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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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29.武者修行へ行くよ ただいま

今日は従兄ロズウェルの執務室に足を運んだ。

予め先触れを出していた帰国の報告と新たな旅立ちの挨拶である。 


執務室に通されると相変わらずの着崩した白シャツで、長い足を組んで椅子に背を預けているロズウェルがいた。


「おかえり。なんか精悍な面構えになってない?」

「‥‥‥それより、はい、お土産どうぞ」


「え? 何これ? ミノムシ?」

「そう、幸運のミノムシの置物よ。レミ部族ではミノムシが幸運を運んでくるそうなの」


「‥‥君のお父君、それとローレンとブライアンには北連合国の貴重な馬なのに。なんか、差があり過ぎるよね、ホント」


「もう、口を滑らせて北連合国にいる話をしてしまったのは何方どなたでしょう? お父様に叱られて大変だったのよ。ロズウェルお従兄様はミノムシの置物で十分です」


すっかり拗ねた口調になっているロズウェルだが、普段は転移で移動するので馬は必要ないはずである。ひょっとして、颯爽と馬に跨って転移したいとかだろうか? 


ミノムシ片手にしょんぼりと肩を落としているので、代わりに北連合国で手に入れた希少な鉱石を数種類あげた。鉄鉱石もあるので、何かと役立つだろう。



「そうだ、この春が誕生月だったね。私からはこれをあげるよ」


遅くなってしまったけど、と掌に乗せられたのは小さな特殊部隊『黒鳥』の襟章一つである。


「‥‥‥‥」


「ねえ、そんな真顔で固まらないでよ。特別枠だけど、誉れ高い黒鳥隊員として認められたんだよ。王宮魔術師が喉から手が出るほど欲しがる襟章だよー。ほら、格好いい箱に入れてあげるから」


ガサゴソ入れる箱を探しているが、一年に一度の誕生月の贈り物としてはもう一声欲しかったのである。



「ところで、ロズウェルお従兄様、守備はどうですか?」


「そうだね、かなり頑張ったよ。二回二年の時間遡行そこうの四年、それにこの一年。合計五年の知識総動員だね。かなり時間をかけて緻密な謀略を巡らす第三国がいるって事だけ伝えておくよ。


マルネス帝国の後継者争いを利用して、帝国にノーエル王国に侵略させる策略を巡らせている。つまり、帝国に代理侵略をさせて、ゆくゆくは帝国ごと得る策略。まさに漁夫の利を得るだね」


自然と眉間に深い皺を寄ってしまったようで、「眉間、眉間が大変なことになってるよ」のロズウェルの声ではっとして、眉間を伸ばす。



「それと事が上手く運ぶように長い年月を掛けて王国内に仕込みを終わらせていたよ。火の粉を飛ばすように不満や自尊心、欲にまみれた貴族を狡猾に焚きつけたり、足がつかないように買収したりね。


そこで、質問その一。ここ数年主要な役職についている貴族の世代交代が進んでいるのは何故だと思う?」


最初に婚約者のウィルソン辺境伯家当主ヴィアスが思い浮かんだ。彼は四年前に十八歳で当主となった。理由は先代当主の死である。


「‥‥‥ひょっとして、謀殺でしょうか?」


「そう! 例えばウィルソン辺境伯家。今となっては確かめるすべはないけどね。帝国に隣接していて武功を重ねたウィルソン辺境伯家先代当主の死はさぞ願ったり叶ったりだっただろうね。しかも、暫くは求心力のない若当主が引き継ぐわけだし」


そう言うと頭の中を整理するように僅かに間を開けた。


「国王陛下と兄上、いや王太子殿下には隣国、特に帝国やその周辺がきな臭いとだけ既に進言してあるよ。


父上は周辺国や貴族達の動きに目を光らせ、兄上には筆頭騎士団長として独自の諜報組織を動かしている。弟の第三王子テオドールは外交、情報面だな」



王太子殿下のロバートは前面で正義と公正の為政者。ロズウェルは裏為政者、と役割分担して、連携しながら互いに背を預けている。テオドールの情報面でのサポートを含め、いつもの見事な阿吽の呼吸なのだ。


