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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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35.寄り道でロック砦2

「お嬢さま、王都と比べて縦長ですっ」


建物内を覗き込んでいたテリ一が目をパチクリさせている。そう、ロック砦にある冒険者ギルドは縦長なのである。


ロック砦では通りに面して並ぶ店の数を増やし、町並みに賑わいを持たせるための措置で、ここギルドも漏れずに間口が狭く奥行きの深い造りの縦長だ。


その縦長ギルドの中は冒険者として一旗上げようと夢見る若者が集まり熱気を帯びている。


建物の物珍しさにキョロキョロしていると、王都と比べて窓口の数も多いことに気付く。王都が依頼者用受付、会計受付、冒険者受付の三つだけに対して、ここはさらに細かく分かれて六つの窓口が並び、冒険者達が列をなしている。


窓口の正面の壁には、これまた縦長の大掲示板があり、隙間なく依頼書が張り出されている。ここも冒険者達で大混雑だ。


「まずは、テリーとクリスの冒険者登録ね」


「はいっ。ですが、お嬢さまが冒険者登録を済まされていらっしゃるのは、とっーても疑問ですっ!」


「ふふっ、なぜでしょう」


首巻きの下でにっこり笑みで答えると、深くため息をつかれてしまった。


一年前、死に戻ったばかりのヤケクソ一人冒険旅行で、身分証代わりに冒険者登録をした。手元にある冒険者タグを指で摩ると昨日の事のように当時の思い出が浮かび上がる。


とにかく、まずは冒険者登録の窓口だ。その窓口に向かうと、どこか見覚えのある首に花柄スカーフの筋肉むきむき男がいた。


「あらぁ、冒険者登録? こっちいらっしゃい」

「クっ、クッキーのおにい、お姉さん!」

「ん‥‥‥?」


偽装の黒髪だと思い出せないだろうと、髪色を一度戻してから顔が見えるように被っていた外套のフードと首巻きをずらす。


「あのクッキー、すごく美味しかったわ!」

「あらあら、思い出しわよぉ、銀髪の魚の子!」


あの一人冒険旅行中に湖の近くで出会ったのである。夕食にと捌いた魚をあげたら、クッキーをお礼にともらったのだ。


『クッキー? 魚の子?』テリーとクリスは首を傾げている


「懐かしいわ。なぜここに?」


「ここはマイホームタウンよ。今はギルド長を頼まれちゃって、ここで働いてるの」


ギルド長だと言うトットは冒険者達に頼まれてクッキーも販売しているらしい。

もっと話をしていたかったが、新たな新人と思われる冒険者達が後ろに並んだので、手元の冒険者タグをトットに手渡す。


「リリーの髪色は目立つから、外套のフードはしっかり被ってねぇ。ええっと、これがリリーの冒険者タグで、後の二人が冒険者登録っと‥‥‥あら、抹消されているわねぇ。規定にある年十件の依頼を受けてなかったでしょう?」


人差し指をふりふり、「ダメよぉ」と注意されてしまった。初登録は無料だが、再登録の場合は有料だそうだ。


「登録には通り名でも大丈夫よぉ。そうそう、三人パーティでしょう? パーティ名は決めてあるのかしら」


寝耳に水で何も浮かばない。そこで一旦申込用紙をもらって壁際で相談する事にした。


「はいはいっ! 銀の天使か銀の鉄槌はどうでしょうかっ!」

「うーん、詩的すぎるかしら。クリスは?」


「強そうな感じですと‥‥最強銀魔人、最強銀毒蛇、最強銀竜ー‥」

「‥‥はい、却下」


銀から離れてもらって、ディフラン公爵家で連想される小麦、大麦、海 葡萄。勿論テリー案の「葡萄の口づけ」は却下する。


段々と面倒くさくなって、ありきたりでもある銀の大剣、銀の鉾、銀の杖に絞られてきた。最終的にはテリーとクリスが強く勧める銀の杖となる。


通り名も偽装髪色から、テリーがレッド。クリスは鉛色だが、テリーによると締まらないとのことでブルーとなった。私はブラックだが、テリーによると可愛くないとのことでシルバーである。


