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14話 捜索 ~食堂~

 これで一通りの部屋は見回ったはずだ。

 改めて整理しよう。


 屋上から始まり、

 4階は死体安置室と円卓の部屋。

 3階は保健室、カフェテリア、美術室。 

 2階は各自の部屋だが、1室だけ空き部屋あり。

 1階は中庭が吹き抜けで中央にあり、娯楽室、プール、そしてまだ行っていない食堂がある。

 地下は真ん中に体育館があり、階段を出て右手方向にはスタッフルームと倉庫、逆側は電気室がある。


 以上がこの建物の構図だ。

 部屋の数は少ないのか多いのかよく分からないが、日常生活には困らない程度には充実していると思う。

 つまりは、長期的にここで暮らさなくてはいけない可能性が高いということでもある。


「……」


 あまり気分がよくない想像をしたところで


『ピーンポーンパーンポーン』


 唐突にチャイムがあたりに鳴り響いた。


『皆様19時になりました。夕食の時間です』


「あ、現在時刻を教えてくれるんだねー」


 ユウリくんが反応する。


「でも確かに、そうじゃないと、現在時刻が分からないこの館では食事時を逃すことになりそうだからね」


 後ろの方で「うおおおボクの存在意義が……」と嘆いているツバメくんがいたが、君はこの建物の時計という役割を与えられたわけではないだろう。存在意義まで否定しないでほしい。


「はいはい。行くっすよ」

「ご飯は食べたいですからね」


 彼はサスケくんとヒナタくんに両脇を抱えられて食堂へ向かうことを促されていた。彼らは案外いいトリオなのかもしれない。こんなに短期間で仲良くなって。

 彼らについていく形で、僕とユウリくんも1階にある食堂へと向かった。



              ◆



 食堂。

 あまり特筆するべきではない場所であった。

 白いクロスがかかったテーブルとイスがいくつもの並んでおり、複数人が向き合って一緒に食事できるような形であった。広さは狭くもなく、かといって広すぎるわけでもなく、その気になれば全員が離れた距離で食事できることも可能であった。

 それ以外で目を引いたのが、食堂には大きな時計があったのだ。


「存在意義……っ!」


 ツバメくんが再び崩れ落ちたが、これから彼は時計が出てくるたびにライバル宣言でもするのだろうか。

 しかし、ここまで探索した中で時計があったのは、この食堂のみだった。


「逆に食堂に時計があるのはなんなんだろうねー」

「んー、確かに気になるね。あ、もしかするとここをたまり場……集合場所にしたいから、とかいうのはないかな」

「あー、確かにそれはあるかもねー! 食事時間が決まっているのもあるし、定期的にみんなが集まる場所を首謀者側が作りたがっているのかもしれないねー」


 僕の思い付きにユウリくんも賛同してくれる。

 そんな風に意見を出し合っていると、続々と食堂に人が集まってくる。


 大体だが、まとまって座っているのは僕達5人だけで、他の人達は少し距離を離しているようだった。チハヤくんとナギサくんも離れて座っている。喧嘩をしている、ということではなく、きっとこれが彼らの距離なのだろう。先ほどの話してみてそれは理解していた。


 全員が着席したのとほぼ同時だった。

 何体ものクウギョが食堂の奥から現れ、食事を器用に運んできた。

 食事はどうやらスープとステーキのようだ。見るからに美味しそうである。


「クウギョ、すまぬが和食に変えることは可能か?」

「牛場様。申し訳ありませんが本日はこちらでお願いいたします。次回からはリクエストを受け付けさせていただきますので」

「いや、こちらこそわがままを言ってかたじけない」


 そう言って、タケルくんが黙々と食事を始める。

 同時にクウギョ達は部屋から出ていった。

 それを皮切りに、皆も食べ始める。


 味付けは可もなく不可もなく。

 美味しいがとんでもなく美味しいというわけでもなく。


 それはきっと、こんな状況だからだろう。

 食事をしなければ死ぬだけ。


 だからみんな食べているだけだ。

 そこに楽しみなどあるはずがない。


 黙々とみんなは食べ続ける。


「なんか面白くないねー。会話のない食事ってつまらないよー。ねえねえー。なんか喋ろうよー。」


 ユウリくんが唐突に「あ、そうだー」と手を打った。


「みんなクウギョから聞いたことがあるでしょー。それを共有しようよー」

「お、それは賛成だな」


 賛同の声を上げたのはサイくんだった。


「一個一個聞くよかそっちの方が効率よいっしょ。みんな多分何かしら聞いているだろうし、集まっている今なら絶好の場じゃねえか。それとも――」


 にやり、と彼は口の端を上げる。


「ここでは共有できねえ情報を手に入れているやつがいる、とかあるのか?」


 しん、と再び静まる。

 サイくんの言葉は非常に重かった。


 この中に積極的に殺人を犯すような奴がいるか?

