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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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62.領都へ来たよ テラの秋祭り

そして既にこの日、何杯目か分からない紅茶をハリウェル筆頭執務官長と口にする。


ハリウェルは洗練された滑らかな所作で紅茶を一口飲み、ソーサーを静かに戻した。


「ご意向の確認に参りました。テラの秋祭りで、舞を披露したいとのご要望をナザレが受けたようですが、変更はございませんか」


「いえ、ナザレ執務次官補とコーバス子爵令嬢の提案を申し受けたまで。要望ではございませんわ。ですが、予定はそのまま、秋祭りの舞に参加させていただきたく存じます」


「‥‥‥なるほど。では、ご参考までに秋祭りの概要をまとめたものを」


丁寧にテリーへと手渡された書状には秋祭りの流れとおおよその要する時刻が記されている。



そして、ここからが本番とばかりに真剣な顔をしたハリウェルが、第六軍中隊長との手合わせのことを聞いてきた。


「ご令嬢はどこで剣を学ばれたのですか? バージルは伊達に中隊長を務めているのではなく、実力のもと選抜された男です」


(うっ、バージル‥‥‥名など知りたくなかったわ)


「あの一件をお聞き及びとのこと、お恥ずかしい限りですわ。近衛騎士である次兄の指導のもとで学びましたの」


「‥‥‥そうでしたか。目撃した者達によると、騎士の動きではなかったとか‥‥‥」


騎士の剣術は正統なもので、剣と盾を用いた攻防に長けている。冒険者の剣術は我流で体術を組み入れた動き。盾や防具で戦ったりの何でもありだ。


「あら、我流でお恥ずかしいですわ」


ここで秘技、扇子パタパタ。この話はここまで、と線引きの意思表示で扇子をシャッと広げて口元を隠した。


扇子は向きや動かし方の一つで様々な意志疎通を図ることができる令嬢必需品の一つである。


口に出せない気持ちや意志を伝えることができる扇子言葉もあり、よく恋の駆け引きに使われる。


因みにテリーが携帯している鉄扇子とは全く別のものである。



扇子シャッをされたのもあり、ハリウェルは先ほどから顎に手をやり、思案気だ。

「そうですか‥‥。謝罪の為、バージルの面会許可をーー‥‥」


圧を入れた目でにっこりと微笑む。


「できましたら、二度と顔を合わせないよう配慮して頂ければ幸いです。

次は切り落とす、とだけ、お伝えいただければ」


噴き出しそうな様子のテリーとイリシオンが目の隅に入った。




◇◇◇




「くっ、はははっ!」

「ぶふぅ、ぶふふーーっ」

「もう、二人とも。また、思い出し笑いかしら?」


「あの、『次は切り落とす』の決め言葉にハリウェル筆頭執務官長のあの驚き顔、ぶふっ、口が半開きで、ぶふふぅ」


あれから三日が過ぎた。そう三日も何かの拍子に思い出し笑いの二人なのである。


クリスはただ眉を下げて困ったような顔をしている。



特級王宮魔術師で尋問に長けた黒鳥のポールから、かなりの恐怖心を煽る事ができると教えてもらった言葉をそのまま口にしただけである。


思い出し笑いは置いておいて、テリーとクリスは無事に予選を抜け、上位三十名の剣術大会に出場することになった。流石は私の護衛で、鼻高々なのである。



秋の収穫も無事に終わり、領民が待ちに待った秋祭りが今日と明日、二日間に亘って開催される。既に領民の嬉しそうなそわそわと浮き足立った雰囲気に包まれ、子ども達はぴょんぴょんと小躍りしながら笑顔を満開にしている。


今いるのは秋祭りの会場だ。城壁側の高い位置に二段造りの来賓客席と高位階級席は既に埋まっている。そして、会場の周りを取り囲むように立ち見も含めて領民達が今か今かと待ちわびている。


これから領主からの開催の言葉から始まって、舞姫の剣舞、そして剣術大会の始まりだ。



成り行きで舞を舞うことになり、衣装はテリーご自慢、『戦女神セット』である。


女神を想像させる白色の簡素な布を使い、襟ぐりはほぼ直線状で、胸のすぐ下を飾り紐で縛っただけのストンと流れる衣装。


こだわりは光を受けてキラキラ輝く、透き通るような薄い布のベールだとテリーが言う。肩口と二の腕辺りでベールを留め、動くたびに柔らかにひらりと華やかに揺れる。


「お嬢さま、半年前に戦女神セットで舞った手順と同じでいいですかっ?」


そう、少し前には北連合国にいた。北連合国では、各部族の歓待の席で歌や踊りなどの余興を互いに披露し合いながら、楽しい時を過ごして関係を深めていく。


始めは手軽な歌でいく予定だったが、テリーが申し訳なさそうに、少しばかり音程と調子に問題があると言われてしまったのだった。テリーはというと可もなく不可もなくの普通。クリスはボソボソと歌うのでよく聴こえない。


