92話 5章 ~円卓会議~ -01
ジンくんがナギサくんを殺害した事件の直後にユウリくん発意で行われることとなった、円卓会議。
その議題は『黒幕』について。
そして彼はこの円卓会議を「最後の円卓会議」と言い切った。
つまり――
「ユウリくん、まずはどうしてこの円卓会議? を開こうと思ったのか教えてもらえないかな?」
「それは勿論、『黒幕』が誰だか分かったからだよー」
やはりそうか。
ユウリくんなら分かるんじゃないかと思った。
ある種理解していた僕と対称に、2人は驚きを示す。
「ほ、本当なの!?」
「おいユウリ、『黒幕』ってのは誰なんだよ?」
「んー、言ってもいいんだけどね。でも、この人だよ、って言っても、何で? ってなると思うよ」
確かに。
ここで彼が誰かの名前を出しても、どうして、としかならない。もしこの中にいたらなおさらだ。
「だから、根拠とか含めて順番立てて話していくよ。確認も含めてね」
「分かったよ、ユウリくん。じゃあまずは何から話そうか」
僕が促すと、彼は「うーん」と唸る。
「じゃあ最初は『黒幕』の情報が何か、っていうやつ、みんな持っているよね。それについて話そうか」
「『黒幕』の情報ってあれか封筒に入っていたやつだよな」
「そうだね。あれってみんなの部屋の前にあったんだよね? 僕は『黒幕は男性である』だったよ」
「ユウリはさっき見せたけど『黒幕は2文字の干支の人物ではない』だよ」
「俺様は『黒幕は前回の宴の記憶を持っている』だ。なんのことか分からないけどね」
「あ、そういえば僕、マシロくんのだけは知らないな。何だったの?」
「えっと、隠すつもりはなかったんだけど・・・・・・ぼくのは『黒幕は夜にクウギョから情報を得ている』だったよ」
「ってことはクウギョと『黒幕』は繋がっていたんだね。当たり前だけど」
「それであとはジンとナギサの持っていた情報だけど、ジンは『黒幕は神になろうとしている』だったね」
「ナギサのはジンが奪ってたんだよな。確か『黒幕は能力を偽っている』だったか」
「うん。これで全部で合ってるよ。みんな嘘は言っていないね」
ユウリくんが満足そうに頷く。
「おい、なんで嘘じゃないって分かるんだよ」
「だって、あの封筒をみんなの部屋の前に置いたの、ユウリだもん」
彼の告げた言葉に、みんなは反応するのに時間が掛かった。
「ど、どういうこと、ユウリくん? 封筒を置いたということは・・・・・・」
君が運営側、つまり『黒幕』だったのか――
そう問いかける前に、ユウリくんは答えを告げる。
「これね、あの『宝探しゲーム』の賞品だったんだよー」
「宝探しゲーム・・・・・・」
ああ、そういうのもあったな。
ナギサくんの事件のせいですっかり忘れていた。
「いつの間にクリアしていたの? 確か、あの時、ユウリくんは朝食に寝坊したくらいスタートが遅かったと思うけど・・・・・・」
「夜の間に何とか解いたんだよ」
「夜の間、ってことはもしかして・・・・・・就寝時間に部屋に戻らなかったの!?」
「クウギョは『明日から開始』って言ってたから、0時から行けるじゃん、って思ったんだよね。謎解きとか色々あって楽しかったよー。まあ、暗い中で探すのは大変だったけどねー」
確かに、スタート時間は言っていなかったけれど、各部屋に鍵が掛かるからてっきり翌朝だと思い込んでいた。
・・・・・・そうか。だから彼は寝坊したんだ。
よく考えてみたら、こういう捜索系は彼の『能力』が有利だ。
にも関わらず、ユウリくんはあまり積極的に探しているようには見えなかった。
それもそのはず。
その時点で既に彼は『宝』を入手していたからだ。
「でも、『黒幕』の情報はこの6つで全部だった。というか6つって、他の人と分け合うの前提っぽかったからねー。一番重要そうな情報だけ持っていて、他の人の反応を見ようと思ったんだよー。
例えば――情報を隠したりしていないか、とかねー」
その言葉に僕は思わずマシロくんに視線を向けてしまう。
「な、なに?」
「いや、実は今の今まで『黒幕』の情報を聞けていなかったのは、マシロくんだけだったんだよね」
「あ、あれは言うタイミング逃しただけだよ! カフェテリアに行ったらナギサさんの手紙があって・・・・・・」
