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19話 1章 ~円卓会議~ - 03

「おいおい、なんでそこで俺の名前が出てくるんだ?」


 犯人の可能性があると僕が名前を挙げた直後、サイくんは肩を竦めてそう言った。


「まさかあの紙の固定にダーツの矢が使われたからか? 確かに俺はダーツも大得意だが、あんなの真下に落下させれば誰だって狙い位置に刺せるはずだぞ」

「それはそうだろうね。だけど、僕が君を疑わしく思ったのはそこじゃないんだ」


 僕は質問を彼に投げる。


「サイくん、君の『能力』ってなに?」

「唐突になんだ、猫泉? 前に教えただろう」


 サイくんは親指で自分を差す。


「俺の『能力』は、相手の目線とか、手の動きとか、そういう相手の癖を読み取る要素について感覚が鋭敏になる、いわゆる『相手の癖を読み取る』ってやつだな」

「そう言ってたね」

「まさか、それで牛場が『確実に左側の入口からタケルが入ってくることを知っていた』ってさっき猪瀬が言っていたことが実現できると思ったのか? 無理だな」


 鼻で笑うサイくん。


「どっちの入口から入るなんて癖はあるわけがない。読み取るも何もないんだからな。ただのギャンブルでしかないな」

「そう、ギャンブルになるよね。普通ならば」

「で、だから俺がやりそうだってか?」

「そうじゃないよ」


 僕は首を横に振る。


「サイくん、君の『能力』って本当は『相手の癖を読み取る』じゃないんじゃないかな」


「……」


 僕の言葉にサイくんは目を丸くする。

 が、すぐに鋭く変化させ、


「へえ、どういうことか聞こうじゃないか」

「君の『能力』が違うんじゃないかって思ったのは、最初に娯楽室で会った時のことを思い出したからなんだ」

「あー、最初に会った時って、ユウリとコータ、サスケ、ヒナタ、ツバメと一緒にサイと『アレ』をやった時の話だね」

「猪瀬ユウリ。『アレ』とは何だ?」

「あのね、サイはユウリ達に『特殊なじゃんけん』をしたんだよ。グーチョキパーどれか1つをを封印して2つだけにして、5回連続あいこだったらサイの勝ち、っていうやつ」

「なんだそれは」

「さ、さあ、自分達もそれはさっぱりで……」

「で、結果はどうなったんだ?」

「サイっちの勝ちだったっすよ。5人ともに5回連続であいこで」

「2択を5回連続、しかも5人連続だったから、流石に『能力』の凄さを実感したな」

「へえ、すごいね、サイクンは」

「おい、なんでサイはそんなことしたんだ?」

「ふっ。ただの余興さ」

「あのー、その余興で、コータさんはどこが気になったんです?」


 マシロくんの問いに僕は答える。


「サイくんの『能力』は『相手の癖を読み取る』って言っていたけど、この時の特殊なじゃんけんの時、癖を読み取る段階じゃない最初から、サイくんはあいこになる手を出したんだよ」

「あー、確かに、そうっすね。俺っち達は癖を読み取るためのお試しの何かもなしに、最初からあいこの手を出されたっすね」

「1/2を5回で1/32……薄い確率だな」

「だが、有り得ない事ではないだろう?」


 サイくんは肩を竦める。


「俺はギャンブラーだ。それくらいのリスクは背負う」

「仮にそうだとしても、もう一つ、おかしいことがあったんだ」

「おかしいこと? 一体なんだ?」

「サイくん、君は最初に僕と普通のじゃんけんをしたよね」

「ああ、コータだけはやったな」


「その時、()()()()()()()の?」


 そう。

 そこが一番気になっていた。


「1/32をギャンブルで通す君が、たかだか1/3を通せないなんて、違和感を覚えていたんだ。偶然、と言い切るにはおかしいとも思った。『能力』だったら勝てたはずでしょ、って」

「……その時は『能力』を使っていなかった、って言ったら?」


 サイくんの言葉を、僕は否定する。


「だったら普通のじゃんけんをすればいいだけじゃないか。でも、わざわざ特殊なじゃんけんに変えた。そこに何か理由があると思ったんだ。そしたら、その理由について一つ思いついた」


 普通のじゃんけんと、特殊なじゃんけんの違い。


3()()()2()()


