48話 3章 ~日常編~ -06
娯楽室を出て僕は1階の残りの部屋で人を探した。
しかしながら1階には食堂で何やら飾りつけ作業に取り掛かっているユウリくんしかいなかったため、僕は階段で上階へと向かった。
その2階の寝室にも、3階の各部屋にも誰もおらず、人と出会えたのは4階の、しかも意外な場所であった。
その場所とは、死体安置室だった。
死体安置室にある一つのカプセルの前に佇んでいた彼に、僕は声を掛けるのを一瞬ためらった。
すると、彼の方から声を掛けてきた。
「ああ、コータさんですか」
「ヒナタくん……」
彼はどこか焦点が定まっていない様子で、首だけ回して視線を向けてくる。
「ここで何を・・・・・・」
そう問おうとした所で気がつく。
張られているラベルから、ヒナタくんがいるのは、あの人の入っているカプセルだということに。
「そこ、ツバメくんのカプセルだよね?」
「・・・・・・そうですよ。ここに眠っているのはツバメくんです」
「中身見たの?」
「流石にそこまでは・・・・・・ツバメさん、多分首斬られていますし」
ある種、冷静に状況を把握しているようだ。
それでも、ここに来て思うところがあったのだろう。
「敢えて聞くよ。ヒナタくん、ここで何をしていたの?」
「・・・・・・結構ストレートに聞くんですね」
「あ、ごめんね。嫌だったよね」
「いや、逆に聞いてくれて嬉しかったです。自分、そういう人間なので」
小さく息を吐くと、ヒナタくんは逆に質問してきた。
「ねえ、コータさん。自分を見て思いませんでした?
出会ってちょっとしか共に過ごしていないのに、あれだけ思い入れがあるのはおかしい、って」
「それは・・・・・・」
僕はちょっと言葉に詰まる。
むしろ逆で、知り合いなのにあれだけ感情を出せない自分がおかしいのではないか、と思っているのだ。
しかしながら、それを口にしたところで、相反しているヒナタくんにどう思われるのか。
そう考え込んでしまったら、その先の言葉を紡ぐタイミングを失ってしまった。
「やっぱりそう思いますよね。ああ、悪いことじゃないですよ。客観的に見ればそう思えるだろうというのは、自分もちゃんと分かっていますし」
沈黙を肯定と見做したのだろう、彼はそう言って天井を見上げた。
「その理由を話すために、少しだけ、自分のことを話させてください」
◆
自分――犬飼ヒナタを一言で表すならば『落ちこぼれ』です。
落ちこぼれ、といっても成績が最下位なわけではないです。
自分は勉強も、運動も、何一つぱっとしないのです。
何もかもが中途半端。
目立つものも何もない。
特徴も何もない。
それが真の落ちこぼれなんですよ。
世間から落ちこぼれた存在。
例えるなら、欠席しても誰も気にしない、とか、文化祭で一言も発さなくてもバレない、とか。
ここまで聞けば分かると思いますが、自分、友達なんていなかったんですよ。
誰にも親しくなれず。
話す相手なんて出来ず。
・・・・・・無理もないですよね。
だって子供の時から『能力』のせいで変な目で見られていて、それを隠す為に、目立たないように行動していたんだから。
・・・・・・いや、これは言い訳ですね。
単純に自分の性格が、親しい人を作ることが出来ないものだった、というのが正しいです。
誰とも深く関わらず。
誰にも深く関わらせず。
学校で誰かと会話した記憶なんて小学校の時すらないし、家に帰っても特に何かするわけでもないし、ただ息をしているだけでした。
それがいつしか当たり前となっていた時に、自分はここでみんなに会ったんです。
なんか混乱してしまって、その時に何故か、せっかくだからちょっと変わろうかな、って思っちゃって。
ちょっと空回りしちゃったんです。
近くにいたサスケさんに、因縁みたいな話し方をしてしまって・・・・・・あはは。話しかけ方が全く分からなかったから、しょうがないかもしれませんね。
結果的に、それでサスケさんとツバメさんと、あれだけ話すことが出来て・・・・・・コータさんとユウリさんとも一緒に行動して・・・・・・
