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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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38.寄り道でロック砦 白銀2


「がっ、がっ、がりがりがり‥‥」

「ん‥‥‥?」


「がっ、がっ、がりがりがり‥‥」


ゆっくりと重い体を起こして、音のする方に顔を向けると、くるりと丸まった何かがいる。


「ん‥‥‥?」


ぼーっとしながらも焦点を合わせるように眺めていると、左右に大きくふさふさが揺れている。そして視線を感じたのか、その何かが振り返った。


「い、犬?」


そこには薄汚れた巻きしっぽの子犬がいた。眉毛のような模様が両目の上に1つずつある。


「ふふっ、あなた眉毛があるのね。そこで何しているのかしら?」


子犬が拳大の結晶を1つを咥えてやってきて、見せるようにコロンっと置く。そしてがりがりと齧り始めた。どうやら噛み砕いて食べているようだ。


お腹が空いているのかと空間収納から取り出した干し肉を口元に差し出しても見向きもしない。


「ワンちゃんは結晶を食べても大丈夫なのかしら?」


子犬は鼻で笑うかのようにフンッと鼻息を一つ飛ばして齧り続けている。


それにしても、謎の黒霧をやっつけた後に生物反応は一切なかった。倒れている間に迷い込んだ子犬なのだろうか。分からないことばかりである。


とにかく倒れていたので、体がガチゴチだ。どっこらしょ、と重い腰を上げて立ち上がり、ぐいーっと伸びをする。


改めて辺りを見回すと、あれほど美しく神秘的な自然結晶が崩れ落ち、どこまでも広がる残骸の山となってしまっていた。だが不思議と空気がきよらかだ。


空間収納から自慢の回復薬を取り出し、片手を腰にくいっと一飲み。


『探索』で他の生物反応がないことは確認している。だが先程の黒霧みたいな存在がいるかも知れないので、念の為に地下空間を上からじっくり見て回る事にした。


「よし、『浮遊』『飛行』」


すると、下からがっがっと何かを蹴り上げる音に気づいて目をやると、あの子犬が「どこ行くんだ、こらっ!」というような顔で見上げながら追い駆けてくる。


眉があるだけで表情豊かに見えるから不思議なものだ。

大量の残骸があり、怪我でもしたら大変なので直ぐに降下する。


「ここを駆けたら危ないわよ。見て回ったら戻ってくるから、ここで良い子で待っててね」


すると「始めからそう言え、ぼけっ!」 の表情で伏せをして結晶をがりがりと齧り始めた。


「ふふっ、貫禄あるし、きっと将来は大物ね」


まずは飛行でこの地下空間を念入りに隅から隅まで見て回り、窪みや洞穴などはあるが生体反応もなく、他へと続く洞窟や道などもなかった。


色々と分からないままだが、既に魔力を使い過ぎたし、いろいろな意味で精神がゴリゴリ削られて疲れ果ててしまった。


さっさと帰り、ふかふかな毛布に包まれて、ゆっくりと眠りたい気分である。


「ワンちゃん、お待たせ。ここには貴方しかいないようなのだけど、ひょっとして私を呼んだのは貴方なのかしら?」


最後に尋ねてみたが、退屈そうに大きな欠伸をして見せただけだった。


「‥‥‥まあ、いいわ。ワンちゃん、これから地上に戻るのだけど、あなたはどうするの? 一緒に行く?」


「がっ、がうぅ!」

「‥‥‥」


意味不明である。


試しに声を掛けてから歩き出すと後からついてくる。さっきのガウガウは「一緒に行く!」 なのだろうか。


「分かったわ。一緒に行きましょう。ここの結晶なのだけど、貴方の食事でもあるようだし、それに少し使わせてもらいたいの。持って帰ってもいいかしら?」


「がっ、がうぅ!」


「許可する」ような尊大な頷きの後のガウガウである。子犬のかわいい姿と態度の差があり過ぎて思わずくすっと笑ってしまう。


最後の仕上げでここの結晶を収納だ。


「『大空間収納』」


収納できる分だけを持って帰ろうと思っていたのだが、なんと全てがしゅるりと収まった。自分でも驚きである。


「び、びっくりするほど、貴方の食事が確保できたわ」

「がっ、がうぅ!」


全ての結晶が取り除かれると、地下空間の広大さに改めて驚きを覚える。この広大さに比べたら人は豆粒のようで唖然としてしまう。


最後に途方もない歴史を刻み続けたであろう場所をくるりと見渡して目に焼き付けた。


「さあ、戻りましょう! 飛行するから抱き抱えるわよ」


暴れることもなく、子犬は大人しく抱き抱えられた。ゴツゴツした縦穴洞窟を上昇していく。下降より遥かに気分が軽く、途中から腕の中でうとうと眠っている子犬の温もりにも励まされる。


「がうぅ‥‥」


それほど時は経っていないが、子犬が目を覚ましたようだ。


「ん、起きたの? まだ暫くかかるわよ。ボコボコしているし、上傾斜だから慎重にしないと頭を打つけてしまうの」


そんなことは知らんとばかりに体をくねくねさせて、腕からするりと抜け出した子犬は勢いよく洞窟の側面に張り付いた。そして、がっがっがっと器用に駆け上がったと思ったら、小さな横穴に入り込む。


「がっ、がうぅ!」

「まあ、まるで猫のようね」


フンッと鼻息を飛ばして、横穴の奥に少し入り、まるで「こっち来い、ぼけっ!」の表情だ。


「そんな所に横穴があったのね。でも、小さ過ぎて入れそうにないわ」


「がっ、がうぅぅぅ!」

「ひょっとして怒られているのかしら?」


少し奥まった場所にあり、覗き込むとなんとか腹這いで入れそうだ。がうっ! に促されるまま、ほふく前進で進む。子犬は相変わらずで、少し先頭を歩いては止まって待っててくれている。


しかし非常にしんどい。行き止まりの場合はほふく後退? なのかをぼんやり考えていたら、段々と立って歩ける高さになってきた。ひょっとして出口でもあるのかと子犬の後ろ姿を追う。


「あら、遠くに青い光が見えるけど、また結晶なの?」

フンッと鼻息を飛ばされた。また笑われたのだろうか。


暫く進んだ先には静謐で深い青色に輝く地底湖が広がっていた。

言葉を失うほど美しい。神秘的で凛と張る空気といい、まるで別世界だ。


地底湖はあまりの透明度で深さは不明だが、キラキラと神秘的に輝く水を湛えている。


子犬はクンクンと匂いを嗅ぎ、喉の渇きを癒すかのように地底湖の水を飲み始めた。


つられるように屈んで、ヒヤリと冷たい水を両手ですくって口をつける。


「美味しー‥‥」


————バッシャン!!


後ろから子犬の体当たりを受け、屈んだ姿勢のまま湖に頭から突っ込んでしまったのである。慌てて浮かび上がると、子犬が気持ちよさそうにスイスイと犬かきをしている。


むっと腹も立ったが、そんなかわいらしい様子を見るとどっかへ吹っ飛んでしまった。


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