 僕は彼を指差す。


「サイくん、君の本当の『能力』は『2()()()()()()()()()』というものなんじゃないかな」


「っ!」


 サイくんの表情がピクリと動いた。


「あー、そうっぽいねー。確かにユウリ達が出す手は『2択』に絞られていたから、絶対に何を出すのかを分かっていたのかー」

「それならば、最初から出す手をあいこにする、っていうのも出来ますね」


 と、そこでケンタロウくんが首を捻る。


「んでよ、サイの『能力』がそれだったからといって、何か変わるのか?」

「重大なことだよ、ケンタロウクン」


 ナギサくんが深刻な表情で顎に手を当てる。


「この話になった議論の入口は、タケルクンがどっちの入口から来るのか、というのだったはずだよ。で、この『能力』が本当の『能力』ならば……」

「あ! 左から来るってのが分かるのか」


 その通り。

 右の入口か左の入口か。

 どちらからタケルくんが入ってくるのかが分かるのだから。


「いやいや、ちょっと待てよ」


 サイくんが、ふっ、と笑みを浮かべる。


「これは仮の話だろ? どうして俺の能力が『2択を当てる』っていうので確定しているんだ?」

「あ? 違うってのか?」

「もちろんさ。俺の技術がそう見えているってのは、少し誇らしいけれどな」


(強がっているけれど、きっとこれは嘘だ。

 ならば彼にこう問えば証明できるはず)


 僕は拳を突き出す。


「じゃあさ今、じゃんけんしようか。

 もちろん、普通のじゃんけんを。

 君は『僕の癖を読み取っている』はずだろう? 何回やっても絶対に勝てるはずだ」


「……」


 口を真一文字に結ぶサイくん。

 僕とのじゃんけんに応じる様子はない。


 円卓内に沈黙が走る。


 ――やがて。

 その沈黙を破ったのは、当の本人だった。


「……はあ、本当の『能力』を教えたくなかったんだけどな」


 サイくんはサイコロをカチャカチャと鳴らしながら言葉を吐く。


「そうだよ。俺の『能力』は『2択を当てる』だ」


「じゃ、じゃあ本当に、サイさんがタケルさんを殺したんですか……?」


「おいおい、兎沢。どうしてそうなるんだ。俺は本当の能力を隠していただけだ。能力を隠していればこの先、有利に使えるかもしれないからな」


「隠していたのはそういう意図で、タケルくんを殺していない。そう言うんだね?」

「ああ、勿論だ。俺が殺せるはずはないだろう」

「だけど君ならば場所の2択の問題は解決できるはずだ」


「――いや、ちょっと待てよ、コータ」


 そこで口を挟んできたのは、ケンタロウくんだった。


「そもそもの問題を忘れていたぜ」

「そもそもの問題?」


「サイの『能力』が『2択を必ず当てる』ってのが分かった。

 だけど――そもそも、体育館の入口は2択じゃなかっただろうが」


「2択じゃなかった? どういうこと?」

「お前ら忘れているかもしれないけれど、体育館の入口は左右と、それと正面の3つだ。

 つまりサイの能力は使えないんだよ」


 ケンタロウくんの言っていることはある意味正しい。

 確かに体育館の入口は3つだった。


 でも、


「ケンタロウくん、体育館の入口は実質2択だったんだよ」

「うぇっ!? どういうことだ?」

「体育館の入口は確かに左右と正面。だけど、正面の入口からは誰も入ろうとは思わない、あるものがあったんだ」


 そのものとは。


「ペンキだよ」

「あっ!」


 ケンタロウくんも気が付いたようだ。


「正面の入口には確かにペンキが零れていたな。しかも扉までべったりしていて乾いていなかったし、誰もあそこから入ろうとは思わねえな」


「そう。しかもその状態にした人が誰なのか、僕は知っている。

 それは――他でもないサイくんなんだ」


「そのことはボクも証明できる」


 ツバメくんが補足する。


「昨日の昼頃、サイ君が唐突に体育館の入口をペンキで塗り始めていたんだ。しかも最後はペンキを倒して零したんだ。何でそんなことをしたのか、あの時は分からなかったけれど、今考えれば『能力』を使うためだったのか……」


「あれ? そうなるとおかしくないかな?」


 ナギサくんが疑問の声を上げる。


「タケルクンが体育館にいるって話をしたのは昨日の晩御飯の時だったよね。でもサイクンがペンキで仕掛けをしたのって昨日の昼なんでしょ? 体育館の仕掛けるのってタケルクンがそこに行くからやるのであって、それが分からない中では出来ないんじゃないかな」

