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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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27.武者修行へ行くよ 北連合国2

森はどこまで広がり、豊な恵で溢れている。


この深い森で子供のように落ち葉の上をザクザク歩き、木の実を拾ったりとしながら、薬草の採取をする。


結局は回復薬の材料となる植物の葉と花はもちろんのこと、根や樹皮の採取に時間が掛かり、当初の半月の予定が一月に延びてしまった。


その一月、テリーは族長の娘、シェリと山の幸の採取に伝統刺繍。クリスは族長の息子、ワンと狩猟の合間に手合わせや弓矢の腕を磨き、二人共とても有意義な時を過ごした。


そして、明日はついに旅立ちの日だ。


お別れの宴会で越冬の手伝いと回復薬の礼にと、ニカっとした笑顔の族長から古文字が彫られている金の輪っか状の片耳飾りを手渡された。


嬉しくて直ぐに身に付けると皆が皆、にっこりと大きな笑顔になっていく。


輪は友誼がいつまでも続きますようにと願いが込められていると聞き、心がじんわりと温かくなる。


その夜のことは見上げた夜空の輝く星と共に、忘れる事の出来ない思い出となった。


そして翌日。もてなしの感謝の礼にと実用的で装飾が美し短剣と、皆が気に入った公爵領の海塩を部族長に贈り、集まった見送りの人達と別れを惜しみつつ村を後にした。



それからは山々の部族の村近くを通りかかるだけで、村に招待されるようになった。後から知ったのだが、チャン部族は武功を讃えられている戦闘部族で、その族長から贈られる耳飾りはかなり価値のある友誼と信用の証だそうだ。


そして、友達の友達は皆友達の精神らしく、どの村でももてなしを受けて、陽気に笑いあい酒を呑み交わす。勿論、厳しいテリーとクリスの目もあり、少しばかり口に含んだだけである。


それぞれの部族に伝わる太鼓や横笛の拍子に乗りながら、村人とともに舞を踊る。

色鮮やかで大事な思い出をいっぱいに心に溜めた。



「これは、芋づる式ですっ、はいっ!」


それからも、テリー曰く芋づる式に、どの村でも食べて飲んで、狩りや村の手伝い、それと回復薬を調合する。そして旅の安全の祈願と友誼の証に片耳飾りを贈られた。


山地を下りた盆地で、遊牧民族から贈られた小さな二粒石の耳飾りを含めて、今では耳に七つの耳飾りがある。森人の耳飾りを入れると八つだ。



「お嬢さま、耳がすごいことになっていますっ!」


テリーが困った顔をしているのは、王国に戻った時の事を思い浮かべての事だろう。


「そうなの。少し重いしね。でも大切な思い出でもあるから外せないわ。何かあれば魔法で隠すから心配しないで」


旅の間、日焼けや手荒れ防止、髪の手入れなどに心を砕いていてくれてるテリーの頑張りに応えるつもりである。



ところで現在、南裏街道と呼ばれている地面を押し固めただけの街道を進んでいる。ほぼ荒地の景色がずーっと続いているので飽きてしまい、暇つぶしに雑談をしながら歩いているのだ。


「ねえ、家畜の世話や放牧から始まって、他の動物もたくさんいたし、遊牧民の生活は興味深かかったわね」


「はいっ、動物といえば、子犬がすごくかわいくて離れ難かったです! クリスなんか子犬と別れる時にうっすら泣いてましたよっ」


「いや、泣いていないです」


荒野にぽつりと佇む遊牧民の円形の家。囲炉裏が部屋の真ん中にあって、寒い日の熱々のミルクはじんわりと心まで染み渡る味だった。


羊は遠くから見るとかわいいのに匂いが強烈だったり、空っ風が氷のように冷たかったりとあったが、雄大な大自然の中を動物と人が寄り添って暮らす風景は心を大いに和ませられた。


遊牧民は騎馬民族でもあるので、盆地を護る騎馬隊とも縁ができて食事を共にすることもあった。自然と向き合い、時に束縛されない生活様式。


生きることの厳しさと美しさ、心のあり方を深く考えさせられた。


何よりも彼らの素朴で曇りのない笑顔はとても眩しかった。




ゆるい丘陵の南裏街道を淡々と歩いていると、忽然と現れたのが首都シャーレ。周囲を山地に囲まれた盆地の中心にある首都だ。


四方を囲む山地が自然要塞のようで、山地を戦闘民族、盆地を騎馬民族が護っている。


首都郊外と思われる場所には遊牧民の円形の家が纏まって寄り添うように建っていた。よく見るとそれぞれの家は柵で覆われ、家畜などの動物もいない。遊牧をやめて首都で働く人達の家なのかも知れない。


そして、辿り着いた首都は石畳の街道に沿って、三階建ての建物が隙も開けずに立ち並び、彩を添えるように洗濯物が空っ風を受けてはためいている。


それにしても開放的な首都だ。城壁もなく関所もない。


そのまま石畳に沿って歩いて行くと、大きく開けた中央広場らしい場所に辿り着いた。この広場を中心に放射状に石畳の道が交差していて、市場通りや宿場通りと通りが分かれているらしい。