 そうじゃなきゃ言えるよな?


 先の言葉の裏には、このような意味が含まれている。


「というわけで、後の仕切りはよろしくな。――猫泉」

「えっ!? 僕!?」

「俺はそういう仕切り苦手だし、仕切っていた根津の知り合いなんだからいけるだろ。『判定役』さんよ」

「滅茶苦茶だなあ……」


 根津君と知り合いだからって何だって話だし、『判定役』だってそういう意味ではないし。


「まあまあ、コータ、やってみようよー」


 ユウリくんが親指を立てる。

 僕は大きくため息をついた。


「……分かったよ。じゃあさ、干支の順で行くね。タケルくんはクウギョからなんか『宴』について情報を入手した?」


 僕はスプーンの使い方に苦労しているタケルくんに振る。


「拙者か? すまぬが拙者は何もないな。そもそもこの『宴』に乗るつもりなどなかったから、聞こうとすら思っていなかった」

「そっか。タケルくんらしいといえばらしいね」


 彼は嘘をついている様子も何かを隠している様子もない。偏見だがそういうことをしている場合は態度で見えそうだ。

 そう判断して僕は次の人に話を振る。


「ケンタロウくんはどうかな?」

「んー、ごめん、正直オレも『宴』に関係しそうなことはないかな。クウギョに訊いたのは美術室にあるモノを自由に使っていいか、ってことくらいしか聞いてないや」

「あ、そういうちょっとしたことや、気になったことでも大丈夫だよ」

「そっか。じゃああともう一つ、クウギョに訊いたわけではないけど、気になったことがあったな」


 ケンタロウくんの眉間にしわが寄る。


「ちょっと前、自分の部屋で昼寝していたらさ、突然でっかい音が鳴ってさ。あれ何だったんだ?」

「でっかい音?」

「なんかクラシック音楽みたいなのだったな。ばっちり目が覚めちまったよ」

「あー、それ、自分が体育館でやらかしたやつかもしれませんね」


 ヒナタくんがおずおずと手を上げる。


「あの時の体育館でCDを入れた時のやつか」


 あの音が各自の寝室まで音が響いたのか。


「なんか心当たりあるならいいや。気になったのはそんだけってこと。気にすんな」


 申し訳なさそうにしているヒナタくんに、ケンタロウくんはひらひらと手を振る。

 ヒナタくんはホッとした表情になった。


(そういえばサスケくんはいじらないんだな)


 横目でサスケくんを見ていたが、彼は食事を淡々と続けていた。食事の方に集中しているのか、はたまた、実際にヒナタくんが悪いわけではなかったので追及しなかったのか、そこは分からない。


「じゃあ次はマシロくんかな。何かある?」

「え、えっとぼくが聞いたのは、カフェテリアにあるものは勝手に食べても処刑されない、ってこと、かな?」


 ああ、それはカフェテリアで会った時に聞いたな。


「あともう一つ聞いたのは、例えば『調味料の瓶に毒を入れた時、入れた人が犯人なのか、それともそれを料理に入れた人が犯人なのか、どっちになるの』っていうことも訊いてみたりしたよ」


 まったりとした口調で語ったそのことに、みんなはざわめいた。


「マシロくん、なんでそんなことを訊いたの……? まさか実行する為に……」

「え……? いやいやいや! 違うよ! ぼくはただ、実行犯になりたくなかっただけなんだって」


 マシロくんは真っ青な顔で首を思い切り振る。


「多分だけどカフェテリアで提供する時はぼくが料理とか作ることもあるから、そこで犯人にされたら困るんだよ! それで聞いたんだよ!」

「ああ、単純に人数を減らすためにやる人がいるかもしれねえ、ってことか。その発想はなかったわ」


 チハヤくんの言葉に僕もようやく納得がいった。

 誰かに濡れ衣を着せて、無理やり犯人させて候補を減らしていく。

 こう考えるやり方もあるのか。


「それで、クウギョはそのケースはどう判定するって言っていたの?」

「基本的には『毒を調味料に入れた人が犯人』だってさ。ただ、ケースによるってさ」

「それについては同じようなことを私も訊いたので補足しよう」


 手を挙げたのはジンくんだった。


「例えば遠隔スイッチを押したら落下する落とし穴があったとしよう。その場合、落とし穴を作った人が犯人ではなく、スイッチを押すという明確な行動を行った人間が犯人になる、ということだ」

