40話 2章 ~処刑前~
虎賀ケンタロウを殺害した犯人は、鳥羽ツバメだった。
その事実は僕達にとって、とても衝撃的で、受け入れがたいものだった。
「……どうしてそんなことをしたんですか……」
ヒナタくんが涙交じりの声で問いかける。
「ツバメさんが最初の事件の後、何かを考えごとをしていたのは感じていましたが……どうして相談してくれなかったんですか。自分達、友達だったじゃないですか!」
「……ヒナタ君、すまない」
ツバメくんは悲しそうに目を伏せる。
「君のことは友人だとボクも思っている。だけどそれよりも優先したいことがあったんだ」
「それは……ケンタロウさんを殺すことですか?」
「間接的にはそうなる」
「全部話してほしいっすよ、ツバメっち」
サスケくんも沈んだ声でツバメくんに言葉を掛ける。
「短い間だけど、ツバメっちの人柄は見えたっすよ。真面目で、でもだからといって束縛せずに自由にさせてくれて、そして一緒に笑ってくれる。……そういう人だったすよ、俺っち達にとっては」
「……」
「だから知りたいっすよ。どうしてケンタロウっちを殺したんすか。ツバメっちが優先してやりたいことって、なんだったっすか?」
「……」
ツバメくんは天井を仰ぎ、深呼吸をする。
「まあ、どうせもう無理だから、全部喋って楽になってもいいか」
彼は語る。
自らの禁忌ともいえる部分を。
◆
ボクは至って普通の少年だったんだ。
お父さんがいてお母さんがいて。
いっつもおっとりした父さんと、厳しいけど優しい母さんが、大好きだった。
だけどある日。
ボクの両親は、事故で帰らぬ人になってしまった。
……風邪をひいてなかったら、ボクも同じところにいけたのかもしれないのに。
そこからボクは、叔父夫婦に引き取られた。
だけど、そこでの生活は地獄だった。
ボクは、何かとつけては折檻を受けた。
やれ目つきが悪いだの。
やれ言葉遣いがおかしいだの。
出来が悪い。
出来損ない。
お前は何もできない。
……毎日言われたよ。
まあ、あいつらは、事故で失った甥を健気に仲良く育てている夫婦であるとアピールしようとして、外面だけはよくしようとしてたから、表面上には傷なんてないけどね。
中でも一番きつかったのが、何もない暗い倉庫に閉じ込められることだった。
閉じ込めるだけならまだマシで、あいつらはボクにこう言ってきた。
『今から1時間ちょうどに出られたら家に入ることを許してやろう。
1分でも早くても遅くても駄目だからな』
……にやにやしたあいつらの顔が忘れられない。
暗い倉庫の中でひたすら時を数える。
それがどれだけきついかを、あいつらは分かっててやっていたんだ。
……多分これが、ボクの『能力』に繋がったんじゃないかな。
これで分かっただろう?
ケンタロウ君を殺そうと思ったのは、あいつらと同じように絵の中にボクを閉じ込めたから。
ボクは、閉じ込められるのが嫌なんだ。
だから、『この建物内に閉じ込められている』のも、もう限界が来ているんだよ。
ボクは早く出たかった。
出て行って、一刻も早く実行したかった。
神となって、あいつらを――地獄に落とすことを。
◆
ツバメくんが語った壮絶な過去に、僕達は飲み込まれそうになった。
彼の『能力』の源流も知った。
きっと内心では、自分の『能力』が忌々しかったのだろう。
誰もが黙り込む中、口を開いたのは当の本人のツバメくんだった。
「……ケンタロウ君を殺した動機が、それだけ? って思う人もいるだろうね。そこは否定しないし、理解されようとも思わないよ。
ただ、時間制限付きで閉じ込められる、というのはそれ程までにボクにとって嫌なことだったんだよ」
ツバメくんは初日に、ケンタロウくんによって絵の中に閉じ込められた。
もしこれが別の人だったら、こんなことは起きなかったのかもしれない。
……いや、そうじゃないんだ。
「きっかけ、ってことだよね」
僕の言葉に、ツバメくんは首を縦に動かす。
「ああ、そうだ。ボクはここから抜け出す為に――神になる為に、いずれ誰かを殺していただろう。それがたまたまケンタロウ君だっただけだ。もしかしたら君達の誰かを殺していたかもしれない」
だから、と彼は穏やかな表情で告げる。
「遠慮なく、この事件の犯人を指名してくれ」
「議論がお済みのようですね」
その声を受けてだろう、クウギョが中央に現れる。
「では皆様、今から当事件についての犯人が誰なのか、投票をお願いします。
お手元の電子機器の投票アプリから犯人だと思われる人物を指名し、決定ボタンを押してください」
僕は自分のスマホから投票アプリを立ち上げる。
『虎賀ケンタロウを殺害した、犯人だと思われる人を選択してください』
選択するのは勿論、彼の名前だ。
――彼の意志の通りに。
そこから1分ほど経過しただろうか。
「まだ選択していない人がいらっしゃいます。
