47.寄り道でロック砦 最高の鍛治職人
領都ウィスターで秋の剣術大会に参加する事になったテリーとクリス。
ロック砦の冒険者ギルドで冒険者として参加申込はできるが、ディフラン公爵家の騎士として参加したいとの決意を聞き、父オーランドに黒ひよこのピヨちゃんで連絡を入れた。
因みに父オーランドが王宮魔術師団長ロズウェルから黒ひよこの連絡方法を習い、果実を煮詰めたジャムのようなドロリとした黒ひよこのピヨちゃんが影から這い出す姿に皆で悲鳴を上げたのはつい最近の事である。
今ではブサカワのひよこがポンとまではいかないがコロンっと転がって現れ、連絡のやり取りをしている。
話は飛んでしまったが、その剣術大会までにやるべき事がある。
王都には王都での剣術に見合う剣があるように、辺境の剣術に見合う剣、その鍛治師がいるはずである。最高の鍛冶職人に二人の剣を依頼したい。
実は魔法で刀を作刀することはできるのだが、細かな意匠や調整ができない。
刃の重心をどこに置くか、例えば対象を切り裂く目的の場合は刃の前方に重心を置くなど、重心一つにしても難易度が高く、容易ではない。
そこで鍛治職人探しである。
辺境伯軍の兵士にでも訊ねる事ができれば良いのだが、今のところ伝手がないので、次点で冒険者ギルド長のトット。トットが忙しくない昼に会いにきた。大柄なおにい‥‥お姉さんだ。
「あらぁ、シルバー。一人なんて珍しいわね」
「ふふっ、隠し事よ。今日も素敵なスカーフね」
「あら、ありがと。ゴージャスな感じで気に入ってるのよぉ」
「トット、今日は相談なの。実は領都の剣術大会に参加するメンバー二人に剣を贈りたくて。辺境伯領一の鍛治職人といったら誰かしら?」
「あら〜、二人とも喜ぶわよぉ。そうねぇ、辺境伯領一の鍛治職人‥‥いるにはいるんだけど、どうかしら。超偏屈、超頑固、超融通が利かない、でも腕はピカイチなのよぉ」
なんでも門前払いは当たり前だそうだ。代々に亘って砦に住む家系で、鍛冶職人としての誇りと責任感を背負い、気に入った仕事しか受けないという。
「まあ、地図書いてあげるから、ダメ元で行ってらっしゃい」
サラッと描かれた地図を見るに、ロック砦の階段状の段々畑ならぬ、段々町。このギルドや市場の一つ下の段に鍛治師の作業場があるようだ。
「あら、ここは綺麗なお姉さん達がいるところね。テリーとクリスには行かないように言われている場所だわ」
まあいいかと地図を見ながら歩いていく。怪しいのがいたら足で蹴飛ばせば良い。
「柔軟して来て良かったわ」
岩の形に沿っていて緩やかに曲がる石畳の道に、三、四階建の建物が隙間を置かず両端に並ぶ。整然とした美しい町並みだ。それぞれの建物が白、赤、青、緑と色鮮やかに色付けされている。
人通りが無く、閑静としているのは昼食時だからだろうか。
色鮮やかな建物を通り過ぎてしばらくすると工房や作業場らしき建物が並び始め、カンカン、コンコン、トントンと途端に賑やかになってきた。
この町では一冒険者として暮らしているので、ある程度事情を察しているトットは別として、態度と言葉使いに気を配る事にする。
念の為にもう一度地図で確認してから、看板もない建物の扉を叩く。人の気配はあるのに完全無視である。
コンコンから始まって、ドンドン、バンバン。変化を付けて、ドドン、ドンドン、ドドン、ドンドンと叩いていたら、扉越しに「うるせ———っ!!」と怒鳴られてしまった。
何しろ超偏屈の超頑固さんだ。扉越しの大声で依頼したとしても、きっとこのまま門前払いになる。どうしたものか。やはり顔を合わせて会話から始めるのが王道だろう。
