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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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26.武者修行へ行くよ 北連合国

流石に朝夕の冷え込みも厳しくなってきたので、北連合国の首都シャーレへ向かう事にした。家を借りることが出来たら、そこを拠点に冬を過ごす予定でいる。


———ズズ、ズザザッ!!


「クリス、怪我はしていない?」

「‥‥はい、お嬢様」

「ぶぷぅ、かなり激しい滑りっぷりっ」


「まあ、笑わないの。テリーもさっきの尻餅は凄かったわよ」

「お嬢さまのコケっぷりもなかなかでした、はいっ」


岩場でない下山は楽かと思っていたが地味に大変である。落ち葉に昨日の雨で、滑る、コケる、尻もちをつくの連続ですっかり泥だらけだ。



首都シャーレはここから直線で山脈を二つ乗り越えた先の盆地にあり、かなり険しい道のりになる。今は水音から判断して、川を目指して進んでいる。野営できそうな場所を見つけたら今宵一夜を過ごす予定だ。


クリスが庇うように前に出て、聞こえるか聞こえないかの小声で言う。

「お嬢様‥‥かなり遠くで囲まれました。殺意は無いようです」


テリーは既に斜め横で構えている。

「囲んでいる人数と距離、見事な潜伏からして、地元の弓使い、狩人のようですねっ」


今まで魔獣は山のように出会ったが、初めての人である。


ゆっくりと外套のフードを外す。泥だらけだが魔獣や動物でもないし、怪しい人でもありませんよのアピールだ。


テリーとクリスもそれに続き、警戒しながらも当初の目的通りに川を目指して山を下っていく。ただ旅人が川で喉を潤し、衣服の泥でも落とすのだろうと思ってもらえたらありがたい。


見張られているのを知りながら川で水を飲んでいると、一人の狩人が歩いてやってきた。


革のブーツに首元と肩を覆うくらいの短いフード付きのケープが印象的で、左腕は革のアームカバーで覆われ、弓を持っている。


『こんにちは』


この狩人の青年に北連合国の標準語で話しかけた。


『こげんとこで、なーにしてんだべ?』

『首都シャーレへ向かう途中で、川の水を飲みに』


少しの間、目を眇めるようにして、何か考え込んでいるように見える。


『‥‥‥‥?』

『その、耳‥‥。も、もう、日が暮れるべ。村さ、案内してやっけ、ついて来いやー』


純朴そうな青年のお誘いである。ここでも冒険者格言その二『直感に従え! 考えるな、感じるんだ!』に従う。


テリーとクリスに小声で相談する。


「招待を受けようと思うのだけど、いいかしら?」

「はいっ、やろうと思えばいつでもやれますし」


テリーの言葉はなぜか物騒に聞こえるので流して、クリスを見ると首肯してくれた。


そして、青年の案内で道なき道を進んでいると、自然に寄り添う三角屋根の家々が視界に入ってくる。チャン部族村だと言う。


程よい間隔で地面に突き刺した左右の二枚板を一つに合わせて三角形を構成したような素朴な家だ。よく見るとその三角の屋根藁には草が覆い茂っていた。


一際大きな三角屋根の前で立ち止まると、族長の家だと青年は言う。『ちょっと、まっちょって』の言葉の後に青年は部族長の家に入っていった。


そして、その直後に子供も含めて村人と思われる人々に囲まれてしまったのである。敵意はなく村の訪問者に好奇心いっぱいで顔を出したようだ。


「ここに来てからよく囲まれますねっ」

「ふふっ、そうね」


それから直ぐに神妙な顔つきの族長が現れた。村人もそうだが、壮年の族長も鍛えられた体をしている。


『そ、そんのー耳飾りさ、よく見せてけろ』


首を傾げながらも、耳飾りは左だけなので、髪を耳にかけてよく見えるようにした。


沈黙が続き、シーンと静まり返った中に族長の興奮冷めやらぬ声が響く。


『こりゃー驚いたべー!! 間違えねーだべー!!』


『お、おおぅ———!』と周りから声が上がった。

三人で何なんだとばかりにキョロキョロしていると族長が話し始めた。


『この村に古くから伝わる子供の寝話があるべー。何色にもきらきら光る銀石の耳飾りは森神様の使いの印だべ。その耳飾りさ付けた使いが村さ訪れたもんで、丁寧に村さ案内して大宴会したべ。食べて飲んで笑って、福が来たって寝話だべさ』


