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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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28.武者修行へ行くよ 北連合国3

商業ギルドを出る頃には空は橙色になっていた。


ルーシーが紹介してくれた宿へと向かい、受付で宿泊手続きを済ませる。商人がよく好んで宿泊する宿だそうで、手頃な料金で居心地の良さそうな宿だ。


一階に食堂があったので、まずは腹ごしらえ。女将さんのおすすめを頼むと、丸い形の揚げパンが運ばれてきた。


小麦粉を捏ねたものにひき肉を包み、油で揚げたものだと言う。出来立ての熱々はサクサクとして、中の肉汁が堪らない。


「噛んだら肉汁じゅわ〜〜が最高ですっ!」

「この野菜の付け合わせ、酸味が効いててさっぱりするわね」


クリスを見るとお腹を空かせていたのか、無言でがつがつ食べている。


「あったかい部屋、ふかふか寝台、浴室もあるって最高ですっ!」

「ふふっ、疲れもあるし、しばらく宿でゆっくり過ごしましょう」


この国の庶民一家族が、一、二年は楽に暮らせるお金も手に入り、懐が暖かいのである。二人とも賛成で、しばらく休養しながら観光を楽しむことになった。



午前中は体が鈍らないように転移で森に行き、鍛錬と手合わせ。昼に戻り、昼食。その後に観光する日々が始まった。


首都シャーレの市場通りを歩くと日用品から馬具まで、ありとあらゆる商品が無秩序に並ぶ。何度行っても新しい発見があるので楽しい。


中央広場では演奏をしている人達に民族楽器や民族舞踊を習ったり、地元の料理に舌鼓を打ったり、冬の間に首都シャーレを隅々まで歩き回った。


そして、春を思わせる陽射しが差し込む頃には、東の鉱山から西の渓谷まで足を伸ばして、鉄鉱石を拾ったり、薬草を摘んだり、少数民族と過ごしたりと時が矢のように過ぎていく。



季節は移り変わり、初夏を感じる新緑が爽やかなる頃、旅立ちの日が近づいた。


『おじさん、ほろほろ肉にほくほく芋の蒸し煮を三人前ね』

『はいよ! 久しぶりだね。どこ行ってたんだい?』

『北よ。朝夕の冷え込みは堪えたわ』


『ワハハハ、そりゃそうさ、ここと比べると寒いだろうよ。ほら、オマケだよ』

『ありがとう、また来るわね』


北の大自然、北のラマ国との国境付近には原生的林が広がっていて薬草の宝庫だった。


大昔の植物の樹液が化石化した琥珀を嬉々として子供のように探し回って戻ってきたばかりなのである。首都の常宿を起点にしているので、いつものように行きは徒歩、帰りは転移で時間短縮をしている。


「お嬢さま、とうとう耳飾りが十四ですっ!」


「そうなのよ。でも大きめな輪っかに小さい輪っかを纏めたから、スッキリしているでしょう?」


「‥‥‥‥」

クリスに助け舟を求めたが、目を背けられてしまった。


「お嬢さま、ワイルドさが全然消えてませんっ」

しばし、テリーと攻防戦を繰り広げたのだった。


帰り支度で商業ギルドに残りの商品を卸し、蜂蜜に絨毯、鉱石などを中心に買い求めた。お酒がいける口のルーシーには世話になった礼として、王国産の高級酒を贈ると、変なクネクネ踊りをするほど喜んでもらえた。


他にもお世話になった人や親しくなったの人達に挨拶回りをする。


北連合国に滞在して一つ分かった事がある。人々は一概に警戒心が強いが、一度懐に入ると情にとても厚いのだ。


この国での素敵な出会いに感謝である。




翌日、朝遅くに常宿を引き払って外に足を踏み出すと、まばゆい初夏の陽光に包まれる。


「今日で常宿とお別れですねっ」


今まで常宿としていた宿を眺めながらテリーが少ししんみりとしている。


「そうね。さあ、最終目的地、バハルル村へ行きましょうか」


「「はいっ!」」


首都シャーレからの旅立ちだ。楽しかった思い出と共に街並みを目に焼き付けながらシャーレを後にした。これから最初に出会った遊牧民族でもあり、名馬の産地で有名なバハルル村へと一路南へと向かう。


そして郊外まで抜けてから、静かに転移で姿を消した。




◇◇◇




『姉さま——っ!』

『まあ、ヤルナ、今日も元気ね!』


姿を見るなり、抱きついて来たのはバハルル村族長の一人娘ヤルナだ。一歳年下で姉のように慕ってくれている。


『それにテリーとクリスも! クリス、ヤルパお従兄さまを呼んでくるわね!』

返事も聞かずに突っ走っていてしまった。相変わらずの元気いっぱいで微笑ましい。



思い返せば山脈を下りて直ぐの頃、騎馬隊と思われる一団に取り囲まれてしまったのだ。確かに怪しいと思われる異国の服に巨大熊と格闘した直後だったので、目つきが悪かったのかも知れない。


