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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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64.領都へ来たよ 北の古塔

秋祭りは昨日終わりを迎えた。剣術大会はさすが武の辺境伯領と呼ばれるだけあって、勇ましい掛け声や観客を巻き込んで熱狂の渦を巻き上げた。


テリーは女性の部で準優勝、クリスは男性の部で三位だった。


テリーはともかく、クリスは悔しそうにしていたが、強者揃いの辺境伯軍の兵士と高ランクの冒険者相手に三位である。かなりの腕前、かなりの快挙でディフラン公爵家としても鼻が高い。


その他も見どころ一杯の秋祭りで、イリシオンとあっちへふらふら、こっちへふらふらと古書や古道具屋で掘り出し物を探したり、屋台の食べ物を数種類買って食べ比べたり、と秋祭りを心ゆくまで満喫した。


色々あったが、終わりよければ全てよし。楽しい秋祭りだった。




◇◇◇




「今日も何も予定がないわね」

「市井では放置プレーって言うらしいですよっ」



秋祭の翌日からする事がなく暇である。婚約者、ウィルソン辺境伯家当主ヴィアスからは『好きに過ごせ』だけで、退屈すぎてモゾモゾする。


既に筆頭執務官長ハリウェルを通して、翌年の婚姻の儀まで辺境伯領の滞在許可証も手に入った。


片手に筆頭王宮魔術師団長ロズウェル第二王子からのなんちゃって依頼状をチラつかせたのだ。伊達に長い肩書きではないのである。


元々、秋祭りが終わり次第、テリーとクリスが準備してくれた中部城塞都市ブラックストーンの屋敷で過ごす予定でいたが、形式上は辺境伯の居城、ブラックストーン城に滞在することになった。


居城に部屋が余りある中、違う屋敷に滞在すると不仲説に繋がるからだ。

個人の云々はともかく、ディフラン公爵家とウィルソン辺境伯家の不仲説。


そして、王令による婚姻なので、ゆくゆくは王家とウィルソン辺境伯家の不仲説まで広がってしまうことを避けるための処置だ。


居城の準備ができるまで、出立を半月程延期してほしいとハリウェルから要請があった。文句を言える立場ではないので快諾したが、何もすることがないのである。


そして振り出しに戻る‥‥。



「そうだわ、ライラ。わたくしが目を通しても問題がない魔の森の魔獣と薬草についての書物や、何らかの文献などあるかしら? 知識として頭に入れて置きたいわ」


「はい、承知いたしました。すぐに確認して参ります」


そして古い時代の鍵を片手に戻ってきた。何でも城の片隅にある北の古塔の本は好きに目を通して良いとのことだ。


面白そうなのでイリシオンにも声をかけると、打てば響くような返答が返ってきた。イリシオンも暇を持て余していたようだ。


早速、案内役のライラを先頭に、その北の古塔へと向かう。



「「「‥‥‥‥」」」


「‥‥ライラ、この鍵は誰から預かってきたの?」

「はい、あの、ナザレ執務次官補です‥‥」


「そうだと思いましたっ。まったく、あの人、何かと絡むんですよねっ」

納得が行ったような顔をして、テリーがうんうんと頷いた。


北の古塔は城壁と一体になっている三、四階建ての塔で、扉までがっつりと蔦で覆われている。ここ百年は開けてません、と言われても誰も驚かないだろう。


まあ、イリシオンの家の二百年よりかは幾らかマシである。


ここは人の目も多く、精霊魔法は使わずに昔ながらの手法で、地道にクリスとエリオットが蔦を薙ぎ払い、ナタで巻き付く太い蔓を取り除く。徐々に簡素な木製の扉が露わになってくる。


物置にも見える古塔に訝しんだライラが確認しに向かい、急いだようで息を切らせて戻ってきた。


「そ、その、昔の学者様方が集められた古書の保管庫だそうで、お好きにお読みくださいと‥‥‥」


改めて北の古塔を眺めると図書室に入りきらなかった重要性の低い古書の保管庫のように見える。


まあいいかと、持ち手が飾り気のない輪っかで、少し錆び付いている昔ながらの鉄鍵を鍵穴に入れて回し押す。ガチャリと重々しい金属音がした。


建て付けが悪く、クリスの体当たりで扉が開くと同時に煙のように埃が舞う。小窓からの陽の光を受けてキラキラと幻想的にも見えるが、誰からとなく、くしゅん、ぶふっん、はくしょっい!、とくしゃみが始まり、鼻をすする音までしてくる。


