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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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33.いざ、辺境伯領へ お宅訪問

日暮れ前、立派な石造りの関門で予定通りに名乗を上げた。辺境伯領地へと足を踏み入れたのである。


王宮魔術師団長ロズウェルが用意してくれた通行書を手渡すと、顎が外れるのでは? と心配する程のぽかーんとした兵士達の顔が印象的だった。


『あの、本当に公爵家の御令嬢が‥‥デカ馬、いえ、馬でいらしたのですか。従者の方はたったの三人‥‥』


何度かあのぽかーんの思い出し笑いで、誰とはなしにくすくすと笑いが絶えない。


夕焼けが暗がりに飲み込まれ、暮れの色に紛れて転移する。


魔馬の体重は人の十倍以上はあるので、念のために三回に分けて転移する事にした。まずはイリシオンの転移で私と魔馬のヨル。場所を覚えて戻り、次はテリーと魔馬のキャンディ、その次はクリスと魔馬のレオ。


「ぶふぅ、ぶふふーーっ 完全に蔦の山ですっ」

「ちょっと、待って。ここら辺に扉があったはず‥‥」


クリスとレオを連れ立って現れると、暗闇の中でイリシオンとテリーの声だけが聞こえる。


どっぷりと暗いので視力強化して見渡すと、苔むした巨木が鬱蒼と茂る森に、こんもりと蔦で覆われた何かがある。


「蔦のみんな、家に入りたいんだ。ちょっとどいてー」


イリシオンがそう声を掛けると、蔦がシュルシュルと左右に分かれて扉が現れた。


そして、まるで喜んで迎え入れられるかのように自然と扉が開かれて、複数の小さな光の玉がふよふよと輝き、家の中心にある暖炉に炎が上がった。


やんわりと明るく居心地が良さそうだ。イリシオンに促されて家に入ると、家は丸太を組み上げて造られていて、木の温もりや香りに心を和ませられる。


「まあ、素敵な家ね!」

「外観はともかく、室内は素晴らしいですっ!」


窓際には可愛らしい小さな食卓と椅子が二つある。テリーとクリスは暖炉前のふかふかな敷物に座るよう勧められた。


「この家の周りは結界で護られているし、外の魔馬も安全だよ。ゆっくり寛いでね。えーっと、茶葉はっと‥‥」


近くの扉をパタパタ開け閉めして、茶葉を見つけたらしいイリシオンがお茶の準備をしてくれている。だが、二百年ぶりなら二百年前の茶葉である。イリシオンの手元を覗くと戦慄を覚える黒炭色だった。


そして今、ティーポットにお湯を注いで茶葉を蒸らしているが、何故だかぷーんと変な酸っぱい匂いまでしてくる。


「「「‥‥‥っ!」」」


そして、そそくさとティーポットから紅茶カップへとそれが注がれた。


「はい、どうぞ」


この異常事態に素早く反応したテリーとクリスがささっと現れて、毒見とばかりに黒炭茶をくいっと一口飲む。この世の酸っぱいものを一度に食べたような顔で苦しむ二人の様子は見るに耐えないものだった。


