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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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52.魔獣討伐遠征2 朝の挨拶の一日

朝もやの美しい風景。


風も少なく一日の中で一番静かなひと時。

キリッとした清浄な空気に朝露でしっとりとした土や草の匂い。


徐々に暁の薄明かりが東の空を染め、一番どりが鳴きわたる。


そんなひとり時間を楽しんでいると誰かが歩いてくる気配がする。サッと外套のフードを被り直して、静かに立ち去ろうとしたその時だった。


「そこにいるのは誰だ」


少しだけ警戒が感じられる低音の落ち着いた声。


「冒険者パーティー、銀の杖の者です」

「‥‥そうか」


朝の最初の光がゆっくりと朝もやを消して行く。そして、そこには長身で細く引き締まった体つきの男がいた。


長い黒髪を一つにまとめて肩にゆるりと流し、威圧するような鋭い眼光の燃えるような赤の瞳。


目鼻立ちの整った端正な顔立ちの美丈夫だ。


何度も眺めた絵姿そのままのウィルソン辺境伯、ヴィアスが背筋よく立っていた。


「‥‥‥っ!」


それにしても服装もほぼ絵姿と同じ軍服で、あまりのそのままぶりで逆に驚いてしまった。


挨拶しようにも仕方が分からず、立ちすくんでしまう。勿論令嬢としてではなく、冒険者としてである。日頃の挨拶として「ようっ、兄弟!」しか知らない。


かなり前に冒険者が格上の人物に挨拶していたのを見た事がある。大股で両手を両膝に乗せて「ウッス!」だったような?


秒で考えを巡らせて、名乗られていないし、知らんぷり作戦だ。

そう、階級章も朝もやで見えない振りである。


その辺の一兵士にするのと同じ挨拶をした。


「おはようございます。いい朝ですね」


それでは、とスタスタ歩き始める。


人生三度目にして、初めての邂逅。

それは、あまりにも突然で眠気が遥か彼方へ吹っ飛んでしまう出来事だった。



天幕に戻るとテリーとクリスが今日の薬草採取の持ち物確認をしていた。


「テリーさん、昨日は剣で代用しましたが、また薬草採取のハサミを忘れないようにしてください」


「はいはい〜、の、はいはい〜っ」

「‥‥‥‥‥」


「あっ、お嬢さまっ、そのようにきょとんとされて、どうなさいましたかっ?」

「‥‥‥辺境伯閣下に、初めてお会いしたわ」


「「ええっ?!」」


二人とも驚きの声をあげて、目をパチクリさせている。


「お嬢さまっ、その、辺境伯閣下は結構、その辺をうろうろとされていらっしゃいますよっ」


「はい、私も毎日お見かけしています」


「それにしても絵姿から飛び出てきたようにそっくりですよねっ。盛る必要がないなんて羨ましい限りです、はいっ」


なんと衝撃の事実が判明したのである。全く気が付かなかった。毎日どこを見ていたのか我ながら驚きである。


しかも、ウサギネズミの回収で世話になったごっついおじさんは魔獣討伐団長ゴーランドだという。


「まあ‥‥団長は冒険者の魔獣討伐にも参加するのね」

「はい。今回の参加要請にはあのゴーランド団長が一枚噛んでいるようです」


「ゴーランド団長なんかより、辺境伯閣下ですっ! どんな方でしたかっ?」

「そうね、脚が長かったわ」


「あ、脚‥‥‥お話はされたのですかっ?」

「ただ、朝の挨拶を交わしただけよ」


期待に声を弾ませていたテリーにそう答えると、口にはしないが『えー、それだけですかっ?』と顔に書いてある。期待に応えられなくて申し訳ないが、それだけなのである。




◇◇◇




そして、第一拠点の次は第二拠点、第三拠点と移動を繰り返しながら、似たような日々を繰り返した。早朝から薬草採取と時々魔獣討伐である。


「お嬢様、今日はどのようなご予定を?」


「いつもと同じね。まずは薬草採取、よいしょっと」


「うっ! 足攣りましたっ! いたたたっ」


早朝恒例の柔軟をしながらの柔軟会議である。


「ふぅ、よくなりましたっ」


地べたに転がって、寝たままできる『ふくらはぎ伸ばし』で足攣りと戦っていたテリーがほっとした声を上げた。



日が真上に来る頃には採取した薬草や魔獣を倒して手に入れた魔石を『空間収納』へ放り込む。


ウサギネズミ討伐で、テリーのいう『血塗れドン』、血塗れでドン引きをされた経験を活かし、『清浄』も済ませ、三人とも身支度バッチリである。


「お嬢さま、御髪をっ」


そう、一つ難点を言えば『清浄』は髪を整えることだけはできないのだ。細い髪はもつれ、クリスのくせ毛は爆発、テリーの髪はうねうねと広がっている。


持参した櫛やら、手櫛やらで整える。



そして午後からは軽食の準備だ。


後援部隊の食事班が朝昼夜と食事の準備をしているが、兵士達は夕刻前には空腹でぐうぐうお腹が鳴るらしく、幾つかの小隊から材料を用意するのでと軽食を頼まれるようになってしまった。


清潔が大事なので、三人お揃いの白の調理用上っ張りに、白の首巻きで調理や仕込みに入る。



「今日のピリ辛焼き鳥はヒットでしたねっ。明日は何にしましょうっ?」

「クリス、何か良い案はある?」


「そうですね‥‥‥お嬢様、皮袋に森りんごが数百個程あります」

「うっかり忘れていたけど、確か一年ほど前のよね?」


北連合国の森で熟れ落ちていた瑞々しいりんごをもったいないからと空間付与の皮袋に入れて思いっきり忘れていた。


クリスが皮袋から手渡してくれた森りんごをテリーと共に一口齧る。小さいがシャキシャキで、強い甘味が疲れた体に染み渡る。


「美味しいわね、テリー」

「はいっ、明日はこれで決まりですねっ」


クリスも頷いているので、森りんごで決定だ。


夜に夕食を食べ、薬草の後処理をしたり、銀の杖印の回復薬水の調合をする。



そして、また早朝の朝つゆがキラリと光る頃、ヴィアスと一日一言の朝の挨拶。


たまにで天候の話をする。真面目な顔でヴィアスが今日は晴れそうだ、と言うとそんな気がする。


何はともあれ一冒険者と辺境伯の朝の挨拶は続いている。


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