93話 5章 ~円卓会議~ -02
『黒幕』の情報から導き出されたのは、ユウリくんが当てはまる、ということだった。
にわかには信じられないが、しかし、この情報は本物だと、ユウリくん自身が口にしていたのだ。
「ユウリくん、本当に君が『黒幕』なの・・・・・・?」
恐る恐る、僕は訊ねる。
するとユウリくんは、先程よりもにっこりと笑みを深くした。
「何を言っているのコータ。ユウリが『黒幕』だったら、こんな円卓会議を開く意味が無いじゃない」
「それはそうだけど・・・・・・」
至極当たり前のことを返される。
だが、答えにはなっていない。
「でもよ、コータの言う通り、残っている4人の中で能力を偽っている可能性があるのはお前だけじゃねえか」
「違うよ」
ユウリくんは首を横に振る。
「正確には、『能力』を明かしているのがユウリだけ、ってことだよね」
「ん? ああ、そうだけど・・・・・・それに何か違いがあるのか?」
「大ありだよ。よく考えてみてよー。『黒幕』の情報では『能力を偽ってる』だよねー」
でもさー、とユウリくんは目を細める。
「それってさー『能力が異なる』じゃないんだよ。」
能力が異なる、じゃない・・・・・・?
もしかしてユウリくんが言おうとしているのは・・・・・・
「能力を偽っているってのは、『本当は違う能力だ』ということじゃなくて――『能力そのものが偽り』の可能性もある、っていうこと?」
「そういうことー」
頷くユウリくんに相反して、マシロくんが頭を抱える。
「どういうこと? さっぱり分からないよ」
「えっとね、僕以外のみんな『能力』を持っているって話だったよね。でも――実際は持っていなかったら、それってどうなる?」
「『能力』を持っていない・・・・・・?」
「それって、持っていないのに持っているって『能力を偽っている』ってことになるよね」
「あー、そういうことか!」
マシロくんが手をぽんと打つ。
「それだったら『能力』を誰にも明かしていないことが、逆に偽りになるんだね。だって持っているフリをしているんだから」
「そゆことー。まあ更にその逆も考えられるけどねー。『能力』があるのにないっていうのもねー」
それだと僕も容疑者になるのだが・・・・・・まあ、ユウリくんは本気で言っていないだろう。
話が逸れそうになったので僕はまとめを行う。
「つまり、ユウリくん以外にも当てはまる、ということなんだよ。だからチハヤくん、マシロくん、それにアユムくんも、また黒幕候補に挙がってくるんだ」
「だー、結局変わらねえじゃねえかよ」
チハヤくんが頭を掻きむしる。
結局まだ候補は4人のままだ。
「まあ他にも、ユウリ達には話していないけど死んじゃった他の誰かにはこっそり嘘の『能力』を教えていたパターンも、能力を偽っているってなると思うけどねー。いずれにしろ、ユウリを『黒幕』というには不十分じゃないかなー」
「うん。そうみたいだね。ごめんね」
頭を下げると、ユウリくんはいつものような笑みを見せてくる。
「別にいいんだよー。ここはそういう場だしねー。だから気にせずどんどん発言してっちゃおー」
「ユウリくん・・・・・・」
疑ったのに許してくれている。
こんな彼が『黒幕』には成り得ない。
・・・・・・方向性を変えなきゃいけない。
僕は自分の頬をパンと叩いて、気持ちをリセットした。
「ユウリくんが『黒幕』だと断定出来ないってことは分かった。だとすると、他に『黒幕』を絞り込む要素ってないかな」
「あるよー」
ユウリくんが間髪入れずに手を上げる。
「ユウリがさっき言った『能力がないのにあるって言うのも偽り』ってやつは、すぐに証明できるよー」
「すぐに証明できる・・・・・・あ、そうか」
単純なことに気が付かなかった。
僕は2人に提案する。
「マシロくん、チハヤくん、今ここで君達の『能力』について教えてくれないかな。そうすれば『能力がある』っていう証明になる、すなわち――『能力』に偽りがないってことになるよ」
「あ!」
マシロくんが顔を輝かせる。
「それなら喜んで見せるよ、ぼくの『能力』は・・・・・・」
と、そこでマシロくんは顔を硬直させる。
そしてきょろきょろと辺りを見回すと眉を下げる。
「・・・・・・ここから離れると拘束されちゃうじゃん・・・・・・」
「いいえ。今は円卓会議ではないので、そのようなことはありませんよ」
すかさずクウギョがどこからか現れてそう言った。
まあ勝手にユウリくんがやっているだけだもんな。
「ホント!? じゃあ見せるね。ぼくの『能力』は――」
次の瞬間、マシロくんはその場から高く飛び上がった。
その距離は5メートル、10メートル・・・・・・いやもっとか。
