44話 3章 ~日常編~ -02
僕が真っ先に向かったのは、体育館だった。
誰がどこにいるのかは分からないが、そこには絶対1人いるのだから。
……まあ、参加はしてくれなさそうな人なのだけれど。
僕は諦め半分のまま扉を開こうと手を伸ばした、その時だった。
「どうしてそんなに分からずやなんだ!」
バン、と扉が開いて出てきた人がいた。
ナギサくんだった。
「あ……」
目線が合う。
ナギサくんは気まずいという表情をしたが、それ以上は何も言わずに、そのまま走り去ってしまった。
何があったのだろうか……?
僕は恐る恐る体育館の中を覗き込む。
そこにいたのは、予想通りチハヤくんだった。
「おう、コータか」
「あ、うん。なんか変なタイミングで来ちゃったみたいだね」
「まあ気にすんな」
「そんなわけにいかないよ。何があったの?」
後ろ手で扉を閉め、僕は入口近くにいたチハヤくんに問いかける。
チハヤくんは気まずそうに頭を掻きながら、小さく息を吐く。
「ナギサがよ、こんなことはやめろ、って言って来たんだよ」
「こんなこと?」
「こうやって体育館にいてヘイトを買うような真似、ってことだよ」
「やっぱり、ナギサくんもチハヤくんの行動を理解していたんだね」
「ああ。あいつは俺様に対しての偏見は全くないからな。いずれは分かっちまう気がしたが、それでも早すぎるな。やっぱりあいつは俺様が見込んだ男だぜ」
少し嬉しそうに声を弾ませながら、しかし表情は沈んだまま彼は言葉を落とす。
「ツバメの件でも俺様が利用されかけただろ? だからあいつは、これ以上危ないことはやめろ、って言って来たんだ」
「ああ、確かにそうだね」
あの時はチハヤくんが食堂に来ないことを前提に、トリックが組み立てられていた。
つまり、ツバメくんはチハヤくんに罪を擦り付けようとしたのだ。
「このまま続けたら同じような目に合うからやめろ、ってな。だが、そうなったら他の人に同じことが起きるだけじゃねえか。だったら、俺様が殺人をしないでヘイトを買い続ければ、こういうことは起きにくいんじゃねえか、って思っているんだよ。流石に2回連続で俺様を犯人に仕立て上げようとするやつはいねえだろうからな」
「もしかして、それでナギサくんの言うことを断った、って感じかな」
「その通りだ。お前、あいつより名探偵じゃねえのか」
そう冗談まじりに笑い飛ばしてくるチハヤくん。
「そんなことないよ。ユウリくんの方がひらめきとか発想が名探偵に相応しいと思っているよ。円卓会議の時も僕にヒントを与えてくれるし」
「なんかごにょごにょやっているな、って思ったけど、なんだ。そういうことやってんのか」
「そうそう。だからあれって僕が導き出した答えだけじゃなくて、ユウリくんの『能力』による情報も参考にやっているんだよ」
「そうなんか。……でもよ、俺様目線だと、お前が円卓会議を積極的に進めていて、推理もバンバンしている印象になっているぞ。他のやつもそうだと思うぞ」
「そうなんだね。自分だと分からないや」
「お前さ、ちょっと危機感を持った方がいいと思うぞ」
唐突に、チハヤくんの目が鋭くなる。
「あいつ、お前を隠れ蓑にして、会議を動かそうとしているんじゃねえのか?」
「え? いや、そんなまさか」
ユウリくんに誘導されたことはそんなにないはず。
違和感があるところを教えてもらって、そこから自分で結論を導き出している。
そのはずだ。
「俺様はよ、あいつが『黒幕』なんじゃねえかって疑っているんだ」
「ユウリくんが!? それはないと思うよ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「だって……ユウリくん、だよ?」
あの、いつも明るくて、でも時々子供っぽくて、それでも隣にいると居心地のいい、ユウリくん。
「あいつ、全部分かっていてみんなに会議を回させている感じがするんだよ」
「それは……」
「ないとは言い切れないだろ? あいつ、妙に頭がいいのに、妙に抜けているじゃねえか。
それってよ、俺様達の争いをまるでショーみたいにしている運営側と、同じなんじゃねえか」
言われてみれば、その可能性も無きにしも非ず、だ。
ユウリくんが、どうしてこのことに気が付かないんだろう、と思うことは、少しある。
だが、それもユウリくんの個性だと思っていた。
それがわざとだったら――
「……ううん。でもやっぱり僕は、ユウリくんじゃないと思う」
僕は先程の疑念を払うように首を横に振る。
「なんか根拠はあるのか?」
「根拠なんかないよ。でも、ユウリくんが黒幕とはどうしても思えないっていう、ただの勘……いや」
違う。
「僕の、ただの願望だよ」
ユウリくんが僕達を騙しているなんて考えられない。
考えたくない。
ただ、それだけだ。
「……そうかよ」
チハヤくんは肩の力を抜く。
「ま、そう言っている奴にこれ以上何を言っても変わらんだろうな。信用するのは勝手だが、警戒しておけとは言っておくぜ」
「うん。ありがとう。……あ、そうだ」
僕は本筋を思い出す。
が、
「ん? どうしたよ、コータ?」
「いや、ここに来た目的を今更ながら思い出したんだけどね……多分無理だよね、って思って」
「なんだよ、言うだけ言ってみろよ」
「えっとね……明日の15時に、ユウリくんの誕生日パーティーするからチハヤくんも来ない、かな?」
「はあ? 誕生日パーティー? 誰が言い出したんだよ、それ」
「……ユウリくん」
「自分でかよ……」
予想通り、呆れた表情が返ってきた。
「……あー、なんかコータがそう言うのも分かる気がしたわ……こんな奴が黒幕なの、ぜってーやだからな……」
「そういうわけじゃないんだけどね……で、どうかな?」
「行くわけねえだろ」
「ですよね……」
あの話の流れで来る方向になった方が恐ろしい。
「まあ、邪魔はしねえからよ。そっちはそっちで楽しくやってな」
「うん。まあ、そうするね。ありがとう」
予想通りの相手に予想外の展開から予想通りの答えをもらった僕は、体育館を出て次なる人を探しに行った。