テリーの基準がよく分からず、クリスとで首を傾げながらも、まあいいかと流す。



再登録料に申込用紙を提出して、冒険者登録も無事に終わった。


帰り際に掲示板の依頼書をざっと見る。魔獣討伐は勿論のこと、様々な魔獣の素材や魔石、薬草採取に情報提供などもあり、まさに多種多様の依頼内容だ。


王都とそう変わりはないが、特徴的なのは薬草採取の依頼が多いことと、やはり大型魔獣の素材依頼が多いことだろうか。


「市場の売子に王都への護衛までありますねっ」


クリスは魔石ハンターへの依頼書に興味を持ったようで、真剣に目を通している。


「あら、緊急討伐依頼があるわね」

「ケヒスーー‥‥」


クリスの言葉に被せるように後ろから声がした。


「それは緊急案件で大変なの。ウサギネズミが沢山なのよぉ。これぐらいで瞬足な魔獣。群れで歯茎、じゃなかった、牙剥き出しよぉ」


これぐらい、と手で見せた大きさは、鉄兜ぐらいだろうか。

手配書の絵姿に体はウサギのようで、耳と尾だけが違う魔獣が描かれている。


早朝、ウサギネズミの群れに村が襲撃され、先ほど上がってきたばかりの緊急依頼だそうだ。


副ギルド長がD級以上の冒険者、それに新人冒険者も討伐されたウサギネズミの回収などの後方支援で募集を募り、幌馬車まで用意してあるのだと言う。


「時間もあるし、ケヒス村へ魔獣討伐に行きましょう」


テリーとクリスは目を交わしあってから、肩をすくめて頷いてくれた。


「本当に助かるわぁ〜」


ギルド長トットの言葉を背に幌馬車に乗り込んだ。全員で二十人ほどだろうか。




「おい、みんな、ケヒスに着いたぜ。よろしく頼む」


御者のお兄さんが冒険者達を取り纏めているようで、彼の合図で冒険者が一斉に幌馬車から降りて、ケヒス村周辺の魔の森に足を踏み入れる。


まずは少し離れた場所で、いつものように柔軟をしながらの雑談だ。


「ウサギネズミは結局のところウサギですかっ? それともネズミですかっ?」


「ウサギが先だからウサギじゃないかし‥‥か」

一冒険者である。カッコよく冒険者語で決めようとしたが、少し吃ってしまった。


「‥‥‥ウサギだ、群れを成せば凶暴なネズミとなる」


近くで突っ立っていたごっついおじさんがテリーの問いに真面目な顔で答えた。

ふ〜ん、という空気が漂ったところで柔軟を終わらせる。


「手袋は嵌めた? 二刻後にここへ集合ね」


「「はいっ!」」

「‥‥‥‥‥」


何故かごっついおじさんが混じっているような? 散り散りになり、森に突っ込んで行く。


冒険者として活動する時は一冒険者として扱うようにテリーとクリスに頼んである。勿論、緊急時には笛を鳴らすようにと冒険者服に袖を通す度に言われ続けているが。


久しぶりの全速力だ。風に乗り、森の中を駆け抜ける。


どこからか現れたウサギネズミの集団が凄まじい形相で飛び掛かってきた。

腰を落として、低く剣で薙ぎ払うようにいなす。


森を肌で感じながらの全速力で走り抜ける爽快感。


「うん、最高!」


ふと、後ろから何度か声が聞こえたような気がして立ち止まった。

「‥‥はあはあ、二刻は、過ぎて‥‥」


背に背負っていた大袋を地面に下ろし、両手を膝の上にしんどそうに息を切らせているさっきのごっついおじさん。そう言えばウサギネズミの回収をすっかり忘れていた。


冒険者は回収した数で貰える報酬も違ってくる。通常は一部の回収のみだが、ウサギネズミは肉も美味しく、そのまま回収する。


どうやら、ごっついおじさんは放ったらかしにされたウサギネズミをせっせと回収しながら、重い大袋を背負ってついて来てくれたらしい。まるで回収係である。


「すっかり忘れてた。ありがとう」


おじさんは遠くを見るような顔で息を整え、話すのも辛そうだ。



集合場所に戻ると、テリーとクリスが地面に座って待っててくれていた。


「わあ、沢山ですねっ」

「負けました」


「うっかり回収するのを忘れてしまって、親切なおじさんに回収してもらったの。後で報酬を分ける話をしても『いらん』の一点ばりなのよ」


とほほの話をすると、残念な人を見る目をしながらも、そんな時もありますよ、とやさしく励まされてしまった。


「それにしても、スッキリ爽快、ストレス飛びましたっ!」

テリーの表情は明るく顔が輝いている。いい気分転換で何よりである。


クリスもいい運動になったと笑顔だ。


ロック砦の下へと戻ると丁度兵士の交替時間のようで数名の兵士達が整列していた。上官に注目すべきなのに、皆がこちらを注目というか凝視している。


「なぜかこっちらを見てますねっ」

「ほんとね」


クリスが声を顰めるように小声で話す。

「私たちの格好が格好だからかと‥‥」


改めて見ると真っ赤な夕焼けを背に、ウサギネズミの血で血塗れである。何故か後にいるごっついおじさんは可哀想なほど泥だらけだ。


放ったらかしにされたウサギネズミをしゃがんでひたすら袋に入れる作業をしていたからだろう。


いかつい兵士達の変わらずの凝視。決まりが悪いのでそそくさと急角度の階段を急ぎ登ったのだった。


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