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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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59.さあ、領都ウィスターへ2

「ディフラン公爵家令嬢リリアナ様、ウィルソン辺境伯閣下にご挨拶申し上げたく!」


領都ウィスター防壁門でのクリスの口上だ。一年半前は栄養不足でひょろひょろの小柄な少年が、公爵家騎士団での食事と鍛錬、それに武者修行の成果もあって、長身で逞しい体躯の青年となった。顔を隠すように伸ばしていた灰色の髪も短く切り揃えられ、キリリとした精悍な顔つきになっている。


堂々と口上する姿にテリーと共に感慨もひとしおである。


口上を受けて飛び上がるほど驚く防壁門の兵士にクリスが二つの書状を手渡した。一つは筆頭王宮魔術師団長のロズウェル第二王子から、もう一つはディフラン公爵家当主からのものだ。


先触れを出してないので、確認の為やらで暫し待つこととなった。



改めて見上げると城塞都市と名を馳せているだけあって、強固な高い壁ですっぽりと覆われている。さらに壁上には見張りが一定の間隔で配置されていて、防衛機能も申し分ない。


交通、軍事、通商上の重要な拠点でもある領都の防壁門には、馬車二台が横並びで通れる大きさの馬車用大門と歩行者用小門の二つがあり、朝の開門を待つ人々がそわそわとしながらも行儀良く並んでいる。


その行列の中に青色の花を籠一杯抱えた複数の女性達に目が留まった。その丸みを帯びた愛らしい薄青色の花が気になり、テリーに花の名を聞きに行ってもらう。


「お嬢さま、あちらの女の子からですっ!」


テリーの手にはあの薄青色の花が一本握られていた。受け取ると甘く優しい香りがする。


思いがけない小さな贈り物に心がほっこりだ。早速髪に飾って、離れた場所にいる女の子に「ありがとう、どうかしら?」と伝わるように手を振り、微笑んだ。


すると、母親と思われる女性の背後にするりと隠れて、もじもじとはにかむ姿が可愛らしい。


「女の子のお母さんによると、野に咲くテラの花だそうですっ。秋祭りの時期に女性はこの花を髪に挿し、その花の飾る位置で未婚、既婚、恋人募集中とか他にも色々とあるそうですっ」


「まあ、それは面白いわね」


「イリシオンさま、恋人募集中は右横に花を飾るそうですよっ」

「えっ? それって、そもそも女性だけだよね?」


「ぷぷぅ、麗しの君って感じで、イリシオンさまは大丈夫ですっ!」

「ふふっ、確かに、花を挿しても違和感がなさそうね」


「えっー、リリアナまで、そんなこと言うの?」


そんな談笑をしていると使者と兵士達が迎えにきた。ウィスター城までの案内役だと言う。


兵士達が護衛としてピシッと二つの小隊に前後と別れ、その間を使者に先導されながら三角形の陣形で、左後ろに公爵家の騎士儀礼服姿のテリーが、右後ろには同じくでクリスが公爵の紋章旗を掲げている。


