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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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60.領都へ来たよ 舞姫

ハリウェルの采配で侍女と護衛が新たに付けられた。


ハリウェルにはたった二人だけでいいのかと何度か確認されたが十分である。テリーとクリス、おまけでイリシオンもいるので申し分ない。それに体のいい監視役はやはり少ない方が良い。


侍女はライラと言い、テリーと似た髪色をしている。テリーがやわい夕焼けのような髪色に薄緑の瞳に対して、ライラは濃い夕焼け色で赤の瞳だ。


そして護衛はエリオット。ライラの双子の弟で同じく濃い夕焼け色の髪に赤の瞳。


姉であるライラによると、エリオットは後方護衛で不審物や不審者の発見や危害防止、それから捕縛などに長けていてるという。恥ずかしがり屋さんも影響して普段はいるんだか、いないんだか。だが、いるそうだ。


「「「‥‥‥‥」」」


これから、クリスと交代制で護衛につくことになっている。



とかく今日は夜の明けない内から準備や気を遣ったのもあって、強烈な眠気がまぶたにのしかかってくる。


「明日までゆっくり休むわ。後のことはテリー、よろしくね」

「はいっ!」


イリシオンの事は従兄ロズウェル第二王子が付けた高官と伝えてあるので、それなりの部屋で休むことができるだろう。


身支度が終わってから、さっと寝台に入る。


無事に今日が終わった安堵感から、ふーっと長いため息をついた。久しぶりの令嬢は楽ではないのである。ふかふかの寝台は夢のようで、すぐに深い眠りに落ちた。



目を覚ますと、朝の陽光が窓掛けの隙間から射し込んでいる。


「ん‥‥‥?」

「お嬢さま、おはようございますっ」

「おはよう‥‥‥」


テリーよると昨日の昼から眠り続けていたそうだ。どうりでお腹が空いている。


昨夜、テリーは続きの間の侍女部屋で、クリスは近くに用意された部屋で倒れるようにというか、まさに倒れて眠りに落ちたと言う。テリーによると気疲れとふかふか寝台に不覚を取ったそうだ。


「早朝、魔馬達の様子を見に行きましたっ。山盛りの枯れ草やりんごをもりもりと喰べ続けていて、厩舎のおじさんが呆れてましたっ」


「ふふっ、そう言えば、イリシオンはどう過ごしているのかしら」

「エリオットさんによると寝台が気に入って、今日は一日中ゴロゴロされるそうですよっ」

「‥‥‥‥」


イリシオンはどこでも自由人である。


日課の柔軟をこなしてから朝食を食べる。領都ウィスターの料理は素材の味を生かした田舎料理の趣で、なんとなく懐かしい味で幸せな気分になった。



そして、午前中は城内の案内をしてもらう予定になっている。昨日会ったハリウェル筆頭執務官長の部下でもある執務次官補待ちだ。紅茶を啜りながらのんびりと雑談をしていたが、正午を過ぎても現れない。


そんな時に小声でテリーが呟いた。少し離れたドアの前にライラも控えているが、唇の動きも悟らせない程の熟練技を見せている。


『‥‥お嬢さま、うっとしいの一匹、やっちゃいますかっ?』

テリーの目がお仕事モード、剣呑にギラギラと輝いている。


ここは三つの続き間がある。外と繋がっている真ん中の部屋がちょっとした応接間。そして左隣が寝室で、右隣が侍女の控えの間。


今いる応接間の窓際横、飾り彫りの梁に何やらを探っているねずみさんがいる。古い屋敷や城には有事の際の避難路や隠し部屋があるので、その内の一つを有効活用しているようだ。