「先ほどマシロくんのケースとは逆だね。一体何が違うんだろうか……?」

「さあな。それを聞いても『ケースによる』としか答えてもらえなかった。いずれにしろ、不確定な方法は取るな、ということかもしれないな」


 ジンくんが手をパンと叩く。


「ついでに、それ以外にも共有するが、犯人が死者の場合はどうなるか、というのも訊いた」

「犯人が死者の場合……?」

「自殺だった場合だな」


 自殺。


「そんなことをする人がいるの?」

「猫泉コータ。メリットがあればする可能性もあると私は考えたのだ」


 メリットがある?


「結論から言うと、この場合の犯人は『死者』――つまり自殺者本人だということだ」

「多分そうなるよね。……あれ?」


 僕は違和感に気が付いた。


「でも仮にそれで他の人が犯人だと投票されてしまったとしたら、この場合は神様になるのは自殺者……だけど当然死んでいるから……」


「つまり、神は『死者をも蘇らせることが出来る』ということだ」


「………………え?」


 平坦な声で告げたので反応が遅れた。

 他の人も同じようだった。


「死者でも神になれるということは、蘇生できる、ということだろう。それ以外の解釈がしようがない。神の力とはそれほど強力なものなのだろう」

「マジかよ。ああ、くそ! ここにクウギョがいれば聞けたのによ!」


 チハヤくんが悔しそうに机を叩く。

 確かに、クウギョはこの場にはまったくいない。


「それがマジなら、俄然、神になるのも悪くねえ気がしてきたな」

「ちょ、ちょっとチハヤクン、やめときなよ」

「んだよ、ナギサ。誰だって思ってることじゃねえか。俺様はそれを口に出しただけだ」

「まあみんなそう思うよね。分かる分かる」


 そこで口を挟んだのはサイくんだった。


「だけど、俺だったら黙っておくけどね。それを口にするなんて優しいねえ、龍崎チハヤ」

「なんだと?」


 チハヤくんが席を立ってサイくんの近くに向かう。


「てめえ、舐めているのか?」

「そう怒るなよ。別に馬鹿にしているわけじゃないさ」


 対するサイくんは動じない様子で食事を続ける。


「敢えて口にすることで、神様になることのメリットを明確にする。そうして積極的に殺人を起こさせようとでもしているのかとも思ったくらいだよ。もしかして、君が黒幕なのかい?」

「……んなわけねえだろうが」

「そうか。じゃあその言葉を信じる方向に賭けようか」

「チッ」


 舌打ちをしてチハヤくんは座っていた席に戻る。

 どうやら争いは収まったらしい。

 同時に、あたりが静まってしまった。


 気まずい空間が流れ、何人かの視線が僕に向けられる。


「えっと、あ、さっきの話の続きにしようか。じゃあ……ナギサくん、何かない?」

「え? おれ?」

「そうそう。なんかクウギョから聞いたことある?」


 本当の順番なら龍の干支のチハヤくんだが、先程の件もあり話題を振っても良い傾向にならないと思ったので蛇のナギサくんに振ったのだ。


「うーん……特別なことは何も聞いていないと思うよ。強いて言えば電気室関連の仕組みを聞いたくらいかな」

「仕組み?」

「そんな複雑なことじゃないよ。あのブレーカーを落とせば、この建物内の電気が全部落ちるっていうだけくらいしか分からないし……まあ、どこから電気が供給されているのかは教えてくれなかったけどね」