そこで、仕方なしに始めた踊りだが、中々奥深く面白い。それぞれの部族に合わせて踊りや衣装、音楽を選ぶ。少ない月でも三、四回は踊っていた。


最初は場がしらけたり、ドン引きされたり。恥ずかしくて居ても立っても居られず、穴があったら駆け込みたい時もあった。今ではそれさえも笑い飛ばして楽しむまで慣れ親しんでいる。


「戦女神の踊りなら楽で助かります。あのミノムシ踊りに比べたら‥‥‥」


「本当ですよっ。ミノムシが村の守り神だからって、もうミノムシ衣装とか、大変で大変でっ!」


「まあ、でもあの踊りより、爆発踊りや猿踊りが大変だったわ」


爆発踊りとは「感情は爆発だ!」の喜怒哀楽の表現が激しい部族の踊りだ。踊りも苛烈極まる事になり、そして燃え尽きたのであった。


猿踊りはまさに恥も外聞もかなぐり捨てて、猿になりきる踊りである。


「あれ、あれですね‥‥‥あれは、もう‥‥‥」

テリーとクリスが嫌な記憶を思い出したような遠い目をして、遠くを見ている。



そんなこんなで、雑談しているうちにウィルソン辺境伯家当主ヴィアスの開催の言葉が終わり、ハリウェルの進行で次が進む。舞姫、コーバス子爵令嬢オリビアの舞が始まった。


あのふんわりとした軽やかなドレスを纏い、まるで花の妖精のようだ。

オリビアは美しい軌道で舞う。教本どおりの型、美しい剣舞だ。


最後に綺麗な礼をとり、観客が手を叩き歓声を上げた。本人も満更でもなさそうで何よりである。目を細めてキョロキョロしたと思ったら、目が合った途端に意地悪く口角を上げた。


「ぶふっ、あれ、タイマン勝負やっ、て感じですね」

「まあ、そうなの?」


折目正しいハリウェルの進行で次が進む。

さて、出番のようだ。



テリーが横笛、クリスが太鼓。イリシオンが補助。

これは私の物語。


場を切り裂くような物悲しい笛の音色から始まる。


来賓客の正面、領民側の小さな通り道から飛び出した。




◇◇◇




——-リーン、——-リーン、——-リーン


終幕、静かに響き渡る澄んだ鐘の音。戦で命を落とした者への手向け、鎮魂。


これは死に戻りの過去との決別でもあり、弔いでもある。



一時、静寂が響き、そして、わああああぁぁ、と怒涛の歓声。歓声が大きなうねりになり、鳴り止まない拍手で場は包まれた。


「あのきれいな人、大きなお馬さんに乗ってた人だよ」

「領主さまのお嫁さんかい?」


「俺、一度踏まれたいです‥‥‥」

「何だそりゃ?!」


「綺麗だし、カッコいいぃぃ」

「ねえ、絹糸のような銀髪、綺麗ね!」



首を傾げるような会話もあったが、まずまずの評価で一安心。肩で息をしながら、歓声に応えると沢山のテラの花が投げ込まれる。


テリーとクリスが一部を拾い上げて集めると、両手で抱えるほどの大きな花束になった。甘く優しい香りがする丸みを帯びた薄青色の花。忘れることのできない花になった。


「うん、リリアナ、凄く良かったよ。英雄の剣技‥‥‥アノ、うっ」


イリシオンはハンカチを取り出して目元に当てる。どうやら、また英雄アノーリオンに関する何かが琴線に触れたらしい。


「あ、ありがとう、イリシオンの金粉のタイミングもバッチリだったわよ。それに二人ともお疲れさま。二人の試合は午後からよね。小腹も空いてきた事だし、屋台で何か食べましょう」


「ぐすっ、うん」

「食べたいですっ! お腹空きましたー」


「では荷物は警備兵に預けてきます。この外套を羽織ってください」

「ありがとう、クリス」


皆の表情は明るく、朗らかに談笑をしながら、美味しそうな匂いに誘われるように屋台へと向かった。

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