「それについては、多分説明できる人がいると思う」


 僕はその人物の名を呼ぶ。


「ユウリくん、君なら分かるんじゃないかな?」

「そうだねー。じゃあここは名探偵ユウリくんが説明しようじゃないかー」


 ふふんと胸を張るユウリくん。


「タケルはね、体育館で決闘することについて、事前に色んな人に相談していたんだよ。ユウリもタケルから聞いていたからね。多分サイも相談されていたんじゃないかな」

「あ、ならば体育館に仕掛けを事前に行うのも可能だね。というか……むしろそれを事前に聞いていたから実行した、のかもしれないね」


 全てが繋がってきている。

 僕達は真実に近づいている。

 そんな感覚があった。


「あのよぉ」


 そんな中、渦中の人物が声を上げる。


「さっきから黙って聞いていれば、俺が犯人である前提で話進んでいるじゃねえか」

「だって君ならば、色んな状況をクリアに出来るんだ。その『能力』を使えば確実に」

「確かに能力を使えばそうかもしれないな」


 サイくんは口端を上げる。


「だが『不確実』だったら出来るだろ、そんなのは。たまたま左側の入口から入って見つからなかっただけって可能性もあるだろう」

「っ」


 確かにその通りだ。

 タケルくんが左の入口から入ってくるというのが確実に出来るのがサイくんなのであって、犯人が賭けに出た可能性は、限りなく低いとはいえ否定できない。

 サイくんが犯人である根拠が、まだ足りない。


「ねえ、コータ」


 ユウリくんが話に割り込んできた。


「サイが犯人っぽいのは分かるんだけど、もう一つ、決定的な証拠を突き付ければいいんだよ」

「決定的な証拠?」

「例えば状況的に犯人しかありえない行動をしているとか、それを導き出す質問をすればいいんだと思うよ」

「そんなの……あるのかな……?」

「多分あると思うよ。今、ユウリが思いついた質問があるから、そこから見つけ出してね」


 一見、投げっぱなしのこの言葉。

 しかしながら、ユウリくんの『能力』は信用できる。

 僕はそう感じていた。


 だから、信じてみよう。


「分かった。ユウリくん、お願い」

「りょーかい。――ねえ、サイ、質問いいかな? この質問にきちんと答えてくれたら、サイが犯人じゃないって分かるんだけどさ」 

「なんだ? 俺が犯人じゃないって証明してもらえるなら何でもいいぞ」


「昨晩、22時以降の部屋に帰った後から体育館に来るまでのことを詳しく教えてー」


「昨晩のアリバイか。いいぞ。答えてやろう」


 サイくんは、ふっ、と余裕のある笑みを見せる。


「俺はさっきも言った通り、普通に部屋に帰ってそのまま寝た。

 翌朝、皆と同じようにあの大音量のBGMで起こされたんだ。

 ケンタロウのこの前の話だと、体育館で大音量が流れれば部屋まで聞こえる、って言っていたのを思い出してな。

 ちょっと遅れてだったが部屋を出て体育館に行って、そうしたらみんなが集まっていた、ってわけだ」


「あ、だからサイさんが、死体発見の放送前に来た中では、最後に体育館に来たんだね」

「お、そういえばオレとマシロが体育館に入った後、反対側の入口から来たのを見ているからな」

「だが最後であることにそんなに意味はないだろう。問題は、俺が犯行が出来なかった、という事実だけなんだからな」

「犯行が出来なかった? なんで?」

「だってそうだろう? さっきの議論では夜の22:00から翌朝に掛けて牛場は殺された、って話だった。

 つまり、部屋にいた人物には犯行が不可能、ってことだろう」

「あ、そういえばそうですね」

「でも、一人部屋なんだからそれを証明することは出来ないっすよね?」

「それを言ったらみんな同じことだろう。誰か一緒の部屋で寝たやつはいるのか?」

「そんなセンシティブな人いるっすかね。発情した犬くらいしかいなさそうっすけど」

「自分は普通に女の子が好きですよ!」

「段々と話が反れてきているな。まあ、要するに、だ。馬目サイ、君が言いたいのは『犯行が出来たのは朝の放送時に部屋にいなかった、夜に出歩いていた人物』ってことだろう」

