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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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40.寄り道でロック砦 白銀4

「お嬢さまっ?! えっ?!」

「‥‥‥っ?!」


転移で居間に戻ると目が合い、そしてすぐに二人の視線が銀色のもふもふに流れた。


「ワンちゃんですっ!」

「ふふっ、可愛いでしょう。洗い立てのふわふわよ」


「‥‥お戻りが遅いので、非常連絡用に渡されていた腕輪を使うか話し合っていたところでした」


抑えた低い声で話すクリス。珍しくおかんむりである。


「クリス、どれくらい時が経ったのかしら?」

「五日半です」

「えっ、五日も?!」


一日のつもりでいたが、洞窟の無音と暗闇で時の感覚がおかしくなっていたようだ。結局、長々と二人のお説教を聞く羽目になってしまった。


既に外は茜色で、少し早い夕食を取りながら洞窟譚をする。


「うわぁ、白ちゃん、本当に結晶石をバリボリ食べるんですねっ」

バリボリと食べ続ける白銀しろがねにドン引きのテリーである。


「それにしても立派な脚です。叔父に脚が太くてガッチリしている犬は大きくなると聞いたことがあります」


「えっ?! これ以上はちょっと困りますっ」


「そうそう、言い忘れていたのだけど、イリシオンによると犬ではなく、狼なんですって」


「えっ、ワンちゃんじゃないんですかっ」

「道理で足が立派な訳です」


「ふふっ、そうね。先程の話の続きなのだけど、一度外から洞窟一帯の調査をしようと思って」


「先程、おっしゃっていたマルネス帝国との隣接地帯だからですか?」


「そうなの。かなり遠くだったけど、最後の探知で洞窟内に複数人の存在を感じたのよ。辺境伯領のガブリストーン砦に近いから辺境伯軍の可能性もあるけど、帝国軍の可能性もある訳で、場合によっては王宮魔術師団長のロズウェルお従兄様に連絡を入れるつもりよ」


「あの一帯は王国領土。帝国軍がいたとなると一大事です」


「ひょっとしたら、冒険者達の可能性もありますねっ」


「そうね。取り敢えず、明後日の早朝に出発する予定で準備を頼めるかしら?」


「「了解ですっ」」


「さあ、洞窟の話はおしまい。二人はどう過ごしていたの?」


暇だったクリスが食堂のおじさんに貰ったレシピで保存食や料理に挑戦していた話や、テリーがまるで内職のように大量の干し薬草をすり潰して、両腕が肘まで緑色に染まった話などを笑い合ったりと遅くまで会話が弾んだ。




◇◇◇




「‥‥‥っ!」

「うわっ、こ、これは想像以上ですっ!」


「日の下で見ると背筋が寒くなるわ。まるで蛇行する峡谷ね」


地を割ったような、まごうなきガクブル峡谷である。両側が切り立った険しい崖で、その底に口を開けるかのように縦穴洞窟が見える。まるで底に落ちてきたものを捕らえるかのように。


この洞窟に真夜中に足を踏み入れたなんて、勇気があるというか、無謀というか、自分でも驚きのあまりぽかんと口が開いてしまう。


「えーっと、私は上から見て回るわ。二人には峡谷に沿って調査をお願いできる? 帝国との国境も近くだから、万一の場合は退却。それと強風が下から吹き上がるから気をつけて」


「「はい(っ)!」」


クリスが地を勢いよく蹴り、ダンっと反対側の崖に飛び移った。今のはちょっと格好が良い。テリーを見ると‥‥既にいなかった。


残されたのは「一緒に連れてけ、ぼけっ!」の表情でここまでついてきた白銀はくぎんだけである。白銀は白銀で落ち着かない様子でウロウロと歩き回っている。


「あら、うんちっち?」

「がっ? がうぅぅぅ!!」


何故かお怒りのご様子だ。ぷいっと真っ直ぐ前を見据えたと思ったら振り返り、「ついて来い、こらっ!」の顔だ。なぜかと首を傾げていたら、外套を咥えて強く引っ張る。


「分かったわ。ついていくから、外套を噛まないで」


フンッと鼻息を飛ばす白銀に促されるまま後を追う。洞窟の時と同じで、途中何度も振り返りながら待っててくれている。



「‥‥ふぅ」


既にかなりの距離を歩いた。ここは魔の森である。先程から魔獣に襲われる度に剣を振るい、額の玉のように流れる汗を手の甲で軽く拭う。


魔の森は樹齢何百年の巨木の原生林でもあり、過酷な環境でも老木や倒木飲み込みながら上へ上へと成長した巨木林。


滑りやすい毒コケに覆われた岩やら、奔放にうねる根に足を取られっぱなしである。


「‥‥すぐ近くだと思ったのだけど、まだかしら?」

「がふぅん‥‥」


見た感じ迷い犬のそれだ。不安気にあっちこっちの匂いをクンクン嗅いでいる。


(それにしても困ったわね。どうしましょう)


目線に合わせてしゃがみこもうとすると、急にお尻に火がついたように走り出した。何事かと構えると大樹にがしっと爪を立てて貼り付き、がしがしと垂直に駆け登る。


「まあ、狼って木にも登れるのね」


上方では枝が大きくしなって揺れ、白銀が口元に何かを咥えてがしがしと駆け下りてきた。


ぽいっと口に咥えていた木の枝を足下に置き、目を細めてドヤ顔だ。その木の枝をまじまじと見ると銀色の実がなっている。独特な形で上が細く、お尻が大きい見たこともない銀色の実だ。


見るからに毒々しく不味そうである。


「がっうぅ!」


鼻の頭でしきりと木の枝を押す仕草は、「食べろ」とでも言っているようだ。


ふっと子供の頃のお気に入りの絵本を思い出した。確か何とかの恩返しで、助けてもらった動物が恩を返す話だ。


「お、お気遣いなく‥‥」

「がっうぅ!」


お互い譲らず、白銀の視線が凍ったように動かない。後で食べるね、と誤魔化して仕舞う素振りを見せると抗議するように唸る。


(うぅ、食べたらお腹壊しそう)


仕方なしに取り出した短剣で銀色の実を二つに割ると、みずみずしく、ほのかな甘い香りがする。


「がっ、がうぅ!」

「はいはい。なら、半分こね」


半分を白銀に、残りを恐る恐る一口齧る。シャリシャリした食感でスッキリとした甘味が口の中に広がり、後味がー‥‥。


「‥‥っ?!! えぐ、エグいっ‥‥‥」


後味最悪。悶絶するほどの不快な苦味、えぐみで泣きそうである。白銀に目をやるとしゃりしゃり美味しそうに食べている。


「‥‥‥‥」


ぽいっと残りの銀の実を空間収納へ放り投げて、「食べたか?」と言う顔で小首を傾げる白銀に笑顔で誤魔化す。


「ご馳走様でした。さ、さあ、行きましょう」


いつまでもいると新たな銀の実を勧められそうである。サッとさっきの場所に転移で戻り、器たっぷりの水と結晶石を置いて、白銀にここで待っているように声をかけた。


そして、外套のフードがズレてないか確認してから、とんっと地を蹴って浮遊する。飛行で当初の予定通り、上から情報収集だ。

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