95話 5章 ~円卓会議~ -04
猫泉コータが『黒幕』。
ユウリくんははっきりとそう言った。
他の2人の目線もそうだと言っている。
僕は突然のことに戸惑いを震えという形で表現して声を放つ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。僕が『黒幕』だってみんな思っているの?」
「そうだよコータ。いや――本当の名前はコータなのかな?」
「何を言っているのさユウリくん。僕は僕だよ!」
しかしユウリくんは懐疑的な目を向けるのを止めない。
僕は困ったような表情で周囲を見回す。
「・・・・・・なあ、本当にコータが『黒幕』なのか?」
「そ、そうだよ。コータさんが『黒幕』には見えないよ」
「ははー。成程。もしかしてそれがコータの『本当の能力』なのかなー。魅了とか騙す、とか、そういう系のなんだねー」
ユウリくんは一向に信じてくれない。
僕は訴える言葉を放つ。
「僕が『黒幕』だって言うのだって、仮にそうだったら一番得をする人だから、って理由じゃないか。それ以外に何か根拠があるの?」
「あるよ」
ユウリくんは断言する。
「といっても、間接的にそうだ、っていうものだけどねー」
「間接的に?」
「じゃあ敢えてコータに答えてもらおうか。君がネズミであることを間接的に証明する方法として、どういうことがあるかな?」
唐突に振られて僕は戸惑いを顔に浮かべる。
「どういうことって言われても・・・・・・」
「ヒントは、根津アユムの方、だよ」
「アユムくんの・・・・・・?」
(・・・・・・それはもうほぼ答えを言っているようなモノじゃないか)
誘導されたのは分かりつつ、僕は答える。
「アユムくんがネコの干支だったら、間接的に僕がネズミってことになる、ってことだよね」
「せいかーい」
パチパチと手を叩く。
「ネコの干支って色々と他の干支とは違うよねー。『能力』がない、とか、神になる権利がないとかさ」
「確かにそんなのあったな」
「ということは・・・・・・アユムさんがそうだった、っていうのがあるの?」
「そうだよ、ユウリくん。マシロくんが言う通り、そんなのは分からないはず――」
「――『神の指名』」
ユウリくんは人差し指と中指を立てる。
「これまでに2回あったよね。ついさっき、ナギサを神とする投票と、最初にアユムに対しての投票の2回が」
「ああ。どっちも成立しなかったよな」
「2回目なんてもう死んじゃった人も投票しなきゃいけないなんて罠だよね。そんなのどこにも書いていなかったし」
「その2回目の投票、みんなおかしな所に気が付かなかった?」
「おかしな所?」
「あの時の投票結果って、こうだったんだよ。
蛇見ナギサ:5票
無効票:7票
――これっておかしいよね。ね? コータ?」
わざわざ僕に振ってくる。
おかしな所は――
「全部で12票しかない、ってことだよね」
「あ、本当だ」
マシロくんが感嘆の声を漏らす。
「みんなということであれば、全部で13票のはずだよね。1票足りないよ」
「そんなの簡単じゃねえか。ネコであるコータの票が入ってなかったんだろ」
「だとしたらさ、ナギサに5票入っているのはおかしくないかなー」
ユウリくんの指摘にチハヤくんは、あっ、と声を上げる。
「あの時生きていたのは5人。なのに5票ナギサに入っているってことはつまり、コータのナギサへの票が有効になっていた、ってことか」
「――ちょっと待ってよ」
僕は反論の口火を切る。
「これこそ、僕以外の誰かが実は生きているって証拠だよ。僕の投票は無効票にすらならなかった、ってことなんだよ」
「じゃあそれは誰だって言うの?」
「それは・・・・・・」
僕は中央にいるヤツを指名する。
「クウギョを操っているヤツだよ」
「ん? どういうこと?」