「おお、医者先生は分かりやすくまとめてくれているね。そういうことになると、疑わしき人物は一人しかいないんじゃないかな」

「ああ、俺様だってのか?」

「そうだよ、龍崎。君が言ったことが全部嘘ならば全ての説明が付くんだよ。誰も君が地下への階段で眠っていたことを見た人なんていないのだから」


 確かに、サイくんの言うことは一理ある。

 サイくんが疑わしいという話になったのは、タケルくんが片方の入口からでは見えてしまうという、ある種不安定なトリックが使われたということからだ。チハヤくんが嘘をついているのならば、そもそも時間帯など前提条件も何もかも崩れる。


(もう一度考えるべきなのか……?)

 

 そんなことを思い始めた時だった。


「コータ、さっきの話でももうシンプルになったよねー。犯人は『22:00から6:00までの間に出歩いていた人物だ』って」

「確かにそうだよね。でもそれを証明できる人はほとんどいないんじゃないかな。直後に姿を見かけたユウリくんとヒナタくんは絶対に違うのは僕が証明できるけど」

「まあねー。んで言い換えれば、『22:00から6:00までの間に部屋の中にいなかった』ってことが分かれば、一気に犯人である可能性が高くなるよねー」

「まあ、そうだけど……」

「そこで発想の転換だよ」


 ユウリくんは人差し指を立てる。


「『22:00から6:00までの間に部屋の中にいたら()()()()()()』ってのが何かあったりしないかなー」

「部屋の中にいたらこうなるはず……?」


 その視点で自分の頭の中を整理する。

 もし部屋にいたならば、就寝の放送も、起床の放送も聞こえているはず。

 今回はその起床の放送と同時に、大音量のBGMが流れ出した。

 それでみんな起きたはずだ。


 起きた……はず……?


(あれ? ちょっと待って)


 僕は矛盾点に気が付いた。

 すぐさまその矛盾点を確かめるべく、ある人達に質問を投げる。


「ねえ、ナギサくん、ジンくん、サスケくん、ツバメくん」


 4人に僕はとある質問を投げる。


「君達4人はクウギョの放送を受けて体育館に来たと思うんだけど、そもそもどうしてそれまで体育館に来なかったのかな?」

「何で来なかったのか、って言われても……特に行く用事がなかったっすからね」


 サスケくんが頭を掻きながらそう言うと、ツバメくんも首を縦に動かす。


「だな。普通と同じように7:00の朝食の時間までは部屋でゆったりしていたからな」

「私も同じだな。特段理由がなかったからだ」

「おれもだよ。むしろおれは普通に二度寝しようかなって思ってたよ」


 その4人の言葉に、他の人が目を丸くする。


「え? そんなことあるんか?」

「というかあの状況で二度寝しようと思えるナギサさんすごくない?」

「あー、ナギサは割とそういうところあるかもしれないな。近所が工事でうるさい時でも夜更かししていたら普通に寝ていたし」

「いやいや、そういうレベルじゃなかったですよね!?」


 その反応を見て、先の4人は不可思議な顔をする。


 そう、これだ。

 当初から矛盾を感じていたことだ。


 僕はその事実を突きつける。


「もしかして君たちは朝、()()()()()()B()G()M()()()()()()()()()()()()()んじゃないのかな?」


「え!?」


 体育館に来なかった組以外の人達が驚きの声を上げる。


「やはりそうか」


 ジンくんがモノクルを上げる。


「時折出ていた『クソデカBGM』っていうのが何のことか分からなかったからな」

「実は俺っちもそうっす。議論の本筋から外れると良くないからって思って言わなかったっすけど」

「でも、なんでおれ達だけは聞こえなかったんだろうね」

「耳がいい、とかそういうことではないだろうな。一体何故だ」


 4人と他の人の違い。

 それはたった一つだけだ。


「部屋の配置だよ」


 僕は答えを突き付ける。


「仮に体育館の舞台の方向を、『上』、とした時に、4人の部屋は3階の配置で『下』に当たるんだ」


「あっ!」


 みんなが気が付く。

 マシロくんとチハヤくんの間、ツバメくんとヒナタくんの間で線を引くと、ちょうど先ほどの4人は全て下方向の部屋になる。


「きっと体育館の舞台の音漏れは、配管とか排気口を経由してなっちゃってるんじゃないかな。だから近い方の部屋の人にはかなり鳴ってしまう、逆に反対側の人は別のものなんだよ」

