12話 捜索 ~体育館~
僕達が次に入ったのは、スタッフルームと倉庫とは反対側――内回り側にある扉だった。
そこは体育館だった。
学校とかにある体育館そのもので、かなりの大きさであり、右手には舞台もあった。
そしてこの体育館の大きな特徴としては、出入り口が3か所あるということだ。
他の部屋は1つだったにも関わらず、この部屋だけは今いる場所、左手、真正面の3か所ある。
そのことからわかる通り、地下を降りてすぐ目の前にあった扉は、この体育館の出入り口だったのだ。
「広いっすねー!」
サスケくんが広さに負けないくらいの大声を出し、ヒナタくんが耳を塞ぐ。
「うるさいですね。でも確かに学校の体育館よりは一回り大きそうですね」
「天井の高さは普通だな。まあこの上に中庭があるからだろうな」
ツバメくんに言われ上の方を見上げる。
確かに場所的には中庭の下になるのだ。そう考えると少し不思議な気分になる。
しかし、高さは普通、とツバメくんは言ったが、そこそこの高さはある。大体2階に当たる部分くらいはあり、実際に普通の体育館にあるような足場も、こちらと対面には見える。因みに真正面――今の僕達の位置から左手にある出入り口の上には足場はない。
「ねー、あの上の足場にあるのなんだろうねー」
ユウリくんが指をさす。
そこにあったのは四角い何かだ。
「んー、多分スポットライトじゃないかな?」
「スポットライト? 天井にライトついているのに必要なのー?」
今度は天井を指差す。
そこにはバスケゴールがあり、その更に上の天井にはライトがいくつも付けられていた。
「確かにいらないよね。だから普段は使わないんじゃないかな」
「何に使うんだろうかー?」
「あ、多分、劇とかライブとかじゃないですかね」
ヒナタくんが手を打つ。
「ああいうのって舞台上に光を与える、いわゆるスポットライトってやつかと思います」
「ああ、そっか。そうだよね」
舞台があるのだ。確かにその装置があってもおかしくない。
でもさ、とツバメくんが眉間にしわを寄せる。
「ここに集められた人の中で、舞台で演劇したりライブしたり、そういうのしそうな人っている?」
今まで会ってきた人のことを順々に思い出す。
「それっぽいのはケンタロウっちかな?」
「いやでもあの人は美術関係でしたし、違うのでは?」
「確かに」
「んー、いないねー」
「じゃあ結局使わないね」
あははと笑いながらみんなで舞台上を見た。
すると――
「ん? サスケ殿、ツバメ殿、ヒナタ殿、ユウリ殿、コータ殿。みんなそろってどうしたのだ?」
そこにはいたのは牛場タケルだ。
どこか古風を感じさせる風貌の彼が、舞台上に立っていた。
「え? まさかタケルさんって……」
「人は見た目に寄らないっすね」
「む? なんのことだ?」
首を傾げるタケルくんに僕は説明する。
「あ、いやさ、そこにスポットライトがあるじゃない。だからライブとかしたりする人っているのかなーって話になって、その時に舞台上からタケルくんが現れたからつい……」
「すぽっとらいと……? らいぶ……?」
タケルくんは頭にハテナマークを浮かべる。
「ねー、タケルってもしかして江戸時代の人だったりするー?」
「いや、それはないだろう」
否定の言葉はツバメくんだ。
「えー? でも『何とか殿』って言ったり、カタカナ単語知らなそうな素振りだし、有り得るんじゃないかなー」
「はっはっは。拙者が世間知らずなのは、ただ単に古風な家に生まれたからだ」
豪快にタケルくんは笑い声をあげる。
彼は舞台上から降り、こちらへと寄っていく。
「拙者の家は古くからの武道の家でな。電子機器などは一切ないんだ。古臭い喋り方なのも古い文献や周りの大人たちの口調が移ったからだな。だからこれの扱いもよく分からなくてな」
ポケットからスマホを取り出す。
「あー、そういえば投票の時にケンタロウくんに使い方訊いていたよね」
「うむ。だから反対に間違って入れていたかどうか心配になったのだ。ケンタロウ殿も見ていたから大丈夫だとは思うが……」
憂い顔になるタケルくん。
どうやら先の根津くんの初見についてかなり心を痛めているようだ。
……無理もない。
あれに関しては心を痛めない人などいない。
そう――黒幕以外は。
「そういえば先も訊いたが、皆は集まってここに何をしに?」
「探索だよー。この建物の中を隅々まで見て回っているんだー」
ユウリくんがにこにこと言うと、タケルくんも顔を明るくさせる。
「おお、そうなのか。ならばこっちも見た方がよいのではないか?」
