18話 1章 ~円卓会議~ - 02
龍崎チハヤ。
彼はこの円卓会議が始まってから一度も発言していない。
「そうだ。龍崎チハヤ、君は一度も口を開いていない。それは何故かな? もしかして、ボロを出さないように口を閉じていたのではないか?」
「……」
ジンくんから指摘されたチハヤくんは、はぁ、と大きくため息を吐いた。
「喋っていないからどうだってんだ。単純に口を挟む必要がなかっただけだろうが」
「そうとは思えないけどなー」
「あ?」
「チハヤ、なんか隠しているでしょー?」
「……チッ。なんもねえよ」
(本当か?)
ユウリくんが指摘したのもあるが、チハヤくんが何かを隠しているのは僕も感じている所であった。
議論を進めるためにもそのことについて話してもらいたいが、彼の性格から素直に言いそうにもない。
ならば別角度から進めて、彼から説明せざるを得ない状況にするしかない。
(『判定役』として、やるしかない、か)
「そういえばチハヤくん、君は一番最初に体育館に来ていたよね?」
「あ、確かにー。チハヤ、滅茶苦茶早かったねー」
このユウリくんの言葉で複数人に確認されていることを自覚したのか、チハヤくんは頭を掻きながら肯定する。
「ああ、そうだよ。俺様が最初に体育館に来て、んでタケルの死体を見つけたんだよ」
「それって何時頃の話?」
「知らねえよ。時計なんかねえんだからよ」
「時刻と言えばツバメっちっすね! ツバメっちが体育館に来たのは何時頃っすか?」
「いや、ボクが体育館に行ったのはクウギョの放送の後でみんなより大分後だからな。参考にならないと思うぞ。一応言っておくが、6時14分だったな」
「そういえばヒナタさんもそうですが、サスケさん、ジンさん、ナギサさんはクウギョの放送の後に来ましたね」
「順番ってどんな感じだっけー、コータ」
「僕とユウリくん、ヒナタくんが一緒に体育館に来て、既に入っているチハヤくんを見たよ」
「その後にぼくとケンタロウさんだよね」
「おう。2階の視界の端にさっきの3人が階段降りるのが見えたからな。そこで付いて行ったわけだよ。ん? マシロ、お前後ろ付いてきてたんか?」
「そうだよ! 声もかけてたじゃないか!」
「あんときゃバカでかい音が鳴ってたからな。聞こえなかったぜ」
「兎沢の後は俺だな」
「あ、そうだよね。反対側……ぼくが体育館に入ったのはあの血だまりがあった左側だったから、右側からサイさんが入ってきたのは見えたよ」
「じゃあ正確にはほぼ同時、ってことだな。訂正しよう」
「おい、順番なんかどうでもいいだろうが。俺様が最初にいた。ただそれだけだ」
「確かに、部屋の配置からもチハヤがあの地下に直通の階段にも近い方だし、自分の部屋を出て一番最初に体育館にいたことには特に違和感はないか」
「ちょっと待って、ケンタロウくん」
僕は彼の言葉にあった事実と異なる点を指摘する。
「チハヤくんはあのBGMが鳴った時に部屋にいなかったんだよ」
「うぇ!? そうなのか?」
「だよね、チハヤくん?」
「ああ、そうだよ。……まあ別に隠すことじゃねえけどよ」
チハヤくんはあっさりと肯定した。
「ならチハヤ、あのクソデカBGMが鳴った時にどこにいたんだ?」
「あん時は、地下へ行く階段のとこだな」
「地下への階段!? なんでそんなところに……」
「それは本当なのか?」
ジンくんが厳しい顔になる
「猫泉コータ、質問するが、そのBGMが鳴り始めたのはいつだ?」
「えっとそれは……朝6時のアナウンスと同時だね」
「ということはつまり、龍崎チハヤ、君は昨日の夜、部屋に戻っていない、ということだな?」
「え? そうなんすか?」
「そうだけど、それがなんだってんだ」
チハヤくんが不服そうな声を放つと、ジンくんがモノクルを上げる。
