34話 2章 ~日常編~ - 11
僕達は、時間が経つのをすっかりと忘れて娯楽室で大富豪に興じていた。
その意識を呼び覚ましたのはクウギョの放送だった。
『ピーンポーンパーンポーン』
『皆様19時になりました。夕食の時間です』
「え? もうこんな時間なんだ」
「あっという間だったっすね」
「楽しかったですねー」
「むー次は勝ーつ!」
「あはは。じゃあご飯食べに行こうか」
ふくれっ面のユウリくんを見て笑顔になりながら、僕達は食堂へと向かった。
食堂の扉を開けると、既にツバメくんが席についていた。
「ツバメくん、早いね。食堂から一番近いところにいた僕達が最初だと思ったのに」
「まあボクは放送前から食堂に来ていたしな」
ああ、ツバメくんの『能力』だとそれも可能か。
「それより、みんな揃って来たけど、何かしていたのか?」
「そうだよー。娯楽室で大富豪していたんだー」
「めちゃくちゃ楽しかったですよ」
「今度はツバメっちも一緒に遊ぶっすよ」
「ああ、気が向いたらな」
ジンくんが少し影を宿した表情で微笑む。やはり最初の事件から切り替えられていないようだ。
「お、みんなきちんと夜は来ているようだな」
と、そこでジンくんが食堂に入ってくる。
「きちんとってどういうこと?」
「昨日あんなことがあったからな。下手したら誰も来ない可能性があった」
「確かにそうだな。ボクもそう考えていたし、実際来ない人はいると思うぞ」
「へえ、それは誰のことだ?」
その声にみんな驚いた様子を見せた。
入ってきたのはチハヤくんだった。
(無理もない。来ない人ってみんなチハヤくんを想像していただろうしね)
実際、僕が言わなかったら来ないつもりだったし。
「チ、チハヤくん、どうしてここに?」
「どうしても何も、夜の飯時に情報共有するって話だったじゃねえか。俺様を仲間外れにするつもりだったのか、ツバメ?」
「いや、そんなことはないが……」
ツバメくんがたじろぐ横で、チハヤくんは堂々と席に座る。
「じゃあ始めようぜ、今日の情報共有をよ」
「いや、まだ全員集まってないぞ、龍崎チハヤ」
「んだよ。俺様が最後じゃねえのかよ。いつもと違って遅いじゃねえか」
「……確かに、チハヤ君の言う通り、いつもだったらもうみんな食堂に集合している時間なのにな」
ツバメくんの言う通りだ。夜ご飯の時間になるとみんなはすぐに集まっていた。一番遠い場所にいてのんびり歩いて来ているジンくんが最後になるのがいつものことだったが、今日は3人も来ていない。
ケンタロウくん。
マシロくん。
ナギサくん。
「とりあえずみんなを呼びに行こうか」
ツバメくんが立ち上がる。
「多分ケンタロウ君は美術室でマシロ君はカフェテリアだと思うから両方とも3階だし、ボクが呼んでこよう。――あ、一応、コータ君も付いて来てくれるかな」
「え? いいけど、どうして?」
「時間通りに来ないということは、もしかしたら最悪の場合を想定して、ね。そうなると1人じゃちょっと心細いから」
「そういうこと……分かった」
「じゃあユウリも一緒に行くー」
ユウリくんが手を上げると、ツバメくんはホッとした表情を見せる。
「助かるよ。あとはナギサくんだけど……どこにいるか分からないから地下とか1階を中心にみんなで探してきてほしいんだけど……」
「じゃ、じゃあ自分とサスケさんで1階を探しますよ!」
「あ、了解っす」
「じゃあ残った私と龍崎チハヤで地下を探すか」
「ちっ。しょうがねえなあ」
「じゃあみんなよろしく。行こう、コータ君、ユウリ君」
「うん」
「しゅっぱーつ」
僕達は食堂を後にして3階に向かった。
◆
「ねえツバメ。そんなにチハヤが怖い?」
2階に上がった直後、ユウリくんが唐突に言葉を投げた。
受け取る側のツバメくんは驚いた顔で足を止めた。
「そんなことはないけれど、どうしてそう思ったんだ?」
「だってさっき食堂にチハヤが来た時に、めちゃくちゃ反応していたじゃない」
「あれは単純に驚いただけだよ。ジン君も言っていたけど、もう夜ご飯の時に同じ時間に集合するなんてことはチハヤ君はしないだろうな、って思っていたから」
「あ、そういうことかー」
「あと、明らかにチハヤ君を一番怖がっているのは、多分ケンタロウ君だと思うよ」
「そうなのー?」
「ああ、この前もチハヤ君が暴れたと騒いでいたからな。ちょうどコータ君もその場にいただろう?」
「昼過ぎの話だよね。確かに怖がっていたね」
「だからこそ、声かけて一緒に行ってあげた方がいいと思ったんだ」
そう言ってツバメくんは少し早歩きで再び歩みを始める。
彼に先導される形で僕とユウリくんも後をついていき、3階へ辿り着く。
「しっかし、ツバメは優しいねー」
「唐突になんだ、ユウリ君?」
「きちんとみんなを呼びに行くなんてさ、やっぱり『能力』に出てるけどしっかりしていると思うよ」
「褒めてもなんも出ないぞ。それにボクの『能力』はただ時刻が分かるだけで、しっかりしているってのはちょっと違う気が」
「あ、でも、しっかりしているってイメージがあるのは僕もそう思うよ、ツバメくん。なんとなくの印象になるけれど」
「まあ、そう言われて嫌な気はしないけれどね。ありがとう」
彼が柔らかく微笑んだ所で、ちょうど美術室の前まで辿り着いた。
「おーいケンタロウ君。みんな食堂に集まっているぞ」
そう声を掛けながらツバメくんが扉に手を掛けた。
その時だった。
ガタン!
バタバタバタ!
美術室の中で何かが倒れるような物音が響いた。
僕達は顔を見合わせる。
「ケンタロウ君かな」
「多分そうじゃないかな。昼寝していて起きたとか。……あれ?」
「どうしたの?」
「……扉が開かない」
ドアノブに手を掛けて、ツバメくんが見るからに力いっぱいに扉を押す。
だが、扉は開く気配が見えない。
「手伝うよ」
僕も一緒に押す。
ちょっと動いたが開かない。
「何かが突っかかっているみたいだね……」
「ユウリ、地下に行って扉壊す道具取ってくるよー!」
「うん、お願い!」
ユウリくんが走り去っていく中、僕達は懸命に扉を何度も勢いよく押し続ける。
しかし様子は変わらない。
数分は繰り返し続けていただろうか。
ユウリくんが戻ってきた。
チハヤくんを連れて。
「扉壊す道具持ってきたよー」
「道具じゃねえよ」
ちっ、と舌打ちをしつつも走ってきてくれる。
「助かるよ! チハヤくん、申し訳ないけどお願い!」
「どけ、コータ、ツバメ!」
扉の前から離れると、チハヤくんが扉の前に立つ。
そして2、3歩下がって距離を取ると
「うらぁっ!」
勢いをつけて扉を蹴り飛ばした。
その扉の向こうにあったのは
――最悪の光景だった。
蹴り飛ばされた扉の下に倒れていたのは、この美術室によくいた人物。
色素の薄い髪色の少年――虎賀ケンタロウが、白目を剥いて口から泡を吹いて倒れていた。




