96話 5章 ~円卓会議後~
「あー、すっきりした。ずっと堅苦しくてきつかったんだよね。善良で困った迷子の迷子の子猫ちゃんの猫泉コータで有り続けるのは」
伸びをして言葉と同じように身体も開放感を得る。
あー、ずっとつまらない誠実なネコのフリをするのは辛かったな。
「コータさん、なの・・・・・・?」
怯えた目で見てくるマシロくんに、僕の口の端は自然と上がっていた。
「ああ、そうだよ。って、どっちの意味の言葉なのか分からなかったね。僕が本当に『黒幕』なの? って意味と、こうやって喋っている僕の変貌っぷりに驚いた意味のどちらかだと思うけど、まあ、どっちでも同じか」
けらけらと笑っていると、目の端に引っかかるモノが有った。
「おや? いきなり殴りかかったりしないとか、大分成長したんじゃないのかな、チハヤくん」
「・・・・・・俺様もマシロと同じ言葉を口にしそうになったぜ。お前、マジで人が変わったみたいだな」
「ははー。驚きで動けていないだけか。でも正解だよ。僕に聞きたいことがたくさんあるんじゃないのかな」
手を広げて彼らの発言を促す。
すると声が聞こえてきたのは、背後からだった。
「そうだね。色々聞かせてよ」
「ユウリくんか」
口の端を上げたまま、僕は彼に問いかける。
「ユウリくんには、むしろ逆に聞きたいんだけどさ、いつから僕が『黒幕』だって分かってたの?」
「疑い始めたのは『黒幕』の情報を入手した時からだね。分かったのは、ジンが神の指名投票した時だよ。それまではジンと二択だったから」
「ふーん。盛り上げるために僕の情報を、それだけだと分からないように小出しにする、とか運営のやつらは言っていたけど、ユウリくんなら分かっちゃうか。流石だね」
本当に面白い存在だ。
「これまでの会議も僕のことを載せて上手く誘導していたよね。賢いと思ったよ」
「いや、あれは本当に分かっていなかったよ。今回のひらめきは、今までの経験から結びついた感じかな」
「ふふ。じゃあ信用しておこうか」
「本当だよ。だからずっとコータが『黒幕』だなんて、正直信じられなかったし、嫌だった。一番、仲がいいと思っていたからね」
ユウリくんは顔をしかめた。
そんな表情もするんだ。
「ねえコータ、『前回の宴の記憶』ってなに?」
「・・・・・・あは」
思わず変な声が出てしまった。
「ユウリくんはいいところに目をつけるね。そこに何か捜し物でも見つけた?」
「うん。見つけたよ。多分だけど――コータが何で『黒幕』になったかっていうことに関係しているよね」
素晴らしすぎてゾクゾクしてきた。
気になる、ってのならまだしも、僕が『黒幕』としてここにいる理由が関係しているなんて事まで当てられるものなのか。
「ユウリくん、君みたいな人は――1000年前にもいなかったよ」
「1000年前・・・・・・?」
「それがユウリくんの問いに対しての答えだよ」
周囲を見回す。
ユウリくんもそうだが、チハヤくんもマシロくんも、何を言っているんだ、というような表情でこちらを見てきている。
「まあ、意味分かんないだろうね。でも言った通りなんだよ。『前回の宴』って、ここつい最近に行われたんじゃなくて、1000年前に行われたんだよ」
「待ってよ・・・・・・ってことはコータさんって・・・・・・本当はおじいちゃんなの!?」
「ははっ」
素直なマシロくんの反応に笑い声を上げてしまった。
「前回の宴の記憶があるからって、僕がそのまま1000年間生きていたわけじゃないよ、マシロくん。だからゾンビでもないさ。あるのは記憶だけだよ。あ、なんか一族で覚えているとかそんなんじゃなくて、なんか魂で覚えている、って感じかな」
「記憶だけ・・・・・・って、それもやばくねえか」
「んー、やばいのかな。記憶が膨大で頭痛い、みたいなのはないから以外と平気かもね。あ、因みに言うと前回リュウの干支の人は最初に殺されてたよ。犯人はウサギの干支の人だったけどね」
「イノシシはー? ・・・・・・って聞こうと思ったけど、今はそれよりも聞きたいことがあるよ」
ユウリくんは僕に向かって指を差す。