「僕はネコの干支だし、『黒幕』じゃない。だったら考えられるのは、もう、僕達以外に『黒幕』がいるとしか考えられないよ。さっきの投票が12票しかないってのは、僕を『黒幕』だと思わせる運営側の罠なんだよ」
僕は前のめりになって必死に訴える。
「んなわけねえだろ」
チハヤくんが否定の言葉を掛けてくる。
「だったら本当は14票ってことじゃねえか。だったらアユムはどうなるんだよ」
「アユムくんは・・・・・・ネズミじゃないのは間違いないけど、でも、ネコじゃなかった、ってことなんじゃないかな」
僕は土壇場で出てきた推論を展開する。
「僕はネコだけど、アユムくんはそれこそ普通の人間だったんじゃないかな。だから本当のネズミは運営側で今も僕達を――」
「よくそんな風に途切れないで色々言えるもんだねー」
「・・・・・・」
「あ、素直に感心しているんだよー。すごいなー、って」
でも、と彼は首を横に振る。
「それはあり得ないよ。『黒幕』はこの13人の中にいるのは間違いないんだ」
「どうしてそんなことが言えるのさ」
「1回目の神の指名についての投票結果からだよ。あれの投票結果って覚えている、コータ?」
「えっと、確か・・・・・・反対が1人、だったよね」
「そうだね。加えて――賛成が12人、だったよ」
「あっ!」
マシロくんが声を跳ね上げる。
「最初の投票では全員で13人なんだね! でも、どうして最初とジンくんの時の投票と人数が違うんだろう・・・・・・?」
「そんなの・・・・・・最初の時に14票入っていたら、みんながこの中に『黒幕』がいないって分かっちゃうからだよ」
「・・・・・・ああ、そういうことか」
納得した、というようにチハヤくんが頷いた。
「だよね。チハヤくんも理解して――」
「それが、ユウリが言っている『黒幕』が13人の中にいる理由、ってことなんだな」
僕の言葉ではなく、彼が納得したのはユウリくんの論拠だった。
「もしこの時点で『黒幕』が13人以外にいるってことを隠したかったら、ジンの時と同じように、アユムとコータを無効票にする、かつ自分も投票して全部で12票にすればいいだけだもんな」
「確かに・・・・・・あの時点で合計で12票だったとしても、コータさんは神の指名には投票権もないんだって思って何の違和感も抱かなかったと思う。というか、反対が1票入ったことに意識がいって気が付かなかったかも」
「そういうことー。ならさっきマシロが言っていた通り、何で1回目は全部で13票で、2回目は12票だったのかってのは、何が違うからかな、コータ?」
また僕に振ってくる。
1回目と2回目の違い。
それは――
「・・・・・・対象者の違い、ってことだよね」
「せいかーい。ちゃんと答えてくれるんだね」
にっこり、とユウリくんはいつものような笑顔を向けてくる。
・・・・・・その言葉にはトゲがあるが。
「そうだよ。対象者が1回目は『神になる資格が元々ない人』、2回目は『神になる資格がある人』っていう違いだねー。で、これが理由なのは間違いないけど、他にも大きな違いがあるの、答えてくれるよね?」
「・・・・・・」
僕は口を開く。
「・・・・・・1回目はアユムくんを指定して『賛成』か『反対』を答える投票だった。
でも2回目は『誰を神として指名するのか』という選択式だった」
「あ! 本当だ!」
マシロくんが目を見開いた。
「ちょっと前に自分の投票を見直していたのに気が付かなかったよ・・・・・・確かに、最初だけ賛成か反対かを選ぶものだったよね。でもどうして最初だけそうだったんだろう?」
「・・・・・・そうか。アユムは神の対象に選べねえからか」
ハッとした顔でチハヤくんは膝を叩く。
「だからアユムの時は人物を選択できなかったんだよ。そもそもが神になる権利を持っていなかったから」