可愛らしく、扉の中央と端を交互に叩く。ドンドン、カッカッ、ドンドン、カッカッと続けていたら、『バババ——ン!!』と扉が開いた。
「うるせ——って言ってんだろう!!」
筋骨隆々で腕が丸太のような男が、苦虫を噛み潰したような顔でどっしり立つ。よく見ると上質な魔獣皮で指先から両腕、体全体を覆っている。
年頃は五十歳前後。古傷が刻まれた獰猛な面構えをしていて、子供だったら一目見ただけで大泣きしそうである。
「こんにちは。剣二振りの依頼に来ました」
「はっ! 帰れっ!」
もふもふの銀色の毛並みにつぶらな瞳の元神獣のお陰で口の悪いおっさん語には耐久性があるのだ。このままだと堂々巡りになりそうなので、依頼を引き受ける条件を尋ねてみる。
「では、依頼を引き受ける条件を教えてください」
「ふん、一流剣士の依頼しか受けねーんだよ。分かったか、ひよっ子。俺の堪忍袋の緒が切れる前にさっさと帰りな」
「なら、剣の腕を証明すればいいですか?」
ちっ!、とおっさんが盛大に迫力のある舌打ちをしたのである。
「面倒臭せーひよっ子だな。ならアイツと手合わせしてみろ。負けったら二度と顔見せんじゃねー、分かったか!」
おっさんがくいっと顎をしゃくった室内には二人の男がいた。一人はウサギネズミの討伐で回収係を引き受けてくれた親切ないかついおじさんと、もう一人は野盗と名乗っても納得できる出立の男だ。
ダボっとしたパンツの裾を皮のブーツに押し込み、ボロボロの外套でフードを目深く被っている。口元には顔を隠すように首巻きだ。そして一部の隙もなく腕を組んで背を壁に預けている姿はまるで野盗親分である。
どことなく自分の服装と似通っていて、衝撃を受けてしまった。人の振り見て我が振り直せ。どうやら軌道修正の必要があるようだ。
雑念を振り払うように軽く頭を振って二人に視線を向けると、ウサギネズミのおじさんは首をブンブン横に振っている。なら、相手はあの野盗親分だろう。
おっさんが扉を押さえて、また一つ顎をしゃくる。入れだろうか? お言葉‥‥お顎? に甘えて、地を蹴り一歩を踏み出した。
————キ ——ン
秘技、不意打ち片手刺突。構えを取ってない状態の相手に対して一閃で間合いに入り、眉間や喉元、胸を狙う姑息な技である。
野盗親分の喉元で剣先を止めた。無言だが少しばかり動揺の色が見える野盗親分。ふふ、油断大敵なのである。
慎重に剣を鞘に戻しながら、隣のウサギネズミのおじさんに目を向けると顔色が真っ青だ。不意打ちだったので怖かったのかも知れない。
「おいおいおい、何だ何だ?! いつ鞘から剣を抜いた?!」
鍛治職人のおっさんに詰め寄られたが、さっき、としか言いようがない。他にも色々尋ねられ、答えに窮していると背中をばしんっと叩かれた。
「まあ、いい。話だけは聞いてやる。言って見ろ」
では、ジャーンと剣の素材として用意してきた石を作業台の上に置いた。
おっさんはあんぐりと口を開けたまま固まってしまったのだった。
この石はあの洞窟にあった巨石郡の欠片で、崩落の際に巻き込んで一緒に転移してしまったものだ。漆黒でうねるような筋模様が入った石である。
「こ、こ、こ、これは、あれかっ?!」
「そう、天からの贈り物」
二、三度同じ言葉のやり取りを繰り返すハメになってしまった。イリシオンによると、この石は天からの贈り物と呼ばれ、極めて稀に天から落ちてくる鉄石だそうだ。
この鉄石から生まれる剣は強度や靭性に優れた至高の一品に。また独特の質感や光沢で美術品としては値がつけられないほどの価値になるとイリシオンが言っていた。
さて、鍛治職人のおっさんは依頼を引き受けてくれるだろうか。