「何でコータだけ覚えているの? なんかそういうのって干支の記憶、って形で引き継がれたり、なんかのきっかけで思い出しそうじゃん」
「なんで覚えていないのかは知らないけど、でも僕が覚えているのは、明確に僕だけがみんなと違うから、だよ」
「みんなと違う・・・・・・?」
「あ、そうだ。さっきとは逆に、今度は僕からユウリくんに質問する形式で答えを教えていこうか。勿論、チハヤくんとマシロくんも分かったら答えてね」
ぐるっと一回転して、問いを投げる。
「僕がみんなと違うのは何ででしょうか?」
回答はすぐに飛んできた。
ユウリくんからだった。
「その時の宴の勝利者、つまり――ネズミの干支が『神』になったから、でしょ?」
「せいかーい。ま、簡単すぎたかな」
自身の胸に手を当て、僕は告げる。
「そう。僕が今の『神』だよ。『黒幕』っていう言い方よりもこっちがいいかな。ま、どっちでもいいけど」
「コータさんが・・・・・・神・・・・・・?」
「なんか自分で自分のことを、神だ、っていうのは恥ずかしいよね。でも事実だから仕方ないんだけどね。――ということで、少し自分語りをしようか」
こめかみに手を当てて、僕は言葉を紡ぐ。
◆
今から1000年前、今回と同じように殺し合いによる神決定戦が行われました。そこで勝ったのはネズミの干支の人間だった。
勝ったネズミは神様となり、支配者となりました。
それはもう心地いいものでした。
だけど、その神様の地位は1000年という制限がありました。
もう一回神様になるには同じ宴をしなくてはいけません。
それが運営の指示だからです。
神の座から降りたくないのですが、強制的に退かなくてはいけなくなりました。
もう一度神の座に着くためには、もう一度、宴に参加して勝利しなくてはいけません。
ネズミは勿論、参加することを決めました。
ただ前回の記憶を持っているネズミは、それに加えてノルマも課せられていました。
それは、すぐに終わらせないことです。
運営はすぐに宴が終わることを嫌います。
だからネズミに言いました。
少なくとも君は最初の殺人者になってはいけない、と。
――ってのが今回の大体の流れ。
それで、その条件を呑む代わりに、僕はありとあらゆる有利な条件をつけたんだよ。
そうじゃなくちゃ、メリットがないからね。
だから困ったよ。アユムくんがいきなり神候補に立候補したのは。
あの子は僕がネコになるために、ネズミに化かせたからね。まあネコの方が化けるんだけど。
だからどうしても僕が止めなくちゃいけなかったんだよね。
結局、それでバレちゃったし、その後にジンが神の指名について普通にやっちゃったし、運営はなんだかんだ隠そうともしなかったし。
まあ、もう終わったことだからいいや。
あ、因みに事件についてはクウギョから聞いてないよ。誰が犯人だとか、そういう情報はくれなかったよ。だからあれはきちんとした僕の推理・・・・・・いや、ユウリくんの推理かもね。
僕がクウギョから得ていた情報は、例えばヒナタくんが殺意を抱いて部屋の中でブツブツ呟いていた、とかだね。だから次の殺人が起きそうかどうか、起きそうじゃなかったら誘発してくれ、ってことを言われていたね。
ま、結局何をするまでもなく、みんな殺人をしてくれていたから結果として大いに助かったけれどね。
◆
「――というのが僕がやってきたことだよ。どうだい? 『黒幕』だと思えるかな?」
こうして並べてみると、運営に通じていただけで僕は『黒幕』と言われるようなことはしていない。
ただ、この宴を積極的に進めるという意味では言われても仕方ないかもしれない。
そう思っていたのだが、誰もが口を閉じて固まっていた。
「うんうん。到底『黒幕』じゃないよね。みんなも否定していないってことは、そうだよね。・・・・・・あ、違うか。みんな非現実的すぎて受け入れ切れていないだけか」
非現実、といえば、これも説明してあげよう。
「そういえばみんなはこの建物・・・・・・というか、この『空間』のこと、説明されていなかったよね。せっかくだし教えておこうか。――ねえ、チハヤくん。ここってどこだと思う?」
