21話 1章 ~処刑前~
サイくんは、そう淡々と語った。
自分がやったことを。
長い語りの後、彼は短く息を吐いた。
「もしこれが現実だったら、もっと粘っていたんだけどな。
でも、これは裁判じゃない。
証拠がなければ無実、なんてものじゃなくて、最終的には多数決で決められるんだ。
あそこまで当てられたら、もうあがいても何も変わらないのは流石に分かっているさ」
「じゃあ、サイくん、やっぱり君がタケルくんを……」
「そうだ。俺が牛場を殺した」
円卓内はしんと静まり、みんなの視線は彼へと集まった。
牛場タケルを殺した真犯人である、サイくんに。
彼は抵抗する様子を見せず、悠然とした様子でその視線を受け止めている。
「ねえ、サイくん、どうして……どうしてタケルくんを殺したの?」
「……」
少し押し黙った後、サイくんは小さく息を吐いた。
「俺が牛場を殺した理由か? そんなのは明確だ。ここから早く出たかったからだよ」
当たり前のことを聞くんじゃない、と言いたげな呆れた表情で彼は答える。
「いつまで拘束されるか分からないこんな状況で、さっさとここから出たかったんだよ。ここ数日見ていたけれど、誰も動く様子はなかったからな。だから俺が動いた。それだけだ」
「早く出たかった、って……人を殺してまで出たかった理由があるの……?」
「それを聞いてどうかなるのか、猫泉」
サイくんが鼻で笑う。
「事情を話せば見逃してくれるのか? 病気の母親が待っている、とか言えば同情してくれるか?
ああ、そういえば、オレ以外に投票してくれたらここから出られるよな。
その場合、多分そいつは処刑されるだろうな。じゃないとリスクにならないし、性格の悪い運営ならそうするに決まっている。
だからあともう一人の犠牲だけでここから出られる、ってことだが、まあ俺はそれもありだと思うぞ
どうだ? 見逃すつもりはないか?」
「それは……」
「出来るわけないよー」
言いよどむ僕に代わって、ユウリくんが即座に否定の言葉を飛ばす。
「サイ以外に入れたら、その人が処刑されちゃうじゃん。その人は何も悪いことしていないのに。
それにサイは殺人をしたんだから、きちんと処刑されるべきだと思うよー。
例えば、もし意図的じゃなかったとしても、殺しちゃったのならば責任は取るべきだと思うよー」
「正論だな」
サイくんは肩を竦める。
やはり最初から本気で答えるつもりなどさらさらなかったようだ。
「もうこれ以上は時間の無駄だな。――クウギョ。もう投票に移ってくれ」
「かしこまりました」
クウギョがヒレを広げる。
「皆様、今から当事件についての犯人が誰なのか、投票をお願いします。
お手元の電子機器の投票アプリから犯人だと思われる人物を指名し、決定ボタンを押してください」
僕は自分のスマホから投票アプリを立ち上げる。
そこに書いてあったのはただ一言。
『牛場タケルを殺害した、犯人だと思われる人を選択してください』
少しだけ深呼吸してから、僕は人差し指で彼の名を押す。
数秒後。
クウギョの声と共に周囲が暗くなる。
「では結果が出ましたので表示します。投票結果は以下の通りです」
馬目サイ:11票
スクリーンに映し出されたのは全員がサイくんに投票したという結果だった。
部屋が明るくなり、サイくんの表情が見られるようになる。
彼は目を瞑り口を真一文字に結んで、この投票結果を受け入れている様子だった。
「ということで、結果、最多投票は馬目サイ様になりました。
馬目サイ様が犯人だったのかどうかについては、処刑後、お伝えいたします」
伝えなくても分かる。
サイくんはタケルくんを殺した犯人で間違いないのだ。
でもこのような流れにするということは、やはりサイくんの予想通り、間違った場合はその場で真犯人が神になる、ということではなく、間違って投票された人の処刑が挟まれる、ということだろう。
その場合、無実の人に投票し、殺したという罪悪感が残る。
……なんとも意地が悪く、ひどい運営だ。
しかしながら。
運営側はもっと醜悪だった。
「ここで主催からの指示になりますが、馬目サイ様についての情報を皆様にお伝えいたします」
「うん? 俺についての情報?」
「ええ。このまま処刑されるよりも当該情報があればより理解できるものだ、と主催者の意向になります」
嫌な予感がした。
当の本人のサイくんも同じだったのだろう、顔がみるみる険しくなる中、クウギョから言葉が紡がれる。
「馬目サイ様は物心つく前から、お母様に育てられました。
しかしながらお母様はお身体が弱く、サイ様を育てる内に無理をして病魔に蝕まれてしまいました」
「やめろ!」
サイくんが叫ぶ。
クウギョはその言葉に従わない。
「お母様の御病気は移植手術が必要なほど、悪化の一途を辿っていきました。
手術をすれば助かる。
しかしながら、手術には莫大なお金が必要でした。
母一人子一人で頼る人もいない彼らには、到底払えないほどのお金が。
その為、サイ様はお金を稼ぐ必要がありました。
ですが、正規の方法では到底稼ぐことが出来ません。
そこでサイ様は非正規のカジノでお金を稼ぎました。
元から才能がおありだったのでしょう。
サイ様はご活躍されました。
最初は自分の内臓を賭け
次第に金額が大きくなり
ついにはその界隈では名の知れた人物になりました」
そんなにも賭け事に強いサイくんが、今回の事件では数多くのミスをしていた。
それはきっと、殺人、というものであったことや、そして聞く限り、ずっと母親のことが頭にあったからであろうことが想像できる。
お金を貯めて母親に手術を受けさせたい。
だからこんな所からは一刻も早く出ていきたい。
これが、サイくんの動機だったのか。
――と。
そう思った僕の予想を裏切る言葉がクウギョから放たれた。
「サイ様は見事、目標金額を稼ぎ出し、お母様は手術を受けることが出来ました」
「え……?」
手術を受けられた?
