36話 2章 ~円卓会議~ -01
数分後。
円卓の部屋にみんなが集まる。
その表情は誰もが暗く影を落としている。
無理もない。
2回目ではあるが慣れるものではないのだから。
「皆様集合しましたので、そろそろ円卓会議を始めますね」
クウギョが中央で僕達に言葉を投げる。
「それでは、これから円卓会議を始めます。まずルールのおさらいから致しますね。
これから皆様には虎賀ケンタロウ様を殺害した人物が誰なのか、議論してもらいます。
議論の末、犯人だと思われる方に、お手元の電子機器の投票機能を使って入れていただきます。
最多投票の方が犯人でなければ、殺人を犯した方が見事、この宴の勝者となり、神様になっていただきます。
しかしながら最多投票が犯人の方であれば、その方は神様になる権利を失い、処刑されます。
もし同数であれば、猫泉様が入れた方が、最終的に選択された方になります。
――それでは、議論を始めてください」
クウギョが羽根を広げて促す。
だが誰も口を開く人はいない。
数十秒の静寂の後、声を上げたのはチハヤくんだった。
「おいおい、誰もいねえのかよ。誰かなんか言えよ」
「いや、言えって言われてもっすね。当時の状況が分かんないんすよ」
サスケくんが困ったように手を上げる。
「まずは死体発見時の状況を教えてくれないっすかね」
「あ、うん。分かったよ」
僕はあの時のことを思い出す。
「夕飯の時に食堂に来なかった人達を呼びに行こうって話になったんだ。そこで僕とユウリくんとツバメくんの3人で美術室にいるであろうケンタロウくんを呼びに行ったんだ。で、ちょうど着いてツバメくんが外から声を掛けた時に、扉の中で物音がしたんだ。だよね、ツバメくん?」
「ああ。ちょうどボクが扉に手を掛けようとしたタイミングだったな。中からガタン、という大きな音の後に、バタバタという物音が聞こえてきたんだよ」
「ということは中に誰かいたってことですか?」
「多分そうだと思う。それで扉を開こうとしたのだが何故か開けられなくてな」
「うん。僕も一緒に押したから分かるけど、ちょっとは開いたけどそれ以上はなんか開かなかったよ」
「それって密室ってことなのかな、コータクン」
「そういうことになるのかな。正確には完全な密室ではなかったといえ、人が入れる隙間はなかったよ」
「だから俺様がやってきて扉を蹴り飛ばして開けたんだよ」
「そしたら、足元でケンタロウが倒れていたんだよねー」
「そうだったんすね。だから扉がぶっ壊れてたっすね」
「ということは、その勢いでケンタロウくんごと吹き飛ばしたんだね」
「あ、もしかしてその時にケンタロウさんの当たりどころが悪くて……」
「相当な勢いだったもんねー」
「あ? 俺様が殺したってのか?」
「もし頭とかに当たったらそうなるかもしれないじゃないですか」
「あらゆる可能性を探るのは大切だよねー。でもおかしいところはおかしいと言わなきゃ。ね? コータ?」
ユウリくんに振られ、僕は事実と異なる点を告げる。
「ヒナタくん、ケンタロウくんの死因は扉が当たったことじゃないんだよ」
「え? そうなんですか?」
「だよね、ジンくん?」
ジンくんに振ると、彼は首肯する。
「ああ、その通りだ。虎賀ケンタロウの頭部には外傷はなかった。死因は推定だが窒息死だ」
「窒息死!? ってことは首を絞められて殺されたんですか!?」
「いや、そのような跡はなかった。遺体の分析で窒息死だということが分かっただけで、外傷は腕に打撲婚くらいしかなかった」
「あー、もしかしたらその腕の打撲婚は、龍崎チハヤが扉を蹴り飛ばした際にそれが当たったか、その衝撃を受けた部分なのかもしれないな。納得した」
ん?
チハヤくんが蹴り飛ばした扉によって腕に打撲婚が出来た?