通り過ぎる民達は肌の色が濃く、髪と瞳の色は落ち着いた焦茶と黒が多い。初めて見る異国情緒漂う街並みにテリーはともかく、クリスも目をぱちくりして驚いている。


「では、まずは市場通りで市場調査からね」

「はいっ、商品と価格ですね!」


何はともあれ、この国のお金がない。悲しい事に文無しなのである。


遊牧民達は商業ギルドを通して商品の売り買いをしているそうなので、私達も王都でテリー達が仕入れた大量の酒や塩、布などをギルドに売ろうと思う。


まずは物の価値がわからなければ話にならない。そこで、市場調査から始めることにしたのだ。


縦横無尽に賑わっている市場通りを二往復ほどして、布が一番売れそうな事が分かった。この国の服装はくるぶしまである丈の長い外套のような服を前で合わせて、色彩豊かな腰布できゅっと締めている。


珍しい素材の色と模様の布は、きっと市場でも高く売れるだろう。


「お嬢さま、これは布で決まりですねっ」


「そうね。市場でのおおよその売値も分かったし、商業ギルドへ向かいましょう」


クリスを先頭に中央広場にある大きな構えの商業ギルドに向かった。騎馬隊の制服を着た門番に一瞬警戒されたが、ここでも耳飾りが通行証代わりになった。


さっくり通してもらい、窓口に立つ。


『いらっしゃいませ、まあ‥‥』

窓口で書き物をしていた女性が顔を上げて、息を呑んだ。


『商品の買取をお願いできますか?』

『ど、どうぞ、応接室へご案内いたします』


案内されるままについていくと、美術品が飾られている質素な応接室に通された。対比で美術品の美しさが際立っている。


質素だが上質な椅子に腰掛けるとテリーとクリスが後に控えた。


少ししてから肌の色が濃い黒髪に瞳の女性がやってきた。スラリとした肢体で美しい顔立ちをしている。そして、挨拶もなしに向かいに腰掛けて話し始めた。


『これは、珍しいお客が来たもんだよ。他所さんは北のラマ国、東はクステス国。その二カ国指定の二商会としか取引してないんだよ。簡単に言えば、他の他所さん、しかも個人取引はお断りだね』


一呼吸置いて、その女性は目を細めて注意深く見据えた。


『だけどさ、その耳飾りだよ。輪っかが五つに良質の石が二つだろ。訳すと五つの戦闘民族と二つの力ある騎馬民族が後ろ盾、ってことで困ってんだよ』


この女性はぽんぽんと早口で語り、会話の間が殆どない。北連合国の標準語ではあるが、ここまでの超高速にはついていけないのである。二の句が継げないでいると、話はどんどんと進んでいく。


『歴史上、弾圧されて住処を追われた放浪の少数民族が集まって興した国で、仲良く寄せ集まって暮らしているんだ。つまり、ウチらの国は他国との通商、交通を極端に制限する閉じられた国なのさ』


布を売りに来ただけなのだが、この話は一体どこへ向かっているのだろうか。目を白黒させているのを知ってか知らずか女性の話は続いた。


『そんな話を踏まえてさ、そちらさんとの取引をどうするかって話になるのさ。まずは商品を見せてもらおうかね』


実に前置きが長かった。纏めると国と商会の物理的な背景、それと事情と状況の説明だろうか。しかし、やる事は一つである。


テリーに目配せをするとテーブルの上に光沢のある豪華な生地や色彩豊かな布が次々と並べられていく。女性は興味を持ったようで、前のめりに布を手に取り、目利きを呼んだ。


『会長、これは‥‥良い生地です。発色もよく、生地も上質で綺麗に織り上げられてる。耐久性も問題ないですね‥‥』


唸るように声を上げた目利きに、女性は肩をすくめてお手上げのポーズをとった。全て色を付けて買い取ってくれるそうだ。


この女性はルーシーと名乗り、その後は自然な笑顔でざっくばらんにお勧めの宿や食堂も教えてくれる。まるで面倒見の良いお姉さんに変身した。



しかし、淹れてもらった薬草茶にはびっくりである。この地方の大きな花柄のティーカップからにょっきりと薬草がはみ出ている。


そう、慣れ親しんだ乾燥させた薬草の風味豊かな一杯ではなく、なんとよく育った薬草が一本そのまま、茎ごとカップに突っ込まれているのだ。


『‥‥‥‥』


初めて頂くお茶なのでルーシーに手本を見せてもらう事にした。


『いい? こうやってカップの湯に浸してから齧るんだよ』

『分かったわ、こうね』


ルーシーに習って、薬草をカップの中でくるくる回してから、薬草をボリっとひと齧り。それからカップの湯を一口啜る。


実になんて表現していいのか分からない味である。一言ことで表現するなら『なんじゃこりゃ』だろうか。


『ま、まあ、独特なお味で、体に良さそうだわ』

『そうなのさ! 毎日この茶を飲んで元気一杯だよ』


久しぶりに、令嬢笑顔を全面に押し出した。


バリボリ齧って、くいっーと飲み干す。そろそろお暇しようと腰を上げると、ルーシーに呼び止められた。


『これからの取引のために渡しとくよ。またおいで』


渡されたのはまたしても耳飾りだった。冒険者ギルドで登録の際に渡される冒険者登録証と同じ役割をするようだ。商業ギルドでの取引証明や通行証だという。


今までの金の耳飾りの中、明るく華やいだ白銀の耳飾りは一際目を引く。


「うぅ、全部で九つ‥‥」


テリーの呟きを聞き流し、ルーシーに礼を言って商業ギルドを後にした。

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