「よ、容赦ない、さん、酸味で‥‥っす」


クリスの言葉を受けて首を傾げたイリシオンも口をつけ、「酸っぱっ!」と叫んでいた。


これが後々まで伝わる酸っぱ事件である。死者が出る前に空間収納からサッと水や蜂蜜、激甘焼き菓子を取り出して皆の前に並べたりとバタバタした夜だった。



翌朝、まだ口を手で押さえて、眉を顰めている三人にお茶を振る舞うことにした。サッと空間収納から取り出したのは二十年間特別に保存された希少な古茶である。


茶葉は深みが美しい焦茶色で、コポコポと淹れると優しい香りが空間に広がり、ほっこりと、深く、安らぎを与えてくれる。


皆に紅茶カップを手渡した。


「んー、ほっとする優しい味わいだね」


「気に入ってもらえたなら良かったわ。ほら、テリーとクリスも。ジャムと焼き菓子もあるわよ」


「うっ、これは美味しいですっ!」


「ふふっ、このお茶の淹れ方だけはお祖母様に特訓されたのよ。これ以外はテリーの淹れてくれるお茶の方が美味しいわ」


その言葉が嬉しかったのか、テリーがもじもじと照れている。


窓から差し込む日の光に優しい円熟した風味の紅茶。ゆったりとした朝に心が和む。


旅の間は夜移動する夜型だったので、数日をかけて朝型に戻すつもりだ。


この清涼な森で静かにゆっくりと一休み。




◇◇◇




「それは‥‥魔法なの?」


魔法の波動は全く感じられないが、イリシオンは先ほどからまるで指揮者のようなのだ。


気持ちの良い夜風に吹かれながら本を読んでいたら、イリシオンの一言『お茶を淹れてあげる』に皆で震え上がったのはついさっきのことである。


今は人差し指を軽く振る度にティーポットに水が入り、水が熱湯になり、お茶が淹れられ、そして皆のもとへとカップが飛んで行く。


「うーん、この大陸の森にはまだ精霊がいるから、声には出してないけど頼んでいるだけだよ。確か人族の間では精霊魔法って呼ばれてたと思う。二百年前の話だけどね」


精霊に頼むと喜び勇んで力を貸してくれるそうだ。しかも精霊の手にかかると味も優しくまろやかになるとイリシオンのお茶が証明してくれた。


「精霊に好かれるのが第一条件で、精霊を纏める資質も感性も必要かな。その辺、リリアナは合格だね。森人の加護があるし」


森人の加護と聞くと、額に唇を落とされた事を思い出して、顔が火照る。


火照った顔を隠すように横を向くと、ふんわりと温かく居心地の良い部屋の片隅で、テリーとクリスがいつもより幼い顔で眠りについていた。精霊のお茶はきっといい夢を運んで来てくれるのだろう。


湯気が立ち上がる熱いカップを両手で抱え、ふうふうしながら、イリシオンと途切れることなく語り合う。そんな夜だった。




「うん、やっぱりね。リリアナなら問題ないと思ってたよ」


ドヤ顔でうんうんと一人で頷いているのはイリシオンだ。魔馬達がのんびりと草を喰む外庭で、精霊魔法を教えてもらっている。


人に頼むのと同じように「光をお願い」と一言声を掛けると、ポンっと弾けるように光の玉が現れてふよふよ浮いている。


「見えないけど、精霊が楽しそうにしているのを感じるわ」


「うん、生まれたばかりの小さな精霊にとっては遊びの延長だからね。精霊そのものには固定化された姿形はないけど、時と共に力をつけた精霊は人族が思い浮かべる精霊の形をとることもあるよ。絵本にあるでしょう。火の精霊がトカゲぽく見えたりとかね」


ふむふむ、確かに子供の頃に目にした本にトカゲや水場に美しい女性の姿で現れる精霊の挿絵があった。



「僕にとっては精霊魔法が一番身近な魔法かな。君たちが言う古代魔法は力が強すぎて、調整するに骨が折れるしね」


「そうそう。古代魔法にわざと抑制の古代魔術を落とし入れて、力を調整したりね」


うんうんとお互いの苦労を頷き合う。


古代魔術・・・・の使い手でさえ、王宮魔術師団長のロズウェル以外に知らない。古の古代魔法については賢者の本から学んだことは消化しても語り合える人がいなかった。


学院で例えれば、学友だろうか。学友との会話はとても楽しくついつい時を忘れて話し込んでしまう。


「お嬢さま、昼食をお持ちしましたっ」


テリーが運んできた籠には塩漬け肉や新鮮な野菜が挟まれた美味しそうなパンがぎっしりと入っている。クリスの手元にあるのは果実水だろうか。


「ありがとう。みんなで食べましょう」

「「はいっ」」


精霊にお願いして仕上げたばかりの椅子を二人に勧めて外で遅い昼食だ。


「イリシオンがしばらく滞在して、この森を見て回ったり、薬草を採取したいそうなの。私たちもそうしましょう。ついでに魔の森まで足を延ばして薬草の採取もしようと思うのだけど、どうかしら?」


「はいっ! 楽しそうなので、大賛成ですっ!」


「元々が第二王子殿下御依頼の魔の森の薬草調査ですし、問題はないかと思います。ただ行方不明と心配されないためにも連絡はする必要があるかと」


「そうね、連絡は入れておくわ。ふふっ、みんなで夏休みね」

そう言うと、皆が大きな笑顔になった。



筆頭王宮魔術師団長でもあり、第二王子でもあるロズウェルとは予め連絡方法を決めていた。自分の影に向かって声をかける。


「ピヨちゃん」

すると黒いひよこがポンっと影から飛び出る。


「ロズウェルお従兄様に伝えてね。無事にウィルソン辺境伯領に入領した事と、寄り道で魔の森の薬草採取する事。それと心配しないで、と伝えてね」


出来るだけ簡潔に伝えると、ビヨちゃんは首を縦に振り、ポンっと影に飛び込んだ。

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