「牛場タケルの死亡推定時刻だが、おおよそ夜中であるというのが私の見立てだ」
「あー、なんかあの時言ってたな」
「ちょっと待ってくれっす。ということは、夜10時以降が濃厚ってことっすか?」
「そういうことになる。少なくとも私はその可能性が高いと思っている」
「あ? それの何が問題なんだよ?」
「大問題だ、なあ猫泉コータ?」
「え?」
なんでジンくんは何で僕に振るのか。
(……これも、判定役だから、か)
僕は意を決して答える。
「ジンくんの検死結果とチハヤくんの話を合わせると、タケルくんが殺されたのは夜10時から朝6時までの間、ってことになるね」
「だから何が問題なんだよ」
「この時間、寝室の扉はロックされて開かないんだよ」
「あ」
チハヤくんもようやく気が付いたようだ。
「あの夜、寝室で就寝しなかった人が必然的に犯人になるんだ」
そうなると、あのBGMと共にすぐに飛び出て来たユウリくんとヒナタくんの2人は確実に犯人ではない。
「ちょっと待てよ!」
チハヤくんが怒声を上げる。
「10時以降にタケルが殺された、ってのはジンが言ったことだろ! それを信用するのかよ?」
「ああ、確かに一理あるな」
ジンくんが顎に手を当てる。
「では、牛場タケルがいつまで生きていたのか、証言してもらおうか、龍崎チハヤ」
「っ!」
ギッとジンくんを睨みつけるチハヤくん。
「……なんで俺様に聞くんだよ?」
「他のやつでもいいぞ。そうだ、馬目サイ、君は最後に牛場タケルを見たのはいつだった?」
「俺が見たのは晩の食事の時だな。ほとんどみんなそうじゃないのか?」
「ぼ、ぼくもそうだよ。タケルさんの方が食事を先に終えたからそれ以降は見ていないよ」
「そういえばあの時、タケル君は確か21:00には体育館に行くって言ってたな」
「あ、ちょっとそこは気になるっすね。どうやってタケルっちは21:00だって分かったんだろう。ツバメくんじゃあるまいし」
「あ、それは自分が理由を知っていますよ。21:00ちょっと前くらいに食堂に行ったら、まだそこにタケルさんはいましたから」
「成程。タケルクンは時間を確かめるために食堂に残っていた、ということなんだね」
「ってことは、タケルは21:00までには生きていた、ってことだな」
「その後に牛場タケルと会った人は、というよりも体育館に行った人間はいるか、って聞いた方が正しいな」
「そうだよねー。タケルは決闘する為に体育館に行ったんだもんね。じゃあ21:00以降のみんな何していたのー? まずはコータから」
「え? 僕は普通に部屋で寝ていたよ」
「俺も猫泉と同じで部屋で過ごしていたな」
「おれもだよ」
「自分はタケルさんを見かけた後は部屋にいました」
「俺っちは娯楽室にいて、その後は22:00の施錠までにみんなと同じく部屋に戻ったっす。あ、でも体育館には行っていないっすよ」
「オレは美術室にいたは。その後は部屋に戻ったけど、部屋に鍵が掛かる時間には間に合ってるぜ」
「おれはずっと部屋にいたよ。特に何もしていない」
「ぼ、ぼくも」
「私は医務室にいたな。誰も来なかったぞ」
「俺様は誰とも会っていないからな。だからお前らの証言は合っていると思うぞ」
「コータ、今までの証言でちょっと引っかかる所、ないかなー?」
引っかかる所。
細かい点だけど1つだけあった。
「ねえ、チハヤくん」
「なんだよ」
「君は『誰とも会っていない』って言ってたけど、1人だけ、21:00以降で会っている人がいるよね?」
その人物とは
「君はタケルくんと会っているはずだ」
「そうなのー、チハヤ?」
「……」
チハヤくんは口を閉ざしたままだ。
僕は追求しようと口を再び開いた、その時だった。
「チハヤクン、このまま黙っていても何もならないよ」
「ナギサ……っ!」