色々と面倒くさいからね、と長い耳を魔法で隠したイリシオンはあの異国風文官の装いで使者の横をサリオンと進んでいる。


先ほどまで暇そうにあくびをしていたイリシオンだが、城塞都市に入ってからはきょろきょろと好奇心でいっぱいの少年のようだ。


よく整備されている石畳の道を魔馬で軽快に進みつつ、街並みに目を向けると道の両横には石造りの建物が秩序よく立ち並んでいて、計画的な街づくりであることが窺い知れる。


二重に囲っている二つ目の防壁の内側に入ると、人垣ができ始めた。


「お嬢さま、魔馬が珍しいんですかねっ? あそこ、可愛い幼子達が手を振っていますっ」


「ふふっ、ほんとね」


きっと物珍しいのだろう。手を少し振ると弾けるような笑顔を返してくれる。



何度かそんなやり取りを繰り返していると、城壁にぽっかりと穴が開いたような洞窟の入口にも見える城門、そして石畳に沿って坂道を上がると、次の洞窟の入口、主城門だ。


その主城門を抜けると、途端に燦々と降り注ぐ日差しが目を眩ませた。目を細めて見渡すと広場のような開けた場所に兵士達が整列している。


踏み台が速やかに用意され、テリーの介助で下馬する。ドレスの裾が長いので馬から降りるのも一苦労である。



すぐ側で静かに礼をとっていた長身で二十代半ばの男性が口を開いた。


「‥‥お初にお目にかかります。ウィルソン辺境伯家当主にお仕えしております、筆頭執務官長セシリオ ハリウェルと申します」


久しぶりの令嬢作法、口角を上げただけとも言える微笑みを保ちながら受け答える。


「ディフラン公爵家が長女、リリアナですわ。以後お見知りおきを」



ハリウェルの案内で広場の奥に向かうと、足元には直線的に続く赤の敷物が敷かれ、両脇にはウィルソン辺境伯軍の錚々(そうそう)たる兵士が整列していた。屈強な肉体に鋭い視線の獰猛な面構えの戦士達だ。


ここには強者の圧倒的な凄みがある。その中を一直線、令嬢らしく優雅に歩みを進めていく。


ただ、なんとなく暑いのは、やはり筋肉モリモリが集まる熱量なのかもしれない。


赤の敷物の先にはウィルソン辺境伯家当主ヴィアスが威風堂々とした様子で立っていた。


指先まで気を配り、美しい所作を心掛けて礼をとる。


「ウィルソン辺境伯閣下にご挨拶申し上げます。ディフラン公爵家が長女リリアナでございます。突然まかり越しました非礼、お許し頂ければ幸いに存じます」


「ああ、楽にするがいい」

「痛み入ります、閣下」


顔を上げ、燃えるような赤い瞳と視線が交わったときにヴィアスの視線が一瞬凍ったように止まった。


「「‥‥‥‥」」


陽の下で見るヴィアスは長い睫毛に彫りの深く目鼻立ちのキリッとした美しい顔をしている。


最後に会ったのは確か一月前、ガブリストーン砦の古神殿で瀕死の状態だったヴィアスに神聖魔法で治癒した時以来だ。今はお肌もツルツルでここまで回復したことに安堵を覚え、自然と笑みが溢れてしまう。


勿論、外套のフードを目深く被った冒険者の出立であったし、ヴィアスは酷い重傷だったのもあって覚えてはいないはずだ。



「滞在を歓迎する。侍女をつける故、好きに過ごせ。仔細はハリウェルに任せてある」


「感謝の限りです」


ヴィアスはそのまま目礼を軽くとり、どこか惹きつけられる余韻を残して立ち去った。



その後、筆頭執務官長ハリウェルに案内された応接間と二間続きの部屋は無骨な外観から想像もつかないほど豪華な内装だった。飾り彫りの華美な装飾の家具と調度品は内装との調和も取れていて居心地良く仕上がっている。


「では、こちらでごゆるりとお過ごしくださいませ。御用命は何なりとこちらに控える侍女にお伝えいただければと」


「ご配慮感謝致します、と閣下にお伝えくださいますよう」


ハリウェル承ったとばかりに流麗に頭を下げた。



ハリウェルが退室する背を見送ってから、改めてあてがわれた部屋を見回す。


「まあ、素敵ね!」


イリシオンは好奇心に目を輝かせて興味深そうに見て回っている。


「ですが、城の端の端、離れみたいなものですっ」

「返って気楽でいいわ」


「とにかく、皆のお陰で無事にここまで来れたわ。ありがとう」

テリーとクリスは言葉を受けてくすぐったそうに照れている。


ここを目指して‥‥そう、二回二年の回帰の四年とこの一年と半年。それと北連合国で出会った守護者との不思議な六年。苦節十一年半である。


人生三度目にして初めて、無事にここまで辿り着き、胸に熱いものが込み上げてきて、目がしょぼしょぼする。

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