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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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34.寄り道でロック砦

黒ひよこのピヨちゃんで連絡をしてから三日が過ぎた。


辺境伯領の関門から街道沿いに西に向かうと、領都ウィスター、中部ブラックストーン、魔の森最前線のロック砦となる。イリシオンの家からロック砦まで、徒歩で西へ一日の距離だそうだ。


そこで、今日は冒険者服を着込み、夜明け前から街道沿いに西へと進む予定でいる。問題がなければロック砦には夕刻に到着だ。


魔の森は獣臭が酷いから嫌だと言うイリシオンと目立つ魔馬は留守番である。


「イリシオンさま、机の上に五冊と暖炉の前に残りを置いておきましたよっ」

「うん、ありがとう。続きが気になって、やめられないよ」


そう、イリシオンもハマってしまったのである。市井での流行本『冒険者旅行記』全十二巻。一人の少年が冒険者として成長していくハラハラドキドキの旅行記だ。


この本には冒険者ギルドでのやり取り、移動手段に街や村々での過ごし方、その中での人々との出会いや別れもあり、失敗や困難もが赤裸々に綴られている。


昨夜なんて、別れにやられたのか、イリシオンは鼻を垂らして号泣していた。



「あっ、お嬢さまにはこれですっ!」

「まあ、出来上がったのね」


スポンと頭から被り、丁度良く首元に収まった。三人お揃いの黒の首巻きだ。


「こうして、上へ引っ張り上げますっ」


ほほぅ、と首巻きを上へ引っ張り上げる。伸縮性のある首巻きが顔を半分を覆い、露わになっているのは目から上だけである。


しかも予め変容付与の指輪で髪色と瞳の色が変化していて、テリーの柔い夕焼け色の髪はくっきりとした赤、クリスの灰色の髪は鉛色。


こうして二人を眺めると、受ける印象がかなり違う。しかも、冒険者ぽっく格好良い。


私はというと目立つ髪色だけを落ち着いた黒にした。テリーに口酸っぱく言われている日焼け防止に黒色の外套。そのフードを深く被り、先ほどの黒の首巻きで怪しさ満点である。


「黒の外套と首巻きで、冒険者というより怪しい人に見えないかしら?」


二人がすっと目線を逸らしたのは気のせいではないと思う。


「お土産の薬草、期待していてね」

「うん、何かあったら風の精霊に頼んで連絡して」


イリシオンの「いってらしゃい」に笑顔で応えて、手を振りながらの出発である。



街道に出ると辺り一面に雑草が生えているだけの荒野がどこまでも広がっている。荒野を眺めながら黙々と街道沿いに西へと進んで行く。


何度か重装備の冒険者達とすれ違い、同じ冒険者挨拶を繰り返す。


「「「よおっ、兄弟!」」」


危険が伴うウィルソン辺境伯領の冒険者達は団結力が強い。情報交換をしたり、応援や励まし、それにもしもの為の助け合いだ。


「調子はどう?」

「まあまあだな」


「気を付けてね」

「ああ、そっちもな」


いつものように手を軽く振って別れる。


「この地方の人達、デカいですっ」


「そうね。確かに王都と比べると長身で体格が良いわね」


「大剣と交えた時の立ち回りに訓練が必要そうです」


クリスの言葉にテリーが間合いやら、足を狙えやらと二人の間で剣談義が始まった。


二人の軽快なやり取りを耳にしながら、顔を上げると真昼の夏の陽がかっと白い。



そして予定通り、夕刻にはロック砦が遠目で見える距離までやってきた。


遠くの原野にぽつんと佇む一枚板の巨大岩。それが夕陽を受けて岩肌を橙色に、そして赤く染められていく様子は神々しいほどの美しさがある。


言葉もなく見惚れてしまったが、日が沈むまでには砦に辿り着かないと野宿となってしまう。思い出したように再び足を動かした。



そして、間近で見るロック砦はぽかんと口が開くほど大きかった。今まで見た一番高い建物の五倍程は高さがある。


ウィルソン辺境伯領がウィルソン王国であった時から、悠々の歴史を刻んでいる主城もこの巨大岩の上に残っている。何度かの魔獣大発生でも難を逃れた事で有名な城だ。



砦の門番をしている警備兵に身分証明代わりの冒険者タグを見せて、入税料を支払う。テリーとクリスは明日にでも冒険者登録をする予定だ。警備兵に初めて訪れた事を告げると親切に砦を説明してくれた。