「君が何で黙っている、というか言いたくないのか、っていうのはおれなら分かるけれど、でもきちんと口に出さないと、犯人ってことになっちゃうよ」
「……っ」
チハヤくんは大きく深呼吸をする。
そして腰に手を当てて首を2度振ると、絞り出すように声を放った。
「……分かったよ。言えばいいんだろ」
「じゃあチハヤくん。あの夜、何があったのか、教えてくれないか」
僕が促すと、チハヤくんは不服そうな表情のまま説明を始めた。
「あの夜、何時かは覚えていねえが、俺様は体育館に向かった。その時にはまだタケルは生きていたぜ」
「体育館にタケルさんがいた、ということは、チハヤさんが行ったのは21:00以降ってことですよね」
「体育館で何をしたっすか?」
「体育館で男2人きり、それは決まっているよなあ」
「相撲だな。牛場と龍崎だったら五分っぽいな」
「タケル君の『能力』は怪力だったからタケル君が勝つとは思うけれど……というか、そもそも相撲なわけないだろう」
「で、でも体育館に行ったってことは、チハヤさん……」
「そうだな。牛場タケルを殺すために行った、以外はないな」
「普通だったらそうだ、と思うんだけどさ、でもチハヤクンは多分違うと思うよ、ね? チハヤクン」
「……信じられねえと思うけれど、俺様はタケルとどっちが強いかを試しにケンカしにいったんだ」
「ケンカ!? なんでそんなことを……」
「見るからに強そうなあいつがやる気になってたんだよ。じゃあ手合わせしようじゃねえか、って思って行ったんだよ」
「そんなバカな……」
「到底信じられないな。それで勢い余って殺したんじゃないのか? 体育館にいた牛場タケルを、背後から、ガツン、って」
「ちげえよ! 俺様はあいつと正々堂々と戦った。後ろからなんかやってねえよ!」
「それを証明できる人はいないんすか?」
「タイマンだったからいねえよ……」
「じゃあ決まりじゃねえか。タケルを殺した犯人は、チハヤだって」
「うーん、チハヤがタケルを背後から襲った。それって本当にそうなのかなー」
「いや、それは違うと思うよ」
僕には思い当たることがあった。
「ジンくん」
「なんだ、猫泉コータ?」
「タケルくんの遺体について教えてほしいんだけど、確か、腕や足にアザがあったよね?」
「ああ。確かに多少のアザがあったな。舞台上に引きずられた時についた跡ではなさそうだったから何だろうとは思っていたが」
「多分それ、タケルくんとチハヤくんがケンカした際についたアザだったんじゃないかな」
「タケルが手と足しかアザがついてねえ、ってんなら、それは俺様とのケンカで間違いないだろうよ」
チハヤくんが首を縦に動かす。
「あいつは俺様の殴りも蹴りも、全部ガードしてたからな。すげえやつだったよ」
「ってことはさー」
ユウリくんが無邪気な声で告げる。
「チハヤ―、ケンカ負けたんだ」
「っ!」
「チハヤクン、抑えて!」
激高しそうになっていたチハヤくんを、ナギサくんが即座に言葉で抑制する。
「あのさ、チハヤクン。これが言いたくなかった理由、でしょ?」
「……ああ、そうだよ」
テーブルに肘を置いて、チハヤくんは吐き捨てるように言った。
「俺様はあいつにケンカで負けたんだよ。『怪力』の能力があるなんて知らなかったが、そうじゃなくても体術で普通に負けた。完敗だった。くそっ!」
「なあ、本当なのか?」
ケンタロウくんが疑問の声を上げる。
「殺人者になるより、負けた、って言った方が殺されずに済むからそう言ってるだけじゃないか? なんか怪我しているようにも見えるし」
「け、ケガはしているよ! チハヤさんは!」
マシロくんが勢いよく手を上げる。
「だからそれは真実だと思うよ!」
「マシロくんの言う通りなのはおれが保証する。チハヤクンの治療をしたのはおれだからね」