そう言ってタケルくんは再び舞台上へと歩み始める。
僕達はその後ろをついていき、舞台の上に登る。
「拙者に分からないものがあって教えてほしいのだが、これは一体何なのだろうか?」
舞台の奥の方のものを指差しながらタケルくんが問う。
それが何か一発で分かった。
「あー、これは舞台のライトとか、音響とか流すための装置だね」
「む? そうなのか?」
その機械には「ボリューム」とか「CD差込口」とかそういう記載があった。
その横にはCDがある。
しかし今時CDとは……ちょっと古めかしいな。まあ、ネットが繋がっていない以上は何かしらの音楽を流す媒体は必要だったのかもしれない。
それにしても……
「タケルくんって、英語苦手?」
「いやあ、面目ない。外国語を使うと腕立て100回しなくてはいけないから、つい避けていてな」
「それ親御さん教育間違っていると思うよ……」
少なくとも学校で英語はあるはずで、学べない状況に陥らせるのはいかがなものかと思う。
「いや、学校では使っていいとは言われているよ」
「じゃあただの怠慢じゃん」
がははと笑うタケルくんの横で
「どんなのがあるか、試しに入れてみましょうよ」
ヒナタくんがCDの中から一つを選んで挿入する。
次の瞬間。
物凄い音量でクラシックが流れ始めた。
「なんだこれは!」
「耳が!」
「めっちゃうるさいっす!」
「止めて止めて!」
阿鼻叫喚。
しかし僕は見ていた。
その中でちゃっかり、ユウリくんはその場を離れて耳を塞いでいたことを。
……さては音量がマックスになっていたのを『能力』で分かっていたな?
恨みがめしい目で見るが、涼しそうにユウリくんはタケルくんに言う。
「ここの機械、適当に触ったでしょ?」
「ぐ、どうしてわかった?」
「いや、多分そうかなーって」
「ぐぬぬ……犯人は拙者だったのか……潔く処刑されよう」
「いや、そんなことで処刑しないから」
目に見えない刀で切腹するような迫力を出しているタケルくんを、僕達は苦笑しながら止める。
「かたじけない……」
そう首を垂れるタケルくんを他所に、僕達は探索を続ける。
舞台を探索している内に分かったことではあるが、どうやら先ほどの体育館の足場部分に行くためには舞台裏から行くしかなかった。
ただ、その上に登るためのはしごは少々高い位置にあり
「うーん、うーん!」
ユウリくんの身長ではジャンプしても届かなかった。試してはいないが、同じような身長のマヒロくんも無理だろう。
周りに足場もないし、ユウリくんが困り果てていたその時
「ならば拙者が持ち上げて進ぜよう」
「わわっ!」
タケルくんがユウリくんを軽々と持ち上げた。
しかも片手で持ち上げた後、指一本で支えてなるべく上まで届けようとしていた。
「ユウリくん、そんな軽いの……?」
「中身ヘリウムなんじゃないか」
「そんなわけないよ!」
怒り狂ったユウリくんが暴れるが、意に介さないようにタケルくんはバランスを取りながら豪快に笑う。
「はっはっは。これは拙者の『能力』だな」
「タケルくんの『能力』?」
「そう。拙者の『能力』は『怪力』だな」
怪力。
「あー、確かに言われてみれば、力強いイメージがあるし、納得感があるかも。ウシかリュウあたりにありそうな『能力』だね」
「チハヤ殿が同じ『能力』を持っているかは知らぬが、少なくとも拙者はこれだ」
ユウリくんが上り切ったのを見た後、彼は腕を曲げて力こぶを見せつける。
「さすがに鍛えているとはいえ、ユウリ殿を指一本で支えることは物理的に不可能だ。どれくらいまで持ち上げられるか、壊せるか、とかは試していないから分からないが、感覚的には簡易のコンテナくらいなら持ち上げられそうな気がするぞ」
つまりキロ、じゃなく、トン、レベルか。
物凄いな。
「まあ拙者は正々堂々を家訓としているから、これを悪用するつもりはないけれどな」
「それを聞いてホッとしているよ。誰も君には勝てないと思うし、なんならある種の抑止力になるかもね」
僕がそう言うと、タケルくんはハッとした表情になる。
「……そうか。成程」
「どうしたの、タケルくん?」
「いや、思う所があってな。ありがとう、コータ殿」
急にお礼を言われると、タケルくんは考え込みながら舞台の上を去り、そのまま体育館を出ていいた。
「……? 何を思いついたんだろう?」
僕は思わず真上を見上げる
舞台上の天井に吊り下がっている照明のまぶしさは、僕のその疑問に対しての答えを照らしてはくれなかった。