新しく付いた恥ずかしがり屋の護衛エリオットかと一瞬頭をよぎったが、どうやら違うようだし、今は大事にしたくない。


微かに首を左右に動かして意思表示した。テリーがねずみを見つけた猫のようにそわそわしていので、気晴らしに外に連れ出す事にする。


「テリー、魔馬の様子を見に行きたいわ」

「了解ですっ!」


ついでに魔馬の腹ごなしに付き合おうと、手早く乗馬服に着替えた。このテリーお手製の乗馬服は七分袖の詰襟で、濃紺色の細身のワンピース。


くるぶし丈で、両横と前後の裾に切れ目が入っているので動きやすい。勿論下には騎士服のようなパンツを履いている。


最後の仕上げで剣帯に相棒の剣を挿す。テリー特製、『ウィルソン辺境伯軍の中にいても違和感がないけど、ちょっと違うを追求した軍服風』姿のクリスも帯剣しているし、問題ないだろう。


準備ができたのでライラに声をかけると、厩舎きゅうしゃまで案内をしてくれるそうだ。


「ここはウィスター城ですが、山の要塞とも呼ばれています。


上下二段造りの二重構造で、一段目は城門を抜けると馬場、訓練場、騎士館、使用人居住区。そして、二段目は坂を上がり、主城門を抜けると、この主館と中庭。


主館はロの字で中庭を囲むように回廊があるので、陽の光や風が心地よく通ります」


ふんふん、確かにロの字だ。中庭を囲む白い回廊を進むと小鳥のさえずりと共に賑やかな声が聞こえてきた。


どうやら中庭で何人かが集まり楽しそうに談笑をしているようだ。その中心にいると思われる女性が儀式用と思えるふんわりとした軽やかなドレスを纏い、まるで花の妖精のようで可愛らしい。


「あら、見慣れない‥‥王都からいらっしゃったお客様ですの?」


ウィスターでは見かけない服装が面白く映るらしく、取り巻きと共にくすくすと意地の悪い微笑みを口元に浮かべている。


実は、王都でも見かけない服装なのである。


ライラが小声で耳打ちした。


「あのお方はウィルソン辺境伯閣下の遠縁の御親戚、寄子のコーバス子爵家御令嬢オリビア様、そして隣にいらっしゃるのがナザレ執務次官補でございます」


なぜか午前中に城内の案内をしてくれるはずだったナザレもいる。正午を過ぎても現れないと思ったら、こんなところで油を売っていたようだ。


あまり会話を楽しめそうにない雰囲気なので、さっさと立ち去る事を選んだ。その際にまだ言い足りないとばかりにオリビアが声を上げる。


「あの、秋祭りがあるのですが、ご存知でいらっしゃいますかしら? 祭りの初めにこの領を代表・・する女性が舞を披露しますの。うふふ、今年もわたくしが舞姫ですのよ」


オリビアが見せびらかすようにくるりと回ると、ふわりと薄青色のドレスがひるがえる。


「この色、ご存知?」

「ええ、テラの花色ですわね。とても美しく晴れやかなお色ですわ」


知っているのが意外だという表情で、少しむっとしている。

そこにオリビアのご機嫌を伺うようにナザレが出張ってきた。


「ディフラン公爵令嬢も舞われてはいかがでしょう。オリビア様の後にでも」

「おほほほっ、それは良い考えだわ。ねぇ、皆様?」


ナザレの提案にオリビアの取り巻きと思われる者達も棘のある微笑を向けるので、買う事にした。そう、売られた喧嘩は買うのが礼儀である。


「ええ、よろしくてよ。では、ご機嫌よう」


予想外の返答らしく、眉を寄せているオリビアとナザレ達に別れを告げてスタスタと歩き進めると、後では彼女らの沸いたような話し声がする。


「お嬢さま、言ってしまいましたね」と小声で面白そうにしているテリーに片目をつぶって見せた。



思いがけない鉢合わせがあったが、当初の目的、厩舎は主館を出た右側にあった。黒毛のヨルと栗毛のキャンディーにレオのボリボリと規則正しくりんごを喰む音が響く。


負けずとばかりにイリシオンの馬サリオンもバリボリバリバリと競うように食べている。どうやらサリオンは負けず嫌いのようだ。


馬と触れ合い、食べ過ぎな魔馬達を軽く走らせて、手入れをする。

晩秋の澄み渡る空の下、穏やかなな午後のひと時に心がふわりと和らぐ。


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