94話 5章 ~円卓会議~ -03
ネズミ。
すなわち根津アユムが『黒幕』。
「ちょっと待てよ」
その言葉に異議を唱えたのはチハヤくんだった。
「ネズミって・・・・・・最初に死んだじゃねえか。そいつが『黒幕』だったなんて、おかしすぎるぜ」
「僕もそう思うよ、チハヤくん。でもこれが導き出された答えなんだよ」
「ってことは・・・・・・アユムさんは実は生きている、ってことなの?」
「結論から言えば、そういうのもあるんじゃないかと思ってる」
マシロくんの推察に僕は同意する。
「神になりたがっている『黒幕』が最初に死んだとは到底思えないよ。 目の前で真っ二つにされていたけれど……でも、死んだふりをしてなんらかの方法で生きているんじゃないか、と考えられるよ」
「あれがどう生きているのか分からないけど……あ、今思えば、アユムくんは自分を神に指名した投票をしていたよね」
「待てよ。それって『黒幕』によって否決されたじゃねえか」
「例えばそれが・・・・・・自分自身で投票したとしたら?」
「・・・・・・は?」
僕は推理を披露する。
「『黒幕』は神になろうとしているのと同時に、この宴の運営もしていたんじゃないかな。だから――殺し合いをさせる必要があった」
「成程な。だから自分を処刑という形で死に慣れさせる役割と、俺様達の中に『黒幕』がいるという疑心暗鬼を植え付けて殺し合いを推進した、ってことだな」
「で、でも、ぼく達の目の前でアユムくんは死んだんだよ」
「それもまたトリックなんじゃないかな。ほら、『能力』だってあるし、ここは仮想空間じゃなくとも現実空間じゃない、みたいなことも言っていたから」
「――さて、そこまでにしておこうか」
その時だった。
静かだが通る声で、ユウリくんは僕の言葉を遮った。
「話がとっちらかっちゃったけど、みんな『ネズミが黒幕』ってことは納得してもらえたかな?」
「うん。僕はユウリくんを信じるよ」
「そうだな。もうここまでやってお前が『黒幕』だなんて思わねえよ、流石に」
「ですです。確かに、最初にアユムさんが『黒幕』だなんて言ってもぼく達は信じなかっただろうし、ユウリさんの言う通りだと思うよ」
同様に、マシロくんとチハヤくんも同意の言葉を口にする。
「オッケー」
周囲を見回して頷く。
「じゃあ――ここからが本番ね」
「本番?」
「そうだよ。みんなにこれから考えてもらいたいのは――」
次にユウリくんの口から放たれた言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
「――ネズミは誰なのか、だよ」
「・・・・・・は?」
最初に反応したのはチハヤくんだった。
「ネズミの干支が誰なのかって、そりゃ根津アユムだろ」
「どうして?」
「どうしてって、最初にクウギョが言っていたじゃねえか」
「そう。クウギョが言っていただけ、なんだよ。真にそうだとは誰も言っていないし、誰が決めているのかも知らない」
「でもよ、名前がそうじゃねえか」
チハヤくんは自分の手に胸を当てる。
「俺様達は名字にみんな干支に関係する名前が入っているじゃねえかよ。だったら」
「根津という名字に『ネズミ』は入っていないよ」
ユウリくんの指摘に「グッ・・・・・・」と言葉に詰まるチハヤくん。
「アユムは他の人と比べて、色々となんか違うところがあるんだよね。だからネズミじゃないんじゃないかな、って思ったら段々と繋がってきたんだよね」
ユウリくんは人差し指をくるくると回る。
「まず『黒幕』の情報から整理しようかー。まず『前回の宴の記憶を持っている』ってことだからさ、『黒幕』は自分がそうであるという自覚はあるわけだよねー」
「ん、ああ。意味分かんないけどな。前回の宴って何だよ」
「そこはユウリも分からないよー。でも、同じようなことがあった、って考えたら、自分が勝つ方法として色々と仕込んでいそうだなーとも思ったね」
「経験からってことだよね」
マシロくんが考え込む。
「『黒幕』がみんなと同じ条件でこの宴に参加していないのは、ぼくが持っていた情報の『黒幕は夜にクウギョから情報を得ている』ってやつから分かってたよね」
「そりゃ全部知ってたらアンフェアだよな。ならば本当はネズミの干支だっていうのも隠したりしてそうだな」
「じゃあ2文字の干支だと思っていた人が、実はネズミだった可能性もあるんだよね。タケルくん、ケンタロウくん、ナギサくん、サイくん、サスケくん、ツバメくん、ヒナタくん・・・・・・こんなにもいるんだね」
僕は候補を口にすると、ユウリくんが「じゃあさ」と問いかけてくる。
「『神になろうとしている』という目的だった『黒幕』について、この中で確実に違うのって誰だと思う?」
「確実に違うのは・・・・・・」
僕は候補の中から除外要素を上げる。
「犯人だった人達だね。サイくん、ツバメくん、ヒナタくん。彼らは、神になる権利を失ったからここから逆転する術はないよ」
「せいかーい。ま、同じ理由でアユムも違うって話なんだよねー」
彼も『脱落』したのだから。
「残るはタケル、ケンタロウ、ナギサ、サスケか。こっから除外できる要素なんてあるのか?」
「あるよ。それは――」
僕は提示する。
「『黒幕は能力を偽っている』というやつだよ。
つまり、明らかに超常的な力を持っていた人達は除外できるんだ」
「なら絵に入れるケンタロウさんに、見ざる言わざる聞かざるを出来るサスケさんは除外できるね」
「あとはナギサくんもだと思うよ。目の前で物理法則を無視して配線が丸まってたし、『巻くことが出来る能力』は偽りないと思うよ」
「おいおい、だとしたら残ったのは1人しかいねえじゃねえか」
除外されずに残った1人。
それは――
「タケルくん、だよね。彼がまさか『黒幕』だったなんて――」
「そんなわけないよ」
即座に、ユウリくんに否定された。
「ねえ、どうしてもっと怪しい人がいるのに、どうしてそこに気が付かないのかな?」
「もっと怪しい人・・・・・・?」
「あ。もしかして、それが『黒幕』の本当の『能力』だったりするのかなー?」
ユウリくんは人差し指を額に添える。
「思考を変えてみようよ。除外できるのは誰か、じゃなくて――誰が一番、ネズミの干支であることを隠していたら得をするのか、って方向にさ」
「誰が一番得をするのかって・・・・・・そりゃあ――」
チハヤくんが視線を向けてくる。
「つまり既に死んでいる人よりも得をする人ってことだよね。それって――」
マシロくんが視線を向けてくる。
「そうだよ」
ユウリくんが視線を向けてくる。
「何の『能力』も持っていないと偽って、本当は神になる権利を持っている干支であるネズミだったならば、全てが結びつく」
そして、指先を突きつけてきた。
「真のネズミの干支である『黒幕』は君だよ。――コータ」