「チハヤくん、ちょっと思い出してほしいんだけど」
「なんだ?」
「蹴り飛ばした時って、扉の上の方を蹴り飛ばしたっけ?」
「ああ? なんだそりゃ」
「下じゃなければいいんだ。教えてくれないかな」
「えーっと、確かあの時は……ど真ん中だな」
「それで、扉はどんな風に吹き飛んでいった?」
「そんな派手に吹き飛ばすまでは言ってねえと思うぞ。蝶番部分が吹っ飛んで、大体2メートル程度じゃねえか?」
「つまり、その場で扉が倒れたわけじゃないよね?」
「お前もその場にいただろうが。俺様の力で吹き飛ばしたのをよ。何が言いたいんだ?」
「あ、うん。つまり僕とツバメくんが扉を開けなかった原因が分かったんだ」
「え? そうなのか? てっきり鍵が掛かっていたと思っていたが」
「美術室にそもそも鍵はないよ、ツバメくん。それでも扉が開かなかった理由は……」
僕は開かなかった理由を提示する。
「ケンタロウくんの身体がつっかえてしまって開かなかったんだよ」
「……なんだって」
そうとしか考えられない。
「ケンタロウが倒れていたのは入口付近だし、美術室の入り口は中に開く形だ。ならば彼が倒れた結果、入口に寄りかかるような形になったんだと思うよ。それでいわゆるつっかえ棒のような役割を担ってしまったんだ。ケンタロウくんはガタイもよかったしね」
「成程。だからちょっとだけ開いたのか」
「多分、完全につっかえたのは犯人も予想外だったんじゃないのかな。逃げる時間稼ぎに、入口の所に重り代わりに死体を置いていた、ってのが変に作用したっていうことじゃないかな」
「確かに、人体の死後硬直についての知識があったりしないと、完全な密室状態にする配置にすることは難しいと思うぞ、猫泉コータ。あ、だからといって私がやったのではないからな」
ジンくんが口を挟み、補足してくれる。
「それで、さっきチハヤくんに聞いたのは、つっかえていた下部を蹴り飛ばしたのならば打撲だけじゃすまないと思う」
「ああ、だからどこら辺蹴ったのか聞いたのか」
チハヤくんが納得したという表情になる。
「うん。思えばケンタロウくんの倒れている位置はあまりにも入口に近すぎだよね。チハヤくんが吹き飛ばしたからこそ、多少は中に入ったんだと思うけれども」
「下部を蹴ってたら逆に開かなかった、ってことか。ああ、あと感触的には、蹴破りやすいようにやわな作り方をしているっぽかったぞ、あの扉」
「そうなんだ。それも功を奏したのかもしれないね」
おかげで扉が開かなかった原因が分かった。
「あの、ちょっと気になったのですけれど……」
ヒナタくんがおずおずと手を上げる。
「ケンタロウさんの死体を入口に置いて人が出入りする隙間もなかった、ってことは、犯人は美術室からどうやって出て行ったんですかね?」
「ああ? そんなの窓からに決まっているだろ」
「窓? 美術室って3階だよ。まさか飛び降りたとか……」
「他に飛び移るような所もないですよね」
「だったら中に隠れたんじゃないっすかね。あそこ色々とごちゃごちゃしていますし」
「いや、中には誰もいなかったのをボクとチハヤ君が確認している」
「じゃあやっぱり窓なんだね」
「で、でも3階から飛び降りたら無事じゃすまないよね、怪我している人、いるのかな?」
「そいつが犯人ってことですよね。名乗り出てください」
「でも3階から飛び降りて無事な動物いるよねー。猫とか」
「ぼ、ぼくはそんなこと出来ないよ」
「動物で言うならば、トリとかも飛べるんじゃないのかな」
「残念ながらボクはニワトリがモチーフっぽいから飛べないみたいだ。それにコータ君とボクはその場にいたし、犯人になり得ない」
「じゃあ誰も美術室から出られないじゃないっすか」
「うーん、議論が変な方向になってきたし、そろそろ教えてあげた方がいいんじゃないかなー、コータ」