「そうだよね。まあ、あれ結局ジンくんが置いた手紙だったっぽいけどね」
「――ということで」
手をパン、と叩いてユウリくんは視線を自分に集める。
「あの『黒幕』の情報は正しいってことだよ。運営側から提供された『宝』なんだしね。
――じゃあさ、この中で『黒幕』候補の数をまず絞り込める情報ってどれかな?」
黒幕の情報・・・・・・
男性である。
前回の宴の記憶を持っている。
2文字の干支の人物ではない。
夜にクウギョから情報を得ている。
神になろうとしている。
能力を偽っている。
この中だと――
「『黒幕は2文字の干支の人物ではない』ってやつじゃないかな。
確定で複数人が『黒幕』から除外されるよね」
「そう。コータの言う通りだよー」
ユウリくんが指で丸を作る。
「だから、ユウリは自分だけが持つ情報としたんだよねー」
「あ、そうだったよね」
ということは、ユウリくんも『黒幕』に関しての一番の情報だと思ったわけだ。
「2文字の干支は・・・・・・ウシ、トラ、ヘビ、ウマ、サル、トリ、イヌだね」
「つまり、タケルさん、ケンタロウさん、ナギサさん、サイさん、サスケさん、ツバメさん、ヒナタさんは除外されるんですね」
「それとコータもだろ。ネコなんだから」
「まあネコを干支とするか分からないけどね」
「そもそもコータさんは『黒幕』じゃないよ。神になれないんだから」
「確かにそうだな。――となると残るのは・・・・・・」
チハヤくんが顎に手を当てる。
「ネズミ、ウサギ、リュウ、ヒツジ、イノシシってことだな。・・・・・・って、ここに3人もいるじゃねえか」
「あ、本当だ。これって偶然なのかな・・・・・・?」
「偶然じゃ無いと思うよー」
ユウリくんが否定する。
「多分、残った中から1人くらいしか除外できない情報をわざと用意したんだと思うよ。運営って性格悪いからね」
よく上手い具合に共通点があったものだ。関心してしまう程だ。
「じゃあこの5人の中に『黒幕』がいるってことだな」
「そうだね。でも、この中の1人は除外してもいい人がいると思うよ」
「あ? 誰だよ、コータ?」
「それは・・・・・・」
僕はその人物が誰なのかを答える。
「ジンくんだよ。ジンくんは他の黒幕の情報から除外できるんだ」
その黒幕の情報とは――
「『黒幕は神になろうとしている』――この情報が正しければ、最後の最後で神の指名でナギサくんに投票するように言ってたジンくんは絶対に違うんだ。足掻くにしても自分に投票を促すはずだからね」
「確かにそうだよね。ジンさんは神になりたいのならばコータさんの言うとおりにするし、もし『黒幕』だっていうことを隠しておきたいのならば、神の投票なんてことをせずにそのまま犯人投票だけにすればいいからね」
「ってことで残り4人だね。チハヤくんとマシロくん、ユウリくんにアユムくん」
「アユムさんか・・・・・・最初に処刑されたので正直分かっていないんですよね。・・・・・・あ、そういえばアユムさんは神への投票で自分にするように呼びかけてたよね」
「確かに。そうなると条件を満たしているよね、アユムくんも」
「いや、アユムも除外できると思うぜ」
「え? どうして?」
「3回目の事件を思い出してみろ」
3回目の事件。
サスケくんがヒナタくんに殺された事件。
「あの事件でサスケがクウギョから情報を引き出していたじゃねえか。あの時点で『黒幕はまだ生きている』って」
「あ、そういえば」
すっかりと忘れていたが、確かにそう言っていた。
「なら最初に処刑されたアユムくんは『黒幕』の条件を満たしていないよね」
「まあ、それは確定情報じゃないけどねー」
ユウリくんが釘を刺してくる。
しかし、確定情報ではなくても信憑性が高い情報ではある。
「でもユウリくん、確定情報だけでこれ以上絞ることは――」
そう反論しようとしたその時。
僕は唐突に思い当たった。
「いや・・・・・・確定情報だけで『黒幕』を絞り込めるかも・・・・・・」
「本当か、コータ!?」
「うん。だってあの情報から――」
と。
そこまで言って僕は言葉を止めてしまった。
「・・・・・・? どうした、コータ?」
まさか。
でも。
なんで?
