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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第二章 新天地

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31.いざ、辺境伯領へ 魔馬と森人

「お、お嬢さま、はや、速すぎではぁぁぁ———?!」


日暮れに出立して、魔馬で街道を一気に駆け抜ける。



北連合国から連れてきた六頭の馬の内、三頭が荒野で捕らえた野生の魔馬だ。

捕らえたと言うよりかは、友となっただろうか。


たまたま初めて目にした荒野を自由に疾走する野生の魔馬の群れを、驚きを越えた感動でつい声を上げてしまった。すると、一頭が急にくるりと方向を変えて爆走してきたのである。


違う意味で声を上げていると丘陵の斜面を上手に利用して速度を落とす賢い魔馬で、鼻先を近づけてクンクンの挨拶をしてくれたので、挨拶返しで山で採った山林檎を与えて以来の友である。荒々しくも気高い相棒だ。


この魔馬の子分二頭がテリーとクリスの相棒となった。そして、共に現在辺境伯領へと爆走中である。



元々、魔馬は馬の倍以上の速さで駆ける。更に風魔法での追い風の底上げに『身体強化』と『加速』もしているので、先程からビューンと疾風のように幾らか浮いた宙を駆け抜けている。


魔馬達も最初は「ひぃいん?」と驚いていたように思う。


乗り手も始めは違和感があったが、慣れてくると速さは気にならなくなるし、揺れも少ない。夜道でも足元を気にする必要がないしで良いこと尽くめなのだ。



「テリー、クリス、そろそろ休憩しましょう!」

「「はい(ぃ)!」」


程よい大木に背を預けて夜風に吹かれていると、魔馬達のばりばりとリズム良く林檎を食べる音が暗闇に響く。


「キャンディーはちょっと食べ過ぎでちゅよー」

「そんなに食うと腹が出るぞ」


世話をしている二人の声が聞こえてきたが、魔馬は厳しい環境を生き抜く力があり、食べられる時に纏めて食べて備えるそうだ。


書物には千年以上前に自然界の純粋な魔力で進化した馬を純馬魔獣と言い、その純馬魔獣と野生馬が交配して生まれたのが現在の魔馬とされている。


原野を駆ける強靭な足と体力を持ち、体が大きく頑丈で病気や怪我も少ないのが特徴である。自由に大地を踏みしめ、荒々しく駆ける姿は雄々しくも美しい。


頭数が極端に少なく、北連合国の魔馬は類い稀なる幻の馬とされている。



テリーとクリスの魔馬は濃い栗色で二人はそれぞれ、キャンディーとレオボルトと名付けた。クリスは道のりで何度も舌を噛み、先程から短くレオと呼んでいる。


私の魔馬は艶のある黒毛で黒から連想して夜、ヨル。三頭とも普通の馬と比べると一回りほど大きく、寒い地域で育つので毛が長めで、少しもこもこしている。


魔馬は寿命も長いので、これからも長く相棒として過ごすことができるだろう。



皆で腰掛けてお茶と軽食を摘む。温かいお茶で一息ついているとクリスが手持ちの鞄から地図を取り出した。


「この調子で夜明けまでですと、ウィルソン辺境伯領地まで七日もあれば十分かと」


これはゴリゴリの強行軍、全て野営の旅程である。


「馬車で一月半、乗馬で二十日弱。この七日は驚異的ね」


馬車の一月半は天候によっては宿で過ごす余裕のある旅程だ。少しの天候不良は決行で、積荷量の調整や馬の体調によっては一月で着く。


今回は強行軍である。時々、街道から外れて野を突っ切り、最短距離でぶっ飛ばすように駆け抜ける。そこで、人がいない日暮れから日の出前までを移動時刻とした。


稀に人がいても、少数なら風を操って避けることができる。『隠蔽』も使っているので変な強風? ぐらいで済みそうだ。



「ぷふぅ、お嬢さま、通行税なしって最高ですっ!」


金銭の管理をしているテリーが預けているお金の袋をじゃらじゃらとさせて悪い笑みを浮かべている。


「そう言えば払ってないわね」

あらっと首を傾げると、クリスが静かに言う。


「‥‥先程の関所も障害馬術のように飛び越えていらっしゃいました」


(そう言えば何かあったような?)