「因みにだけど、ジンの時の投票ではアユムは選択出来てたよー。まあ出来なかったらそれだけで『黒幕』が分かっちゃうから、選択されないと分かっていてやったんだろうけどねー」
(・・・・・・そういう所は配慮するのか)
僕は溜息を吐く。
「それこそ自分を対象なのか相手を対象なのかで変わるモノなんじゃないかな。クウギョがそう言っていたの?」
「クウギョに聞いていないから分からないよー。ねえ、クウギョ、どうなの?」
「ワタクシからは何も言えませんね」
即答だった。
だがユウリくんは意に介していない様子で続ける。
「じゃあここからは仮の話をしようか。
アユムが神になる権利がないのに成り行きで神の指名投票を実行しちゃいそうになった。
『黒幕』は困ったよね。
だってこのままだとアユムが満場一致で『神』の指名を成功させてしまうから。
そしたら『黒幕』はどうすると思う?」
その問いはまたしても僕に向けて投げられた。
僕は答える。
「それは・・・・・・投票するしかないんじゃないか。『反対』に」
「そう。アユムが神になる権利を持っていないことを隠すためにはそうするしかないんだよ。そして『神の指名投票』を提案したアユムは成立せずに処刑される」
ひどいよねー、とユウリくんは苦笑にも近い笑いを浮かべる。
「権利を持っていないのに脱落という名の処刑はあるんだからさ。ホント、無能力者はどうすればいいんだろうねー」
「・・・・・・」
『無能力者』という言葉は、もう僕には向けられていない。
ユウリくんの頭の中では、僕が『黒幕』だということで結論づけているようだ。
「・・・・・・もういいよ」
僕は苦しげに絞り出すように声を放つ。
「もうユウリくんは僕を『黒幕』だって決めつけているんでしょ。でも僕は違う。僕はネコの干支で『黒幕』なんかじゃない。今更信じてほしいなんて言えない・・・・・・」
けれど、と口調を強くして言う。
「僕が『黒幕』だっていう証拠が状況証拠以外にあるの!? あるわけないよね!」
「あるよ」
僕の叫び声に近い訴えに、3文字ではっきりと返答するユウリくん。
「これが正真正銘、最後の証拠になるはずだよ。コータももう分かっているはずだよ」
ユウリくんは右手を差し出す。
「コータが『黒幕』じゃないなら、それを証明できるモノがあるよね。
それを――ユウリに見せて」
『黒幕』ではないことを証明できるモノ。
それが何か――
・・・・・・なんて。
もう分かっている。
至極簡単な話だ。
マシロくんも見ていた、あれを見せれば。
全てが――終わる。
「これだよね」
僕はスマホを彼に差し出す。
「ユウリくん。君が見たいのは――『投票結果』でしょ」
ユウリくんは頷く。
「さっきも言った通り、『黒幕』が確実に実行したのは、アユムの『神の指名』で『反対』に投票するということ。イレギュラーで、かつ、証拠が残ってしまうことが分かっていながらも、実行せざるを得なかった」
彼は僕が手渡したスマホを操作し、こちらに向けてくる。
画面に映っていた表示は――
根津アユムを神として認めるかどうか選択してください:反対
「これが証拠だよ」
「そうだね」
――茶番はもう終わりだ。
席を立ち、円卓の中央に向かいながら彼に言葉を掛ける。
「流石だね。今までの事件は手を抜いていたのかな?」
「そうじゃないよ。ユウリはいつだって真剣だったよ」
「それは本心みたいだね。いつも誤魔化す時みたいに語尾が伸びていないよ」
「・・・・・・っ」
「さて」
僕は周囲を見回す。
驚きで固まって口を覆う兎沢マシロ。
あまりに唐突で呆けた様子の龍崎チハヤ。
正解を引き当てたにもかかわらず冷や汗を掻いている様子の猪瀬ユウリ。
彼らの視線は全て僕に集められている。
気分はまるで主人公だ。
いや。
僕は主人公なんかではない。
――主役だ。
「そうさ。この宴の『黒幕』は、この僕だよ」
ようやく。
僕は心からの笑みを浮かべることが出来た。