ナギサくんも声を上げる。
「チハヤクンは腹部に酷い傷を負ってるよ。多分骨が折れていると思う。だからジンクン、あとでちゃんと診てあげてほしい」
「了解した。しかし、そんな大きな傷を負っていたとはな。これは信じられないが『ケンカをした』というのは真実かもしれないな」
ジンくんが顎に手を当てて唸る。
その横からサスケくんが、はいはーい、と手を上げる。
「しっかし、『殺人者は来い』ってタケルっちは言っていたのにも関わらず、どうして体育館に向かったんすか、チハヤっち?」
「さっきも言ったが、俺様はあいつと手合わせしたかっただけだからな。それ以前も言っていたがずっと断れてできなかったし、それに俺様はあいつを殺すつもりなんかねーんだから、殺人者になりようがないだろ。だから構わず行ったんだ」
「あー、もしかしたらタケルさんもそれを分かっていたのかもしれませんね。だからチハヤさんを殺さずにケガだけ済ませた」
「そうだな。その可能性が高いな」
ヒナタくんとツバメくんがそう納得した様子を見せているが、僕は事前にユウリくんから聞いていたから、それは違うことが分かっていた。
タケルくんは誰が相手でも殺すつもりはなく、抑止力になるつもりだった。
でもきっと、チハヤくんとの戦いはある種楽しかったのかもしれない。相手が殺すつもりじゃなかった、正々堂々とした勝負だったのだから。
……なんて、タケルくんのその時の思いなんか想像でしかないのだけれど。
今はそのタケルくんを殺した犯人を見つける円卓会議だ。
チハヤくんの証言の深堀をして、議論を進めよう。
「チハヤくん、言いにくいとは思うけれど、タケルくんとのケンカが終わった後のことを教えてくれないかな」
「ああ、いいぜ。ここまで喋ったんだから何も隠すもんなんかねえよ」
チハヤくんはある種吹っ切れた表情で答えた。
「タケルと殴り合いのケンカをした直後、情けないことに歩けもしなかった。で、保健室に向かおうとした時に、これまた情けないことだがタケルのやろーが無理やり肩を貸してきやがって、結局地下への階段のところまで行ったんだ」
「地下の階段のところまで? タケルさんがそこまでしか連れて行かない、とはぼくには思えないんだけど……」
「俺様が暴れたからだな。誰かに見られるのが嫌で、ここまででいい、ってな。それに根負けしたタケルはそこに俺様は置いて行ったんだ」
「根負けー? じゃあこれでチハヤはタケルに1勝1敗だねー」
「こんなんどっちも負けに決まっているだろうがよ。なめてんのか。……まあいい。で、そこから移動しようと思ったがやっぱ直後は腹が痛すぎて結局動けなかった。じゃあその場で回復してから行こう、って決めたその時に、クウギョからの放送があったんだよ」
「その頃の放送っていうと、22:00の就寝の放送だな」
「ああ。いつもの寝る時の放送だな、って認識した途端、猛烈な眠気が襲ってきてな。俺様は地下へ向かう階段の所で眠っちまったんだよ」
「で、そこからあの朝のクソデカBGMで起きるまで、そこにいた、ってのか?」
「そういうことだな。あ、因みにその間に俺様の横を通ったやつはいねえよ」
「寝ていたのにそう言い切れるっすか?」
「こんな殺し合いが起きそうな状況で気を張れずに寝れるわけねえだろ」
「そ、それは凄いですね……」
「しかし、これが本当の話だとすると、結構な事実が浮かんでくるな」
ツバメくんの言っていること、それって……
「タケルくんを殺した犯人は、自分の部屋で寝ていない、ってことだよね」
「うーん、それだけかなー」
ユウリくんが人差し指を自分の顎に当てる。
「今のチハヤの言葉を信じるならば、他にもある気がするなー」
「他にも?」
それって……
「もしかして、チハヤくんよりも前から、ずっと犯人は地下にいた、ってことかな」
