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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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61.領都へ来たよ キレる

乗馬を終えて、昼寝から起きたばかりのイリシオンと濃いめの紅茶を啜る。話の流れで、秋祭りの舞姫の話になった。


「あの執務次官補のナザレって、感じ悪すぎですっ。お嬢さまやっちゃっていいですかっ?」


「や、やっちゃわないでね」


間者らしいねずみさんの事もあり、テリーの冷たい殺気で部屋の温度がすーっと下がっていくように感じる。テリーのすぐ横ではライラがきゅっと体を固くした。


「それはまた、たいへんだねぇ」


雰囲気など気にも留めずに、のんびりと相槌を打ちながらお茶を啜っているイリシオン。寝起きで寝癖がついているのに、不思議と様になっている。


「後々、尻尾を巻いて逃げたと絡まれるのも面倒だから、さっさと終わらせるつもりよ」


呑気に返していると、顔が青ざめているライラが目に入った。


「ライラ、顔色が悪く見えるけど、どうかしたの?」


ライラがテリーを一度見やり、テリーが頷くのを確認してからを口を開いた。どうやらテリーが元締め‥‥ではなく、上司に当たるので発言の許可を得たようである。もしくは怖かったので見やったのかも知れない。


「あっ、あの、テラの秋祭りの舞は、剣の国神狼様に捧ぐ剣舞で‥‥その、衣装の準備や舞の練習で少なくとも半年から一年の期間が必要なんです‥‥本当にお受けするとは存じ上げなくて‥‥」


ノーエル王国の現国章は王冠の下に二頭の国神狼。右が宝珠を咥えている宝珠の国神狼。左が剣を咥えている剣の国神狼。その剣の国神狼の秋祭りでもあると言う。


「お嬢さま、衣装は適当に見繕うので、ドンっとお任せ下さいっ!」

「ええ、心強いわ」


「しかしながら、場の下見だけは必要かと」

「クリスの言う通りね。先に下見を済ませてしまいましょう」


テリーとクリス、心配そうな顔のライラ。それから、面白そうだからついて行くと言うイリシオンも連れて下見に向かう。


ライラによると城門を出た左側に兵士の大訓練場があるとのこと。そこで秋祭りの始まりに辺境伯領を代表する女性が舞姫として剣舞を披露してから、予選を勝ち抜いた者達による剣術大会が始まるそうだ。


ちょうど、秋祭りの現場に向かう文官の馬車に乗せてもらい、その大訓練場へと向かった。



馬車から降りると目の前には大きな楕円形の訓練場が広がっている。城壁側の高い位置に二段造りの来賓客席と高位階級席と思われる席があり、その他の簡易な席や立ち見も含めてかなりの人数で観戦できるようになっている。


「訓練場というよりかは、競技場だね」


「はい、イリシオン様。辺境伯軍の自慢の訓練場です。あの辺りに屋台や出店も並び、領民が秋祭りを楽しみます。舞と試合はあの訓練場で行われます」」


「ねえ、ライラ、立ち見席にある細い通り道は何かしら?」


「あれは会場整備や警備兵などの裏方が通り抜ける通り道です。あっ、回復魔術師もですね」


ほうほうと頷きながら全体見廻すと、ある一角では領民が屋台や出店の下準備に取り組み、とある一角では明日の予選試合の出場者らしき者達が自主訓練と手合わせをしている。


邪魔にならないように、広さの確認と客席や入退場口を見て回り、さくっと下見完了である。


さて、戻ろうかという時に、後から揶揄うような声がかかった。


「ねぇ、僕と手合わせしない? それとも、その剣、飾りかなぁ?」


振り向き、刹那に全身総毛立つ。

震えるほどの激しい怒りを前に固く握り締めた拳に爪が食い込んだ。


承諾の意でひとつ頷くのが精一杯。

頷くだけなのは、どうしても声が怒りに震えるのを抑えきれないからだ。


「なんか、雰囲気一変したけど、僕、何かしたかなぁ」


構えながら、飄々と話し続けるこの男に反吐がでる。


嫌悪と侮蔑の意味で地面に唾吐くと同時に一閃で間合いを詰め、男の首に剣を押し当てた。


耳に囁くように告げてやる。

「————遅い」


そして、男の横腹を満身の力で蹴りつけた。


大きく吹っ飛び、城壁に背を預けるように手足を投げ出している男に向かって、

奪いとった剣を片手にダンッと地を蹴り、高く飛び上がる。


どどめとばかりに渾身の力で地面に突き刺した。


血の気が失せて顔が紙のように青ざめているその男を眺めながら、言葉にならない感情を抱えて天を仰ぎみた。




◇◇◇




「アノーリオン?! 英雄アノーリオンの剣技?! 極限までの速さと研ぎ澄まされた一方的な蹂躙で有名だけど、その片鱗が見えたよ!」


「じゅ、蹂躙‥‥アノーリオンさんの足下にも及ばないわよ」


「股間スレスレに剣を突き刺したのも見事だったよ、ちょっとでもズレてたら、あの人大変だったよね! 余程恐怖におののいたのか足がガクガク震えていたのはちょっと可哀想だったかな。それはそうと、極限まで削り落とした剣技は一見地味に見えると聞いていたけど、その通りだったよ! 奥深い美しさを感じるねーー‥‥‥」


イリシオンの話が止まらない。



「ぷふぅ、お嬢さまも容赦ないですっ」


「お嬢様の全力、この目にしかと焼き付けました。俺も精進します」


「‥‥‥お、お怒りに触れないよう、ど、努力しますぅ」


テーブルに肘をついて先程から眉間を揉んでいる。最後の言葉はライラで、怖がられてしまったようだ。


「‥‥‥やってしまったわ」


人生三度目にして初めて辺境伯領までやってこれた。過去と決別でスッキリ爽快だったのに、忘れもしない襲撃者の顔を目にした途端、全身が燃え上がるような怒りを覚えた‥‥頭に血が登ってしまったのである。


二度目の人生でいたぶるようにテリーやクリス、護衛騎士達を殺した男だ。

そして笑いながら私を刺し殺した男。


あの男は辺境伯軍第六軍、特殊部隊の中隊長だとライラがいう。第六軍はヴィアス直轄だと聞いている。前回、襲撃者達を差し向けたのは婚約者、ウィルソン辺境伯家当主ヴィアスなのだろうか。


一つ一つを精査して見極めなくては。


こんな時はガツンとくる激甘菓子に渋々紅茶が一番である。テリーに頼んで用意してもらい、イリシオンの話を聞き流しながら、もぐもぐ食べ続けている。



「お嬢様、事務官からの言伝です。ハリウェル筆頭執務官長が本日中のご都合がよろしい時にお会いしたいとのことです」


「‥‥‥一刻後ではどうでしょう、でお願いできる?」


その一言でキビキビと退室するクリスの背を見送り、次の激甘菓子に手を伸ばした。

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