魔馬達の強化と速度調整をしながら、『防御』と『隠蔽』で姿を隠して進んでいる。それとは別に三頭がぶつからないように調整しながら障害物があれば回避と‥‥‥集中していたので、いつの間にか通り過ぎてしまったようである。


夜で誰もいないし、まあ、いいかと気にしないことにした。



その後も、ひたすら西へと魔馬で駆ける。それほど時を掛けずにコツを掴み、周りの景色を楽しむ余裕も出てきた。


星が降ってくるような夜空に、夜明けの瑠璃色の空。

夜露で銀色に光る草木に、朝露で煌めくような草木。


絵に残したいほどの綺麗な景色が移り変わる。



一つ嬉しい誤算があった。関所と同じ理由で、第一目標の『二度命を落とした付近一帯を無事に通り抜ける』が達成されてしまったのである。そう、知らぬ間に通過したとも言える‥‥。


惨痛の記憶しかない場所なので、涙が止まらないやらの感情の乱れを密かに心配していたが拍子抜けなのだ。


だが、じわじわと実感が湧き、感慨深くなっていく。鼻の奥がつんとして、鼻を啜りながら魔馬を走らせた。


もう、夜明けが近い。




七日目の朝靄の頃には辺境伯領地と他領地との境までやってきた。いつものように街道を外れた適当な場所で夕刻まで休む事にする。


計画としては辺境伯領地の関門と通行書を確認する詰所があるので、夕刻の関門が閉まる直前にディフラン公爵令嬢と名乗り、通り抜ける予定でいる。


理由としては襲撃の回避である。入領とほぼ同時に詰所から領都城塞都市ウィスターへ報告が行く。関門から領都まで馬で三、四日かかるので、万一襲撃者らが現れるならその道のりだろう。


そこで、魔馬で横槍の隙も与えずに一夜で駆け抜け、夜明けには領都入りだ。そう、名付けて『気が付いたら、もう領都にいたよ』作戦である。



テリーとクリスが天幕の設置で忙しい中、魔力を使い過ぎてしまったのもあるし、色々な意味で気が抜けてしまった。一面の小麦畑にぽつんと立っている大木の下に腰を下した。


広大な若草色の小麦畑をひゅうと駆け抜ける初夏の風が快い。



ぼんやりと前回の人生を思う。


襲撃で皆を殺され、荒れ狂うような怒りや憎しみ、

身を切るような悲しみに嘆き、そして泥を噛むような苦しみと後悔。


その全てが通り過ぎた後は凪いだ静寂があった。


胸の奥が清々しく晴れわたり、くびきから外れた解放感からほっと安堵のため息をつく。


後から後からじわじわと胸打つ思いに目をしょぼしょぼさせていると、目の端に人を捉えた。


「‥‥‥っ?!」


斜め前方に見知らぬ男がいて、のんびりした口調で話す。

「ねえ、君、何者?」


気配までもが周囲の景色に完全に溶け込んでいて気付けなかった。例えるなら自然と同じ気配とでも言うのだろうか。しかし、それよりも気になることがある。


「小麦、踏んでますよ‥‥‥」

「あっ、えっ? ホントだ!」


その眼鏡の優男は足元に目線を落としてから慌てた様子でやってきた。柔らかそうな金髪は耳が隠れるほどの長さで、良質な異国風の冒険者服を着ている。


風の悪戯でひゅっと風が通り抜けると、髪の下から長い耳が顕になった。


———森人だ。


「あっ、僕、危険人物じゃないよ」


後で剣を構えているテリーとクリスに、大急ぎで違うとばかりにヒラヒラと両手を振って見せた。


「そこの大木の上で寝てたんだけど、君達が来たから目が覚めちゃって。驚かせないように気を遣って、後ろでもなく、正面でもなく、あの位置に降りたんだよ」


あたふたと言い訳するように話す姿が面白くて笑みが浮かんでしまう。


「ふふっ、分かったわ。テリー、クリス、大丈夫そうだから天幕と食事の準備を引き続きお願いできる?」


「「‥‥はい(っ)」」


テリーが「お嬢さまに何かしたら、殺すっ」と首を手で切る構えをすると、森人が首を上下にコクコクと何度か頷く様子にひとまずは納得してくれたようだ。



これが森人イリシオンとの出会いとなった。

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