あっという間にかなり高い位置にある円卓の部屋の天井に手をついて戻ってくる。
「この通り、『ジャンプ力が高くなる』ってことだよ」
「跳躍力強化か。ウサギの干支らしい『能力』だね」
「着地の時に痛くないの?」
「全然。身体が軽いからかな。ジャンプした後に痛かったことはないよ」
「でもよ、その『能力』なら隠す必要ないんじゃねえか。なんで隠してたんだ?」
ぴょんぴょんと3~4メートルほど飛び続けているマシロくんに、チハヤくんは疑問をぶつける。
「う・・・・・・あんまりいい理由じゃないんだけどさ、いざとなった時に逃げられるじゃない。屋外で襲われたら屋上とかにさ」
成程、自衛のためだったか。
「でもさー、それだったらナギサの事件の時に屋上からジャンプで飛び降りることが出来たから容疑者筆頭だったよねー。結果的にジンが犯人だったから良かったけどー」
「う・・・・・・それを言われると返す言葉もないよ・・・・・・というか飛び降りたことないから出来るか分かんないけどさ・・・・・・」
もし、知られていたらジンくんに利用されていたのかもしれない。そういう意味ではある意味、『能力』を隠していたことはファインプレーだったのかも。
いずれにしろ、重要なのはそこではない。
「これでマシロくんが『能力』を持っていると偽っていた、ということは無くなるね。後は・・・・・・」
ちら、と僕はチハヤくんに視線を向ける。
するとチハヤくんは、深く溜息をつく。
「俺様も証明しろ、ってんだろ。分かってるよ。だけど……証明がしたくても出来ねえんだよ」
「証明出来ない・・・・・・なんで?」
「こういうことだよ」
「えっえっえっ!?」
唐突にチハヤくんはマシロくんに近づいていくと、その目の前で手をかざす。
思わず目を瞑るマシロくん。
「・・・・・・あれ? なにもしないの?」
「なんもしてねえわけじゃねえんだよ」
チハヤくんは溜息をつく。
「マシロ、なんか変わったことはねえか?」
「え?」
マシロくんは自分の身体をぺたぺたと触る。
「あ。なんか身体が軽くなった気がするよ」
「おお、そうなるのか」
「って、何でチハヤさんが驚いているの?」
「俺様、この『能力』を使ったことなかったからな」
「ちょっと待ってよ、2人とも。こっちは何が何だか分からないよ。説明してくれないかな」
僕の求めに、チハヤくんは答える。
「俺様の『能力』は、いわば『他人へのバフ』なんだよ」
「バフ・・・・・・」
「日本語だと『能力強化』だねー。なるほどー」
ユウリくんがうんうんと頷く。
「チハヤはマシロの『跳躍力』を強化したんだー。今なら宇宙まで飛べそうだねー」
「いや、そこまでは無理だと思うよ」
マシロくんの冷静なツッコミがくる。
「あ、ユウリには使わないでねー。多分全部理解っちゃうようになるからさー」
確かに、ユウリくんの『能力』を強化したら全てを見つけてしまうから、推理も何も無くなってしまうだろう。それだと探偵でなくなってしまうから、嫌がるというのも何となく分かる。
「ってことでよ、俺様の『能力』は目に見えないから証明できねえんだよ」
「それは分かったよ。でも、何でチハヤくんは『能力』を隠していたの? マシロくんみたいに隠していたらなんかいいことでもある『能力』じゃなさそうだし・・・・・・」
「それはよ・・・・・・」
言いにくそうに口を尖らせる。
「・・・・・・単純に『能力』がダサい、って感じたからだな。サポーターみたいな、俺様っぽくなかったから、言いたくなかった。それだけだ」
「・・・・・・成程」
チハヤくんの性格を考えたら大分納得感がある。
「でもこれでチハヤも『能力がないと偽っている』ってことじゃなくなったねー」
「信用してくれるのは嬉しいが、これで証明になるか?」
「なるよー。ユウリは信じるよー」
ユウリくんが強引にそう進める。
ということは、彼の中でチハヤくんは『黒幕』じゃないということだろう。
そうなると、残るは2人。
残った内の1人はユウリくん。
だけど、僕はもう彼が『黒幕』だとは思えない。
ならば『黒幕』は――
「・・・・・・ユウリくん。君が言いたいことは分かったよ」
僕は整理しながら確認の意味も込めて口にする。
「2文字の干支じゃない、という情報から、ウシ、トラ、ヘビ、ウマ、サル、トリ、イヌの7人が除外される。
先の事件からヒツジが除外される。
能力を偽っている、という情報から、リュウ、ウサギが除外される。
そして自分――イノシシではないということも分かっているから、君が『黒幕』だと思っているのは――」
「そうだよ」
彼ははっきりと告げた。
「『黒幕』は――ネズミだよ」




