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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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49.野盗親分じゃないよ

代々仕える影どもを懐刀として、馬を走らせる。


半月前、ロック砦駐屯地にいる魔獣討伐団長からの緊急報告を受けた。何でも魔の森が横たわるマルネス帝国との国境地帯で、凄まじいほどの地鳴りと共に大地が揺れ、一部が陥没したという。


情報が錯綜するのはいつものことだ。各所から続々と届く報告を精査しながら、古地図を基に状況の把握に努める。これは、ウィルソンが王国であった頃の古代神殿付近での崩落で間違いないだろう。


その古代神殿は自然洞窟内にあり、既に探索し尽くされ、価値のあるものは数百年前に回収されている。今では当時を偲ばせる荘厳な飾り装飾の列柱と祭壇を残すのみだ。何にしろ、秘匿性を考慮し、自ら視察に赴くことにした。


そして、予定より早く日暮れにはロック砦に到着し、いつもの宿で体を休める。


各地より集まる腹心との合流日は二日後だ。明日は久しぶりに砦内を忍びで見て回るとしよう。全身が疲労でズシリと重く、前後を知らず泥のように深い眠りに落ちた。



翌朝、冒険者ギルドで冒険者や奴らの装備、掲示板の依頼書にざっと目を通す。それから市場だ。端的に言えば、人、物、金の動きを見て回る。領民の懐事情や表情からでも色々な事が分かるものだ。


市場で朝食を軽く摂ってから、待ち合わせの場へと向かう。


「邪魔する」

「お早う御座います、元帥」


元帥は独立した王国であった頃の名残だ。代々辺境伯軍の最上位、ウィルソン辺境伯家当主に受け継がれる。そして、この正式に礼をとる男が魔獣討伐団長ゴーランド。正確には辺境伯軍第二軍団長アーサー・ゴーランドだ。


「ヨォ、坊!」

「‥‥坊は止めろ」

「ワハハハ、悪い悪い!」


この全く悪いとも思っていない男が、若い頃に魔獣討伐団長まで上り詰めたタイロンだ。亡き父上に重用され、俺もコイツから剣術を学んだ。


タイロンは足を負傷した事が元となり、引退して家業を継ぐ事になった。口は悪いが裏表もなく、俺が幼少より信を置く者の一人だ。


裏参謀でもある二人が集めた情報、ロック砦や南北の砦、魔獣、魔の森、国境、次々と報告を受ける。例の魔の森の陥没と崩落の話になった。


あの陥没の同日同刻、巨大な魔力の奔流を感じられたとの報告が気になる。王国の王宮魔術師や他国の魔術師、その他の要因も念頭に入れる必要がありそうだ。


「最後の報告になります。砦に新しく出入りするようになった新人兵、商人や冒険者も含めて調査が終わりました。不自然な動きをする者はなく、犯罪者や間者の心配はないかと。ただ‥‥」


「なんだ。はっきり言え」


「はい。新人冒険者パーティー『銀の杖』の得体が知れなくは、ないのですが‥‥気になると言うか‥‥」


いつものゴーランドと違って歯切れが悪い。詳しく聞くと三月前に冒険者ギルドで冒険者登録をしたばかりの覆面三人組だと言う。しかも、一度ウサギネズミの魔獣討伐に参加した以降は薬草採取を主にしているランクの低い冒険者だ。


一体何が問題なんだと訝しげに聞いていると、ウサギネズミ討伐で見た剣の腕前から、確証は弱いがガブリストーンの覆面冒険ではないかと推測しているという。


「ガブリストーンか。小隊がキトス豹数頭に襲われて、たまたま近くにいた覆面冒険者らに助けられた一件だな。確か回復薬も提供されたと報告書にあった」


「最近、流行りなんだか知らねぇが、覆面冒険者だらけだ。人違いじゃねぇのか?」


「いいえ。ガブリストーンでの目撃場所とロック砦から往復にかかる日数、他にも腑に落ちない点が幾つかあるのですが、あの冒険者達ではないかと愚考致します」


他の者ならいざ知らず、直感が鋭く洞察力に優れたゴーランドが言うのだから、そうなのだろう。


それにしてもゴーランドが一冒険者パーティーに対して、気になるか‥‥。

銘々が僅かな思考に入り、間をあけたその時だ。



————コンコン、ドンドン、バンバン、ドドン、ドンドン


突然扉を叩く音が静かな作業場に響いた。音が外れているのも、微妙に耳に障る。


「うるせ——っ!!」


タイロンが扉の前にいるであろう人物に向かって怒鳴ったが、メゲずに叩き方を変えて『ドンドン、カッカッ』と続けるので、腹立ったタイロンが音を立てて扉を開いた。


「うるせ——って言ってんだろう!!」


扉の前にいたのは古い外套のフードを目深く被り、顔の下半分を首巻きのようなもので覆っている冒険者らしき者だ。


「こんにちは。剣二振りの依頼に来ました」

「はっ! 帰れっ!」


声からして若い女か? 魔獣のような顔のタイロンが吠えるように声を上げても怯むこともなく話を続け、そしていつの間にか俺かゴーランドがあの女冒険者と手合わせする話になっている。


目線をゴーランドをズラすと、顔色悪く首を横にブンブンと振っている。どういうことだ?