話も聞かずに拘束しようとしたので、三人で大暴れしてしまったのである。喧嘩腰で向かってきた人達を瞬で叩きのめしてしまった。


ふんっと鼻息荒く立ち去ろうとした時に上がった大声。


「「「うおおおぉぉぉ———!!」」」


普段動じないクリスさえも狼狽えるほどだった。


———ドン、ドン、ドン、ドン、ドン


重なり合う片手で胸を叩く音。なんでも武を尊ぶ騎馬民族らしく、勇姿に敬意を表してとのことだった。足元にはお仲間さんが転がっていたのが印象に残っている。


そして耳飾りに気づくとまたしても大声が上がった。


「「「うおおおぉぉぉ———!!」」」


そして、その場にいた族長の親戚であるイリナの従兄、ヤルパに村へと招待される事となったのである。熊を手土産としてバハルル村へ向かったのがつい先日のような気がする。


バハルル村で紹介された族長とヤルナ。族長の一人娘として、ヤルナは一族の勇気、誇り、名誉を背負い、女戦士のように弓矢を片手に馬を巧みに操り、荒々しく大地を駆け抜ける。


最初はツンとして取っ付きにくい感じだったが、互いに似たような境遇を背負っている身として通じ合うものがあり、今では可愛い妹のように思える。



今回も礼に則った族長への挨拶を済ませると、待ちきれないようにヤルナが明るい声を上げた。


『姉さま、行きましょう!』


宴会の食料調達で狩りに出かけるクリスとヤルパには『後でね』と手を振り、ヤルナに袖を引っ張られるように部屋を後にした。


連れて行かれた先にはずらりと物が並べられていて、テリーも持参した物を並べていく。



それは遡ること半年、『姉さま、参考になる衣装がないし、想像もつかないー!』と相談されたことから始まった。これから北連合国で初の女族長となるヤルナが頭を悩ませていたのは部族の象徴として着用する衣装だった。


その時にあーでもない、こーでもないと三人で頭を突き合わせて案を練ったのである。


『具体的にどのような感じにしたいとかありますかっ?』

『えっ、戦士の服? 勇ましくて、威厳があるような?』


『きっと、機能美を兼ね備えて、馬に乗りやすく、また矢をつがえるのに支障がない衣装ね』


『そうですね‥‥優雅さと装飾性も必要ですっ』


最初のうちは簡単に描くことから始めて、テリーが『お嬢さまも同じくで衣装が必要ですっ!』と言い張り始めたり、ヤルナが『もう、面倒臭いー!』と投げやりになったりと大変だった。



最終的に分担で準備して、今日の宴会で披露することになっている。


ヤルナは部族の女性達と刺繍した豪華な刺繍装飾の上着と帯。優れた技術とどれだけの手間暇が掛けられているか一目瞭然の品だ。


こちらが準備したのは下に着るドレスに拘り抜いた意匠の良質な毛皮帽子と長襟巻き。


『これ、ツヤツヤして、肌触り最高ー!』


『お嬢さま、この精巧で複雑な金糸と銀糸刺繍、が、眼福ですっ!』


『本当に美しいわ。それに、この伝統パンツは動きやすそうね』


何はともあれと、ヤルナに着てもらう。まずは部族伝統の黒パンツに黒のブーツ。それから光沢を帯びた薄橙色の長袖ドレスを上から被るように着る。馬に乗ることを念頭に動きやすさと機能性を考慮して丈は膝下丈だ。


そして黒地に立体的で豪華な金糸と銀糸の花刺繍の上着。丈は膝上で、優雅に広がる大振袖。その上着を前で合わせて腰には同じ意匠の刺繍が施された長帯で全体をぎゅっと引き締める。長帯は結び方によってかなり表情が変わりそうだ。


最後に毛皮の帽子と長襟巻き。そして部族に代々伝わる装飾品で耳と胸元を美しく華やかに彩る。


『うんうん、いい感じですっ。冬はこの上着の下に毛皮で重ね着したら暖も取れそうですねっ』


『おっと、腰に短剣を差さないと。姉さま、革ベルトを締めてもおかしくないよね?』


『却って、戦姫のようで格好いいわよ』


『えへへっ』


イリナは少し照れた様子で笑う。


勇ましさと機能美を兼ね備え、気品も威厳もある。年を重ねても女部族長の衣装として長く着回しできる二つともない極上のものが出来上がった。


うわっと声を上げたくなる程の見事な出来に三者大満足である。お披露目まで時間があるので、今まで会えなかった隙間を埋めるかのように、とめどなくお喋りがはじまる。



宴会の翌日、旅立ちの日だ。


バハルル族長に前回会った時に頼んでいた馬を三頭譲ってもらった。首都シャーレの商業ギルドで手に入れたお金で支払い。市場よりもかなり安かったので、何樽かの酒、塩や香辛料も手渡すと、またしても大声が上がる。


「「「うおおおぉぉぉ———!!」」」


どうやら樽酒への歓声のようだ。湿っぽさも微塵もない、カラッとした気候のカラッとした別離。手をぶんぶんと振って笑顔で後にした。


青い空が広がる美しい風景。荒野で捕らえた野生馬三頭にそれぞれに跨り、譲ってもらった三頭の計六頭で広大な手付かずの大草原をどこまでも駆ける。


耳飾りが繋ぐ一期一会。素晴らしい巡り会いの武者修行の旅であった。

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