導き出された結論を吐き出すのに時間が掛かってしまった。
だが。
僕は大きく深呼吸した後に、きちんと告げることを決めた。
「・・・・・・『あの情報』から、残った3人・・・・・・アユムくんも含めたら4人だけど、それらから1人に絞り込めるんだ」
「マジか? なんなんだ、その情報は?」
「それは――」
僕は喉をゴクリと鳴らし、告げる。
「――『犯人は能力を偽っている』だよ」
「・・・・・・え? それで絞り込めるの?」
マシロくんの疑問を受けて、僕は答える。
「『能力』についてなんだけど、残った4人の中の3人に、ある共通点があるんだ」
「共通点?」
言いたくない。
「ねえ、マシロくん」
だから遠回りな言い方にする。
「チハヤくんの『能力』って何か知ってる?」
「チハヤさんの『能力』? それは・・・・・・」
マシロくんは思い出すかのように上を向いていたが、やがて首を捻る。
「・・・・・・分からないよ。だって聞いたことないし」
そうだ。
「ねえ、チハヤくん」
「ああ?」
「マシロくんの『能力』って何か知ってる?」
「マシロの『能力』が何かってそりゃあ・・・・・・」
口を開いてからチハヤくんは数秒間固まった。後に眉間に皺を寄せる。
「・・・・・・知らねえな。こいつ『能力』が何かを言ってねえだろ」
「そう。2人の反応も回答も正解。その通りなんだ」
僕は事実を告げる。
「だってチハヤくんもマシロくんも、誰にも――『能力』について教えていないんだから」
そう。
この2人は自分の『能力』について一切説明することも、その片鱗を見せることもしてこなかった。
「確かに言ってねえな。マシロもそうか?」
「はい。ぼくは言いたくないから黙って隠してたけど・・・・・・」
マシロくんの顔が一瞬で青ざめる。
「まさかそれだから『黒幕』だって言わないよね!?」
「言わないよ。むしろ、逆、なんだよ」
「逆?」
「2人の『能力』は誰にも知られていない。だったらさ――知られていない『能力』を偽ることなんて出来ないってことだよね。そもそもその『偽った能力』すら見せていないんだからさ」
『能力』を偽っている。
裏を返せば「偽りの『能力』を公言している」ということだ。
公言していない以上、ロジックが成り立たない。
「同様にアユムくんは『能力』を見せるまもなく処刑された。偽りも何も見せられていないんだからね」
「だな。それが3人の『能力』についての共通点、ってわけ・・・・・・か・・・・・・」
喋っている途中で、チハヤくんも気が付いたようだ。
「おい、コータ。ってことは『黒幕』は・・・・・・」
「・・・・・・そういうことになるね」
僕は震えた声を出す。
「残った4人の中で『能力』が広く知られている人物は1人しかいない」
その人物に向かって。
僕は指先を向ける。
「君しかいないんだ――猪瀬ユウリくん」
「へえ」
指先を突きつけた先にいるユウリくんの表情は――微笑だった。




