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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第一章 武者修行

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24.武者修行へ行くよ 森人

北連合国に武者修行に来て、早くも二月が過ぎた。


山のように襲ってくる大型魔獣を次々に討伐する『これぞ武者修行』の日々を過ごし、区切りとなる過酷な山脈を一つ越えた。


そして、目の前に広がるのは自然の生命力と美しさ溢れる森の景色だ。


平地と比べると山岳地帯の秋は早い。深い森や渓谷の景色が日毎に赤や黄色に染まり、秋が深まっていく。



「ぶへっくしょいっ!! だんだんと冷え込みが厳しくなりましたねっ」


「まあ、すごいくしゃみ。ふふっ、そうね、そろそろ北連合国の首都シャーレに行きましょうか。家を借りて、そこを拠点に冬を過ごしても面白そうね」


「お嬢様、まずは朝の狩りに行って参ります」


「お願いね。クリス」


ひょいと軽々飛び出して狩りに向かったクリスは、以前のひょろひょろの面影がすっかりとなくなり、背も伸びて細く引き締まった体になっている。


ただ、自分で切ったらしいヘンテコな髪型だけが実に残念である。


クリスの小さくなる背中を眺めながら遠目でも分かるヘンテコぶりに首が自然と傾いてしまう。まあ、いいやと切り替えて野営の片付けをしているテリーに声をかけた。


「テリー、近くでキノコと果実を探してくるわね」

「はいっ! お願いしますっ」



美しく静かな朝の森にガサっと落ち葉を踏む足音だけが響く。橙色のキノコや薄茶色のキノコを一つ一つ丁寧に採っていると、森が太陽の光に反射して黄金色に変わった。


そして、木々の隙間から差し込む光と絡み合って幻想的な雰囲気を醸し出す。


「‥‥‥っ?!」


あまりのことで、息を呑み、動くことができなくなるほど驚いた。

何故なら景色がガラリと変わり、真っ青な空に緑の大草原がどこまでも続いているからだ。


暫しぼーっとしてしまったが、よく分からないので戻ろうと、くるりっと方向転換する。すると同じく現実味がない真っ青な空に緑の大草原がどこまでも続いている。


キノコを片手に一体どういうことかと困惑しているとどこからか声がする。

耳で追うと遠くから手をぶんぶん振って息を切らせながら、ヨタヨタと走ってくる人がいた。


「ちょ、ごめん、ふひぃーー‥‥」

それだけ言うと、膝に手をつき、ゼエゼエと息を整えている。


少ししてから着心地の良さそうなゆったりパンツにガウンを羽織ている人がしんどそうに顔を上げた。


「ふぅぅ、すっごく、久しぶりに、走ったよ」


金色の長髪をさらさらと風に揺らせ、にっこりと微笑む人は長い耳に深く鮮やかな緑色の瞳。そして、神々しい雰囲気を纏い、美貌が際立つというか‥‥究極の美形である。


「‥‥‥‥っ」


「あれ? 言語はあっているはずなんだけど」


「あの、幻か何かでしょうか」


夢か現か幻か。ふと、ひょっとして死んでしまった可能性も頭によぎり血の気が引いた。


「あははっ、違うよ。詳しくはお茶を飲みながら話すね」


「いえ、あの、お誘いは嬉しいのですが、共の者を心配させたくありません。戻り方を教えて頂けますか」


「心配しなくても、同日の時刻に戻れるよ。神獣の愛し子よ、話がしたい」


そう言うと、ふわりと包み込むような笑顔をする。

初めて会う人なのに、どこか懐かしくてなぜか惹きつけられる。


神獣の愛し子ふにゃらかは別にして、こんな時は冒険者格言その二『直感に従え! 考えるな、感じるんだ!』である。


「では、喜んでお受けいたします」



散歩でもするようなのんびりした足取りで並んで歩く。どこまでも続く草原の上を風が吹き抜け、まるで大海原のようだ。


そのままのんびり歩いていると前方から背の高い男性が慌てた様子でやってきた。


「主よ、心配致しました。その様な格好で一体全体どちらへ行かれていたのですか?!」


「あー、ごめん、ごめん。この子を見つけてね」


面白そうにクスリと笑ってから、こちらに顔を向けた。


「まだ名乗っていなかったね。北、又は、北の、で通っているから、そう呼んでね。こっちがアノーリオン」


アノーリオンは同じく長い耳に鮮やかな若葉色の瞳。白銀色の髪を後で一つに纏め、スラリとした精悍な体つきの美丈夫だ。


「リリアナと申します」


「そう、いい名だね。リリアナか。よし、名乗りも終わった。アノーリオン、久しぶりに全速疾走で膝がガクガクだよ」


ヨタヨタ走りだったが、全速疾走だったようである。


「走られたのですか?」


「そうだよ。突然現れたら怖がられると思って走ったんだよ。『ふしんしゃ』だっけ? なりたくなかったし」


「でも、もう大丈夫だよね」と北のが片目をつぶると景色が一変した。


どうやら三階建て程の吹き抜けの建物内にいるようだ。顔を上げるとサンサンと陽の光が差し込んでいる。


周りを見渡すと縦に長い真っ白な空間で、吹き抜けの高さまでぎっしりと詰まった本棚が両側にあり、それがどこまでも続いていて全く終わりが見えない。


しかも本棚と本棚の間、中央には憩いの場のように木々が植えられていて、豊な緑に包まれた気分さえ感じられる。


「その吊り布で昼寝もできるんだよ」


なるほど、昼寝にもってこいの丈夫な布が木の間に吊るされていて、寝心地が良さそうだ。


勧められるがまま、一本の木の幹をそのまま輪切りにした輪切りテーブルにつくと、すんっと森の匂いが鼻に心地よい。



「どう? 面白いでしょ。ここには何百億年もの森羅万象、この世のありとあらゆる物事や現象を書き綴った書物があるんだよ。自動書記も含めてね」


いつの間にかお茶が淹れられているわ、数々の突拍子もない話で二の句がつげない。目をぱちくりさせるばかりである。


「私を含めると同じ立場の守護者が四人いる。北、東、南、西。それぞれが二人の従者を持ち、この地を何千年と見守っている。例えるなら地を治める要石のような者だね」


「主は他の御三方と比べて上位です。同じではありません」

同じ立場と聞いてアノーリオンは口を尖らせて不服そうにそう言った。


北のは上位古代種の森人だという。二人の従者の一人が護衛のアノーリオン。もう一人は文官のような役割をしていて、お使いで外に出ているそうだ。


「さてと、全てを話すと気が遠くなるほど長くなるからね。端折ると、この世の全てのことは偶然じゃないよ。こうして出会ったこともね。いくつもの選択の連続で今がある」


透き通るように美しい瞳が全てを見通すような眼差しでじっと見つめる。


「そこで提案だよ。ここの書物を読んでみるのはどうだい? そしてアノーリオンからは武芸を学ぶといいよ。これからやろうとしているリリアナの助けになると思うんだけどな」


どこまで見通しているのか背筋がブルっとした。賢人が一を知れば十を知る、北のならば一を知れば千を、万をも知るのかもしれない。


足を踏み入れた同じ日の時刻に戻してくれるのなら、答えは一つだった。

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