早急に選択をしてください。
選択されなければ、ご自分に投票になります」
クウギョが促す。
誰がまだ投票していないのかは、何となく分かった。
顔が青ざめ泣きそうな表情をしている彼だろう。
「――ヒナタ君」
そんな彼に。
ツバメくんは言葉を投げる。
「サイくんの時と同じだよ。殺人という犯罪を犯した人間を許してはいけない。だから遠慮なく投票していいんだよ」
「……でも……」
ぽろぽろ、と。
ヒナタくんは涙を流す。
それを見て心が痛む。
出会ってからわずかな時間ではあるが、ツバメくんは僕達と仲が良かった。
それは間違いない。
それでも……いや、それだからこそ。
(選ばなきゃいけないんだ)
「――時間切れになります。投票を締め切ります」
結局、ヒナタくんは選ばなかったようだ。
周囲が暗くなる。
「では結果が出ましたので表示します。投票結果は以下の通りです」
鳥羽ツバメ 8票
犬飼ヒナタ 1票
「ということで、結果、最多投票は鳥羽ツバメ様になりました。
鳥羽ツバメ様が犯人だったのかどうかについては、処刑後、お伝えいたします」
「処刑後じゃなくていいよ。ボクが犯人なんだから」
すっきりとした表情で、ツバメくんは天を仰ぐ。
「何だろうね。ナイフで刺したりとか首を絞めたりとか殴ったりとか、直接手を下していないからかな。人を殺した感覚というものがない――そう思っていたんだけどね。
時間が経つにつれて、やっぱり罪悪感というのが増してくるもんなんだね」
彼は自らの手を見つめながら、ぽつり、ぽつりと言葉を落としていく。
「いや、罪悪感なのかな。後悔の方が強いのかもしれないな。
なんでこんなことをしてしまったのか、っていう後悔が。
ヒナタくん、サスケくん、コータくん、ユウリくん。
――ごめんね」
そう微笑んでくる彼の表情を見て胸が詰まる。
脳裏に思い出が過る。
突然ここに連れられてきて、みんなで屋敷内を探索した、あの時のことを。
そこから過ごした数日のことを。
戸惑いながらも、どこか居心地のよかった、あの瞬間を。
「ここで主催者からの指示になりますが、鳥羽ツバメ様についての情報を皆様にお伝えいたします」
そんな気持ちに水を差すように、クウギョが言葉を挟む。
「もうボクの情報は全部言っちゃったよ。何にもないんじゃないかな」
「ええ、その通りです。ほとんど言ってしまわれたので、運営側からお伝えできる情報は1つしかありません」
「なんだ? ボクは何を言われても動じはしないぞ」
「そうみたいですね。鳥羽ツバメ様のご両親は、ツバメ様の叔父夫婦に殺害された、という情報しかありません」
「……何だと?」
さらりと告げられた事実に、ツバメくんは目を見開く。
「鳥羽ツバメ様の叔父夫婦は母方のご姉弟で、父方の祖父は資産家であったようです。
最初はお母様の保険金目当てだったようですが、その時の処理をしていた時に気が付いたのでしょう。
お父様は一人息子であったようで、祖父の遺産の相続権はツバメ様のみだそうです。
それがツバメ様を引き取った理由、とのことです」
「……そうか。どこまでも金にがめつい奴らだったのか」
彼は短く息を吐いた。
その様子に、クウギョは意外だという声を放つ。
「おや。お怒りにならないのですか」
「知らなかった情報を得て、あいつらに憎悪は沸いた。
だがもうここから助かる道などないんだ。
だったら大人しく事実を受け入れるしかない」
ふふ、と笑い声が漏れる。
「この情報を事前に受けていたらもう少しあがいていたかもしれないぞ。
運営側も色々と甘いんじゃないのか。
それとも――あがいてもらったら困る理由でもあるのかな?」
「ワタクシからは何とも言えません。主催者側の意向でお伝えしたまでですので」
クウギョは、まるで人間が手を合わせるような所作でヒレを閉じる。
「はい。以上が鳥羽ツバメ様の情報になります
では、これから鳥羽ツバメ様の『処刑』を執り行います」
その言葉と同時に、ツバメくんが座っていた椅子が、彼の身体を拘束した。
サイくんの時と同じだ。
「鳥羽ツバメ様、最後に言い残すことはありますでしょうか」
「言い残すこと、か」
そうだな、と数秒考えこむ仕草を見せた後、
「この中で神になった人にお願いでもしようか。
今からボクは地獄に行く。
だから同じ地獄に、ボクの叔父夫婦一家を送ってくれないか。
それだけが望みだ」
その願いに、誰も答えない。
答えられない。
「ああ、あと最後に個人に向けたメッセージで申し訳ないけど、コータ君、ユウリ君」
突然名前を呼ばれてびっくりした。
彼は僕達を見ながら
「こいつらがケンカしてたら、その時はボクの代わりによろしくな」
苦笑いのような。
哀しみも含んでいるような。
そんな複雑な感情を含んだ笑みを浮かべて、彼の姿は円卓の部屋から消えていった。