「リリアにゃ、はにゃが、むじゅむじゅする」

大きなくしゃみを一つして、イリシオンはブーンと音を立てて鼻をかんだ。



一度撤退して、手拭いで顔を覆い、まずは軽く塔の中を見て回る。塔は四階建てで歩幅十五歩ほどの四角形。小さいが石造りで頑丈そうだ。


塔の近くにいた主館の警備兵によると、かなり古い時代に防城塔の一つだったのではないかとの事だ。


一階が木箱やらが雑に積み重なった物置になっていて、二階らか上は壁一面の本棚に本が所狭しと並べられ、入り切れない本は備え付けの大きめな台に乱雑に置かれている。


「本棚の本も分類されてないですっ。そのまま適当に突っ込んだ感じですねっ」


「こ、これはどこから手をつけたらいいのか‥‥空気も酷いですし‥‥」


これではいかん、とクリスが俄然奮い立ってくれた。テリー、ライラ、そしてエリオットを引き連れてキリリと先頭に立つ。


「まず掃除は上からが基本です。エリオットさんは空気の入れ替え、小窓を全て開けてください。テリーさんとライラさんは四階の埃払いからー‥‥」


次々と指示して、どんどんと掃除と片付けが進んでいく。


片付けるつもり満々だったが、つい本の内容が気になって字を追ってしまい、クリスから戦力外通知を受けてしまった。同じくくしゃみが止まらないイリシオンと、とぼとぼと塔から外に出る。


外は初冬の陽が静かに降り注ぐものの、通り過ぎる風は冷たい。


寒そうにしているイリシオンと連れ立って一度部屋で暖を取る事にした。暖炉の前にある座り心地のよさそうな張地椅子に腰かけて、塔から持ち出した数冊の書物を読み始める。


隣のイリシオンは見たこともない古代文字を本に夢中のようだ。


薪の爆ぜる音とページをめくる音だけが響く。



昼を挟み、午後の早い時刻には古塔の四階が居心地の良い空間となっていた。


「お嬢様、本の分類はまだですが、四階だけは掃除が終わりました」


「この塔、石造りで地味に冷えますから、暖色の蜜柑色にしましたっ!」


埃やちり一つなく掃除されていて、雑巾かけしたのか床までピカピカだ。それにテリーが用意したと思われる蜜柑色の絨毯に膝掛け。


庭園で勝手に拝借したらしい花もかわいらしく飾られている。大きな机や椅子はエリオットが運んでくれたそうだ。


「お茶と焼き菓子の準備もできてます」


礼を伝えると照れ臭そうにはにかむ皆の姿が可愛らしかった。



翌日も同じくで、市井でいう放置プレーは続いている。忙しい中の押しかけ婚約者は微妙な立場で扱いづらいのだろう。


そう言うことで、引きこもりの条件が揃ってしまった。すっかり掃除も終わったこの塔はいい感じに狭く、居心地が良いので隠れ家として過ごしている。


「ぷふぅ、子供の落書きのような下手くそな絵画を発見しましたっ」


覗き込むと大目で牙が四本の大型猫のようにも見える魔獣の絵だ。背中が縞々でお腹が水玉模様。愛嬌のある立ち姿が見ようによっては可愛いような? 感じである。


もう一枚はモコモコした巨大な山犬に人が跨り、山を駆けている絵だ。これも山犬のへばったような愛嬌のある描写が可愛らしい。


そんな中にもキラリと光る古書も見つけた。イリシオン曰く、神聖古代文字の契約状や古語によるこの地方の歴史と記録、ウィルソンが国であった頃の王族の日記や事務官の備忘録。


この塔にある書物は重要性の低い古書と判断されたようだが、見方を変えれば重要だったり、多国語や古語で解読できなかっただけで貴重だったり、と歴史的に価値の高い掘り出し物がたくさんある。


今日もイリシオンとそれぞれお気に入りの肘掛椅子に陣取り、本の字を追う。そして、いつものように日が暮れる頃に大きく伸びをした。

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