけだった。
奇しくも、体育館の入り口で遭遇して、どこかで会えるだろうと心のどこかで思っていた人が最後になったのだが、まさかこの建物の中にいないとは思わなかった。
彼がいたのは、屋上だった。
「探したよ、ナギサくん」
思わずそう言ってしまうと、彼は屋上の手すりに手を掛けながら振り返ってきた。
「コータクン? おれを探していたの?」
「そうだよ。あ・・・・・・」
探していたのは事実だが、チハヤくんから事情を聞いていたので、主目的はユウリくんの誕生日パーティーに参加してもらえるかの方になっているのだ。
しかしナギサくん視点では、あのチハヤくんとのやり取りを見て追ってきたのだと思っているということに、つい先程気がついたのだ。
だから言葉に詰まったのだが、彼はそれを別の意味で捉えたようだ。
「ああ、ちょっと頭を冷やしていただけだから大丈夫だよ。どれだけ悩んでいたって何があったって、おれは自殺なんて絶対にしないから」
手すりをポンポンと叩くナギサくん。
確かに、この手すりは少し背が低くて、意図的に乗り越えようとするのは簡単にできてしまう。
「うん。ナギサくんがそんなことをしないっていうのは分かったよ。というか普通にそんなことをするようには見えないよ」
「本当かな。おれはこんな風に陰キャだし、唐突にそういうことをしそうに見えない?」
フードに手を掛けて目が隠れるくらい深めに被せながら、ナギサくんは問いかけてくる。
僕は正直な感想を口にする。
「しそうには見えないかな。ここまでのナギサくんの行動とか、チハヤくんから聞いた様子からは」
「・・・・・・チハヤクンが言っていることは、多分めっちゃ盛られているよ」
フードで完全に目を隠してくる。
「何を聞いているか本当に分からないけれど、おれは何の変哲もない、ゲーム好きな陰キャだよ」
「うーん・・・・・・でもチハヤくんにあれだけ堂々と立ち向かっているから、そんな印象全くないんだけどね」
「ああ・・・・・・全部チハヤクンのせいだよ・・・・・・」
頭を抱えてしまった。
「チハヤクンがあれだけ色んな意味で目立つ凄い人だから、同じように凄い人なんじゃないかと見られる・・・・・・昔からそうだ・・・・・・」
「あー、孤高で目立つし、怖い感じだから、それに対抗できる人は必然的にそう見られるよね」
「そうなんだよ。おれは本当に何も特別なんかじゃないのに・・・・・・」
(ヘビの干支で『能力』を持っている時点で特別ではあるとは思うけれど・・・・・・)
そんなことは絶対に口に出さず、僕は苦笑しながら彼に問う。
「それでも、チハヤくんから離れたり、見捨てたりしないんでしょ?」
「それは・・・・・・」
先程からずっと顔を隠したままのチハヤくんは、そこでフードから手を離して顔を上げた。
「当たり前だよ。だってどんなになっても、チハヤクンはおれの友達だから。例え嫌われたって、おれにとっては大切な存在のままだから・・・・・・」
それに、とパーカーの紐をぎゅっと握って、ナギサくんは唇を噛みしめる。
「チハヤクンにはおっきな借りがあるから」
「借り?」
「うん。一緒に遊んでくれた、とかじゃなくて、もっと明確な借りがあるんだ」
ナギサくんは懐かしむように天を仰ぐ。
◆
子供の頃の話なんだけどね。
おれも今のようなインドア陰キャな根暗野郎じゃなくて、そこそこ外で遊ぶ、普通の子供だったんだ。それこそ、チハヤクンとは近所の公園からちょっと遠くの山まで、どこへでも遊びに行くような仲でね。
山では不法投棄物を集めて自分達の秘密基地を作ったりしてたんだ。
あの頃も楽しかったな。
ある日のことかな。
いつものように秘密基地で遊んでいたら、チハヤクンが異常に気がついたんだ。
なんか熱くね? ――って。
何だろうと思って秘密基地から外に出てみたら、目の前が真っ白だったんだ。
山火事だったんだよ。
背後に熱を感じていながら、視界は真っ白でどっちに進んでいいのかも何も分からない。
逃げなきゃ、と思ったのに足が竦んで動けなかった。
――そんな時。
チハヤクンが手を引っ張ってくれたんだ。
逃げるぞ。こっちだ。頑張れ、ナギサ――ってね。
進む方向は後々聞いたら勘だったみたいだけど、おれの手を取ってどんどん山を下っていってね。
途中でもう駄目か、と思ったことが何度もあったけど、それでもチハヤクンはずっと応援してくれて、そのおかげでおれも力が漲って。
無事、2人とも大した怪我もなく山火事から逃れたんだよ。
◆
「あの時、チハヤクンが手を引っ張ってくれなかったら、応援してくれなかったら、今ここにおれは存在していないんだ」
「そんなことがあったんだね・・・・・・確かに、それはチハヤくんかっこいいね」
僕の同意に、ナギサくんは嬉しそうに笑みを零す。
「あれ以来、おれは火が苦手になっちゃったしインドア陰キャ根暗野郎になっちゃったけど、チハヤクンは変わらない様子で・・・・・・いや、むしろどんどんパワフルになっていったんだよね。凄いなあ、って思うよ」
だからね、と彼は力強く頷く。
「おれの方から離れていくことは絶対にないよ」
「そっか。それ程、大切な友達なんだね」
「うん。あの出来事もそうだけど、子供の頃からずっと仲がいいし、今はもう家族みたいな感じかな」
「家族・・・・・・となるとナギサくんがお兄さんかな?」
「はは。そう言うとチハヤクンは怒りそうだよね。実際、誕生日はあっちの方が早いし」
「誕生日・・・・・・あ、そうだ」
話に出てきた単語に反応し、僕はみんなに確認しているようにナギサくんに訊ねる。
「明日、ユウリくんが誕生日パーティーを開くんだけど、ナギサくんもどうかな?」
「誕生日パーティー? それはまた突飛な・・・・・・」
少し引いた様子を見せた後、ナギサくんは首を横に振る。
「ごめんね。こういう場に参加した方がいい気はするんだけど、やっぱりパーティーって陽キャなイメージがあって、行くよ、とは答えにくいや」
「そっか・・・・・・」
まあそれは仕方ないことだ。
「じゃあ、気が向いたら是非来てね。あ、誕生日プレゼントとかそういうのは用意しなくていいらしいから」
「うん、分かった。行けたら行くね」
こういうのは行かない時の常套句だよな、と思いつつ、僕は屋上から室内へと戻った。