「あー、それだー。すっきりしたー」
能力で引っかかった点に気が付いただけか。
それはともかく。
「チハヤくんの話から分かったのは、犯人はチハヤくんより前に地下にいた。もしかすると体育館に潜んでいたのかもしれないね。そして、朝が来るまでずっと地下にいた、ってことだね」
「となると、朝に合流していたユウリとコータとヒナタは犯人じゃないよねー」
「そ、そうです! ずっと地下にいたならあのタイミングで出会えるはずがないですもんね」
「お、だったらオレとマシロもそうだな」
「そ、そうだよね。ぼく達もあの時一緒でしたもんね」
「だとすると残ったのは――」
「その推理、『当たって』ないぞ」
そう言葉を挟んできたのは、サイくんだった。
「残る容疑者に俺がいるから言うわけではないが、前提条件がそもそもおかしくないか?」
「前提条件?」
「龍崎チハヤの言っていることが本当だ、という前提だよ」
「ああ!? 俺様は嘘なんか言ってねえぞ!」
「だったら最初からそう説明すればいいのに、無駄に濁していただろう。それは後ろめたいことがあったからじゃないのか」
「っ! それは……」
「単純に負けたことを言いたくなかった、ってだけで有用な情報を隠していたんだ。そんなことを信じられるほど俺は龍崎を関係性を築いていない。そもそも寝ていたのに誰も通っていないって言いきれるはずがないのに、すっかりと信じ込んでいるじゃないか」
「それは……確かに、確証はない、けれど」
「ならば疑ってかかるべきだ。龍崎が嘘をついている可能性だってあるのだから。地下の階段の所で寝ていたっていうところも、なんなら牛場と正々堂々と戦ったっていうのも、な。体育館の入口からあらかじめ持ち出していたスポットライトで後ろからガツン、とやったんだろう」
「それは違うんじゃないかな」
サイくんの言葉に矛盾を感じ取った僕はそれを指摘する。
「スポットライトで後ろからガツン、って言ったけど、それはあり得ないんじゃないかな」
「なんでだ、猫泉?」
「体育館の入口って隠れる場所がないんだよ。来た人と戦う、って言っていたタケルくんが、そんなところに背中を向けてタケルくんが立っていたとは思えないよ」
「だったら気を抜いたとかで背中を向けたんじゃないのか」
「だとしても、あれだけ大きなスポットライトを持ち出しているんだよ。そんなものを持っていて警戒しない理由がないよ」
「ふむ、確かにそうだな。後ろから、ガツン、というのは違ったようだな」
「そうだよ。だから」
「だからといって、龍崎への疑いが晴れたわけではない。方法が異なっただけではないか」
「方法が異なる?」
「そうだ。当初の推測通り、龍崎は体育館の上部から下部にスポットライトを落として牛場を殺したのだ。正々堂々と戦ってなどいないのだ」
「それも違うと思うよ」
その証拠は存在している。
「だって、チハヤくんもタケルくんもアザがあるじゃないか。2人が戦っていなければそんなアザなんてないし、むしろチハヤくんは大けがをしているんだから、落とした後のスポットライトを元に戻すことすら難しかったと思うよ」
「その意見に捕捉させてもらおうか」
手を上げて来たのはジンくんだった。
「そのような跡に後から見せつけた、という反論があるようだが、少なくとも牛場にあったアザは生前についたものだと思われる。ついでに牛場は恐らくは即死だ。出血量等も含めて動き回った可能性は否定できる」
「ほう。じゃあ少なくとも龍崎と牛場は戦ったのは間違いない、ということか。成程な」
サイくんがそう言うと、「だから言ったじゃねえかよ!」とチハヤくんが怒声を放った。
「俺様を犯人扱いしやがって! てめえが犯人じゃねえのか!?」