「詳しい原理は分からずとも、この違いは一理あるな」


 ツバメくんのその頷きと共に、他の人も納得した様子を見せる。

 そこに僕は一石を投じる。


「そうなると、おかしいことが分かるよね」

「おかしいこと?」

「部屋が下半分なのに、体育館に来ている人がいるんだよ」


 大音量のBGMを聞くことが出来ないはずなのにいる人物。


「一人はチハヤくんだね。でもチハヤくんは自分で言っていたように、地下へと向かう階段にいたから、聞こえていてもおかしくはない位置だよね」


 実際、体育館に向かう途中の地下へ向かう階段あたりではBGMは同じくらいの音量で聞こえていた。


「だけど、体育館に来ていた人はもう一人いたんだ」


 チハヤくん以外にもう一人。


「その人は夜の間、部屋の中にいた、と証言していた。でもその部屋はあの大音量のBGMが決して聞こえることのない場所だったんだ。

 でも、そんな事実を知りようもないよね。だって君は鳴り始めたその時、体育館にいたのだから。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()


 僕はその人物に視線を向ける。



「そうだよね。――馬目サイくん」



 サイくんは口を真一文字に結んだまま僕を真っすぐに見返してきた。

 即座に反論する様子はなかった。


「あ、たまたま体育館に向かった、ってのはなしだよ、サイ~。さっきはっきりと『部屋で聞いた』って言っていたし」


 ユウリくんがすかさず言い訳を潰す。


 全員の視線がサイくんに向けられる。


「……はあ」


 やがて彼は意を決したように口を開く。


「こうやって疑われるから話したくなかったんだよなあ。昨日部屋にいなかったってのが嘘なのが分かると」

「認めるんだね、部屋にいなかったことを」

「そうだ。俺は昨日部屋にはいなかった。それは確かだ」

「じゃあやっぱり君が犯人だっていうのも認めるんだね」


「いいや。それは違うな」


 ここまできて否定するのか。


「いい加減にしろよ。どう考えても状況的にお前が犯人だろ」

「虎賀。俺はさっきも言った通り夜に部屋で寝ていなかっただけだ。それすなわち犯人であるという繋がりではない」

「じゃあどこにいたんだよ」

「適当にそこら辺をぶらついてたのさ。プールだったり中庭だったり娯楽室だったりをな」

「はぁ? 適当なことを言いやがって」

「適当じゃないさ。本当のことだからな」


 堂々とした様子のサイくん。

 その態度だけ見れば真実を語っているように見える。


「当然、部屋の外にいたんだからあのBGMが聞こえてもおかしくないだろう。どこにいた時点で聞いたかはすっかり忘れちゃったけどな」

「んな言い訳が通じると思うのか?」

「通じるさ。だってここには容疑者は2人いるんだからな」


 サイくんは人差し指をとある人物に向ける。


「龍崎。お前が犯人だ」

「はぁ!? いきなりなんだよ」

「さっき話しただろう。俺は夜に部屋の外にいた。

 その事実を知られたくなかったから黙っていたが、俺は知っているんだ。

 ――地下への階段のところに君はいなかったことを」


 その言葉を聞いたチハヤくんは一瞬呆けた表情になると、


「嘘ついているんじゃねえよ!」

「嘘じゃない。本当だ。龍崎はそこにいなかった。だから全部の証言が嘘なんだ」

「こいつ……っ!」


 今にも殴り掛かりそうな様子のチハヤくん。

 だがどうにか抑えているようだ。


 それはきっと、肌で感じているからだろう。

 どう見てもこれは、サイくんの最後のあがきだと。


「ねえねえ、みんなー」


 そこでユウリくんが声を上げる。


「ちょっと思ったんだけどさー、そもそも、あのクソデカBGMって何で掛かったのかなー?」

「何でって……」


 そういえば何でなんだろうか。

 あのBGMを掛ける理由が何かしらあったということだ。

 しかも6時ちょうどに掛ける理由が。


 ぱっと思いつく理由は1つだ。


「もしかして……みんなを呼び寄せるためじゃないかな」

「呼び寄せる? どういうことなんです?」


 ヒナタくんの問いに対し説明をする。


「多分だけど、犯人は夜中にすべての作業を終えた後、6時より後に部屋にしれっと戻るつもりだったんじゃないかな。その方が誰が犯人か判らなくなるし。