この砦は何百年も前に岩を削って造られたもので、大きく三つの段に分かれているそうだ。上から領主城、真ん中が軍宿舎、下が宿泊施設や食堂の店々が連なっているという。


馬車が通れる出入口は二つ。一つは主に軍や特別許可書がある者達専用で緩やかに曲がって軍宿舎から主城まで続いている。もう一つは砦の下段までで、こちらは商人や住人の荷馬車用だ。


そして、それとは別に岩を削って造られた急角度の階段がある。下段の宿泊施設や食堂の店々が連なっている広場へと通じていると言う。



「傾斜地に作られた階段状の農地のような構造だわ。段々畑ならぬ、段々町ね」


「あっ、上部で靡く旗は辺境伯軍の旗と‥‥何でしょうかっ?」


「ゴホンっ、あれは辺境伯軍魔獣討伐部隊の旗だ」


魔獣討伐部隊の旗は図案が盾と剣のようで、その旗が砦の上でパタパタと風で翻る。警備兵によると今夜は強い風が吹き荒れるそうだ。


早めに宿をとった方がいいとの助言に急角度の階段を登り切り、想像していた以上に発展している岩の町に眼を見張る。何はともあれ、今日は正面右の二つ目、親切な警備兵が紹介してくれた宿で宿泊手続きを終わらせた。


疲れているのでサッと昼食の残りを夕食にして、吹き始めた風で窓がカタカタ揺れる中、眠りにつく。眠りに落ちるほんの一瞬、誰かに呼ばれたような気がした。




◇◇◇




「‥‥‥‥!!」


声にならない声でクリスがガツガツと食べ続けている。朝食のじっくりと煮込まれた野菜と肉のスープは格別の味だ。味の決め手は秘伝のレシピ、それと新鮮な香草と魔獣肉だそうだ。


食堂の女将さんが肉は魔獣肉で安価で手に入り、食料品は砦の交替魔獣討伐部隊が運んでくるので、辺鄙な場所でも領都と同じくらいの値段だと胸を張る。


食事を食べながら今日の予定を話し合う。まずは朝食後に珍しい岩の上の町を観光。それから町の入り口にある冒険者ギルドに顔を出す事になった。


「空に一番近い町ですねっ」

「ふふっ、吟遊詩人みたいで素敵な言い回しね」


岩の上の町は三階建ての建物がぎゅっと集まって密度は高いが、生活に必要な施設は揃っている。しかも魔獣討伐優遇措置でここでの生活費は安く、税も抑えらているそうだ。


危険な魔の森の最前線であっても、人で賑わい活気のある良い町だ。一つだけ欠点をあげつらうなら、全体的に茶色っぽいだろうか。建物も人々の服装も茶色を基調に黒や生成りの色合いだ。


少し開けた場所から眼下に広がる魔の森を眺めると、西一帯はどこまでも続く緑の大海原だ。


「魔の森というから、危険そうな黒っぽい森かと思ってましたっ」

「そうね。見た感じ、緑、いえ、深緑色かしら」


上から見る限り、危険視される魔獣の森と言うよりかは、豊かな生命力が広がる森に見える。


真剣に眺めていたテリーが魔獣の事を聞いてきた。


「全ては解明されていないのだけど、地脈‥‥そうね。簡単に言うと土地に根付く魔力の流れがあって、その魔力の汚染や乱れによって、変質した魔力を持つモノが魔獣ね。


その変質した魔力を持つ魔獣は興奮や錯乱状態、そして常軌を逸脱した凶暴状態になるの」


「ここで、冒険者や辺境軍の出番で魔獣討伐となるのですねっ!」

「その通りね」


「その魔獣討伐ですが、魔獣の体内にある魔石とは何ですか?」


「魔石は魔力の塊で、魔結晶とも呼ばれるわね。魔獣が地脈などから変質した魔力を溜め込むと体内に石形成されるの。


よく例えられるのは真珠ね。真珠は生きた貝の中で作られる宝石で、元々は貝の中で異物が覆われて形成されたものでしょう」


「なるほどっ、魔石は魔獣の中で作られる宝石ですね! えっ、あれ、人もですかっ?!」


「結論だけを先に言うと、影響を受けない。一言でいうと『大丈夫』かしら。


学者の間では人は『魔力性質の違いで影響を受けない』が有力な説で、他にもバリア機能説、免疫説、自己浄化作用説。そして女神の加護説、といろんな説があるの」


そんなこんなの雑談を交わし、夏の朝の日差しを浴びながら岩の町の散策を楽しんだ。

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