現に帝国だけでなく周辺国と内通している王国貴族の炙り出しが功を成し始めているという。人知れず、現段階で違法犯罪に加担した貴族は牢獄に入れられ、家の取り潰しの浮世に遭っているそうだ。



ロズウェルは独自の組織で諜報、それと魔導具の分析と開発、破壊も含めて研究に力を入れているらしい。ロズウェルが「まあ、ここらの事は任せてよ」と片目を瞑って締め括った。


普段はともかく、一旦やる気を出せば誰よりも計略と策略を駆使できる。やる時はやる人なのだ。逆にやらない時はやらないが。



「ふふっ、では、頼りになるロズウェルお従兄様にお任せしますね。わたくしに出来る事はありますか?」


「そうだね‥‥‥大枠として、まずは生き延びること。それと出来たらで、辺境伯家の情報を頼むね。リリアナの家、ディフラン公爵家も大概だけど、ウィルソン辺境伯家も忠誠を誓う者で構成されててさ、諜報が非常に難しいんだよ」


送り込んだ者は消息を断つ事が多くて困っててさ、とロズウェルは零す。


「まあ、公爵家に諜報員を送り込んだ誰かさんがいるのですか?」

それには答えないぞとロズウェルは悪戯っ子の笑みを口元に浮かべた。


祝福を受けた者は国神狼に導かれると伝えられているので、心のまま動くようにと言われたが、いまいちピンとこなくて思わず首を傾ける。


「思いっきりやっちゃってよ。こっちでできるフォローはするから。『剣を振り回す野蛮な令嬢』を『婚約者の為に努力を重ねる健気な令嬢』にとか、臨機応変に対応するよ」


独りで勝手に言ってウケたらしく、膝を叩いて笑っている。


「‥‥‥‥」



「くふぅ、この話はここまで。リリアナ、既にディフラン公爵家に書状を送ってるよ。それと婚約者のウィルソン辺境伯には会った時にこれ渡しといて」


ほい、と手渡された書状はウィルソン辺境伯領地へ向かう為の偽装工作の一つで、書状には王宮魔術師団長の依頼『ウィルソン辺境伯領地に隣接する魔の森周辺の薬草調査』が認められている。


そう、実はこれがないと始まらない大前提、二大目標があるのだ。


第一目標は二度命を落とした付近一帯を無事に通り抜ける事

第二目標は十七歳で時間遡行を繰り返しているので、無事十八歳を迎える事


まずは第一目標。二度も辺境伯領地へ花嫁として向かう途中の待ち伏せ襲撃で命を落とした。


そこで、このロズウェルの書状なのである。三回目の今回は意表をついて一年早く『薬草調査』の名目で辺境伯領地入りだ。しかも待ち伏せ襲撃を恐れて、先触れも一切出さず極秘の強行軍となる。


一人で気持ち、いや、気合い新たにしていると、ロズウェルが明るい声を上げた。



「それと、おめでとう」


最後に手渡されたのは王立高等学院、飛び級での魔術科卒業証書だ。思い起こせば、学院には初日のクラス分け試験の短い間しか滞在していない。


実力は黒鳥隊員の太鼓判付きだと手渡されたが、見事なほどに実感も感傷もないのである。学友との交友なども一切なかった。


しょんぼりと卒業証書を見つめてしまったが、ここは冒険者格言その三『もらえるモノはもらうべし』である。ささっと懐にしまい込んだ。



その後は武者修行の話から始まって、古代遺跡に立ち入りできなかった話まで。笑い合ったり、いつもと同じの纏まりのない談笑に、いつもと同じの銘柄の紅茶を啜る午後だった。

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