58.さあ、領都城塞都市ウィスターへ
そして矢が飛ぶかのように日々が過ぎていく。
依頼していた剣も出来上がり、新しい剣には二人とも実際飛び上がって喜んだ。
テリーが痩身の剣で、クリスが両手剣。重量も絶妙に調整されていて最高だと言う。いつまでも眺めたり、手触りを確かめたり、剣を振ったりと今も子供のように顔を輝かしている。
やはり天からの鉄石でできた剣は見事の一言だ。漆黒でうねるような筋模様が際立ち、見る者を圧倒する美しさがある。光りが強く反射して白く輝く様子には思わず見惚れてしまうほどだ。
そこで鍛治職人のタイロンには追加で三振の依頼を出した。その内の一振はウィルソン辺境伯閣下への贈物にするつもりだ。
ロック砦の宿だが、既に引き払い、一旦イリシオンの家に身を寄せている。
イリシオンの家からだと東へ二日の距離に中西部城塞都市ブラックストーンがあり、そこに冒険者パーティ『銀の杖』の拠点となる小さな屋敷を購入するつもりだ。
既にテリーとクリスに一任していて、「大船に乗ったつもりで、ドーンとしていてくださいっ」にすっかり甘えて、イリシオンの家でゆっくりと羽を伸ばしている。
「リリアナも秋祭りの剣術大会に参加するの?」
「いいえ、テリーとクリスだけよ。私は辺境伯閣下にご挨拶とブラックストーンでの滞在許可を貰うだけよ」
「確か秋祭りの後にブラックストーンの屋敷で過ごすんだよね」
「そうなの。これからの事を考えたのだけど、この辺境伯領地である程度の地位を確立しようと思って。テリーとクリスが領都の剣術大会で優勝を目指すようにね」
イリシオンがふんふんと続きを促すように相槌を打った。
「武の辺境伯領では分かりやすい強さが尊ばれるから、分かりやすく実力を示せる高ランクの冒険者を目指そうと思っているわ」
「確かに高ランク冒険者パーティーはいつの時代も英雄のような扱いを受けるよね。そうなると顔を隠す事は止めるんだね」
「ええ、そのつもりよ。牽制する事のできる一目置かれる立場を目指すわ。銀の杖印の特別回復薬の販売も色々と考えているから後で相談させてね」
「うん、いいよ」
イリシオンは忙しくなりそうだね、と付け加えて揶揄うように笑った。
辺境伯領、城塞都市ウィスターの秋祭りは五日後だ。領都へと旅立つ日は近い。
そして出発前日に予定通り、元気な様子でブラックストーンからテリーとクリスが戻ってきた。
「ぷふぅ、お嬢さま、準備に抜かりなしですっ!」
「程良い大きさの屋敷が手に入りました」
「ふふっ、二人ともお疲れさま」
「そう広くはありませんが、庭に大きな木もあって、イリシオンさまも魔馬達もバッチリですっ」
「ん? なら楽しみにしておくよ」
「お披露目は秋祭りが終わってからですねっ」
皆が顔を見合わせて、ニンマリと嬉しそうに顔をほころばせた。
豊な色彩の紅葉も落ち着き、秋の深まりとともに肌寒くなった。この日、朝もやのなかを領都へと向かう。
領都が村だった頃を知っているので、どう変わったかのか観光気分のイリシオンも一緒だ。
今日の衣装は入領した時と同じで、上品な光沢と滑らかな肌触りの最高級青絹。それを惜しみなく使い、腰から裾に向かって上品に広がる意匠だ。仕上げに黒色に変えた祝福の外套に帽子と手袋。
イリシオンは手持ちの黒緑色の異国風の礼服にテリーに用意してもらった上品な外套。そして、クリスとテリーはいつもの公爵家の騎士儀礼服姿である。
「リリアナ、ここだよー」
一足早く、外に出ていたイリシオンが片手に馬の手綱、もう片方をぶんぶんと振っている。
「「「‥‥‥‥」」」
言葉に詰まってしまった。
「お、お嬢さま、あれは眩しい、非常に眩しいですっ!」
一条の朝陽がイリシオンの上に輝き、柔らかそうな金色の髪に白い肌が光っている。しかも、艶やかで黄金に輝く毛並みの黄金馬。相乗効果で目に沁みるほどの眩しさだ。
「‥‥‥お嬢様、あれは一国の王でも手に入れる事ができない現存する最古の馬、幻の黄金馬かと。身体能力も高く、しなやかに走り、抜群の速さと持久力を持つと云われています」
クリスの説明にイリシオンが嬉しそうに相棒の馬を紹介する。
「どう、僕の馬? 風の子、スーリオンって名なんだ」
こちらのキャンディーなどと比べると実にカッコいい名である。スーリオンが自分からそっと体を寄せてきたので、首筋を撫でるとまぶたと閉じて気持ちよさそうにしている。
「まあ、美しくて優しい子ね。あまりにも美人さんで人の目を惹きすぎるかもしれないわ」
「はいっ、キンキラキン過ぎますっ!」
「えー、それなら、悪目立ちは良くないね。うん、スーリオン戻って」
スーリオンは返事の代わりに一つ瞬きをすると幻のように消え去った。まさしく幻の黄金馬である。
「サリオン」
イリシオンが一言唱えると、目の前に暗い赤褐色に近い色合いの馬が現れた。こちらは良く見る王宮騎士団の馬と似たような色と背格好だ。
どこから馬が現れ消えるのか、とても気になるところが古代種の森人は精霊魔法や固有魔法に長け、人の常識で計れないのである。気にしたら負けなのだ。
テリーとクリスも平然と馬を見つめている。
「テリーとクリスも驚かないのね」
「はいっ、お嬢さまで慣れてますっ!」
「‥‥‥‥?」
「ブルルル——-ッ」
「おっと、つい最近仲間になったんだけど、サリオンはちょっと気難しいんだ。この機会に仲良くなれたらいいなって思って」
イリシオンがぽんぽんと背を触れるとサリオンは不機嫌そうに顔を背けて、尻尾をバシッと振る。どうやら仲良くなるには時が掛かりそうだ。
東の空がもう明るい。
領都城塞都市ウィルスターへ出陣である。
「みんな、キリッとしてるね」
「ふふっ、私達の行動が公爵家全体の評価につながるもの」
「どこでも同じだね。村長の息子ならそのように相応しく振る舞え、とかね」
返答する代わりに苦笑を返し、魔馬に横座りの貴婦人乗りと呼ばれる姿勢で座る。予め下見をしていた領都の城壁門近くに転移した。




