41.寄り道でロック砦 白銀5
ふむふむと国境沿いに飛行する。帝国側から王国側への立ち入り、不法入国の痕跡がないかを探っているのである。
白銀といた縦穴洞窟の地底湖の付近、隔たったかなり遠くで複数人の存在を感じたのだ。人の事は言えないが、夜中の洞窟で何をしていたのだろうか。
今朝は帝国と洞窟が繋がっている可能性も含めて、外から洞窟一帯の調査をしにきたのである。たとえ地上で痕跡を上手に隠したとしても、上空からだと不自然さは隠しきれない。
現に帝国側から隠しきれない不自然な行き来きした跡、踏み固められた動線らしきものが僅かに窺える。
早朝から陽が高くなるまで見て回ったが、あまりにも広大な地でもあるし、こんもりとした大きな木々に阻まれて、上からでは詳細な調査は難しい。
それに日中は気配や物音を拾うにも虫も含めて生きし物の営みが騒めき、これ以上はお手上げである。後日に助っ人を呼ぶことにしよう。
「がっ、がうぅ!!」
「ふふっ、私よ。ただいま」
転移で戻ると白銀に吠えられてしまった。テリーとクリスはまだ戻っていないようだ。
「私が一番乗りね。さてと二人が戻り次第、転移で戻りましょう。今日の昼食は何かしら」
白銀のもふもふの毛並みを撫でながら景色を眺めていると、連絡用の鳥紙が一直線に飛んできた。危険が迫る非常時には非常用の連絡方法があり、鳥紙はそれ以外の伝達だ。
「これはクリスからの呼び出し鳥ね。あなたを抱えるには大き過ぎるから、別々で浮遊してから鳥紙を追うけど大丈夫?」
「がっ、がうぅ!」
流石に大型犬を抱えるのは難しい。多分このドヤ顔は「舐めんなよ、こらっ!」である。
一声かけてから、鳥紙を目指して上空へと上昇。白銀に目を向けると、前脚をピンと伸ばした伏せの姿で、キリリと顔あげて前方に視線を送っている。
「ふふっ、キマっているわね」
回旋していた鳥紙がすーっとある方向に向かって一直線に飛ぶ。北東部あたりで鳥紙がきりもみで垂直に降下したので続くと、そこには岩場の上から身を隠すように下方向を見詰めているテリーとクリスがいた。
とんっ、と岩場に降り立つと、クリスが直ぐにキリッとした顔で端的に状況説明をする。
「岩下で辺境伯軍魔獣討伐部隊と思われる小隊約四十人と魔獣が交戦中です。魔獣は群れで狩りを得意とするキトス豹、四頭。小隊は半数が入隊したばかりと思われ、怪我人多数で苦戦中。現在このような状態です」
岩下では討伐部隊が追い詰められた状態で岩を背にし、体長だけでも人の倍はある魔獣が扇状に広がり、部隊を取り囲むようにして退路を絶っている。
そして指揮官と窺える者と数名だけが勇敢に先頭で戦っているが、形勢が不利であることは明らかで、先頭の者以外は恐怖にすくんで動くこともままならない。完全にダメだこりゃ、である。
クリスは辺境伯軍との関わりになるので、ひとまず待機で一報を入れてくれたのだろう。
「仕方ないわ。テリー、クリス、行きましょう」
「「はいっ!」」
きゅっと首巻きを引き上げて顔を覆い、指揮官の前方を目指して岩を蹴って下降する。「がっうぅ!」と聞こえたような気もするが気にしていられない。地に降り立つと正面から目を逸らさず、後にいる指揮官と小隊へ向けて声を上げる。
「気合入れろ、魔獣討伐部隊だろうがっ!! 前に出る、体制を立て直せ!!」
非常事態の中で率いるには、従わせる物言いと態度が大事だと父オーランドが言っていた。冷静に腹から声を出し、有無を言わせない命令口調で指示を出す。
正面から突っ込み、向かってくる魔獣をいなし、斬り結ぶ。左右にいるテリーとクリスとで連携をとり、明らかに序列一位であろう巨大キトス豹に斬りかかった。初太刀が爪で弾かれ、ニの太刀‥‥‥。
「がっ、がうぅぅーーぅ!!」
———-ズズッ、ズッダン!!
一閃で決着が着き、巨大なキトス豹が苦鳴と共に吹っ飛び倒れたのである。
しかも白銀の猫パンチならぬ、狼パンチの一撃で絶命してしまった。
「「「‥‥‥‥」」」
勢い余ってたたらを踏んでから、呆気に取られて立ち尽くす。
「‥‥最強は、白銀様のようです」
「‥‥ええ、あの体格差で、凄いわね」
「これは‥‥ワンちゃんはパーティーメンバーになれるか、後でギルドに聞いてみますっ」
少しばかり呆然としてしまったが、白銀の事よりも先に成すことを成す。振り返るとキトス豹の死骸と、糸が切れたようにへたり座り込んでしまった隊員達。他の動ける隊員達が懸命に負傷者の手当てをしている。
ここはアレの出番である。さっと外套から取り出したように偽装して、複数の回復水薬の小瓶を取り出した。
「さあ、隊長に許可を得るから、手分けして重傷者から回復薬を飲ませましょう」
先程、先頭で勇敢に戦っていたキラリと光る人が隊長だと目星はついている。
「あっ、スキンヘッドはあそこですっ!」
見つけやすい隊長で何よりである。隊長もボロボロに疲弊しているので、一冒険者として端的に、明確で、分かりやすく、を心がけて声をかけた。
「隊長とお見受けする。手持ちの回復薬を重傷者に飲ませてもよろしいだろうか」
「ああ‥‥先程の冒険者か‥‥助かった、礼を言う。悪いが一口飲ませてもらってもいいか?」
隊員の為に毒味を買って出たようだ。一口飲み、目を白黒させている。
「こ、これは‥‥‥こちらこそ頼む。他の魔獣が血の匂いに惹きつけられる前に安全な場所へ移動したい。ぜひ隊員に飲ませてやってくれ」
「了解した。ところで、あの巨大キトス豹を持ち帰っても?」
「ああ、勿論だ。貴殿らが倒したキトス豹だ。何頭でも煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
了解の意味で一つ頷き、直ぐに手分けして回復薬を飲ませる。程よいところで切り上げて、二頭のキトス豹を手土産に静かに立ち去った。