 でもそうはならなかったんだよ。

 ――地下と1階を結ぶ階段の所に、チハヤくんがいたから」


「お、俺様がいたから?」


「そうだよ。君がいたから、犯人は一晩中地下にいるしかなかったんだ。

 横を通り過ぎる時に君が起きてしまったら犯人だと一発でバレてしまうからね。

 でもチハヤくんがいつ起きるかも分からない中、朝7時に食堂にみんな集まったら、3人いないことが分かっちゃうからね」

「チハヤっち、タケルっち、そして犯人っすね」

「そうだよ、サスケくん。だから犯人は大音量のBGMを使って呼び寄せたんだよ。

 みんなが部屋から出られるようになる6時の放送に合わせて。

 あたかも自分も朝起きて体育館に来た、と装うために」


「そっかー。確かにそうだねー。ユウリもそう思うよ」


 ユウリくんはニコニコとしながら「でもさ」と続ける。


「そうだったら、チハヤは大音量BGMを掛ける理由も、メリットもないよねー。体育館に最初に来たのが分かっちゃうし、そもそも地下への階段の所で寝てたって言わなくてもいいし、集めずにしれっと食堂にいればいいんだからねー」


 つまりこの行動は犯人にとってメリットがある行動だということだ。


「犯人はみんなを呼び寄せる為にBGMを鳴らした後、倉庫にでも隠れたんだろう。

 多分、これも『能力』を使って、どちらの扉からチハヤくんが入ってくるかも判っていたんだろうね」


 もし右側だったら電気室にでもいたんだろう。

 倉庫にせよ電気室にせよ、どちらであっても、あのBGMが鳴り響いている間にその部屋に入ろうとする人はいないだろう。


「そうだよね、サイくん?」

「……」


 ガリッ、と鈍い音が鳴った。

 どうやらサイくんの手のひらにあったサイコロが削れた音のようだ。


「……証拠は?」


 キッ、と僕を睨みつけてくる。


「俺がやった証拠なんてないだろう! いくら状況証拠だけ積み上げても、俺が犯人だという証拠なんてどこにもないんだからな!

 俺が誰かに地下室に行ったのを目撃されたのか!

 俺が牛場を殺したのを見たやつがいるのか!

 体育館に入った時に俺の足跡があったりしたのか!

 犯行に使われたモノが俺のものだって証拠はあるのか!

 それがないとただの机上の空論だ!」


 怒鳴り声を撒き散らすサイくん。

 しかし反面、僕は落ち着いて考えをまとめていた。


 証拠。

 それは――


「もしかしたら、あるかもしれないよ」

「あ?」

「犯行に使われたモノがサイくんのものだっていう証拠が、もしかしたらあるかもしれないよ」

「そんなもんあるわけないだろう! だったら出してみろよ! なんなんだよ!」

「その証拠は……」


 僕は証拠を持っている人物に声を投げる。


「ジンくんが今持っている、あのメモが書かれた紙だよ」


「あの紙が……?」

「これのことか」


 ジンくんがひらひらと紙を手に持つ。


「このメモが書かれた紙なんだけど、端の方とか所々破れているんだ。何でだと思う?」

「それは……っ!」

「私が代わりに答えようか」


 言葉に詰まるサイくんに代わり、ジンくんが答える。


「これは牛場タケルが握りしめていたメモだ。破れているということは、犯人はこのメモをどうにかして牛場タケルから取ろうとしたのだろう。しかし、死後硬直かその前に怪力で握りしめていたのか、この紙は取ろうとしても取れなかった。だからこれはその際に生じた、引きちぎってしまった痕跡に違いないな」


 僕は頷く。


「同じく持っていただろうダーツの矢は、きっと後頭部に衝撃を受けた際に落としたのか、それとも強く握りしめて破裂したのか、いずれにしろ手には残らなかったみたいだけどね。でも、紙はいくら握りしめても割れることはない。故に握りしめられた状態で残ったんだよ」


 でも、と前置いて僕は続ける。


「どうしてそこまでこの手紙を回収したかったのか。

 これはあくまで推測になるんだけど、犯人は相当用心深いんじゃないかと思うんだ」

「え? なんでそう思ったの、コータクン」

「犯行に使ったものの回収を丁寧に行っていることや、スポットライトを元の場所に戻すことだったり、手掛かりになりそうなことをなるべく少なくさせようとしたりしている様子が伺えるからだよ。そんな犯人が手掛かりとして残してしまったそのメモに、きっと残っているはずさ。

