46話 3章 ~日常編~ -04
電気室を出た僕が次に向かったのは1階だった。
中庭を覗いたが日が暮れたからか誰もいなかったため、他の部屋を見に行った。
人がいたのはプールだった。
「あれ? コータさん、珍しいね」
プールの中から顔を出したのは、マシロくんだった。
「珍しいのはそっちだよ。いつもカフェテリアにいたからさ」
「あはは。確かにそうだね。でもたまに気晴らしに泳ぎに来るんだよ」
「知らなかったよ。じゃあチハヤくんとも一緒に泳いだりするの?」
「うん。結構頻度高く遭遇しているよ。よく勝負を挑まれたりするんだよ」
「へえ。で、どっちが勝ってるの?」
「ふふん。意外とぼくの方なんだよね」
それは本当に意外だ。
「泳ぎは筋力がある方が勝つわけじゃないからねー。ウサギなのに泳げるのは意外でしょ」
「そうだよね。干支的に泳げる印象があるのは、リュウとヘビくらいかな」
「ヘビはウミヘビがいるからじゃないの?」
「あ、それだ。じゃあ別モンだね」
「だね」
僕とマシロくんは顔を見合わせて笑いあう。
一通りリラックスした所で、僕は彼に問いかける。
「ねえマシロくん、明日の15時にユウリくんの誕生日パーティーをやるんだけど、よかったら来ない?」
「あっ……」
急にマシロくんの顔が曇った。
「えっと……その、ごめんね。誕生日パーティーには行かない、かな……」
「あ……」
明確な拒否。
もしかしてユウリくんのことを……
「あの、違うんだ。ユウリくんのことがどうとかじゃなくて……」
「そうなんだ」
「うん。そっちじゃなくて、誕生日パーティーの方なんだよ」
「え? どういうこと?」
そう問うと、マシロくんは水中から出てきてプールサイドに腰掛ける。
「少しだけ、ぼくの話をしてもいいかな?」
僕が頷くと、彼は遠くを見ながら口を開いた。
◆
ぼくにはね、弟と妹がたくさんいるんだ。
親は何も考えず毎年毎年産んで、そしてどうするかを後で考えている。
いや、考えていないね。
全部、ぼくに丸投げだ。
ある程度大きくなってきた時から、長男のぼくに全責任を負わせてきた。
お兄ちゃんだろ。
お兄ちゃんなんだから。
その言葉で何度、何度、何度、何度、自分の時間を奪われたか。
逃げたかった。
遠くへ、遠くへ逃げたかった。
でもぼくは逃げることも出来なかった。
だって、お兄ちゃんだったから。
ぼくがいなくなったらこいつらはどうなる?
きっと父も母も、次男にその役割を押し付けるだけだ。
次男……だけじゃない。それ以外の弟、妹達は何も悪くない。
だから頑張らなくちゃいけなかった。
その中で、一番憂鬱だったのが、弟妹達の誕生日パーティーだった。
プレゼント探しから料理まで、全部やらなくちゃいけなくて。
貧乏だから工夫して。
それが毎月毎月あって。
弟妹達の誕生日を、素直に祝えなくなっていた。
それがまた嫌で。
だからぼくは、誕生日パーティーという行事が嫌いになったんだ。
◆
「……そういうわけだから、ぼくは誕生日パーティーに行かないよ。ごめんね」
「いや、大丈夫。むしろ無神経に誘ってごめんね」
「いやいや、普通はそんなこと分からないし、コータさんは何も悪くないよ」
はにかむマシロくんに、僕はこれ以上何も言えなかった。
なにも用意することはないよ、と伝えても、本質的なところは変わらないだろう。
ならば、
「ねえ、マシロくんの誕生日っていつ?」
「え? 4月2日だけど」
「あー、3か月以上先か……だったらさ、マシロくんの誕生日にパーティーしようよ」
「え?」
目を丸くするマシロくんに、僕は言葉を詰め込む。
「勿論主役はマシロくんだから身体だけ用意すればいいし、きっとユウリくんなら賛同してくれるだろうなあ。あとサスケくんも。マシロくんの誕生日だからチハヤくんもきっと賛同してくれるだろうし……あ、そういや、ケーキってどんなのが好き? クウギョに言えば多分用意してくれるんじゃないかな」
「えっと、ミルフィーユってやつが食べてみたいとは思っているけど……あはは」
マシロくんは口元に手を当てて笑った。
「まだ先の話なのに、気が早いよ、コータさん」
「確かにそうか」
「うん。でもありがとうね。そう言ってもらえて嬉しかったよ」
彼はそう言うと、少し表情に陰りを見せながら、それでも微笑んだ。
「3か月後を楽しみにしておくね。だから――お互い、生きようね」




