13話 捜索 ~地下 電気室~
体育館を出た僕達が向かったのは地下の中で最後の場所――スタッフルームと倉庫とは真反対の位置にある部屋に向かった。
因みに、地下は他の階とは異なり通路が繋がっていないので、コの字型のような形になっている。塞がっているのは階段とは真逆の場所であり、体育館の舞台裏がそこに位置的には当たる。
そこは電気室だった。
見るからに配線などが部屋中に敷き詰められていたり「感電注意」というマークもあったりと、物々しい雰囲気だ。
その部屋の端の方にて何かごそごそとしていた人物がいた。
蛇見ナギサだった。
「あ、ナギサ。やっほー」
ユウリくんが元気よく声をかけると、ナギサくんはビクッと体を跳ね上げさせた。
「あ、う、え、あ、ど、どうも皆さん……」
愛想笑いを浮かべながらナギサくんが振り返る。
「そんなにかしこまらなくていいよ」
「そうっすよ。敬語なんて使うと犬っころと同じになっちまうっすよ」
「ああ? なんでそこでケンカ売ってくるんですかこの猿」
いつもの3人組が反応して、少しナギサくんはホッとしたような表情になる。
後押しするかのように僕も言葉を掛ける。
「僕達、この建物内を探索しているんだ。ここって電気室、って言っていいのかな?」
「あ、うん。そうだと思うよ」
砕けた口調でナギサくんは答える。どうやら警戒心を解いてくれたようだ。
「この建物の電気系統はここで色々やっているみたい。でも色々といびつなんだよね」
「いびつ?」
「現実だと絶対にそんな配置にしないってやつがあったりするんだよね。例えば……ほら、そこにあるやつ」
ナギサくんが指差した方向にあるのは、何かのレバーのようなものだった。
「あれ、ブレーカーだよ」
「ブレーカー? あんな低い所にあるの?」
大体僕の胸辺りの高さだった。イメージだと足場とかないと届かない場所にあるイメージがあったけど。
「普通はこんな位置に置いてあることはないんだよね。まるで誰でも届くようにしているみたいな印象を受けるよ」
「ほんとだ―。ひっくーい」
ユウリくんが近づいてレバーに触れようとする。
「ああ、ダメだよ! ユウリクン! それ落としたら多分建物全体の電気が落ちちゃうよ!」
「大丈夫! やらないやらないって」
ハラハラとした様子で見守るナギサくん。因みに僕もハラハラしていた。
「振りじゃないからね、ユウリくん」
「分かってるってー。そこまで荒唐無稽に見えるー?」
「割と」
「ひどーい」
ユウリくんが頬を膨らまして僕を睨んでくる。
それを見ていたナギサくんが目を丸くしながら言った。
「コータクンとユウリクンって仲がいいんだ」
「え? そう見える?」
「えー? そこは『でしょ?』だよ、コータ!」
ユウリくんがにっこりと笑ってくる。
この笑顔に甘えても良いものだろうか。
知り合ってまだちょっとだし、ただ単に一緒に捜索しているだけで、仲が良いと言っていいものだろうか。
僕は思わず考え込んで黙ってしまった。
「もー、そんな深く考え込まなくていいんだってー。仲良く話をしていたら仲良し! でいいんじゃない?」
「そういうものかな……?」
「はは、分かるよコータクン。おれも陰キャだからそういう距離感が正しいか迷うよ」
陰キャ認定されてしまった。
合っているけど。
「あ、でも仲いいといえば、ナギサくんってチハヤくんと仲がいいよね」
「え、ああ、うん」
頷いた直後、ナギサくんの眉が下がる。
「あ、いやでも仲がいいと思っているのはおれだけで、もしかしてチハヤクンはそう思っていないかもしれない」
「いや、そんなことはないぞ」
ツバメくんが否定の言葉を口にした。
「ボクはきっちりと聞いていた。チハヤ君が君のことを『友達』と口にしているのを」
「そうっす! 俺っちも聞いていたっす」
「ですよね。失礼ですけど、そういうことを口にするとは思えない方でしたので印象深かったです」
「そうだねー。チハヤ、めっちゃヤンキーぽくて怖そうだもんねー」
内心僕もそう思っていたが、それを口に出すのはどうかと。
友達のナギサくんもいるんだし。
「……そっかあ。それはちょっと、嬉しいかな」
ナギサくんがはにかむような笑みを見せた。
「ねえ、そういえばナギサくんとチハヤくんって昔からの知り合いなの?」
気になったから訊いてみると、ナギサくんは「うん」と頷いた。
「おれとチハヤクンは家が近い、いわゆる幼馴染ってやつでね。よく昔から遊んでいたんだ」
「へー、そんな近い接点だったんですね」
ヒナタくんが驚きの声を上げる。
「意外でしょ。おれとチハヤクンって色々と正反対だから」
「確かにー。円卓でのやりとりがなくて『友達』っていうだけ聞いていたら、カツアゲのターゲットって意味での『仲良し』に見えたかもー」
「……なんかズッパリいうね、ユウリくん……」
「あはは。チハヤクンは見た目も大きいし、性格も穏やかな方じゃないからそう見られるのは仕方ないことかな。本人も慣れているっぽいし」
ナギサくんはいつものことだというように語る。
「でもおれにとっては、一緒にいると心地いいし、何より引っ張ってくれて世界が広がる存在なんだ。だからおれにとってはずっと、仲がいい存在、だね。……あっちは面倒になっていつ疎遠になるか分からないけど。おれ、こんなだし……」
どんよりと憂鬱モードに入るナギサくん。
どうやらこういう性格のようだ。
これ以上チハヤくんの話をしても同じループに陥りそうなので別の話題を振る。
「そういえば、ナギサくんはここで何しているの?」
「あ、うん。こういう電気的なの好きで落ち着くから思わず居ついちゃったんだよね。自作PCとか作っていたし……でも、さっきも言った通り、所々いびつなんだよね。配線もめちゃくちゃだし、まるで停電を簡単にさせられるようにしている感じだったんだよね」
意図的に停電。
これは殺人を起こさせるような、宴の主催者側の仕掛けなのかもしれない。
「だからこうして配線をきちんとまとめていたんだよね」
シュルシュル、と。
突然、目の前のごちゃごちゃしていた配線の1つが、まるで生き物かのように小さな円の形になっていく。
あまりにも物理法則を無視した動き。
「これってもしかして……」
「うん。これがおれの『能力』だよ。『巻く』ことが出来るんだ」
あはは、と苦笑いを見せるナギサくん。
「でもこれだけなんだよね。遠隔でもモノを巻ける、ってだけの『能力』なんだ。蛇だから巻くイメージはあるとはいえこれだけとはね。はは……『巻け』ならぬ『負け』かな」
自虐的に笑うナギサくん。
そんな彼の肩に手を置く人物が1人。
「分かるよ、分かる」
「ツバメクンも?」
「君だけはボクのことを『時計』と呼ぶことを許そう」
「え? え?」
さらなる自虐が降ってきてナギサくんも困惑しているようだ。
そんな悲しみに暮れる2人の背中をある程度眺めた後、僕達は電気室を後にした。