ならばどうしてサイくんは早くここから出たがったのだろう。
母親に会いたかったから?
それも確かに理由になるとは思うが――
「――しかしながら、お母様は手術中のミスにより、命を落としてしまいました」
「やめろって言ってるだろ!」
サイくんの慟哭が円卓に響く。
僕はまだ事態を吞み込めなかった。
サイくんの母親は、既に死んでいた?
ならば早く出る、というサイくんの目的は、いったい誰の為に?
「あー、なるほど。ようやく分かったよー」
声を挟んだのは、ユウリくんだった。
「サイ、嘘ついていたんだねー」
「嘘?」
「サイはね、ここから早く出たかったわけじゃなかったんだよー」
「ど、どういうことなんですか?」
「成程。そういうことか」
分かっていない様子のヒナタくんと対象に、ジンくんは得心がいった様子だった。
「馬目サイ。君は『神』になりたかったんだな」
「……っ!」
「クウギョ、1つだけ質問がある」
「はい、なんでしょう、羊谷ジン様」
「神になった場合、『死んだ人間を蘇らせることが出来る』のか?」
死んだ人間を蘇らせる?
そんなことが出来たら、そんなのは――
「はい。可能です」
――神の所業だ。
「ただ捕捉しますと、皆様、12人の候補者の方達は不可能です。それ以外の人間程度でしたら、いくらでも蘇らせることは出来るでしょう」
「気になる言葉はあるが、そうか。予想通りだったな」
ここまで言ってもらえれば誰だって気が付く。
「サイくんは……お母さんを蘇らせたかったんだね」
「っ!」
ギリ、という歯を食いしばった音が聞こえた。
サイくんの目が憎悪に燃える。
「余計なことを言いやがって……っ!」
「余計なことかどうかは、残された皆様が考えることですよ――と、言うように主催者から言伝もいただいております」
クウギョの言葉が正しければ、サイくんの反応まで主催者は読んでいた、ということになる。
恐ろしいほど頭が切れる人物だ。
「以上が馬目サイ様の情報になります」
クウギョは「さて」とヒレ同士を合わせる。
「これから馬目サイ様の『処刑』を執り行います」
「……」
怒りの形相のままクウギョを睨みつけるサイくん。
しかしながら逃げる素振りも嫌がる素振りも見せていなかった。
受け入れているのだろう。
自分が犯した罪を。
そしてもう一つ。
先ほどのクウギョからの情報を聞いて思い当たることがある。
(サイくんは……死んでもいいと思っているんだ……)
お母さんが死んでいる。
そのお母さんの所に行くだけ。
心が、そう割り切っているのかもしれない。
それを示すかのように、サイくんは大きく息を吐きだした。
「さっさと処刑しろ。なるべく痛くない方がいいかな。
まあ、痛い方になるだろうな。
俺は、そっちに賭けるぜ」
サイくんが口の端を上げたのと同時。
座っていた椅子が、彼の身体を拘束した。
「では、処刑場へとお連れ致します」
すると、サイくんは椅子ごとその姿が一瞬で消えた。
「え!?」
消えた、というのは語弊がある。
なにか、下に落ちた、というように見えた。
それは当たっていたのだろう、隣の席のナギサくんとジンくんが、サイくんがいた場所の下を覗き込んでいる。
ここの真下はなんの部屋だっけ――と考えていると
『馬目サイ様は、特別に用意した処刑場へ移動いたしました。
場所についてはこの建物の外にあると思って下さい』
クウギョの声が放送と同じような感じで聞こえてくる。気が付くと先程までふよふよと浮いていた個体もいなくなっていた。
気が付いた途端、照明が消え、スクリーンに映像が映し出される。
映像に映っていたのは、サイくんだった。




