29話 2章 ~日常編~ - 06
先に体力が尽きた僕はプールから出て、1階を歩いていた。
その時だった。
ガシャン。
大きな音が聞こえた。
場所は食堂の方だ。
直後に背後で何か物音がしたが、今はそれどころではない。
「何があったの!?」
僕が駆け込むと、そこにいたのはサスケくんとヒナタくんだった。
2人は焦った様子だった。
「あ、コータっち……」
「い、いや違うんですよ」
「違うって何が……?」
そこで2人の足元に何かがあるのに気が付く。
それは時計とゴムボールだった。
「これ、何?」
「せ、説明するっす」
サスケくんが汗をだらだら流しながら両手を上げる。
「端的に事実を告げると、ヒナタっちが投げたボールが食堂の時計に当たって落ちたっす」
「な! 違いますよこのサルが! そっちがちゃんと取れなくて逸らしたんでしょうが!」
「えーっとつまり……どっちにしろ、食堂でボールを投げたってこと? なんで?」
「この犬がボールを使った遊びをしたかったからっすよ!」
「この猿がボールを使った遊びをしたかったからですよ!」
どっちからだとしてもボール遊びをしたかったらしい。
「体育館とか外でやればいいんじゃないの?」
「体育館はチハヤっちがいるっすよ。だから使えなかったっす」
「ゴムボールって室内で投げるものですし、1階で一番広いのは食堂だと思って」
まあ要するにチハヤくんを怖がって食堂で遊んでいた、ということか。
本当に何をしているんだか……。
僕は呆れながら、2人の足元にある時計を手に取る。
「あ、時計、なんか動いていないね」
「うっ……外側割れていないから大丈夫だと思ったんすけど……ダメっすか?」
「こ、壊しちゃいました!?」
「多分そうだね。クウギョに言っておこうか。――クウギョ、いる?」
適当に空間に声をかけると、ふよふよとクウギョがやってきた。
「はい、何でしょうか」
「あ、近くにいてよかった。時計、落としちゃって壊れちゃったみたいなんだ。申し訳ないけど直してもらえるかな」
「はあ、了解いたしました。ただ、代わりのものを用意しますが、見栄えが悪いのでとりあえず元の位置に戻しておきますね」
クウギョは僕の手から時計を取ると、最初に掛けてあった場所へと戻した。
「明日には交換していると思いますので。では失礼します」
出現したときと同じようにクウギョがいなくなった後、
「僕が言うことじゃないと思うけど、室内でボール遊びを今後はしない方がいいかもね」
「はーいっす」
「すみません」
2人はしゅんとした様子を見せた。
「まあでも体を動かしたい気持ちは分かるから、中庭とかでやるのがいいんじゃないのかな。別にゴムボールを外で使うのも不自然じゃないし」
「そうするっすか」
「ですね。あ、コータさんもやります?」
「ぼ、僕はいいかな。さっきプールで泳いでて疲れているし」
ボール遊びを2人とするのもいいけれど、今は他の気分転換をしたい。
美術室あたりに行って風景画でも見て落ち着きたい気分だ。
「そっすか。じゃあ行くっすよ、ヒナタっち」
「分かりました」
2人はそろって食堂から出て行った。
……あれだけケンカしているのに、結局仲がいいのか悪いのか分からないな。
(まあ間違いなく仲がいいんだろうな)
その微笑ましさに口元が少し緩みながら、僕は食堂を続いて後にした。




