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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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4.婚約者とこれからの話

侍女達が窓を開けると爽やかな春風が入り、やさしい野花の匂いがする。


「お嬢さま、ご婚約者様のウィルソン辺境伯閣下から姿絵とお誕生月の贈り物が届きましたっ! どこに飾りましょう?!」


「そうね‥‥飾り棚の右横にお願いできるかしら」


「はい、かしこまりましたっ!」


(すっかり忘れていたけど、前の人生でもこの頃に送られて来たのよね。魔獣が住まう魔の森と国境防衛の理由で一度もお会いしたことはないのだけど)



婚約者であるウィルソン辺境伯家当主ヴィアスの姿絵。改めて眺める六歳年上のヴィアスは無表情で背筋よく立ち、長い黒髪を一つにまとめて肩にゆるりと流している。目鼻立ちの整った端正な顔立ちに燃えるような赤の瞳。


銀の刺繍が美しい黒の儀式用軍服を纏い、黒地に際立つ階級章と複数の勲章がより一層の威厳を放つ。


「ウィルソン辺境伯閣下で辺境伯軍の元帥閣下であらせられるお方は、姿絵もこう、目線だけでころせ‥‥いえ、オ、オーラが違いますですっ」


「ふふっ、噛んでるわよ」


テリーはともかく、ヴィアスの話になると他の侍女達はさっと青ざめる。何せ王都の貴族の間でヴィアスの噂が噂を呼んで恐れられているからだ。


三年前の魔獣討伐で、当時のウィルソン辺境伯家当主と第二夫人の子である異母兄が命を落としたのだ。当主死亡に伴い、嫡子で第一夫人の子であるヴィアスが十八歳の若さで当主と元帥を引き継ぐことになった。


ヴィアスは対抗勢力を追放、処刑。そして、ある小部隊を一人で殲滅させたとも噂されている。さらに当主と異母兄を殺害したのではないかとの黒噂までも。



更に恐れられている原因の一つにウィルソン辺境伯家の万もの軍事力だ。


軍事力については、ウィルソン辺境伯家は元々独立した主権に軍を持った独立国、ウィルソン王国だった事に起因する。


大陸最強とも言われた軍隊を持ってしても、二百五十年前の魔獣大発生で国土が踏み荒らされた。


それを好機と捉えた近隣国からの侵略の芽もあり、同じく甚大な被害を受けた隣国のノーエル王国と協力関係を結び、合意に基づいて併合されてウィルソン王国は消滅した。


その消滅したウィルソン王国はほぼ現ウィルソン辺境伯領地であるし、ヴィアスはその王の直系だ。


今でも協力関係の併合だったために複雑な条約が残り、圧倒的な強さの軍を保持しているのがウィルソン辺境伯家である。そして、それが王侯貴族の疑心暗鬼にもなり、不安や恐怖心に繋がっている。


だからこそ政治的な結びつきを強化する為に、ノーエル王国王族血筋のディフラン公爵家リリアナとウィルソン辺境伯家ヴィアスとの婚姻が王令で決められた。



少しばかり思いに耽ってから、ヴィアスからの贈り物と一緒に届いた手紙に目を通す。ふむ、念の為に陽に透かしても見たが、今年も一行『良き誕生月を』である。


五歳から互いの誕生月に手紙と誕生月の品を贈っている。一針一針丁寧に刺繍した剣帯や職人と頭を捻って考えた特注の短剣など、毎年心を込めた手紙と贈り物に対して、ヴィアスからは毎年一行の『良き誕生月を』に魔石一つ。


魔石とは魔獣が地脈などから変質した魔力を溜め込み、体内に石形成されたものだ。公爵領に海があるので、真珠と同じだとの兄の例えは分かりやすかった。凝縮した魔力の塊で魔術の補助など、幅広い用途のある魔石は宝石よりも価値が高い。


部屋の飾り棚にずらりと並んだ魔石はヴィアスからの贈り物で、結婚に夢を見ていた一回目の人生では、たった一行に無骨な魔石一つにハラリと涙を流したのを覚えている。


今は三度目の人生でもあり、諦観の域に達してしまった。ただ感傷に浸り眺めるだけだった魔石は、折角なので筋肉鍛錬用の重石として無駄なく活用している。



今回も執事が重そうに抱えてきた木箱を釘抜きで開けてもらうと、そこには美しく輝く青の魔石が入っていた。


「色味がお嬢さまの瞳に似た青空の色、紺碧色ですっ。角度によって色合いが変わるところが特に似ていらっしゃいますっ」


「そうかしら?」


「はいっ、いつものように飾り棚に飾りますねっ」



政略結婚でも愛を育んだディフラン公爵家当主の父オーランドの意向で、子にもそうなって欲しいとの想いから婚約者の贈り物は自室に飾るように言われている。


迷惑な親心である。


飾り棚にずらりと並んだ魔石は陽の光を受けて宝石よりも眩く反射する。複数の魔石による光の集合体は言葉にできないほどに神秘的でこの世ならぬ美しさだ。


この部屋は日当たりが良く、正午には目に沁みるほどの強烈な魔石の眩しさに、誰もが眉を寄せて過ごしている。


運悪く飾り棚に飾り付けたのが正午だった。眩しさのあまり眉間に皺を寄せて魔石を眺めることとなり、テリーは急ぎ魔石を覆う布を探しに走ったのだった。



昼食後、日差しを背に書斎机に向かってペンを走らせていた。顔を上げると否が応でも婚約者の姿絵が目に入る。


「今回はお会いすることになるのかしら? 何にせよ、まずはより強く、生き抜く事が目標よね」


うんうんと頷き、手帳に書き綴る。


『 < やること >


 1.王立高等学院 専攻を魔術科へ変更

 2.魔術の自己学習 並行して筋肉鍛錬、護身術、馬術、体術、剣術のやり直し 』

 


二回目の人生の最後、襲撃者は剣士だけでなく魔術師もいた。対抗するにはやはり魔術もである。そこで更なる力を求めて魔術を学ぶことにする。


学院の入学は三月後。丁度三月、ディフラン公爵家当主オーランドと嫡男で文官のローレンは領地の視察で不在。次兄ライアンは王宮騎士団所属の寄宿舎住まいで同じく不在。


「ギリギリになってしまうけど、魔術科への変更手続きはお父様がお戻りになられてからね」


そして、この鬼の居ぬ間に書物から魔術を学びつつ体術と剣術などのやり直し。二回目の人生で研鑽を積んだので勘を取り戻せば何とかなるかも?



それともう一つ。侍女達によると、自由気ままに一人で冒険する冒険者の本が市井で流行っているらしい。


「そう、風の吹くまま、自由気ままに」


思わず口角が上がってしまう。ペンを指先でくるっと回転させて書き込んだ。



『 3.冒険に行く 』

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