————キ ——ン


目線を戻した時には目の前にあの女冒険者、喉元には剣先が突きつけられていた。十歩は軽く間が空いていたのに気配を消して一気に詰めたか。いや、気配は消してないな。この女冒険者から気配を感じない。


ふっ、面白い。油断していたのは認めるが、この俺が遅れをとった。


隣にいるゴーランドは俺が剣を突きつけられて、顔色どころか唇まで青ざめる始末だ。


それからタイロンとあの女冒険者とのやり取りが始まった。剣二振りを依頼したい女冒険者が剣の素材として提示したのは、うねるような筋模様が入った鈍い輝きの漆黒石だ。


あのバカ頑固のタイロンがコロリと堕ちてしまった。普段の獰猛な成りを一変させて、あの豆粒のような小さな目を輝かせている。


「こ、こ、こ、これは、あれかっ?!」

「そう、天からの贈り物」


『天からの贈り物』? ひょっとして希有で稀少な天から落ちてくると言われる鉄石か? 頑固で融通の利かないタイロンをいとも簡単に懐柔してしまった。


俺とゴーランドは終始放って置かれ、二人の間で次々とやり取りが交わされる。終いにはあのタイロンが感極まって泣き出してしまった。


不細工な泣き顔に引いていると、ここで初めて狼狽えた態度を見せた女冒険者が、外套奥からキラキラと輝くガラス瓶を取り出した。


「『銀の杖』は薬草から後遺症回復薬も調合しています。


この回復薬の薬効はかなり高いです。ただ、回復薬を試したメンバーによると時が経った古傷ほど痛みが激しく、傷の癒着を剥離されるようなえげつない痛み、場合によってはのたうち回るような痛みを伴います。


気が向いたらでいいので、一口ずつゆっくりと飲んでください」


この女冒険者が『銀の杖』のパーティーメンバーだと初めて知ったが、取り敢えず成り行きを見守る。


タイロンが今でも魔獣にやられた片足の痛むと零したからか、女冒険者はガラスの瓶を手渡して逃げるように去っていった。




「‥‥坊ォ、えげつない、えげつない痛みとはどんな痛みだ‥‥?」


「いいからその薬水を飲んでみろ。高価な鉄石を置いて剣を頼むくらいだ。毒殺はないだろう。せいぜい腹を下すぐらいだ」


タイロンが手にしている薬水を覗き込んでいたゴーランドが口を開いた。


「それにしても、澄んだ薬水です。薬水は全て濁った緑色だと思っておりました」

「ただの水かも知れんぞ」


尻込みしていたタイロンが意を決して、ポンっとガラスのコルクを抜くと、辺り一面に酸っぱい匂いが漂う。


「うっ! クセぇ」

「いいから、早く飲め」


「———っ!!」

「おい、飲み過ぎだ!」


一口ずつゆっくりと飲めと言われたのに一気に飲んでしまった。相変わらず話を聞かない男だ。


魔獣が矢を受けたような顔で飲み切り、あのタイロンが床に蹲って、痛みを紛らわすかのように唸りながら拳で床を叩く。


乱れた髪が脂汗の滲んだ額にへばりつく様子に危機感を募らせた頃、タイロンが腐った山羊の乳のような味だと咳き込みながら大声で文句を言う姿に安堵する。


咳き込みが落ち着いた頃には痺れるような足の痛みが無くなった、と目をこれでもかというくらい広げたタイロンが驚きの声を上げた。


そして、片っ端から重量のある物を持ち上げては踏ん張りがきくと大喜びだ。


大きく動くと僅かに痛みが残っているともいうし、経過観察も必要でまだ時期尚早。だが薬効は確かにあるようだ。



『銀の杖』だったか。剣の腕といい、有能な冒険者はこの辺境に取り込みたい。


それだけではなく、何故か灼きつくような好奇心に気がせき、外套を目深く被っていたあの冒険者を急ぎ追った。


既にいないかも知れないが、足早に表小道を歩く。するとある建物、男娼館の前で佇んでいた。


「‥‥‥っ」


邪魔するのも無粋かと身を翻して去ろうとした時に、気配に気づいたらしいあの女冒険者がこちらを向いた。


「あっ、野盗、いえ、その、先程ぶりですね‥‥」

「‥‥‥野盗?」


少しの間を置いて、冒険者は話題を変えた。


「この辺は吟遊詩人が名付けたお店が多いのかなと思って。この看板は『貴女の瞳に乾杯』で、あっちは『天空へご招待』ですし」


あっちは娼館だ。もう少しで噴き出してしまいそうだったが、気合いで堪える。想像しているよりかは年若いのかも知れない。


湧き上がる不可解な安堵感に首を捻りながらも裏道を教える。


「あ、ああ‥‥‥さっきの作業場の裏に商人が使用する階段がある。市場への近道だ。これからはその階段を使うといい」


もう少し話していたい。


「昼時だ‥‥飯でもどうだ? この辺の美味い店には詳しい」


自然とそう口にしていた。

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