「どこって・・・・・・そんなの分かるわけねえだろ。ここでは『能力』とかも使えるし、現実じゃねえってことくらいしか分からねえよ」
「そうだね。ここは少なくとも現実じゃないよ。だけど、夢でも、ゲームの中でも、そんなフィクションでありきたりの場所なんかじゃないんだよ。みんな感覚はあったでしょ? お腹はすくし、刺されれば痛い。――実際刺されたチハヤくんが一番実感しているじゃないかな?」
「・・・・・・」
黙り込むチハヤくんから視線を移し、ユウリくんの方を向く。
「ユウリくんはクウギョに聞いていたよね。ここが現実世界じゃなかったとか」
「そうだね。仮想現実ではないって聞いたね。肉体は存在するし現実の物理法則に従った『能力』になるし、死ねば死ぬって言ってたね」
「実はね、あの時の説明で1つ、クウギョは半分事実じゃないことを言っていたんだよ」
「どれのこと?」
「死ねば死ぬ、ってやつ。あれは確かにそうなんだけど、厳密には違うんだよね」
これ以上引き延ばしても何の意味もないので、さっさと説明してしまおう。
「この世界は、いわば現実と非現実の境目みたいな場所なんだ。だから肉体は現実だけど、でも死んでもまだ魂は離れてはいない、っていう状態なんだよ」
「んん? どういうこと?」
マシロくんが頭にはてなマークを浮かべているので、追加で説明をする。
「あー、みんなになじみ深い言い方をすると、天国の門とか地獄の門の目の前にいるって感じかな。肉体は死んでいるけど、魂はまだ戻れますよー、みたいな感じ」
「じゃ、じゃあ生き返ることは出来るの?」
「出来るよ。神がそう望めばね」
僕は肩をすくめる。
「というか、みんな勘違いしているけど、みんなの『能力』って、現実世界でも使えてたんだよ。その使い方を忘れていた、ってだけで。だから過去の干支の人で上手く噛み合った人は、超能力者、とかそれこそ神の使いとか崇められていたね。まあ後者は実質その通りみたいなもんだけど」
「おい、ってことは・・・・・・現実世界に戻ったら俺様達はここで使っていたように『能力』が使えるってことかよ」
「そうだね。記憶に残っていたらそうなるね」
「記憶に・・・・・・?」
チハヤくんが怪訝そうな表情を浮かべたのを確認して、
「――さて、この辺でもういいかな」
僕は手をパンと叩くと、ユウリくんに視線を向けた。
「で、ユウリくん。僕が『黒幕』だって分かって、これからどうするつもりだったの?」
「どうするって、もうこの宴は終わりでしょ? だって、もう誰も殺さないんだから」
「ほう。それは何で?」
「だってコータが『黒幕』だって分かったならば、もうこれ以上殺人は起こらないんだよ。それはコータの言う『運営』も望んでいないんじゃないかな」
「・・・・・・ふ」
思わず笑みが零れる。
「運営に言及するのは流石だね。確かに、このままじゃ膠着状態が続くのは間違いないし、運営はそれを避けたいだろうね」
「なら、ここからもう神を決めちゃうしかないんじゃないかな。例えば……多数決とかどうかな」
「成程。そういう形もあるのか。いい解決方法だね。クウギョに提案してみたら?」
「言われなくてもそうするよ。クウ――」
「ねえ、ユウリくん。疑問に思わなかったのかい?」
彼がクウギョを呼ぶ声に、すかさず問いの言葉を重ねる。
「……疑問?」
「僕がこんなにあっさりと『黒幕』だと認め、そして裏事情とかも全部説明したことについてだよ」
「それは・・・・・・もう、どうしようもなくなったからじゃないのかな」
「確かに、状況的には色々と追い詰められているね。
でもさ、君達はよく知っているよね。僕の目的について」
「目的? それって、神になること、だよ・・・・・・ね・・・・・・」
ユウリくんが目を見開く。
その様子から、ようやく気が付いたらしい。
僕が――どうしようもある、ということを。
次の瞬間。
僕は円卓の中央部から駆け出し、
そして――
「え・・・・・・?」
マシロくんの左胸に、隠し持っていたナイフを突き立てた。




