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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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56.辺境伯を探せ3

他にもぽつりぽつりと語られる白銀しろがねの言葉に、一つどうしても聞き逃せない言葉があった。


「変幻自在に姿を変える事ができるって言っていたわね。ひょっとして、今でもできるのかしら?」


「ふんっ、我にできぬ事などない」


姿を小さくできることは知っていたが、変幻自在とは知らなかった。期待で胸を一杯にして白銀を見つめていたら、もう一つふんっ、として姿が変わったのである。


「まあっ! 可愛い!」


「こ、これは可愛すぎで鼻血が出そうですっ!」


「えっ、ふ、服っ!」


なんと銀色の髪と瞳をした愛くるしい四、五歳の男の子が目の前にいるのだ。

すっぽんぽんに慌てた様子のクリスから、ダブダブの上着を着せられて、上着の袖を折り返してもらっている。


「ふふっ、随分小さい子なのね」


「図体がでかいと消費する魔力も多いからな。お主に負担がいくから、これぐらいが丁度良い」


さっき魔法を使ったときに白銀に少し負担をかけた事を謝ると、トコトコ近くまで来てくれた。抱っこさせてもらうとふわふわな髪が鼻をくすぐり、ぽかぽか温かい。


「お二人とも銀の髪で、まるで親子のようですっ!」


白銀は眉を下げた微妙な顔をしているから、自分もきっとこんな顔をしているのだろう。せめて姉弟と言って欲しかった。


抱っこしている白銀が、結界にいる意識のない男達を改めて見て『何だ、こやつらは』とぷくぷくの指で差す。そこで今までの経緯を軽く説明した。


「そこに転がっているのがそうなのか?」

「そうなのよ。後始末を考えていたところなの」


「そのまま放って置けば良かろう」


「そうしたいのは山々なのだけど、例え怪我が治っても、失った血や体力は戻るのには時がかかるわ。放っておいたら衰弱してしまう」


「ふんっ、腑甲斐ない。大の男が揃いも揃いよってからに」


白銀の前には辺境伯も形無しである。容赦ない物言いが面白かったらしいテリーとクリスが、「ぶふっ」、「くっ」と噴き出した。



結局のところ、大規模崩落の現場では全力で瓦礫や岩などの撤去が行なわれていても、かなりの時がかかる。


そこで現場が再度崩れ落ちることがないように岩壁を固定してから、一部だけを敢えて崩して、辺境伯らを発見させる方法をとる事にした。


早速作戦に取り掛かる。適切な場所に辺境伯らを浮遊で運び、ぽいっと置く。


「お嬢様、今は堰き止められていますが、開通と同時に地下貯水湖の水で溺れることもあるかと」


クリスの言葉は最もである。『すわ、崩落か、その先には辺境伯らが溺れている』では締まらない。崩れている石道を重ねて、少し高台を造ってから彼らをそこへ移動させる。


テリーの案『すわ、崩落か、その先にはデカ竜魔獣を討伐した英雄達』作戦を採用して、あの巨大竜もわざわざ運んでそこに置いた。確かに討伐したのは彼らである。


「テリー、その竜の体勢は不自然じゃないかしら?」


竜が上半身をぺたりと地につけた謎の姿勢で、お尻だけを高く上げている。


『討伐された竜』を演出中のテリーが格好良いポーズだと言い張るので、クリスと首を傾げながらそのままにすることにした。


おまけに「多分、魔石がない魔獣もいると思いますっ!」と魔獣の魔石は駄賃として返すつもりはないらしい。


テリーとクリスは先にイリシオンの家へ転移させ、何はともあれ準備はできた。そして、阿吽の呼吸で片手を前に出し、抱っこしている白銀と声を合わせる。


「「『固定』、『破壊』」」


まるで共振するかのように強大な魔法が放たれた。バリっと地下空間の荒々しい岩壁が固まった手応えの後に、予め念頭に置いていた一部だけを破壊する。


もくもくと立ち上る砂塵の後で初めはこもった声が、そしてはっきりと通った声が響く。


「繋がったぞっ!! 早くお探ししろっ!!」


隠蔽で様子を見ていると、辺境伯とその部下達は無事に発見されて手当を受け始めている。もう大丈夫そうだ。白銀と顔を見合わせて頷いた。


(『転移』)