族長はそう言うと、顔を赤く輝かせて嬉しそうに声を上げた。


『んだ、丁寧に村さ案内の次は決まってんべ。お〜〜い、聞いたべか?! 今日は大宴会だべさ!』


『『『おおぉぉぉ———っ!!』』』


村人達が手を叩いて大きな歓声を上げた。


こちらは一言も声を発する暇もなく、あれよあれよの怒涛の展開である。テリーとクリスも目を白黒させている。


使いはともかく、森神様とは北のとアノーリオンの事だと思う。警戒心が強い少数部族の心を開いたのは、北のに貰った耳飾だった。北のに出会い、巡り巡って新たな縁が生まれたことを、人知れず胸の内で感謝した。



そしてあっと言う間に、広場と思われる場所に焚火が上がり、人々は熱気に包まれている。


日は西の山脈に隠れて暗闇が辺りを包み、焚火はぱちぱちと火の粉を爆ぜらせ燃え上がる。薪の爆ぜる音に耳を傾けながら、炎の揺らぎを見つめている時間はとても贅沢だ。


肉や魚がジュージューと焼かれ、皿がわりの大きな葉っぱの上に並べられる。更に芋粉を練って焼いたものや芋の酒も運ばれてきた。


「宴会ですもの。私達も食べ物を出しましょう。お勧めはあるかしら?」


いつの間にか仕入と管理担当になっていたテリーとクリスに尋ねると、「まかせてくださいっ!」の心強い言葉が返ってきた。


空間収納が付与された鞄から色々と取り出すと驚かせてしまう。そこで、今宵の宿として貸し与えられた三角屋根の家に向かい、それぞれが鞄から取り出した食べ物を抱えて戻ってきた。


「王国で飲まれている大衆酒、それとピリリとスパイスが効いた燻製の腸詰めです」


クリスは大衆酒を樽ごとどどんと、腸詰めは大皿に山盛り一杯を抱えている。


「うぷぷっ、私は女子供に喜ばれるに違いない焼き菓子ですっ!」


早速、族長の元に運ぶと飛び上がるほど喜んでもらえた。運んできたテリーとクリスは背をバシバシ叩かれながら、村人達から感謝の言葉をもらっている。もじもじと照れくさそうにしているが二人とも嬉しそうだ。


(あのバシバシ、背中は大丈夫なのかしら?)


荷が少ない私達なので、『この食べもん、どっから出て来たべー』とは聞かれると思ったが、細かいことは気にならないらしい。


族長の『客人に乾杯だべさー!』の合図で宴会と振る舞い酒が始まった。


大口を開けて笑い、大人達は陽気に酒を呑み交わす。皆が喋り、なんてことのない話で笑いあう。そうしているうちに夜が更けていた。




次の日、朝早くから村人達が忙しく働き始める物音で目が覚めた。昨夜耳にしたのだが、この辺りは冬に大雪が降るので、毎年この季節には冬籠の準備で大忙しだそうだ。


その準備の一つに薬草摘みもあると耳に挟み、薬草を分けてもらう代わりに、調合した薬草の回復薬を分け合うことことになっている。


当初は『受け取れねーべ』と言われたが、どうしてもと言うと渋々頷いてくれた。縁があって出会った人達には元気でいてもらいたい。


そう、今日から半月の予定で、午前中は村で一番の薬草摘みの名人、シロイお婆さんと薬草摘みに行く。午後からは回復薬の調合だ。


「お嬢さま、おはようございますっ。シロイお婆ちゃんが出かけるべ、て言ってます!」


「あら、もう? 直ぐに準備しないとね。テリーは族長の娘さんとキノコの採取だったかしら?」


族長の計らいで、壮年の村守り一人を護衛につけてくれる事になった。そこでテリーとクリスには安心して村の手伝いをするように伝えてある。


「はいっ! それと、手隙で冬のあったか服の手縫いを手伝いますっ」


「まあ、テリーは裁縫が得意だし、楽しそうね。クリスはどう?」


「クリスは族長の息子、ワンと川で魚獲りと狩猟だそうですっ」


ワンは村まで案内してくれたあの純朴そうな青年である。この部族、チャン部族は狩猟の合間に皆で手合わせをすると聞き、クリスは楽しみでそわそわしているそうだ。



さて、今日はどんな一日になるのだろうか。ワクワクと胸が弾む。

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