自分、こういうのが友達なんだ、って思って。
だからとっても大切で。
だから失われたのが、とっても辛かったんです。
たとえこの建物に来てそんなに時間が経っていない状況だとしても、自分にとっては、大なり小なり仲良くなれた、と思える相手が、ずっと、ずっと、いなかったので。
――結局の所。
落ちこぼれである自分の、自分勝手な、過剰な反応、ってところなんですよね。
◆
「――理解してもらおうなんて思っていませんし、同情してもらおうとも思っていません。ただ、自分がこれだけツバメさんに思い入れをしていたという理由を、コータさんに知っておいてほしかった。・・・・・・ただ、それだけなんです」
彼の独白を聞き、僕は頷いた。
「そういうことがあったんだね・・・・・・話してくれてありがとう」
「いえいえ! むしろ話したことで少しすっきりしました。こちらこそありがとうございます」
両手を揃えてぺこりと頭を下げるヒナタくんは、顔を上げると同時に照れ笑いを浮かべる。
「なんでしょうね、こういうこと、恥ずかしくて言うつもりはなかったんですけど・・・・・・なんだかコータさんが話しやすくてつい話してしまいました」
「え? そうなの?」
「はい。なんだか聞き出すのが巧いというか、なんというか、雰囲気がそんな感じで」
「そんな風にしている自覚はないんだけど」
確かに、今日はやたらとみんな、過去や心の傷を僕に話してくれている。
でもきっとそれは僕の人柄のおかげ、ではなく『ネコ』という特性から能力も何もなく、神になり得ないから必然的に加害者にならない、という安心感から話してしまっているのだろう。
(みんな、ストレスが溜まってしまっているんだろうな)
ならばそのことを敢えて口にせず、吐き出させてしまった方がよいだろう。
僕はそう考え、それ以上は否定する言葉を口にせずに、話題を転換する。
「ねえ、ヒナタくん。明日ユウリくんが誕生日会をするんだって」
「誕生日会? ユウリさん明日が誕生日だったんですね」
「んー、なんか近いからだってさ」
「近いから? あはは。何それ」
くすくすと笑い声を忍ばせるヒナタくんに、僕は正面から言葉をぶつける。
「今のところの参加者は当人以外は僕とサスケくんしかいないんだけど、ヒナタくんは参加してくれるよね?」
「っ」
ヒナタくんの息が止まる音がした。
僕は敢えて、今までの人とは違って明確に誘いをかけた。
彼には来てほしかったから。
彼のためにも。
そして、サスケくんのためにも。
数秒の沈黙の後、
「・・・・・・気の利いたプレゼントなんて用意できませんよ」
「あ、プレゼントとかなんか準備するとか、そういうのはやらなくていいらしいよ」
「そうなんですか。少し助かりました。さっきの話聞いて分かると思いますが、誰かの誕生日会とか参加したことがなかったので、プレゼントに何を選んでいいのか分からないんですよね」
「もしかしてヒナタくんは一人っ子だったりする?」
「そうですよ。よく分かりましたね」
誕生日会をしすぎて嫌いになったマシロくんの話を聞いてたからなのだが、その話を口にするのもよくないと思ったので、曖昧に誤魔化すことにした。
「僕も一人っ子だったから、誕生日会とかそういうのやらないから同じだなー、って思って」
「ああ、そういう所も共感出来るのかもしれませんね」
安心したような笑みを見せるヒナタくん。
もう既に返答はもらっているようなものだ。
「じゃあ、明日の15時に食堂で行うから、よろしくね」
「あ、はい。分かりました」
ヒナタくんは押し切られる形で同意を口にしてきた。
ある種、作戦勝ちだ。
彼に対しては押し切る方がいい。
そうじゃないと、きっとツバメくんの傍にずっと居続けてしまうかもしれないから。
「じゃあよろしくね」
「はい。ではまた明日」
手を振って、僕は死体安置室から退室した。
「・・・・・・大丈夫。君のことは忘れないから・・・・・・」
扉を閉める直前。
ヒナタくんがそう呟いたのを、僕は聞き逃さなかった。