 犯人である証拠が」


 それは――



()()だよ」



「指紋!?」

「犯人は自分の指紋が残ってしまうことを懸念していたんだ。

 この建物内でそれが検出できるかどうかはさておき、可能性を潰すためにね」

「あ、そう考えるともう一つ謎が解けるっすね」


 そう言ったのはサスケくんだった。


「もう一つの謎って?」

「俺っち、ちょっと疑問に思って居たっすよ。タケルっちの首にロープが巻いてあったことについて。あれは舞台上に引き上げるためだって言っていて、ちょびっとだけ首吊りだと捜査かく乱するためだと思っていたっすけど、そんなことしなくても持ち上げられるじゃないっすか、サイっちだったら」


 確かに、サイくんも大柄だから出来る可能性は高い。


「でもロープを使ったってことは、他の人の犯行に見せかけるため、プラス、自分の指紋を衣服に付着させないため、だったんすね」


 成程。

 そういうことか。


「死体に触れて指紋を残さないようにしたからこそ、偽装でも首吊り死体にはできなかった、ってことだね、サスケくん」

「それもあると思うっす!」

「あのー、それだったらさ、そんな中で舞台の上まで死体を持ってきた理由も分かっちゃったかもしれない」


 ナギサくんがそっと手を上げる。


「舞台の方まで血の跡を付けていけば、みんなそっちに意識が集中するでしょ。だから入口からみんなを遠く離れさせることが出来て、一番最後に入ったことをバレないようにしたんじゃないかな、って思う」

「確かにそうかもしれないね。本来は最後に入ったことなんて有耶無耶になるはずだったのに、ヒナタくんが左の入口の所に蹲っていたから、その効果が薄れちゃったのかもしれないね」

「じ、自分ですか!?」


 結果的に意識の分散が他にも向いちゃったことから、ケンタロウくんとマシロくんに、最後に入ったことを認識させてしまったのだ。


「そうやって入念に準備した犯人がどうしても回収できなかったもの、それがこれだというのか」


 ジンくんがひらひらと紙を揺らす。


「この紙は握りしめていた牛場タケルの他には、私と猫泉コータ、虎賀ケンタロウしか触れていない。しかしながら、もし他の人の指紋があったら、それは犯人のものであると言わざるを得ないな」


「……は、はは」


 絞り出したような口だけの笑い声を出す、サイくん。

 

「そんなハッタリ、効くと思っているのか?」

「ハッタリ?」

「だってそうだろう! こんな場所で指紋が取れるわけないじゃないか。そんな道具があるはずもない。普通に指紋採取セットなんて百貨店とかで売っているのを見たことがあるか? コンビニで売っているのか? そんな特殊なものがあるわけが」


「あるよ」


 はっきりと。

 そう言ったのは、ナギサくんだった。


「地下の倉庫に、指紋採取セットがあるのは確認済みだよ」

「え……?」

「サイクンが言っていた通り、珍しいものだからね。印象に残っているよ。なんならほら」


 そう言って彼は自分のポケットから取り出す。


「ここに持ってきているよ」


「嘘だ……そんなものがあるはずが……」

「むしろ殺し合いを推奨しているこの建物だからこそ、そういう道具があったのかもねー」


 ユウリくんの追い打ちにサイくんの目が見開かれる。


 もはや逃げ道はない。

 そう悟ったかのように。


「ねえ、サイくん。もし君が犯人じゃないというのならば、君の指紋を取らせてもらえないかな」


「……っ!」


 ギリ、と歯を食いしばる音が聞こえた。

 声に出さずに行った行動こそが、もはや肯定を示していた。


「出来ない、というのならば間違いないんだね」


 僕は判定役として、きちんと告げる。



「牛場タケルくんを殺した犯人は君だ。――馬目サイくん」





「……ふっ」


 サイくんの口から息が漏れた。


「あーあ。俺はいつだってそうだ。やってから色々と間違いに気が付く。あとから取り繕おうとしても、どうにもならないな。……いや、それよりも」


 手に持ったサイコロを床に落として、彼は天を見上げた。




「運が悪かったな」


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