「おいおい、短絡的にそう言うのはよろしくないねえ。それにこれは円卓会議だ。誰かを疑ってかからないといけないのだから、いちいちそんなことに腹を立てるのはよろしくないぞ、龍崎」
そうだ。
サイくんの言う通り、これは誰がタケルくんを殺したのかを議論する場だ。
疑い疑われ、意見を出し合う場だ。
「あ、そういえば、さっき話していたことを聞いていて1つ気になったことがあったんだけど」
手を上げたのはツバメくんだった。
「先ほど、コータ君も言っていたが、タケル君は誰かが殺しに来ることについて警戒心を持っていたはずだ。そうなると、体育館の上部からスポットライトを落とす、ということに対しても何かしら警戒していたのではないか、って思うのだが、犯人はどうやってその警戒心を超えてタケル君の頭にスポットライトを当てたのだろうか?」
「もしかしたら上が見えない状態だったとか」
「それってどういう状況だよ」
「例えば真っ暗だった、とか」
「それはねえ。体育館はきちんと明かりがついていた。少なくとも俺様が証明できる」
「照明だけに、っすね」
「何言っているんですかこのバカ猿は」
「じゃあ龍崎チハヤを階段まで運んだ後に電気が消えていたらどうだ?」
「そうしたら入り口にあるスイッチで電気付けるだけじゃないかな。おれは電気系統全部見ているから位置は把握しているよ」
「当然、真っ暗のままにするわけがないからねー」
「それに、真っ暗なままだと犯人側もタケルさんの位置が分からないんじゃないかな」
「それだった蛍光塗料とか付ければ分かるんじゃね? タケルの服につけていたりとか」
「どのタイミングでそれを付けられるのか、まずはそれ自体が難しいのではないか、虎賀」
「うーん……だったらやっぱり明るかった、ってことか」
「だとしたら、上に警戒を向けないようにする方法を取ったってことになるっすね」
「ってことは、単純に下を向いていた、ってことですかね」
「俯きながら歩いていた? 牛場はそれとは正反対の人物に見えたが」
「ならばタケルさんもチハヤさんとの戦いでダメージを受けていて腹部にダメージを受けていた、っていうのはどう? これだったら前かがみになるし」
「いや、それはねえな。悔しいがあいつにほとんど攻撃は防がれたからな」
「だったら何か落ちていたのを拾った、とかかなあ。チハヤクンとの戦いで何か落としていたのかも」
「それだよ、ナギサくん」
落ちていたものを拾う。
僕はその言葉でピンとくるものがあった。
「タケルくんは落ちていたものを拾ったんだよ」
「え? あ、そうなの? チハヤクン、なんか落としたの?」
「いや? なんもねえよ」
「違うよ。多分だけどチハヤくんの持ち物じゃないんだ。タケルくんが拾ったのは」
僕は思い出す。
彼の手にはあるものがあった。
「紙だよ。メモが書かれた紙」
「紙?」
「あー、あれか」
ケンタロウくんが声を上げる。
「タケルが握りしめていたあれだな。ジンも分かるだろ?」
「あの意味不明な文字が書いてあった紙か」
「意味不明ー? ねー、どんなことが書いてあったの?」
「紙は私が持っている。内容を読み上げるぞ。
『この紙を拾った方、私と勝負してください。
私は必ず、あなたと勝負します。
だから少しお待ちください。
待っている間・ぼくが誰だか考えてみてください。
ヒントはこの文章の中にあります。
さあ、おれが誰だか分かるかな』
……以上だ」
「うーん……一人称全部バラバラっすね」
「この中にヒントが……何だろう……?」
「勝負する、ってところがなんかありそうじゃないかな、俺の直感がそう囁いている」
「こういう謎解き、ちょっと燃えるよねー……普通ならば」
ユウリくんは眉をひそめた。
「でも、なんかあんまりわくわくしないんだー」
「わくわくしない?」
謎解きなのにユウリくんがわくわくしない。