ユウリくんが僕に促してくる。
「マシロくん、飛び降りなくても、美術室の窓から中庭には行けたんだよ」
「そ、それってどういうことですか?」
「美術室には降りるためのロープがあったんだよ。窓の近くにしっかりと結び付けられているロープが」
「そうなんですか!?」
「ああ、それは俺様もロープがあるのは確認しているぜ」
チハヤくんが腕を組みながら頷きを返す。
「ってか使ったな」
「つ、使った!?」
「犯人を追うためにな。俺様が降りても千切れたり解けたりしなかったから、他のやつでも使えると思うぜ」
「じゃあ犯人はそこから逃げたんだね」
「でもさ、1つ聞いていいっすか?」
サスケくんが真っ直ぐに手を上げる。
「犯人が窓から逃げたから密室でもなかったというのは分かったっす。じゃあいつケンタロウっちは殺されたんすか?」
いつケンタロウが殺害されたのか。
それをはっきりとさせよう。
「死亡推定時刻から分かったりしないのかな、ジンクン?」
「虎賀ケンタロウの死亡推定時間は、発見時から1時間以内、ということくらいしか分からなかった」
「ということは18時10分から19時10分までの間、ということなんだな」
「さすがツバメー。時刻が正確だねー」
「ということは自分とサスケさん、ユウリさんとコータさんは犯人ではありませんね」
「そうだね。夕ご飯の時間の1時間以上前からずっと、僕達は娯楽室で一緒に遊んでいたからね」
「俺っち達以外で一緒にいた人はいるっすか?」
「そんくらいは見かけてねえな」
「ボクもだね」
「おれも同じく」
「私もだ」
「ぼ、ぼくはずっとカフェテリアにいたよ」
「ということは、みんな犯行が可能ってことですよね」
「まだ5人も残っているっすか」
「ねえコータ。容疑者をもっと絞り込める何かはないかな」
この中から犯人であることが難しい人は……
「ちょっと待って。犯人の可能性が低い人は3人いるよ」
「3人? 誰っすか?」
「ツバメくんとチハヤくん、ジンくんの3人だよ」
「な、なんでその3人だけなの!?」
マシロくんの言葉に僕は人差し指を立てる。
「僕達が美術室前に辿り着いた時に物音がしたんだ。ケンタロウくんが死んでいた以上、その音は犯人が逃げる音だと考えるのが正しいと思う」
「あっ……そういえばそう言ってたね」
「その場に一緒にいたツバメくんは勿論のこと直前に食堂にいたジンくん、チハヤくんは、僕達より早く美術室の中に行くことは不可能だ」
「その通りだよ。コータ君が言わなかったらボクから言っていたところだ。みんな見てくれ」
そう言ってツバメくんは、右手に手紙を掲げる。
「これは捜査中に見つけた手紙だ。中にはこう書いてある。
『見せたいものがあるから18時30分に美術室にきて』
中身についてはコータ君も知っているだろう」
「うん。間違いないよ」
「ツバメっち! それ素手で触っているけどいいんすか!?」
「ああ、これ見てもらえばわかるけれど、新聞とか雑誌から切り抜かれているんだ。この前の事件で指紋が決め手になったし、残すような真似はしていないだろう。だからみんなにも回すよ」
そう言って彼は隣の席にいるサスケくんに渡した。
「この手紙に書いてある通り、犯人がケンタロウ君を呼び出したんだと思う。つまり18時30分頃には、ケンタロウ君と犯人は美術室にいたってことになる」
「となると、犯人とケンタロウくんはずっとその間、美術室にいたってことだよね」
「ケンタロウ君は死体になっていたのかもしれないけれどね」
そうだ。ケンタロウくんを殺害する時間も考慮しなくちゃいけないんだ。
「となると先の情報も合わせると、犯人の可能性があるのは……」
僕は視線をその人に向ける。
「ナギサくんとマシロくん。君たちのどちらかになる――」
「その結論に至るには、議論を巻きすぎているよ」




