31話 2章 ~日常編~ - 08
その後、いたたまれない空気に耐えられなくなった僕は、話もそこそこに美術室を離れた。
……結局、当初の目的だった絵でも見て心を癒そうとした目的は達成できなかったな。
色々とドタバタとしたからそれは仕方ないとして、物理的な疲れは取れてはいない。
ならば栄養剤とかサプリとか取るのもありかな、とふと思ったので、僕は同じ階の保健室へと向かった。
そこならいつもの彼がいるから聞いてみればいいや、という気持ちで行ったのだが、生憎、想定していた人はいなかった。
代わりに別の人物がそこにいた。
ナギサくんだった。
「珍しいね、ここにいるの」
「あ、コータクン。てっきりジンクンかと思ったよ」
「それはこっちの台詞だよ」
「だよね」
ナギサくんは苦笑しつつ、薬品棚を漁る。
「何しているの?」
「えっとね、なんか黒幕につながる手掛かりがないか、ってのを調べているんだ」
「え?」
ナギサくんも黒幕を探している?
「ジンくんが黒幕だって決めつけているわけじゃないよ。ただ、彼がいない今ならばここを調べられると思ってね」
「ねえ……どうして黒幕を探しているの?」
思わず聞いてしまった。
ナギサくんはそういうことをするような性格には見えなかった。
「おれの性格だとそういう黒幕を積極的に探そうとは思えない、って感じかな?」
「うっ……ごめんね」
「いいんだよ。実際おれは自分の為だったらこんなことしないだろうしね」
その言葉でなんとなく気が付いた。
「もしかして……チハヤくんの為?」
「コータクンには分かっちゃうか」
ナギサくんは調べる手を止めて僕の方に向き直った。
「チハヤくん、多分、みんなのヘイトを集めて黒幕を探そうとしているんだと思う。だからあんなことを昨日言ったんだよね」
流石ナギサくんだ。チハヤくんの意図をしっかりと理解している。
これが親友という絆か。
「だから黒幕を見つけ出せれば、チハヤクンがあんなことをしなくてもよくなる。だから僕は可能な限り、黒幕の証拠を探すことにするよ」
彼の強い意志が言葉の節々から伝わってくる。
「ナギサくんは強いね。……あ、そういえばチハヤくんから前に聞いたけど、ナギサくんってチハヤくんの為に半グレに立ち向かったことがあるんだってね」
「え? いやいやいや! それは嘘だよ!」
「嘘?」
「というよりもチハヤクンの勘違いだよ! だって半グレに立ち向かったんじゃなくて、チハヤクンに立ち向かったんだから」
(……どういうこと?)
「それってナギサくんが半グレ、ってこと?」
「違うよー! じゃなくて、半グレとケンカしていたチハヤクンに、こういうことをするからこんなやつらに絡まれるんだ、って怒っただけ。半グレはチハヤクンが全員倒したんだよ」
状況を整理しよう。
半グレに囲まれているチハヤくんに、そんなことお構いなしにナギサくんが説教をした。
どれだけカオスな状況なんだ。
(……まあでも確かに、立ち向かった、って言っていて、倒した、とは言っていなかったな)
チハヤくんの言葉を思い出して納得した。
「おれに出来るのは地道にコツコツと行うことだよ。ヘビの干支だしね。粘り強いんだ」
相も変わらず強烈な意思を感じさせる言葉を放つナギサくん。
その言葉に偽りを感じなかった。
「そっか。僕も他の場所で黒幕の手がかりとかなんか見つけたらナギサくんに教えるね」
「そうしてくれると助かるよ。ありがとう」
そう言葉を交わして、保健室から出て行った。
出て行った後に、当初想定していた栄養剤を入手する目的を思い出したが、いまさら戻るわけにも行かず、僕はふらふらと下の階へと向かった。