それが意味することって……
「これ、答えなんかないんじゃないかな?」
「はあ!?」
「誰かなんて、この文章からは分からないんじゃないかな」
「じゃあその紙に書かれていた文章は一体何なんだ?」
「多分、違う目的があったんじゃないかな?」
「違う目的?」
「そう。書かれている中身が重要じゃなかったんだよ」
意味ありげな文章が書かれていた理由。
それは――
「あれを拾わせて、中身を読むためにその場に留める。それが犯人の目的だったんだよ」
「……成程。私でもあの文章を読んだら数秒は確実に意識は向けられるな」
「ああ書かれたらどうしても考えこむっすよね」
「となると当然、その場に留まるわけだな」
「しかも紙を見ているから視点は下に……あっ!」
「成程、そういうことかよ」
みんなも辿り着いたようだ。
「この紙が、タケルくんから上部への警戒を解かせ、そして後頭部を無防備に晒した方法なんだ」
明るかろうが暗かろうが、関係ない。
音さえ立てなければタケルくんの後頭部に落とすのはたやすい。
「しかも、紙の置く場所である程度距離も把握できる……二段構えだった、ということだな」
ジンくんの捕捉に納得した。
落とす位置まで誘導できるのだ。
「何か重りでもいいから一緒に落とせば上からでも置けるな」
「ねー、ジン。その紙、なんか真ん中とかになんかないー?」
「ん? 端っこの方が破れているからそっちに気を取られていたが、確かにその通りだな。
真ん中あたりの『待っている間』と『ぼく』の間に小さい穴が空いている」
え? 小さい穴?
気が付かなかった。
文章の中身に気を取られていたからかもしれない。
「しかしよく見えるな」
「えーとね、勘」
「勘でそこまで当てられるのか。恐らくは『能力』だと思うが、恐ろしいな、猪瀬ユウリ」
確かに末恐ろしい。
しかしそのおかげで分かった。
「じゃあ多分重りじゃなくて、何か先端が鋭いモノを紙ごと突き抜いて床に刺したんだね」
「そんなもので思いつくものあるー、コータ?」
「それは……」
1つだけぱっと思いつくものがある。
「ダーツの矢じゃないかな」
娯楽室にダーツもあったはずだ。
「ダーツの矢かー。それなら上から落とすだけでも体育館の床に刺さる可能性が高いし、刺さらなくてもダーツの重さ分でそんなに距離が変わらないよねー」
「そうだね。だから犯人はこの方法を取ったんだと思う」
「でもさー、コータ分かっている?」
「何を?」
「この方法、致命的な欠点があるということ?」
「致命的な欠点……?」
「うん。この方法はね――タケルが地下を降りて左側の入口から入らないと使えないんだよ」
「あっ」
確かにそうだ。
「もし右の入口から入ったならば距離があるし、その時に反対側の上の所にいた人物に気が付くはずだ」
「そうだよー。あそこ、隠れるところないもんねー」
最初に体育館に入った時に分かっていたじゃないか。
スポットライトが見えるなんてことは。
「そうなったらタケルくんは警戒してそんな紙を見ない……いや、仮にその人が声を掛けて紙を見させたとしても、警戒してその場に留まり続けるとは限らないよね」
ならばこの方法は間違っている、ということなのか……?
「でもさー、コータ」
ユウリくんは続ける。
「もし、確実に左側の入口からタケルが入ってくることを知っていたなら、これって出来るんじゃないかなー?」
「確実に左側の入口から……?」
「それが出来そうな人物、コータは心当たりない?」
右か左か。
それを確実に当てることが出来る人物。
……1人だけいる。
憶測段階でしかないが、彼ならば。
そんな非現実なことが出来るのかもしれない。
「もし出来るとしたら、君じゃないかな」
僕は、その人物の名を口にした。
「馬目サイくん」




