9話 捜索 ~1階 娯楽室~
中庭から建物の中に戻った僕達が次に向かったのは、娯楽室だった。
入口付近にあるビリヤード台やスロットマシーン、棚にあるのは漫画や小説、トランプやルーレット、ダーツすらある。
その部屋にいたのは、馬目サイだった。
「ん? 猿島、鳥羽、犬飼、猪瀬、猫泉。みんなまとまってどうしたんだ?」
「ユウリ達は建物探索探検隊なんだよー」
「探検隊っす!」
「隊、って……」
「そんな子供っぽい言い方……」
ユウリくんとサスケくんに向かって、ヒナタくんとツバメくんが眉をしかめる。
僕は苦笑いをしながらサイくんに問いかける。
「サイくんはここで何しているの?」
「んー、ちょっと色々と試していてな」
「試す?」
「あ、そうだ。猫泉、ちょっと協力してくれないか?」
「協力って何を……?」
「なあに、ただのちょっとした遊びってやつさ」
ニヤリとサイくんは口の端をあげる。
「じゃんけんをしようぜ。じゃーんけん」
「え?」
「ポン」
僕は慌ててグーを出す。
サイくんはチョキを出した。
僕の勝ちだ。
「ふむ、なるほどなるほど……」
自分の手を見ながらうんうんと頷くと、サイくんは人差し指を立てる。
「じゃあ次はちょっと特殊ルールでやってくれないか?」
「特殊ルール? どんなの?」
「まずお互い出す手は、グー、かパーだけにするんだ。んであいこかそれ以外か、で《《俺があいこを5連続で出したら勝ち》》、って条件で勝負だ」
「え? それって滅茶苦茶そっちに不利なんじゃないか?」
「ああ、だけどそれでいいよ」
チョキを封印して二択だとしても、ただ単にあいこかそれ以外かというだけならともかく、それを5連続で行うなら1/32だ。無茶にもほどがある。
「本当にいいの? こっちが純粋にじゃんけんで勝つことが1回以上なくちゃいけない、みたいな条件付けて、より読みやすい形にした方が……」
「あー、めっちゃ複雑でわけわかんなくなるからなしでいいよ」
右手に持った複数のサイコロをコロコロと手のひらで転がしながら、左手を差し出してくる。
「それじゃあ最初はグー。じゃーんけーんぽん」
……信じられないことに。
そこから5連続であいこになった。
一方的な手を出したわけでもなく、交互に出すなんていう分かりやすいこともせず、普通にランダムに出したのにもかかわらずだ。
「俺の勝ちね。サンキュー。じゃあ次は鳥羽、ちょっと勝負してくれないか」
「ボク?」
「ああ、ルールはさっき猫泉と同じな。今度はグーとチョキだけでやってくれ」
そこからサイくんはツバメくん、サスケくん、ヒナタくん、ユウリくんともじゃんけんをし、そして全員と5回全部あいこになった。
明らかに異常だった。
「負けたー。いや負けてないんだけど負けた―」
ユウリくんが笑顔でこちらにやってきた。
「全部グーを出したんだけどねー。それでも負けちゃったー」
「そんな手を出すユウリくんも凄いと思うよ……」
「まあでも、流石に5人抜きはすごい、だけじゃ納まらないよねー」
「だね。あれはきっと『能力』だよね」
ここでは異様なことが起きても不思議ではない。
それは『能力』という非現実的なモノがあるから。
だから間違いなくサイくんの『能力』が何かしら作用していたのは間違いないだろう。
「一体どんな」
「まさか『《《相手の思考が読める》》』とか思わないよな?」
ぬっ、とビリヤードのキューが僕とユウリくんの間に差し込まれる。
「わっ!」
「あ、危ないよ」
僕はキューを差し込んだ張本人であるサイくんに注意をする。
サイくんは肩をすくめる。
「キューは先端が柔らかい素材だから目にでも入れない限りはケガしないよ。先端を外したってほら……おや?」
僕達はギョッとする。
キューの先端を外したところ、そこは鋭利な状態に加工されていたのだ。
まるで人を刺すことが出来るように。
「本来はこんなに簡単に外れるわけもなし、こんな形になっているわけもなし、これは一体何なんだろうね?」