 食事もそうだが電力も自家発電をしていない限りはどこからから供給されているはずだ。

 だが、ここは外の世界とは隔離されているようだからそれはあり得ない。出来るのならばそれを辿れば外へと出られるのだから。

 諦めを心の中に留めながら、僕は次の人に話を振る。


「ありがとう、ナギサくん。じゃあ次は……」

「俺だな、猫泉コータ」


 サイくんが席を立つ。


「俺が聞いたのは、クウギョを破壊しても処刑されないか、ってことだな」

「……なんでそんなこと聞いたの?」

「むしゃくしゃしたら何か物に当たりたいやつがいるかもしれないだろ。ギャンブルで熱くなるやつを何度も見てきているしな。で、それでクウギョに八つ当たりした場合どうなるか気になったんだよ」


 そんな気が短い人は――と言おうと思ったが、先ほど突っかかったチハヤくんを思い出し、口に出さずにとどめておく。


「クウギョはなんて答えたの?」

「『別に処刑はしないですが、あまりにもひどい場合はペナルティを課すかもしれません。何もない部屋に閉じ込めるとか、そういう対応になるかもしれませんのでお気を付け下さい』――だってさ」

「あ、あの部屋!」

「そういうことだったんすね」


 ヒナタくんとサスケくんが声を上げる。


「どういうことなのか説明してくれるか、犬飼ヒナタ、猿島サスケ」

「ボクが説明しよう」


 ツバメくんが立ち上がる。


「2階の寝室に何もない部屋が1つだけあったんだ。蛇見君の部屋と階段の間のところにある部屋。中を確認したんだけど、何もなかったんだよね」

「ああ、そこがクウギョが言っていた部屋ってことか」


 あの部屋の目的がようやく分かった。

 そりゃあ何もないわけだ。


「じゃあ俺が聞いたことはあんまり役に立たなかったな。以上だ」

「うん、サイくん、ありがとう。次は……」


 順番的にはジンくんだが、先行して説明してもらっているので、その次だ。

 ヒツジの次はサル、だが……


「サスケくん、ツバメくん、ヒナタくん。多分3人はずっと一緒に行動していたと思うからまとめてになっちゃうけど、何かクウギョに訊いたことはある?」


「ないっすね」

「ないな」

「ないですね」


 すぐさま3人から返答が来た。

 まあ僕達と一緒だった時には訊いていないし、3人だけだった時も屋上で外に行こうとしていただけっぽいし、そうなるのは予想がついていた。


「じゃあ最後に」

「ユウリだねー!」


 話を振る前にユウリくんが手を上げる。


「ユウリが訊いたのはね、『ここが現実か』ってことだよー」


 ああ、確かに死体安置室で訊いていたな。


「『微妙なラインですね。何せ皆様、能力なんて現実世界に起こりえないじゃないですか』って回答だったよー。あと『かといって仮想空間であるとか、そういうものではありません。皆様の肉体は存在しますし、能力にかかわるもの以外はきちんと現実の物理法則に従ったものになります。また痛覚もきちんとあります。何より――死ねば、死にます』だったかな」

「僕もそれは聞いていたけど、確か一言一句その通りだよ。すごいね」

「ふふーん。ユウリ、記憶力もいいんだー」


 も、って他に何があるんだろう――などという言葉は胸の奥底に押し込んで、僕は手を叩いた。


「みんなと情報共有できたね。あ、そうだ。今後も何かあったら食堂で食事している時に同じように共有するってのはどう?」

「あ、いいねー。でも朝昼夜と毎回やっていても情報出るとは限らないから、夜だけは全員で集まって共有することにするのがいいのかもー」


 ユウリくんが真っ先に声を上げ、他の人々も賛成と口々に言ってくれている。

 反対の声を上げる人はいなかった。


 こうして。

 今後、夜ご飯時は全員が食堂に集まり情報共有を行う、というある種の決まりごとが出来た。



               ◆



 その後。

 特に問題もなく食事を終え、皆は散り散りとなった。


 僕は寝室に戻っていた。

 特に何かをする気にもならず、ずっとベッドの上で思考を燻らせていた。


 と、しばらくして


『ピーンポーンパーンポーン』

『22時になりました。これから部屋の鍵をロックいたします。皆様、おやすみなさいませ』


 クウギョのそんな声と共に、カチリ、と扉が閉まる音がした。

 ドアノブを回すが、何も変わらない。当然ながら、中から開けようとしてもできないようだ。


 やることもなくなったので、僕は部屋の明かりを消し、ベッドに潜った。


 

 こうして。

 この建物に来て1日目が終了した。


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