43話 3章 ~日常編~ -01
ケンタロウくんとツバメくんがいなくなった翌日。
僕達はいつも通りに過ごす――なんてことは当然できずに、落ち込んだまま過ごしていた。
特に顕著なのが夕飯時だ。
全員が集合する唯一の時なのだが、それ故に嫌でも自覚させられる。
根津アユム。
牛場タケル。
馬目サイ。
虎賀ケンタロウ。
鳥羽ツバメ。
彼らの姿がないことに。
身近なところでは、いつも5人で囲んでいた食事が、今は4人であることに、違和感と寂寥感を覚える。
みんなも同じ気持ちなんだろう。
黙々と食事を続ける人がほとんどだった。
「ってかさー、なんでチハヤ普通に来ているのさー」
「あ? 俺様が飯食っちゃいけねえのかよ、ユウリ」
そんな中でユウリくんは普通にチハヤくんに声を掛けていた。
「チハヤだって人間なんだからご飯食べるしトイレもするのは知っているけどさー。でもあれだけ啖呵切ったんだから、普通にいるのめっちゃ違和感あるんだけどー」
「俺様がいつ飯食おうが関係ねえだろ」
「まあぶっちゃけユウリもどうでもいいと思っているけどねー。みんながそう思っているんじゃないかなー、ってねー」
ちらと視線をみんなに向けるユウリくん。
だが、誰も反応しない。
そんな雰囲気に気まずくなったのか、ナギサくんが席を立つ。
「お、おれは失礼するよ。……あっ」
「おっと」
足がもつれたのか、ナギサくんはジンくんにぶつかってしまう。
「ごめんねジンくん」
「いや、気にするな。何の衝撃もない」
「確かに……あれ?」
「どうした、蛇見ナギサ?」
「あ、ううん。ジンくんって意外と……って、何でもないよ」
ナギサくんは足早に食堂から出て行った。
「……俺っちもごちそうさまっす」
目の前にいたサスケくんも静かに手を合わせると、それ以上は一言もしゃべらずに退室していった。
「……」
そこからジンくんも、ヒナタくんも、マシロくんも、黙々と食事を続けた後に何も言わずに去っていく。
「けっ。辛気臭くてかなわねえな」
チハヤくんもそう言葉を吐き捨てて出て行った。
食堂に残っているのは僕とユウリくんだけになった。
静かな食堂で水を飲みながら、僕はちらと彼を見る。
「みんないなくなったし、僕もそろそろ」
「あー! みんなくらーい!」
唐突にユウリくんが叫びだした。
「急にどうしたの?」
「分かるけどー! 分かるけどくらーい! このままじゃやだー!」
まるで子供のように食堂の床でジタバタとしだす彼に、僕は困惑する。
「いや、そうは言ってもこの状況じゃ無理もないって。殺人事件がもう2件も起きているんだから」
「でもだからといって沈み込んでいてもどうにもならないじゃーん!」
「それはそうだけど……」
それでも切り替えるなんて出来やしない。
知り合って間もないとはいえ、人がいなくなる感覚に慣れるものではない。
「あ、そうだ!」
突然、ユウリくんは動きを止めると、文字通り跳ね起きた。
「誕生日パーティーしよう」
「は?」
「コータ! 明日、ユウリの誕生日パーティーをしよう!」
先程の奇行もそうだが、唐突なる提案に僕はただただ混乱した。
「え? ユウリくん、明日誕生日なの?」
「多分!」
「ええ……多分って……」
「ここに来て2週間くらいでしょー? だから大体誕生日くらいだよー」
「そうなの?」
「そうなの。だから明日の昼に誕生日パーティーやろう! ――クウギョ、いる?ー」
「はい。どうかいたしましたか?」
いつものようにふよふよとクウギョが現れる。
「明日ユウリ誕生日なんだけど、おやつ時に誕生日ケーキを用意してくれる?」
「いきなりですね」
困った様子を見せるクウギョにユウリくんは頬を膨らませる。
「出来るの? 出来ないの? どっちなの?」
「まあ可能ですが……」
「じゃあやって」
「ですが」
「やって」
にっこりと微笑んだままクウギョを見つめるユウリくん。
やがてクウギョが深くため息を吐く。
「……分かりました。準備いたします」
「やったー」
「いいの?」
思わずクウギョに同情してそう尋ねてしまう。
「ええ。ケーキならばそこまで手間は掛かりませんし、それにこういうイベントをするのは好まれますから」
「え? なんで?」
「そうやって高めた絆が壊れる所を見られるからですね」
「……」
やはり運営は運営か。吐き気がする。
「そんな思惑に乗らなければいいだけだからな。なんとでもないよ」
「そうですか。頑張ってください」
感情も何も乗っていない言葉を置いて、クウギョは部屋から去っていった。
「あんまり気にしない方がいいと思うよー」
「ユウリくん……」
そうだ。
彼はこんなに堂々としているじゃないか。
僕も見習わないと。
「ということで」
「ん?」
「コータ、みんなを誘ってきて」
「……え?」
「時間は明日の15時! 場所は食堂。あ、プレゼントは用意しなくていいから」
「いやいやいや! そもそもなんで僕がみんなを誘わなきゃいけないのさ!?」
「だって祝われる側が『祝ってよー』って言うわけにいかないじゃーん。だからお願いー」
「確かにそうだけど……」
「ダメ、かなー?」
ユウリくんが僕の目を真っ直ぐに見てくる。身長が低いから、上目遣いになっている。
「……分かったよ。」
その顔でお願いされると、断り切れない。
僕は観念して了承した。
「やったー! コータありがとう!」
ユウリくんは両手を上げて喜びを表現している。
(……ま、いっか。たまにはこんなことも)
「じゃあみんなを誘ってくるね。でも来るかどうかは分からないから、そこは期待しないでおいてね」
「オッケー。じゃあよろしくー」
手を振るユウリくんに手を振り返して、僕は食堂から出て行った。