そして、昼までゆっくりと眠って、皆で昼食だ。



「それでね、白銀しろがねが物凄く可愛くて見せに来たの」


「えっー、それが夜明けに押しかけた理由?」


「ふふっ、それだけじゃないわよ。みんなでイリシオンに会いたくて来たのよ」


イリシオンは参ったな、と頬をぽりぽりかいて笑う。


テリーが市井の吟遊詩人のように昨夜の出来事を語り、それに私が辺境伯のお腹を足で踏んだことや、クリスが白銀のすっぽんぽんの姿に慌てふためいた様子なども言い足す。


イリシオンがお腹を抱えて大笑いしたり、クリスが色々な事をバラされて顔が真っ赤になったり、そんな遅い時間の昼食だった。


そして、これからまた少し留守にすると白銀は言う。


「あの魔結晶の幾らかを貰い受けたい」


あの封印された洞窟で、白銀の溢れ出る魔力で形成された魔結晶。初めて出会った時に魔力不足で魔結晶をばりぼりと音を立てて齧っていた子犬姿を思い出す。


「ふふっ、勿論よ。白銀の魔結晶よ。好きにしてね」


魔法陣構築に少しばかり手こずったが空間収納も一部を共有できるようにした。魔結晶だけではなく薬草に果実、干し肉、テリー作のあったか羊毛毛布などをぽいぽいっと入れていく。


「よさそうな物があったら、また適当に入れておくわね」


従来の姿に戻った白銀を見送り、ガブリストーン砦へ転移で戻る。いつも早朝から午後遅くまで薬草採取に出掛けているので、不在でも不自然に思われなかった。


「さてと、夕食の一品に取り掛かりましょうか」


今日の夕食はキチンと処理した鳥魔獣肉を特製タレに漬け込んで、一度じっくり蒸してから、最後の仕上げにパリッと黄金色に焼き上げる。


そう、ディフラン公爵領の祝いの日には欠かせない鳥の丸焼き風である。


何があったかは箝口令を敷いているのだろう。辺境伯の「へ」の字も出ないが、あれだけ重々しい雰囲気だったゴーランド団長が機嫌よく笑っている。


周りの兵士達もつられてか明るい雰囲気だ。



考えるに砦の地下空間と魔の森の洞窟は繋がっていたようだった。元々は白銀の解放と魔結晶の取り出しか、黒鳥のロンとポールによる洞窟の破壊か、魔獣などによるそれ以外の要因か。


例え辺境伯が何らかの調査をしたとしても、部外者には明らかにはされる事はないだろう。


何はともあれ、今日は辺境伯とその部下達の生還を祝う。

それと陰ながらの『銀の杖』の健闘ぶりに、砦の片隅で祝杯を上げた。


「「「乾杯!」」」




◇◇◇




「お嬢様、明後日に真っ直ぐ、領都ウィスターへ帰還することが決まったそうです」


あの辺境伯の一件から七日経ってから一報だ。


クリスによると北も南も目立った魔獣の増減や異常はなく、適度な間引きも遂行して、明後日に帰還の途につくと先ほど告知されたそうだ。


先ほどの「うおぉぉぉ!!」の大声は砦詰めで三月ぶりに領都へ帰還する部隊で、ションボリとしているのがこれから交替で砦詰めになる部隊だそうだ。


そうなると、既に規定量の薬草納品は済んでいるので、晴れて御役御免である。どの隊もこれから帰還準備やら引継やらで忙しくなるだろう。


ゴーランド団長は追い立てられるほど職務で忙しいらしく、とんと姿も見かけない。そこで団長の補佐役ベネッタさんに暇の旨を伝え、依頼完了のサインをもらった。


今回の依頼は冒険者ギルドを通してだったので、成功報酬もギルドを通して支払われる。そう、このままズラかる、ではなく、失礼させて頂こうと思う。


特に親しくしていた帆馬車仲間の冒険者パーティ『薬草』ユルド、アイリ、ダグ。それと後援部隊員の四人、ヤッコ達に挨拶をする。


『薬草』もヤッコ達も秋祭りには領都に行くという。その時に『帆馬車の会』の飲み会が行われる事になったのでとても楽しみだ。


時々、古傷の疼きに顔を顰めて無言で耐えている後援部隊員の四人に銀の杖印の後遺症回復薬水の瓶を手渡し、強烈に痛いことと気が向いた時にでも飲むようにと伝えた。


さて、長かった遠征も今日で終わりだ。



ガブリストーン砦を出て、程よい場所で足を止めた。


「さあ、ロック砦の宿に戻りましょう。きっと二人の新しい剣は出来上がっているわね」

「はいっ! 楽しみですっ!」



「『転移』」


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