サイくんはのんびりとした口調で首を傾げる。
「いやいや! そんな呑気なことを言っている場合じゃないよ!」
僕の叫びに近い声に他の3人も集まってくる。
そしてサイくんの持つキューの先端を見て驚く。
「ねー、確認するけど、これってサイがやったわけじゃないよね?」
「当たり前だ、猪瀬。俺が仮にやっていたとしてどうして君たちに見せつける必要がある」
「だよねー。じゃあどうして凶器になりえるようなものとして隠されていたんだろうねー。分からないなー」
ユウリくんは、うーん、と腕を組むが、僕にはすぐにピンときた。
「それって……殺し合いを誘発するためじゃないかな」
「あー、それかー。なら納得だねー」
ユウリくんが手を打つ。
「こうやって凶器がところどころ隠されているってことか。じゃあ他の部屋の、一見凶器じゃなさそうなものも実は同じように加工されていたりするのかもねー。今度からそういう目で見ていくよ」
「だな。知らなかったとはいえ危ない目に合わせて悪いな、猪瀬、猫泉」
「いいよいいよ。なんもなかったし。ね、コータ?」
「あ、え、うん」
思わずそう返したが、それどころではなかった。
この建物には殺人を促すような道具が隠されている。
その事実が、胸にズンとのしかかってきたからだ。
「……」
僕と同じなのか、サスケくん、ヒナタくん、ツバメくんも顔が青ざめる。
色々な想像が膨らむからだ。
殺されるのかもしれない。
殺す前に殺さなきゃいけない。
それを強く実感させるものだったから――
「まあ、そんなことより、だ」
そこで、サイくんがポンと手を叩いた。
「話はそれてしまったが、さっきの話の続きをしてよいか?」
「え、ああ、うん」
「忘れてたー。なんだっけー? ……ああ、サイの『能力』についてだったねー」
確かに、その話の途中だった。
「えっと、確かサイくんの『能力』が『相手の思考が読める』っていう、いわゆる『テレパシー』みたいなやつじゃないか、って話だったよね」
「そうだ。結論から言うと、それは違う、って話になるな」
ふふん、とサイくんは鼻を鳴らす。
「お前たちはあいこ5連続、しかも5人ともにっていう異常な事態に『思考が読まれた』って感じたんだろ? だけどそれは『能力』によるものじゃない――ああ、いや、厳密に言ったら『能力で直接それを読み取ったわけじゃない』んだよな」
「ん? ってことは『能力』は使っているんですか?」
「その通りだ犬飼。まあ隠すわけじゃないから言うけどさ」
サイくんは一つ息を吐く。
「俺の能力は『相手の癖を読み取る』だな」
「相手の癖を読み取る? それって相手の思考を読むのと同じじゃないっすか?」
「それは違うぞ猿島」
ちっちっち、とサイくんは指を振る。
「俺の『能力』は、相手の目線とか、手の動きとか、そういう相手の癖を読み取る能力が更に鋭敏になる、って所だな。だからそこから当てたのは俺の実力だぜ」
『感覚の鋭敏化』。
それがサイくんの能力か。
「でも何で馬の干支の能力がそれなんだろうねー」
「馬って意外と繊細だから、そこから来ているのかな」
「それとも競馬から、賭けに強くなる要素を入手した、って可能性もあるね」
「鳥羽、俺もそれだと思う」
サイくんは思い出すかのように上を見る。
「俺はここに来る前は闇ギャンブルの世界にいたからな。来る日も来る日も金を稼ぐために、戦い続けていた……だから癖を読み取った後にお前らみたいなド素人に勝てるのは当たり前なんだよ」
「ギャンブル漫画の世界じゃないっすか、それ」
サスケくんがツッコミを入れる。
サイくんも高校生だろうに、そんな世界に入っていたなんて。
「ま、本当か嘘か、信じるのはお前ら次第、ってやつだな。どうだ? 本当か嘘か賭けてみるか? なんならコインの表裏で決めてもいいんだぜ」
どこかからか持ってきたコインを僕に投げながら、サイくんは口の端を上げて吐き捨てるようにこう言った。
「これからここで――生きるか死ぬか、ってのも合わせて、な」




